・・・。

7年ぶりに高校の頃の制服をきた。
流石にもう無理があった。正直泣きそうだった。
ただ変わらない部分もあるとすれば、腕の傷か。
この傷のせいで夏でも長袖を着ないといけないからめんどくさい。

過去を変えられたらどんなにいいだろう。

そう願ったのは26の春だった。
社会人4年目の朝、満員の通勤列車。ぶ厚目の手が私のお尻を撫でている。
ああ、もう死のうかな。疲れたよ。

仕事を辞めたのはそれから10日後。正確にはばっくれた。
真面目だったからみんなびびっただろうな。
でもね、私は皆さんのことが大嫌いでしたよ。

社会人になってから始めた貯金。いくら溜まったのか把握していなかったから、コンビニのATMの前で「え!?」と数十年ぶりに大声を上げてしまった。
『3,984,649』

さて、有り余るこのお金をどう使おうか。
仕事に行かなくなってから10日目の朝だった。
会社からの電話もうざかったから携帯も解約した。
何もするとのない毎日は、それはそれで楽しかった。
私って本来こういう姿だったのかなとか思いながら。
プレイヤーから流れる些細な音楽と、好きな作家の小説や漫画。
それを好きなだけ堪能する。予定も邪魔もない静かな時間の中で。

調子に乗っておろした50万円が机の上に置いてある。
8畳間のちゃぶ台に、無造作に置かれた50万円。
見たことないだろうなぁ。誰も。

プレイヤーから懐かしい音楽が鳴った。
昔好きだったパンクバンドの楽曲だ。
聞いているうちに、エアギターをかき鳴らしながらヘッドバンキングに移行したところで、ちゃぶ台に頭をぶつけた。
数分悶えた。不意打ちは辛い。

窓際に置いてあるポピーが元気に咲いている。
なんで彼女は、あの場所であそこまで元気に咲いていられるんだろう。
太陽が恋人なのかもしれない。
もしそうなら、ずっと抱きしめられてる状況的な?
それか何か?ずっとキスでもされてる的な?
いいなぁ。カーテン閉めよ。

とりあえず部屋から出ないといけない。
突如私の前に神様が現れて、指を鳴らせば好きな魔法が使えるとか、そういう風にならないかなぁ。
ふわふわふわ…
「あ、あなたは」
「私は神だ」
「あ、あ、神さま…」
「お前に魔法の力をさず………」
やめよう。死にたくなってきた。

とりあえず服を着て、外に飛び出した。
予定もなく外に出ると、こうも退屈なのかこの世界は。
とりあえずもう電車はダメだ。もう触られたくない。
イオン行こう。

イオン楽しい。雑貨屋楽しい。服かわいい。でも高い。
でも今の私には無限に近い《決してそんなわけではない》金がある。
一度やってみたかったことをやろう。

「ここからここまで、全部もらっていいですか?」

お会計、77万3900円。ブルっとした。
着ないであろう服をこんなに買ってしまったことに。

「この中から私に会いそうな服を選別してもらっていいですか?」
店員さんは終始ぽかんとしていた。

とりあえず白いスカートと、オレンジのセーター?のようなものに着られる形になって落ち着いた。
「とてもお似合いですよ」と言う店員さんは本当に心からそう思ってくれているのであろう笑顔を私に向けていた。
「ありがとう」
そう言って私も笑った。うまく笑えたかな。

さっきの服は3日後くらいにまとめて家に届くらしい。
ダンボールで届くらしいから、もしも私が生きてたら、そのまま古着屋に持って行こう。

はぁ。
疲れたな。

どうしてこうも生きていくのは疲れるんだろう。
どうしてこうも特定の人間以外が生きづらい世の中なのだろう。
決められたレールの上でよかった。私は。

今日はここまでにしようと思い、私は走り出した。
人混みを鮮やかにかわしながら、赤で渡った横断歩道から攻めてくる車をかわしながら、ビルの屋上から私を狙う銃弾を交わしながら。

そうしてしばらく風のように走り、いつもの踏切にたどり着いた。
私が正面に立つと、それを待っていたかのように警告音が鳴り響く。
数秒後、遮断機が降りてくる。私はその遮断機の下をくぐり線路の真ん中に立ち尽くした。人々がざわつくことはない。日常の1コマのように脳で処理される。
電車が来る前の線路に女の子が立っているのが普通なのだ。
近づいて来る電車。ブレーキがかかることはない。彼は無人電車。彼を縛るものは何もない。ただの鉄の塊だ。
3、2、1、0。
0と同時に私も肉塊になった。腕も足も首もバラバラに空中を彷徨った。
地球が逆さから見えた頃、夕陽が登っていく様をしかと見届けて目を閉じた。

こうして今日も私は──。

こうして今日も私は──。

部屋の隅で膝を抱えている。

・・・。

・・・。

「ごめんね」

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-02-02

Copyrighted
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  2. こうして今日も私は──。