*星空文庫

デザート トリップ 作

探していた。その町の地下には大きなため池があった。ため池は綺麗な深い色をしていて、ふつふつと地上からの雨が霧になってやわらかに降り注いでいた。


その人は夕方、毎日のように町から地下に一人、降りて池に向かう。その池の存在も、池に行く方法を知っている人もいないはずだった。

その池は開けておりとても広く天井も高かった。
池は諦めた者たちが沢山沈んで酸素を断たれたまま穏やかに朽ちていた。

おじさんはいつものように独特の軽い足取りで革ジャンに手を突っ込み、大量の砂利をじゃりじゃり言わせて池のほとりに向かった。

おじさんは決まって同じ道をたどり、同じ場所でタバコを吸うものだから、獣道のように池のほとりまでの道と池のいつも立ち止まる場所に膝丈程のくぼみが出来ていた。

風よけのようになった、いつもおじさんが立ち止まる足元には七輪と網の上にはいくつかの石が置いてあった。石は池にある丸まったつるつるの石とは違い、ごつごつとして手で持つと所々とげとげしく、痛いほどだった。

波の音がいつものように静かにこだましていた。

煙草を吸った。

成り行きに任せるようにほたりほたりと灰が七輪の上の石に降り、静かに散った。



おじさんは煙草を吸い終えると携帯灰皿に吸殻をしまい、七輪に乗っている石を摑み、ポーンと犬に餌をあげるような調子で下投げに、石を池に放った。

ぽとん、と何の変哲もなく石は池に落ちた。

「はーああ。今日は自然発火、するかなあ」
諦めを慣れ切って、逆に楽しむような口調でおじさんは言った。

石は何事もなくゆらゆらと池の底に沈んでいった。
おじさんはその様子を見てふふ、と笑った。
いつものように自然発火はしないようだった。


七輪は不思議なことに火が熾っており、おじさんはなにか炙り、食い、酒を飲み、いつものように地上に帰った。

『池』

『池』 デザート トリップ 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-02-14
Copyrighted

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