かさ

「あっ、雨だ。」
「どうしよう、傘持ってこなかった」
 今日はおばあちゃんの誕生日。女の子はおめでとうのメッセージカードと手作りのひざ掛けをプレゼントで持っていくところでした。女の子の名前はメルバといいます。
 プレゼントが濡れないように胸に抱えて、メルバは急ぎ足でおばあちゃんの家を目指しました。
 そこへある男の子がやってきて、メルバに話しかけてきました。
「傘持ってないの?」
「うん」
「じゃあ、この傘を貸してあげる」
「いいの?」
「うん、後で返してね」
「ありがとう!必ず返すから」
 男の子は去っていきました。
 よかった。これでプレゼントが濡れなくて済むメルバは安心しました。ところがその男の子が貸してくれた傘をさすとやがて傘に穴があいて雨が漏れてきました。
 よく見るとその傘は紙でできていたのです。見る見るうちに紙の傘は水に濡れて破れてしまい使い物にならなくなってしまいました。
 そこへさっきの男の子が現れました。
「あっ!僕の傘、壊したな!」
「えっ、だってこの傘、紙でできてたじゃない。水に濡れたら、破れるにきまってるよ」
「知らないよ。弁償しろ!」
「えっ、ひどいよ。そんな。お金なんて持ってないし」
「じゃあ、その胸についている銀のバッチでいいよ」
「これはおばあちゃんからもらった大事なバッチなの」
「うるさい!このバッチはもらっていくよ」
 男の子はメルバの胸から無理やりバッチを取って去っていきました。
「ひどいよ……」」
 でも、落ち込んではいられません。早くおばあちゃんにプレゼントを届けなくては雨はまだ降り続いています。
 そして急ぎ足で歩き出すとまた、メルバに話しかけてくる男の子がいました。さっきとは違う男の子です。
「傘持ってないの?よかったら、この傘を貸してあげる」
 メルバはちょっと疑いましたが今度の傘は紙の傘ではないようです。
「借りてもいいの?」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
 2人目の男の子は走り去っていきました。
 今度こそ、助かった。メルバはその傘をさして歩き出しました。
「あれ?」
 でも、2人目の男の子に借りた傘も何かおかしいのです。
 傘からは茶色い水がたれてきました。そしてところどころ傘の生地が崩れてきています。その傘は土を固めてでできていたものだったです。傘は見る見るうちに崩れて壊れてしまいました。メルバの身体は泥水で汚れて大事なプレゼントも汚れてしまいました。
 そこへ傘を貸してくれた2人目の男の子が現れました
「ばーか!土でできているのわからなかったのか」
 その男の子はメルバの惨めな姿をみて腹を抱えて笑いました そして、その場を去っていきました。メルバは悲しくなってその場で立ち尽くし泣き出してしまいました。
 そこへ、また違う男の子が現れました。
「どうしたの、そんなにずぶぬれで泥だらけになって?傘持ってないの?僕のを貸してあげようか?」
「もう、信じられない」
「どういうこと?」
「今まで、私に2人の男の子が傘を貸してくれたんだけど、2人ともひどい人だったの。ニセモノの傘を渡されて……」
 メルバは3人目の男の子にいきさつを話しました。
「そうか、じゃあ僕は君をそのおばあちゃんの家まで送ってあげる。一緒に傘をさして歩くから大丈夫」
「ほんとう?」
「うん。僕の名前はアベル。よろしくね」
 3人目の男の子の声は今までの男の子とは違い、とても優しく聞こえました。そしてメルバは3人目の男の子、アベルと一緒に歩き出しました。
「どこまで行くの?」
「おばあちゃんの家にプレゼントを届けに行くの。でも、プレゼントのふくろも汚れちゃった。それにこんな格好じゃおばあちゃんに会いにいけないよ」
「ちょっと、待ってて。えい!」
 アベルが声を上げると、見る間にメルバの服が綺麗になりプレゼントのふくろも元の通り綺麗になりました。
「わあ、すごい!ありがとう」
「これでおばあちゃんに会いにいけるね」
「うん」
 メルバはアベルと一緒におばあちゃんの家に向かって歩き出しました。橋を渡って川を越え、あと5分ぐらいでおばあちゃんの家というところまで来ました。ところが突然、メルバはおなかをかかえてうずくまってしまいした。
「どうしたの?」
「おなかがいたい。くるしい」
「雨にぬれて身体が冷えちゃったのかな?ちょっと待ってて、えい!」
「……」
「どう?治った?」
「おなかがいたい」
「ダメか」
「じゃあ僕が薬草を取ってきてあげる。ここで待っててくれる?」
「うん」
 アベルは薬草の生えている丘のほうに走っていきました。アベルがいなくなり一人で待っていると、またしてもメルバに話しかけてくる男の子が現れました。
「苦しそうだけど、どうしたの?」
「おなかが痛いの」
「僕、薬を持ってるよ」
「でも今、薬草を取りに行ってくれてる人がいるの」
「じゃあ、いらない?」
「うん、その人を待ってみる」
「チェッ!せっかく助けてやろうと声をかけてやったのに」
(ちくしょう、格好の獲物だと思ったのにだませなかったか)
 4人目の男の子は去っていきました。
 メルバはおなかがいたいのを我慢しながら、ただ薬草を取りに行ったアベルを待っていました。大丈夫、きっと戻ってきてくれる。メルバは信じていました。そして、しばらくして薬草をもってアベルは帰ってきました。
「遅くなってごめんね。これを食べれば大丈夫だから」
「ありがとう」
 薬草を食べるとおなかの痛みは嘘のようになくなりました。
「よし!じゃあ、行こう。」
 そして再び歩き出した時です。
 見覚えのある男の子が傘を持っていない女の子に話しかけているのを見かけました。
「あっ、あの男の子、私に紙の傘を渡してバッチを取って行った男の子だ」
「今度は違う女の子をだまそうとしている」
 その男の子は胸にメルバの銀のバッチをつけています。
「ねえ、このままじゃあの女の子も騙されてしまう。あの子を助けてあげて」
「僕が行ってもかまわないけど。メルバが行った方がいいんじゃないかな」
「でも、怖いよ」
「自分と同じような目にあわせたくないんだろう?それに自分のものは自分で取り返さないと。何かあったら僕が助けるから」
「わかった。じゃあ行ってくる」
 メルバは勇気を出して、その場に近づいて行き、こう言いました。
「ダメだよ!その傘は紙でできているから、すぐに破れちゃうよ。だまされないで」
メルバは傘を持っていない女の子に叫びました。
 すると、紙の傘を持っている男の子はメルバをにらんで言いました。
「いいかげんなことを言うな!お前なんかこうしてやる!」
 男の子はメルバをたたこうとしました。
 その時です。空から突然、雷が落ちてきました。雷は男の子の胸についている銀のバッチめがけて 一直線に落ちてきました。
「ぎゃあーーーーー」
 紙の傘でメルバをだました男の子は黒焦げになって、「こんなバッチはいらないよ。返す!」 と言ってメルバに銀のバッチを投げました。
「よかった。わたしの銀のバッチ戻ってきた!アベル、この傘女の子に貸してあげてもいい?」
「うん、いいよ。それならもう一つ傘を出すね。えい!」
 アベルが魔法を唱えると新しい傘が出てきました。
「ありがとう!必ず返すから」
 女の子はアベルが出した傘を持って去っていきました。
「ねえ、アベル。そういえばさっき雷が落ちる前にえい!って言わなかった?」
「いや、言ってないよ」
「そう」
 そして2人は歩き出しました。すると今度はメルバに土の傘を渡した男の子が傘を持っていない女の子に話しかけています。
「あっ、今度はあの男の子だ!」
 メルバはさっきと同じように傘を持っていない女の子にこの男の子は悪い奴だということを伝えました。
すると土の傘をもった男の子が怒ってメルバに向かってきました。
「えい!」
 また、メルバはアベルの魔法の声が聞こえたような気がしました。
 すると、メルバに土の傘を渡した男の子はメルバの目の前で落とし穴に落ちてしまいました。
「わあーーーー!!」
 男の子は穴に落ちて泥だらけになってしまいました。
「アベル、この女の子にも傘を出してあげて」
 アベルはえい!っと魔法を唱え新しい傘を女の子に渡してあげました。
「ありがとう!必ず、返すから」
 女の子はアベルの出した傘をもって去っていきました。
 そして、ついにおばあちゃん家に着きました。アベルとはここでお別れです。
「アベル、ほんとうにありがとう!アベルがいなかったら、わたしおばあちゃんの家までたどり着けなかった」
「よかったね。さあ、おばあちゃんにプレゼントを渡してきなよ。じゃあ、僕は自分の家に帰るね」
「また、会える?」
「メルバが本当に困った時はそばに行くよ。じゃあね!」
 そう言ってアベルは去っていきました。
 
 コンコン。メルバはおばあちゃんの家のドアをノックしました。
「まあメルバ、元気だったかい?来てくれてありがとうとっても嬉しいよ」
「おばあちゃん、誕生日おめでとう!」
「まあ、ありがとう。メルバ、ここまで来るのにとっても大変だっただろう。でも、今日一日でメルバは3つの心を手に入れたんだよ」
「3つの心?それになんで、私が大変だったことがわかるの?」
「おばあちゃんはメルバのことは何でもわかるんだよ」
「えい!」
 その時、メルバはまたアベルの小さな声を聞いたような気がしました。おばあちゃんはたんすの上の鏡を見てほほえみ、メルバに言いました
「さあ、もういいからお入りなさい」
 メルバはおばあちゃんの家に入るとすぐに疲れて眠ってしまいました。

かさ

かさ

一人の女の子が困難を乗り越え、人を疑う心、信じる心、助ける心を 得るという話

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-02-24

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