*星空文庫

のどかな最前線

湯田 夏 作

未開の肥沃な土地を手にいれようと先に獲得に乗り出したのはゲオティア共和国だった。遅れて大軍を送り出したのはラケテカトル王国である。
両軍は衝突し激しい戦闘を繰り返したが、勝敗がつかぬまま互いの陣地をにらみ合う形で戦線は膠着状態となったのだった。



それから、10年目が経過したゲオティア共和国軍の監視塔の上階。

「ふぁーあ、今日も異状なし」

「おいおい、コオロギス二等兵、せめて報告は前線を確認してからしてくれないか」

ヘルメットのあごヒモが緩んだままの男が、はだけて着ている戦闘服の男へ敏速に敬礼をしながら言う。

「これは失礼しました、アリルトン曹長殿」

しばらく間が空いて男たちは吹き出した。

「今日も暑い!さっそく飲むか」

アリルトン曹長がそう言うと、コオロギス二等兵はヘルメットを脱ぎ捨て、手慣れたようすで酒ビンを振りながら、中身のある酒をテーブルにのせていった。

「食い物がありませんが補給要請いたしましょうか」

敬礼だけは立派なコオロギス二等兵が聞いてきた。

「うむ、監視交代までには時間がある。司令本部に食糧補給の要請をしよう。誰かはいるはず」

アリルトン曹長は見下ろす司令本部を眺めながら答えた。

「了解」

通信機に手をかけたコオロギス二等兵の動きが止まる。

「そういえば、アリルトン曹長、昨日に司令本部から我が共和国軍の最新兵器が前線に送られてくると通達がありまして、くれぐれも驚かぬようにとのこと」

「なに?この膠着した最前線に今さら最新兵器を投入?」

さっそく一口飲みかけたコップを口から離し、コオロギス二等兵を向くアリルトン曹長。続けて、

「塹壕も掘りつくし、高く分厚い壁も作り、いたるところに地雷も敷き詰め、砲台も二重三重に並べた、もはや要塞と化したこの戦場に最新兵器がくる」

言い尽くすと、一気にコップの酒を飲み干したのだった。

「ですがアリルトン曹長殿。敵の王国軍も我らと同じく陣営を要塞みたく構えております。ここは打破するなら、やはり最新兵器の投入も必要かと」

いつの間に注いだのか、コオロギス二等兵もコップの酒を口に運んだ。

「ああ、するとこの日常も終わりを迎えるのか・・・・・・」

アリルトン曹長は力なく空のコップを置くと、むなしくコップがテーブルにぶつかる音が響いた。

「それよりも恐れるのは、王国軍も最新兵器を投入してきて、昔のように激戦になる・・・・・・ん?」

コオロギス二等兵が見ようともしなかったラケテカトル王国軍の陣営に顔を向けたまま動かない。不思議がるようにアリルトン曹長もそちらに顔を向けると叫んだ。

「やや!? 王国軍が移動している!」

「おかしいですよ。これではまるで撤退しているみたいだ!」

監視塔の窓枠から身を乗り出すコオロギス二等兵の視線の先には、蟻の行列のように隊を縦に並べながら遠ざかって行くラケテカトル王国軍の姿があった。

「すぐに司令本部に連絡を! 追撃戦か、いや、罠か?」

アリルトン曹長が言った。その時、ジジッ、と通信機が鳴った。

「・・・・・・えっ!? クーデター?」

受信機を耳に当てたままアリルトン曹長は立ち尽くす。コオロギス二等兵も黙ったまま次の言葉を待っていたのだった。

~3日が過ぎ~

「まさか、ラケテカトル王国で王政打倒のクーデターが起きて、軍の前線が維持できなくなり撤退するとはな」

「それでも無事に撤退するために無条件で前線を放棄し、この土地全ての支配を我が共和国に認めたのです。結果的に我が方の勝利でありましょう!」

懲りずに監視塔に残ったアリルトン曹長とコオロギス二等兵は祝杯を上げていたのであった。



後日、争った肥沃な土地を手に入れた共和国の首脳たちに、支配に関する土地の分析報告がなされた。

「──以上、我が共和国軍と王国軍の長きにわたる対立の過程で、両軍ともに地雷を埋めすぎた結果、土地は地雷畑と成り果て、すぐの居住、耕作には不向き、とのご報告であります」

居並ぶ首脳の前で読み終えた兵士が敬礼をした。首脳の一人がため息まじりにつぶやいた。

「なんのための争いだったのか」

『のどかな最前線』

『のどかな最前線』 湯田 夏 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-02-12
Copyrighted

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