妖精の卵

「願いは、二人とも、そろって教師になることだ」

小学校の卒業式の日に、近くのB川の川べりで、僕ら二人は約束した。
それまで、友人もいなかった僕と、彼決めた約束は、お互いを縛るためのものじゃなかった。
どこかにお互いの分かれ道があることをしっていたはずだ。

ランドセルをおいて、ふと、あのときの傷あとに気づく、いじめっこの地元の中学生、彼らから、ノラ猫を守るために、僕ら二人で
戦った、
大人たちはルールをまもれ、おとなしくしろという、それは当たり前だ、当たり前だけど、
そういうときには見て見ぬふりだ。
ルールは必要だ、だけど、下手なルールは、大人たちだけに都合のいいものになる、大人とは子供じゃない、
子供じゃないということは、それぞれに目的を持つということだ、だから僕らは、僕らの自由のために戦った。
僕らが正しいと思うことのために。

久々に長い休みをとれたので、思いでを確かめに一人、生まれ育った地元にもどってきた。
別の県に引っ越してから、もう6年。
僕らは、6年間を、友人としてはじめ、友人としておえた。
彼は、いつも理想で、いつも自分を元気づけてくれた、この場所には思い出がたくさんある、
喧嘩した思い出、ぶらぶらしたこと、独りぼっちだったこと、
僕ら二人は、工業地帯の近くのうまれ、外国人も多い場所だった。
近くに住んでいたと知っていたのに、僕らはお互いのことを、小学校にあがるときまであまり知らなかった。

うろうろしていたら、外国人の子供が通りかかった、カメラをさげてぶらついているが、
シャッターを下ろすわけにもいかない、結局景色に目を向けた。
たまにそういう子供と遊んだことも覚えている。
久々に地元に帰って、もといたアパートを見学した、アパートは建て替えられていたが、見慣れた景色は変わらない。

かよっていた小学校に寄ってみる。
いまにもチャイムがなってきそうだった。
取り壊しが近いらしい、田舎のさだめ。

小学校せいかつの、最後の一日、卒業式の一週間前、
3時限目のチャイムがおわる、僕は手紙をまわした、お互い、何か思いで作りをしよう、
めずらしく、僕が言い出したのだ、いいようのない、悲しい気分に襲われて、
自分が自分でなくなるような不安に襲われて。
そのころから病弱で、余命4年だっていわれていたのに、あいつは
よく高校卒業まで、がんばって生きてきた。

小学校を眺めていたら、涙がでそうで、でることもなく、
おっくうだけど、最後はあの川辺にいかなければいけない
タイムマシンを開けにきたのだ、やつの墓前にもいかなければいけない。
僕の就職祝いということで。

おかげで、僕はもう一度あの川辺に、たった一人でこなくてはいけなくなった。
川辺にかいた願いは、すぐに消えただろう、ただ残しているものがある、タイムマシンだ、そのありかは、11年まえの日記帳に、
たしかに記されていた。

ふと、封印していた、つらい記憶がよみがえる、
それは、彼が病院の上ですごした、最後の2年間、見舞いに来ていた、彼女のこと。

窓辺の花、彫刻のあるビン、絵画のパズル、白いカーテン、まずい食事。
病院での生活は、彼と僕とが、一度に形勢が逆転してしまったようだった。
「なあ、俺、大丈夫かな」
聞きたくなかったとはいえ、聞きたかったことばでもある、
どんなときでも、逃げなかった、
あのとき、はじめて僕らが自由を手にしたときから、
あいつは親友だった。

弱音を吐くことがない彼が弱音をはいた、親友であることを認められたきがした。
それよりも、だいぶ悲しかった。
教員試験の合格通知をもっていったとき、彼はもう、この世にはいなかった、
だから、通知をみせて、自分が、彼より成長した様子をみせて、悔しがる顔をみて、自分の本当の思いを告げることはなかった。

この川辺で、最後にその話をしたのだ、
小学生のころ、尊敬していたクラスの担任のような人間になりたかった、
夕暮れのあと、みんなが卒業式の帰り、悲しい思いでにひたっていて、
僕らはこっそり、ぬけだした。

「いつまでも地元でくらして、二人で教師をやろう~先生みたいな、小さな子供たちとうちとけることのできる人に」

——そういって、
卒業式の終わり、彼がいつのまにか、川べりに書いた願い、
それは、自分と同じものだった、
もくもくと、ガラス工場が、川べりの近くで煙をあげて、彼のその意気込みからは、奇跡を起こす予感さえ感じた。―—

ああ、やっぱり、こいつ、生きていてくれるんだな。
今思えばそれもはげまし、自分を励ますためのもの。

堤防においしげる草をかきわけて、どぶ川のような、川べりへおりたつ、地図は、小学生のお手製だからお化けの似顔絵にみえる。
つらい記憶や、いい思い出も、思い出すこともおっくうで、だけど、やっと願いがかなったから、一人で報告にきたんだ。

心はあのときの気持ちのままで、今度は、堤防から降りるのも、あの時と同じ願いを、落ちた棒切れで砂の上に書いてみた。
あのときは、二人で一緒に、ばかみたいに、願いをかいたのだ。

汗と涙がとまらずに、いつのまにか心臓の音が早くなる、
幻影すらみえてきそうで、
ふと、そこらの草むらから、あの頃のあいつが顔をだしそうだった。
そのとき、現実の時分は、やっと、くさをかきわけて、斜面をおりきった。
タイムマシンの場所は覚えている、おおきな変化がなければ、雑草をかきわけて、洞穴のようになった堤防のかけたあたり、小瓶、そして、
土をそこからふりかけて、壁に偽造した入念な仕上がり。
ビンはあった。
タイムマシンはビンなのだ、
ビンのフタをあける、感慨深くはない、心が少し、麻痺している。
急に、知らず知らずにないていたから。

僕がマシンにいれたのは、あいつがすきだったA子ちゃんの写真、
隠し撮りなのに、結局うけとれずに逝ってしまった。
今は、そんなことはどうでもいい、ここへ来た理由、確かめたかったことは、あいつの残したものだった、

あいつは、らくがきがすきだった、だから、くだらない落書きだとおもった。
そのとき、自分がビンの中から取り出したのは、ひとつめに、マジックで文字のかかれた写真とネガ
二つ目は、包み紙をゴムでくるんでいれただけのもの。
 
「俺たちの友情は大人になったくらいじゃかわらない」

まずは、そうかかれた現像写真があった、これは二人で、未来の二人におくったもの、
だけど、A君、
変わるか変わらないかは、運命しだいだ、だけど、君はがんばったんだ。

もうひとつは、さきほどのらくがきらしきメモ帳のつつみ。
たしかにらくがきらしかったが、ゴムを解く気力がなくなった。
そのらくがきになんの意味があったか、すぐに思い出せないので、A君の実家へ、
連絡はいれてあったので、あいつの部屋をみせてもらった。
「何も変えてないのよ」
Aママの言葉が、胸にささる、やつの机の一番下の引き出しにはメモ帳がどっさりあったはず、
たしかにあった。
やつのメモ帳をさかのぼって思い出した。

長いことさがしていてやっとみつけた、卵の絵、メモ帳と同じ絵。
タイムマシンのメモ帳をひろげて、見比べてみる、そっくりそのまま、同じ絵だった。
それは、やつがつらいときかきとめていたという、願いをかなえる妖精の卵だとかいうやつらしい。
これを、何日、何年か、人に見られないでおいておくと。書かれた願いをかなえることができると。

そういわれると、確かに何度か、同じものを、ノートやメモ帳に落書きしているのをみた、色使いや、陰影、光源の表現が上手だった。
落ち込んだとき、よくわからない何かの絵をかいて、よく自分に見せた、それはどんな絵だっただろう
それをかくたび、踏ん張れるといっていた。

初めて、僕を友達と認めてくれたのはいつだろう、
奴の部屋は、何も変わっていない、小学生に戻った気分になる。
今でも、あの時のことをおもいだす。
メモ帳にかかれていたのは、その卵だ。
そういえば、あのとき、僕らが僕らの、自由とルールのために、いじめっこに立ち向かい。
猫を助けたときも、彼は手のひらにこんなのをかいていたような気もしてきた。
ぎゅっとにぎりしめて、中学生に殴りかかった、勇敢な大人だったのだ。
いつも強い、いつもいいだしっぺ、リーダー気質、人気者、だけど今おもうと意外と臆病なのだろう。

メモをもう一度、しっかりみてみる、なみだがにじんで、見れずに、ここまできて、解読を試みたのだ。
願いをかなえる妖精の卵。
これが願いをかなえるためのものなら、下に書かれた文字が、願いということになる。

妖精の卵の下に、何がかいてったか。

「 B君、あなたはいまもそこにいますか 」

あいつは、人の嫉妬心もわからずに、人の心配をしたまま逝ってしまったということになる。
つらい報告になってしまった。

妖精の卵

妖精の卵

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-02-05

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