*星空文庫

ミイラ

石田大燿 作

 よく勘違いされるけれど、これは、誓って言うけれど、侍は、決して、必ず腹切りして死んでいたわけではない。
 昨日アメリカ人に言われて愕然とした。サムライはやっぱり自ら死期を悟るとハラキリするんでしょ、と。
 いや、断じて、そうではない。やっぱりサムライだって天寿を全うしたいし、建前では、立派に戦場で死にたいだろうし、断じて、そんな、決闘の最中にいきなりお辞儀して、腹を切り出すなどと馬鹿な真似はしない。とおもう。

 忍者についても吉田はよくわからないことを言っていた。ジャパニーズウィザード、などと言って、姿を消したり、身代わりの術や分身の術を使って、相手を錯乱したりさせるのが得意とかなんとか。
 実際、忍者は居ても不思議はなかったと思うが、忍術とかそういう次元の存在ではなかったと思う。もっとこう、リアリティを突き詰めていったら、忍者も侍も大して変わりはないと思う。

 もっとこう、ドラゴンとか出てきてもいいと思う。如何せん現代の日本にはドラゴンもゴブリンも狼男も居ない。
 でも現に、ここには確かに、ミイラみたいな男が存在している。

 僕がそのミイラみたいな人影に気が付いたのは、朝起きて間もない、寝ぼけ眼を擦っている時だった。
 ふっと横に体を向けた時、隣にミイラが横たわっている。僕は眠気も一気にさめてしまった。絶叫して飛び上がり、こたつに蹴躓いて転んだ。それをバリケードにして、もう一度ミイラの方を見てみる。
 どうやら、夜中に誰かが置いて行ったのかもしれない。見た感じ、相当昔の死体であるように見えた。
 水色の服を着ている。どうやら、日本とか、ここ最近の先進国で見られるような服ではない。そう何百年も昔の、中国の人が着ているような着ものだった。
 女性か男性であるかははっきりしない。からっからに干からびている。頭髪もほとんど抜け落ちているし、目もあるのかないのか分からない。唯々真っ黒だった。

 とりあえず煙草を吸う。落ち着いて考えてみる。けれども、どう思い出しても、このミイラに思い当たる節がない。今初めて知った。昨日は家に帰ってきて、普通に生活していたけれど、このミイラは影も形もなかった。
 もしかして夜中に独りでにどこからか歩いて来て、丁度僕の部屋で力尽きたのか、いろいろ考えてもみたが、どうにも、ありえない。けれども今のところ、何の記憶もない訳だから、やっぱり歩いてきたと考えるより仕方がない。

 落ち着いて、警察に連絡してみると、どうにも、僕の話を信用してくれない。ただの悪戯電話だろうと鼻で笑っていた。しかし一応、家の状況を見に来てくれることにはなった。僕はほっとした。

 しかしこのミイラは、奇妙な体勢をしている。丁度卍というか非常口のマークみたいな体勢のまま硬直している。どういう死に方をしたらこんな姿勢になるのか逐一問い質したい気にもなったが、死人に口なし、確かめる方法すらなく、僕は諦めて、座椅子に腰を下ろした。
 なんかこう、そういう類の棺に入れてほしかった気もする。目の前に、どんと、生のミイラが置かれてしまうと、戦々恐々としてしまう。きっとこれは万国共通だとおもう。かと言って、人の死体だからむやみやたらに触れないし、外に投げ捨てることもできない。

 全く、おかしなことになってしまった。これで一攫千金、このミイラが、王族のミイラで、発見されたこと自体がすごい事なんです、なんて専門家が来て、気前よく買ってくれればいいのだけれど。

『ミイラ』

『ミイラ』 石田大燿 作

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-02-11
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