好敵手(きみ)には、負けない! レイルVSシルス/AUC24期S鯖

ひだまりの家 & お~とらいぶらり 作

創作系ブラウザゲーム「英雄クロニクル」内にて、
友人とオリジナル創作キャラ同士でRP(ロールプレイ)バトルをした時のログを編集したものです。(友人から掲載許可は得ております。)


実質的には一次創作(共作)ですが、
進行していたプラットフォームの関係上、二次創作とも解釈できるので、
こちらで公開することにしました。(舞台世界に言及された部分がほとんどなく、他の世界に置き換わっても支障はありません。)


※「英雄クロニクル」は
 「株式会社サクセス」が制作・運営するサービスです。
※禁・無断転載。

[1] かつて、交わされた約束

 
「時間のある日で構いません、僕と手合わせしてくれませんか?
 再会を祝って。
 そして、これからもよろしくということで、一戦」

 にこにこ、にこにこ。
 少年は、笑顔でそう言った。

 - - - - - -

    天に届けとばかりの仕草を暖かい眼差しで見守る。
    太陽のごとき眩しい笑顔で、
    まるで『散歩に誘うかのように』話を持ちかけられると――

   「ええ、是非、お受けします。
    この件が解決した後に、
    その記念と合わせてということにしましょうか」

 - - - - - -

「約束ですよ。それじゃ、僕はこれで」

 少年――レイルはシルスにぺこりと一礼し、
 足取り軽くリビングを離れて行った。


 * * * * * * * * *

[2] 待ち合わせ

 
 ―某日―

 部隊『ひだまりの家』の中庭で、剣を携え、
 約束の相手を待っている少年がいた。


「楽しみだなー。早く来ないかなー」


 手合わせの時が来るのをワクワクして待っているらしく、
 鼻歌交じりである。

 庭の入り口近くには、2柱の精霊と共に青髪の青年が佇んでおり。
 少年と手合わせの約束をしている相手を待っている…。


 - - - - - -

    突如として空が翳り、ポツ、ポツと滴が零れ落ちる。
    つい先程まで晴れていたはずの天気は、にわか雨に見舞われた。

    サーッっという一様な音が、静謐さを際立たせる。
    それはまるで、嵐の前の静けさ――。

 - - - - - -

 空が翳り、降り始めたにわか雨。
 二柱の精霊と同時に顔を上げた青年は、天気の急変に小さく笑う。

「…おやおや。これは、彼の演出かな?」


 光の精霊アテンが応じる。

「ま、そんなところだろうね」


 闇の精霊エレボスが呟く。

「あの者もそれなりに浮き足立っているのだろうな」


 空を仰ぎ見る青年と二柱の精霊の顔を、にわか雨が濡らしていく。
 青年はちらりと、庭の真ん中で待つ少年へと視線を向けた。

 - - - - - -

「………」

 少年は言葉を発することもなく、静かにそこに立っていた。
 雨に打たれていることも、特に気にしていないようだ。

 - - - - - -

    レイルからやや離れた場所。
    庭の何も無い空間に、吸い込まれるように雨の雫が集まり、
    球体と化す。

    人がゆうに入れる程に大きくなったかと思うと――
    その球体を覆い尽くす程の水柱が、
    激しい音と共に地面から吹き上がる。
    うねり、螺旋を描きながら天に届かんばかりに登る様は水龍の如く。
 
 - - - - - -

    一閃。

    水柱に斜めに線が入ったかと思うと、
    真っ二つに割れて中から人影が姿を現す。
    残心、血振りから流れるような納刀。

    それに合わせ、水柱が、飛沫が、雨が、刀に集束していく。
    まるで、最初から雨など降っていなかったかのような快晴。
 
 - - - - - -

   「お待たせしました――。
    お招き戴き、ありがとうございます」

    レイル同様、静かに立っているが、
    言葉の端々に漲る期待感を滲ませ……隠してすらいない。

    ティファレトや精霊達には、
    アクセスポイントの残滓が感じられたかもしれない。

 - - - - - -

   「勿体つけやがって……派手なのは嫌いじゃねぇけどな!!」

    やや離れた所には、ベルク達、
    いつもの面々も付き添いで来ている。

 - - - - - -

   「威嚇以外で、力を誇示するような性格じゃないはずだけど……。
    それだけ、楽しみだったってことかしら」

    ファリルの独り言。

 - - - - - -

   「ナブレカンドは留守番だぞぉ。でも、ちゃんと見てるってさ」

    ナブレカンドはティルクより
    力も格も存在してきた長さも遙かに上なのだが、
    あまり大きくない姿の為、彼の精霊には親近感を覚えているらしい。

 - - - - - -


「…ようこそ、シルスさん」

 派手な演出と共に姿を見せたシルスに向けて、そう一言だけ。

 突然のにわか雨。水柱。それを内部から斬って現れたこと。
 少年に、そういった演出を理解する気はさらさらない。

 少年にとって大事なのは、ただ一点。
 シルスがこの場に来たこと。ただそれだけである。


「…約300年前。
 目的を達成したシルスさんたちは、元の世界へ帰って行きましたね。

 シルスさんたちが、このブリアティルトを離れた後も…。
 僕はずっと、剣術一本でここまで来ました。

 …シルスさんに、ありったけの力でもって挑みます。
 これまで僕が培ってきたものを、シルスさんに示すために。
 シルスさんも、僕に見せてください。貴方の培ってきたものを。

 この手合わせが、お互いに高め合えるような、
 実りあるものになることを願います」


 チャキッ…と、金属同士が擦れ合う音。
 少年が腰の鞘から剣を抜いたからだ。
 片手で握る剣を自身の眼前へと水平に持ち上げる。
 快晴となって差し込む日差しをはね返し…剣はきらりと、鋭く輝く。

 少年の瞳もまた剣と同じ鋭さを…真剣さを湛えている。

 - - - - - -

    派手な登場を全く意に介していないレイルと視線を交わす。

   (……それで、良い。)

   (――それが、良い。)


    レイルのペースを崩すつもりも、威嚇のつもりも無く。

    只管(ひたすら)に真っ直ぐなレイルだからこそ、
    手合わせが格別に楽しみだった。
    まして、(くだん)の大きな危機を乗り越えた結果が今だ。
    鼻歌を歌うように、あり余る高揚感が表出したに過ぎない。


    レイルの言葉をなぞるように、返す。


   「僕が磨いてきた知識と技術を、レイルさんにぶつけます。
    レイルさんが磨いてきたものを、僕に届けてください」


    距離は互いの武器の間合いの外、
    しかし、レイルの素早さを持ってすれば、一瞬で詰められる程度。
    遠距離魔法を戦闘手段として持つシルスが
    絶対的に有利というわけではない。
 
 - - - - - -


「ようこそ、≪放浪図書館≫ご一同。
 …シルスさんがああいった演出をしてくるとは思わなかったよ」

 言葉に少々の茶目っ気を織り交ぜ、青年は横合いからそう言葉をかける。

 - - - - - -

    ティファレトに微笑を返す。

    実の所、多少なりとも目的はあった。
    戦術上、精霊水術の繊細な調整が要になる為、
    精霊力の状態に大きく左右される。

    天候、温度、湿度。自身のコンディション、詠唱速度、集中密度。

    それらを把握する為には使い慣れた、
   【水の空間】(ウォーターフィールド)を展開するのが最適。


    長期戦ならば、戦い始めてから調整すれば良いことなのだが……
    相手は他ならぬ“疾さ”を強みとするレイル。

    準備不足では、開戦と同時に剣を突きつけられて終わり
    ということにもなりかねない。
    つまり、ウォーミングアップでもあったのだ。


    結果は、ご覧の通り――絶好調だ。

 - - - - - -

「今回は、あくまでレイルとシルスさんの手合わせ…模擬戦だからね。
 乱入なんて無粋なことはしないように」

 付き添いの面々…主にベルクに視線を向けつつ、そう念押し。

 - - - - - -

   「ヘッ、もうこいつらは互いしか意識してねーよ。
    俺に向かって来ねぇヤツに攻撃したって面白くもなんともねぇ。

    それとも、ティファの字が俺の相手してくれんのか?
    ……なんてな」

    軽く拳を突き出すが、ベルクに戦意は欠片も感じられない。

    しかし、秘めた闘志は相変わらずだ。
    今日は“全力で観戦に徹する”つもりらしい。

    対レイル戦、対シルス戦のイメージトレーニングをするには
    もってこいだ。

 - - - - - -

 青年の隣で、スッと静かに口を開く光の精霊。

「この中庭に、ボクとティファレト、エレボスとで結界を張るよ。
 鏡面世界と言えばいいかな。風景をそっくりそのまま写し取った異空間だ。
 そこを、二人の模擬戦の舞台としよう。
 どれだけ暴れようと、実空間には何の影響も出ないから安心するといい。
 ボクたち観戦組にも守護結界を重ねるから、
 巻き込みの心配もしなくていいよ。
 思う存分、戦うといい。レイル君。シルス君」

 - - - - - -

    精霊に対する最上位略礼と共に――

   「ありがとうございます。これで、心置きなく」

    レイルの疾さと手数が上回るか、
    シルスの(わざ)が翻弄し追い詰めるか、
    勝負の鍵を握るのはその辺りだと予想する。


    刀は鞘に納めたまま、居合の構えを取る。
    研ぎ澄まされた煌きが、陽の目を見んとばかりに息を潜めている。


   「こちらも準備は整いました。
    ティファレトさん、合図をお願いします」

 - - - - - -

 シルスの言葉に、青年は寄り添う二柱の精霊に目配せする。
 精霊は小さく頷きを返し、目を閉じて精神を集中させた。

 庭一面に黄と紫と水色の3色が織り交ぜられた魔法陣が広がる。
 地面から天へ向けて、芽吹いた若葉のように魔法陣は広がって行き…。
 やがて庭を飲み込むドームへと成った魔法陣は、
 一瞬の輝きを放って消え失せた。
 青年と精霊を包み込んでいた魔術行使の輝きも静まり、
 作業は完了したようである。

 周囲の光景に特にこれといった変化はない。
 しいて言えば観戦組である面々を半透明の膜が包み込んでいるくらいか。


「…舞台もこれで整った。

 レイル。シルス。両名の健闘を期待する。
 それでは――試合開始!」


 青年の合図が、空間に響いた。


* * * * * * * * *

[3] 期待と機会

 
 審判である青年の、試合開始の声が響く。
 しかし少年は、周囲の状況など気に留めず、
 ただただ真っ直ぐシルスを見つめる。
 眼前に持ち上げていた剣を下ろし、直立の姿勢になって。

 他人からすれば、気を抜いているようにしか見えないだろう。
 しかし少年の売りは、300年前から変わらない。

 相手よりも早く舞台を駆け抜け、行動させる前に倒す"疾さ"。
 そこに加わる"独創性"は、剣術の常識に囚われない一撃を繰り出す。

「…お先にどうぞ」

 剣を握る右手をだらりと下げ、自然体を維持し、
 少年はシルスにそう言った。

 - - - - - -

    模擬戦の日取りが決まってから、
    記憶を掘り起こし、シミュレートしていた。

    およそ300年前のあの時代――。
    背中を預け、死地を潜り抜けてきた相手。
    互いの強み、間合い、呼吸。
    出合った頃の強さは、おおよそ把握していた。

    しかし、両者共に恐ろしいまでのスピードで成長し。
    全ての切り札を見せ合う機会があったわけではない。
   〈その後の成長〉を含めると、ぶつかりあった結果は想像がつかない。


    前の宿敵――同年代の剣士に意識を集中する。

   (最初から……手加減無用で!)

    開幕速攻を警戒していることに気付いているのか、
    初撃先制で飛び込んでくる気配は無く、自然体を維持するレイル。


「…お先にどうぞ」

    シルスの闘気を感じ取ったのか、
    それとも辿り着いた境地がそうさせるのか、
    レイルは初手を譲ってきた。


   「では、行きます」

    じっと構えたまま機を伺い、口の中では魔法の詠唱を行う。

   「ハッ!」

    気合を吐くと、やや後方に飛び退り、空中で刀を水平に抜き放つ。

    レイルもおそらく何度も見ているであろう軌道――
    先程の水柱を斬った【天空斬】( てんくうざん )と同じだが……。

    その斬撃は刀を振り切っても消えず、なおも直進していく。
    エネルギーを飛ばす【水月波】( すいげつは  )だ。

   【水月波】( すいげつは  )の通った軌跡に薄い水流が続いているのに気付くだろうか。
 
 - - - - - -

 シルスが動いたのを見て、少年は下げていた剣を左腰溜めに構えた。
 眼差し鋭く見つめ、飛来する【水月波】( すいげつは  )の、脆弱なポイントを見極める。

 それは、人物や物質の最も脆い部分を見通す技術。
 相手の戦力を削ぐことで、傷つけることなく撤退させる、少年の我流戦技―『心眼』。


「…捉えた」


 腰溜めに構えた剣が振り抜かれ、剣閃が煌き空を彩る。
 力強く振り抜かれた剣は空を切り裂き、
 衝撃波となって【水月波】( すいげつは  )とぶつかり合う。

 それは300年前から使用している剣技―【風閃剣】である。
 接近戦に突出している少年の、唯一の遠距離技。


 そして少年は、自身の衝撃波を追いかける形でシルス目がけて猛ダッシュ。
 せめぎ合う二つの力を飛び越え、
 宙で体を一捻りして水流に剣を突き立てる。
 “疾風剣士”の名にふさわしい、攻撃を避けながら距離を詰める突進系剣技。


「やあぁぁっ! ―【断空閃】!」


 水流を断ち切り、体勢を立て直しながら、
 弾丸のような疾さでシルスに迫る!

 - - - - - -

   【天空斬】( てんくうざん )と同じ軌道で放った【水月波】( すいげつは  )と、
    真っ向から衝突する【風閃剣】。
    属性の異なる遠距離技が交錯し、拮抗状態を作り出す一刹那。
    二つの波が吹き散らされるまでに、レイルは地を、空を駆ける。


   【水月波】( すいげつは  )に続く水流に剣を突き立て、断ち切ろうとするが――
    その水流はレイルの剣に逆らわずに割れていく。


    以前、シルスとの共闘を経て知っているかもしれない。
   【水月波】( すいげつは  )は水流を軌跡として残す技ではなかった。


    魔法を感知できる者ならば、
    詠唱していたことに気付いたかもしれない。
    剣技である【水月波】( すいげつは  )は、詠唱の必要が無い。

    ならば、薄い水流の正体は何か――?
    ――【水月波】( すいげつは  )の一部に見せかけた【速水流】(スピードウォーター)である。


    開いていた左掌を握る。


  「【分水流】( ブランチフロー )!!」

   【水月波】( すいげつは  )を【風閃剣】で相殺し、突進してくることは想定内。

    半透明な板状に変化させていた水流を拳大に集束し、
    逆方向に三本発射する。
    レイルの後ろを追って、三つの水流が螺旋を描く。


   【水月波】( すいげつは  )にカムフラージュし、分岐させ、軌道を曲線に変えた。
    アレンジのオンパレードだ。言葉通り、最初から手加減抜きである。


    シルスは〈激流刀〉を後手に構え、【断空閃】を迎え撃つ。
    狙いは、【分水流】( ブランチフロー )との挟み撃ち。
 
* * * * * * * * *

[4] 勝算と性分

 
 突き立てた剣に逆らうことなく割れる水流には目もくれず、
 シルス目がけて一直線。
 背中の向こうで割れた水流が、新たな形で迫り来ることを
 微かな"音"だけで判断する。

 前方には迎え撃とうとするシルス。後方には3本の【分水流】( ブランチフロー )
 まさに挟み撃ち―しかし、少年は笑っていた。それはそれは、楽しそうに。

 ずっと背中を預け合って戦って来た戦友( とも )
 そのシルスとこうして全力で手合わせできることが、
 楽しくて仕方ないのだ。

 シルスは剣術による接近戦に加え、
 魔術による遠距離戦もこなせる万能剣士。
 しかし己は、遠距離唯一の【風閃剣】を除けば全てが接近型。
 総合的なものでは、どう考えてもシルスのほうが断然上。


「―不利な戦況だろうと…ひっくり返してみせる!!!」


 空中で前回転。
 その遠心力も加え、上段からシルスに向けて剣を振り下ろす。
 防がれるのは承知の上。そのまま体を前に流し、シルスを乗り越え。
 地に降り立ち様、シルスに左肩からタックルを敢行。
 後ろへ引いていた右手が閃き、目にも止まらぬ突きを繰り出した。

「超の付く接近戦に持ち込めば―勝敗はまだ、わからないでしょう!」

 - - - - - -

    シルスの得意な間合いは中距離戦だ。
    遠距離戦闘は同部隊のファリルを超えることは無いであろうし、
    剣士と言えども、純粋な剣術は未熟であり、近距離は分が悪い。

    幸い、水神流(みなかみりゅう)は、剣術と精霊水術の総合武術。
    魔術と剣術が補い合う特性を持っていた。

    しかし、それでも『超』接近では魔術の詠唱が間に合わない。
    レイルとは対照的に、超接近戦は絶対的に不利なのだ。
    故に、接近を警戒しつつ、待ち構えて罠を張ることにした。
    これが、レイルに対抗できる唯一のシルスの「戦略」。


    レイルが次の布石を置かせないほどに速さで圧倒するか、
    シルスの智略が制するかとう、異種の能力戦でもある。


    向かって来るレイルに対し、軽口を叩く。

   「追いかけられると逃げたくなるのが人の性分というものですよっと」


    接近されつつあるが、まだ、余裕がある。
    レイルの口元を見て、こちらも笑みを溢す。

    振り下ろされたレイルの剣に、
    十字に真っ向から受ける勢いで相対するが、
    体の軸と重心をずらし、刀をやや垂らし、
    刀身の曲線を活かして力を受け流す。

    その技巧には、親愛と敬意を込めている。
    言葉での会話よりも、剣士にとっては雄弁なやり取り。
    こうしている間にも、二つの魂はその響きを高めあう。


    タックルからの突きのラッシュに振り向き様、バックダッシュ、
    一撃目を切り払いでなんとか凌ぐ。
    その間に詠唱していた魔術を眼前に出現させ、
   「自分に向けて」放つ。


   「【翔流術】(アクアストリーム)!!」

    殺傷力を抑えた【速水流】(スピードウォーター)を、自身に向けて発射、
    高速で後ろに吹っ飛ぶ。防護結界を張っていない為、
    やや不安定な体勢に【速水流】(スピードウォーター)の衝撃を受けるが、
    レイルのラッシュを一撃でも喰らうよりかなりマシだ。

    そう、一撃でも受けたら、その後の動きに影響が出る。
    疾風怒涛の速さを武器とするレイル相手だからこそ、
    動きが鈍るのは致命的なのだ。


    ――そして、仕込んだ罠が「再び」発動する。

    すれ違いで、残っていた【分水流】( ブランチフロー )がレイルを襲う。
    直線軌道なら通り過ぎていておかしくないが、
    螺旋軌道で滞留時間が長くなっており、
    さらに【分水流】( ブランチフロー )の軌道を微調整していたのだ。


   【翔流術】(アクアストリーム)で防護結界を張らなかったのは、
   【分水流】( ブランチフロー )に当たらないためでもあった。
 
 - - - - - -

(やっぱり…そう簡単には詰めさせてもらえないですね)


 怒涛の連続突きを回避され、
【速水流】(スピードウォーター)で高速で互いの距離を離され歯噛みする。
 魔法を使わせる間も与えないほどの『超』近距離なら勝算があるのは、
 先程のシルスの動きから明白だ。

 しかし、苦手な距離を是としたまま戦う者がいるはずもない。
 自身が『超』接近戦に持ち込もうとしているのと同じで、
 シルスも己の得意な中距離にしようと策を巡らせるのは当然のこと。


 無視していた【分水流】( ブランチフロー )が、目の前まで迫り来る。

(この距離じゃ、相殺は無理…!)

 剣を戻して構える暇などない。
 そう瞬時に判断し、ぐっと身を固め、
 襲い来る【分水流】( ブランチフロー )に対して防御の構え。
 頬が切れ、服が裂ける。それでも【分水流】( ブランチフロー )が途切れる隙をじっと待ち…。


「―【絶砕斬】」


 振り被った剣を、渾身の一撃を、大地に叩き付けた。

 【絶砕斬】は、少年の全力の一振りでもってあらゆるものを打ち砕く剣技。
 怒涛の連撃が豊富な少年の剣技の中で、
 もっとも一撃の威力に特化したもの。
 その剣技をまともに受けた大地は派手に亀裂を生じさせ…
 大地の裂け目はシルス目がけて走る。
 それだけに留まらず、粉砕され土煙がもくもくと舞い上がり、
 少年の姿を覆い隠す。


(シルスさんの”眼”でもってすれば、
 こんなカモフラージュは無意味だろうけどね)

 土煙に紛れ、少年は既に駆け出している。ぐるりと回り込むように。
 その速度は手合わせ開始直後と何ら変わらず、風の如く速い。


 - - - - - -


   (ここで【絶砕斬】かッ!)


    大技である【絶砕斬】は、リスク無しに撃てないはず。
    だからこそ、『ダメージを喰らうと解っているタイミング』で、
    反撃に使用するのは上策だ。

    そして、【分水流】( ブランチフロー )【翔流術】(アクアストリーム)に派生する【速水流】(スピードウォーター)は、
    様々な応用が利く分、元々の威力が低い魔術である。
    リスクを抑えつつ反撃に転じた、相変わらずの判断力に舌を巻く。


   【絶砕斬】の衝撃で発生した大地の裂け目がシルスに肉薄する。
    この状況を打開する策は……一瞬目を閉じ、
    次に開いた時には瞳に力が宿っていた。


  「 <分析>( アナライズ )


    シルスの<分析>( アナライズ )は、眼に映る物――
   『迫る大地の裂け目と土煙』を精密に捉えた……が、万能ではない。
    薄っすらと見える範囲にレイルは居ないことが解るが、
    土煙の奥深くは見通せない。

    そして、平易な行動しか取れないことと、
    視神経の疲労が激しいという弱点がある。
    その為、<分析>( アナライズ )を一瞬だけ使用し、すぐに中断する。


    視界も足場も悪い現状では、〈結界術〉に頼りたくなるが、
    相手が他ならぬレイルだ。
    長い詠唱の間に奇襲されれば一貫の終わり。
    発動しても、ルーンソードの斬撃を受け続ければ、
    結界が持たないかもしれない。
    メリットに対してデメリットが大きすぎる。


    一刹那の思考の後、おもむろにシルスは駆け出した。
    ――土煙に向かって。姿が見えないのはお互い様。
   『相手の技』すら利用する、それがシルスのスタイルだった。


    裂け目の軌道予測は済んでいる。
    土煙の中心部付近で、衝撃の最も少ないと思われる場所に飛び込む。
    一瞬の記憶に従い、見えない視界の中、〈激流刀〉を振るう。
    抉られた斜面をさらに斬り、
    人一人が立てる程の窪地をかろうじて作り出す。


    周囲は衝撃が続き、大地の破片がいくつも飛んでくる。
    左腕で頭をかばい、翻す〈激流刀〉で岩を受け流す。
    体のあちこちを岩が打ちすえ、肩から血が滲む。


   (くっ、流石に無茶をしたかな……
    でも、これくらいしないと一瞬の隙も作り出せない!)


    次の魔法を詠唱し、機を伺う。

    土煙が収まりつつある頃、その中心部で
    荒れて低くなった地面から、
    人影……らしき上部が少し見えたかもしれない。
 

* * * * * * * * *

[5] 展開と点火

 
(…ちょっとやり過ぎたな。見えなさすぎる。)


 濃く立ち込める土煙の中を疾駆しながら思考する。


(これだけの濃度なら、いくらシルスさんでも僕の進路は見つけられない。)
(…同時に、僕もシルスさんの動きを見ることは出来ない。)

(だけど…相手の動きを知るのは、視覚だけじゃない。)
(音。振動。熱。様々なものから予測できると、ルーフスさんが言ってた。)
(それらは感覚を研ぎ澄ませれば感じ取れるものだとも。)
(土煙しか映らない今、視覚は邪魔になるだけだ。)


 疾駆しながら目を閉じる。駆け抜けながら、土煙を挟んだ向こう側を探る。
 空気の揺れを。大地を蹴る音を。シルスの気配を。


(…近付いてきた…?)


 閉じていた目をうっすらと開ければ、
 立ち込めていた土煙は収まりつつある。
 その中心部辺りにちらりと見えた、人影のようなもの。
 シルスの気は、そこにあるようだけど、ないような気もする。

(…シルスさんのことだ、何かしらの罠を仕掛けてるだろうね。)

 速度を落とし方向転換、見えたソレ目がけて一直線。
 ソレと接触する僅か5メートルほど手前で、少年は更に加速した。

 少年は残像を残しつつ、そのまま駆け抜けていった。
 そう、駆け抜ける以外は何もしていない。

 少年は少年なりに何かを考えているらしい。
 その交点を駆け抜けた後、徐々にブレーキをかけて速度を落とし振り返る。
 剣を握る右手は後ろへと引かれており、何か次手を構えているようだ。
 
 - - - - - -

    人影のようなもののそばを、警戒しつつレイルが駆け抜ける。
    近づいてみると、レイルと等身大程度の氷の柱だった。

   【氷烈剣】(アイシクルバスター)で、氷の剣を生み出し、地面に深く突き立てたのだろう。
   【氷烈剣】(アイシクルバスター)の周囲に姿は無いが、
    シルスの精霊力はあたりに立ち込めている。

    構えるレイルの足元が振動したかと思うと、
    すぐ近くの地面が突然隆起する。

    飛び出すのは別の氷剣。
    反撃に次ぐ反撃。
    振動の予兆があった為、警戒していたレイルならば、
    飛び出す氷剣はかわせるだろう。

    同様に4本の氷剣が突き出ている。
    レイルから離れた氷剣にシルスが佇んでいた。
   【絶砕斬】の起こした音と砂煙に紛れ、
    脆くなった土中を、アレンジした【氷烈剣】(アイシクルバスター)で掘り進んでいたのだ。

    氷剣の奇襲までの時間稼ぎは成功したが……


   「闇雲な消費と隙までは、誘えませんでしたか」


    構えていたレイルの次手は――いかに?
 
 - - - - - -

(…やっぱりね。そのまま居るわけないもん。)

 駆け抜け、すれ違ったものが氷の柱だったのを思い出し、警戒心を強めた。
 地面が微かに揺れる。大地が割れ、こちらに向かって突き出すは氷の剣。


(シルスさんは…あそこか。シルスさんの得意な中距離。)
(このまま、この距離を保とうとするだろう…なら、
 僕の取り得る手段は…。)

 迫る氷の剣を、集中して全て避ける。剣は変わらず、後ろに引いたままで。

「僕だって、少しは物事を考えるようになったんですよ。
 ただ闇雲に剣を振るうだけでは、対処出来ないことも多い。
 それを、ティファとルーフスさんが教えてくれた。

 だから…あの時のままだと、思わないでくださいね!!」


 近くにあった氷剣を、シルスの居る方向へ蹴り砕いた。
 無数の氷の欠片が空を舞い、きらり、きらりと陽光をはね返す。

 その飛翔する氷の欠片目がけ、剣を振るう。
 一撃、二撃、三撃…四撃。
 空を裂く四つの衝撃波は、調和しあって大きく膨れ上がり、
 氷の粒を巻き込み、更に肥大化し渦を巻く。


「環境限定剣技―【氷嵐閃】!」

 氷の竜巻へと変貌したそれがシルスに襲い掛かる陰で、
 少年は残る氷剣から氷剣へと、
 シルスとの距離を詰めるべく駆け出している。

 - - - - - -


「あの時のままだと、思わないでくださいね!!」

    氷剣の一本が、蹴り砕かれる。
    レイルの剣閃から放たれた四つの衝撃波が、風と氷の渦を生み出す。


「環境限定剣技―【氷嵐閃】!」


   『技のアレンジ』と『周囲の物を利用した戦い方』
    ……まるでシルスのような戦術。
    肌にひりつくような気迫に、培ってきた経験と想いを感じ取る。
    レイルはこの一合いの間にも、成長を続けているのだ。

   「こちらも、応えないといけませんね。」


   <瞬間分析>( モーメントアナライズ )

    シルスの眼が青い輝きを放つ。
    先程と同じ要領で……精度はそれなりだが、消費抑制を兼ねた、
    視覚詳細情報獲得。

  (【風閃剣】と【四湊天幻】の合わせ技か……?)


   【氷嵐閃】の飛来速度、拡がり方、
    そして対処手段の候補が導き出される。
   <瞬間分析>( モーメントアナライズ )の解除と共に、再び《静》から《動》へと転じる。

    飛び退りつつ、印を切る。

   「一本では防げなくてもッ!」


  「【氷剣乱舞】(アイシクルタービュランス)!!」

    難易度の高い「後からの変化」こそがシルスの真骨頂である。


  >[~シルスの精霊力はあたりに立ち込めている~]
  >[~同様に4本の氷剣が突き出て~]
  >[~土中を掘り進んでいた~]

    あろうことか、辺り一帯の地中には、氷が張り巡らされていた。
    それは最早、剣と言うよりは「氷の舞台」。

    桁違いの数の氷剣が、次々にそそり立つ。

    視界を遮るように目の前で。
    氷の嵐を遮る壁のように。
    行動を阻害するべく、周囲に点々と。


    氷剣の壁で【氷嵐閃】全てを抑え込むには至らないが、
    衝突し速度が下がっている合間に、
    氷を滑って嵐の進行方向から抜け出す。

    氷嵐と氷剣の合間に、シルスの姿が一瞬見えただろう。


 - - - - - -

 氷の粒を巻き込んだ風の渦…【氷嵐閃】が、シルスに向かって吹き荒ぶ。
 剣技を放ち終えた時には、
 少年はフィールドに残る氷剣の陰から陰へと身を隠しながら、
 シルスとの距離を詰めるべく走っていた。

 が…。


(…っ!何時の間に氷が…!?)


 踏みしめた感触の違いに下を見れば、
 土だったはずのフィールドは満遍なく氷に覆われていた。
 そこにシルスの術【氷剣乱舞】(アイシクルタービュランス)が完成。
 目の前だけでなくフィールド全体に次々とそそり立つ氷剣。
 足元から迫り出した氷剣を避けるべく身を捩ったが、
 氷が張られたそこは足場が悪く。

「う、わっ…!」

 つるりと足を滑らせ、少年は氷の床へと倒れ込む。
 そこに再び氷剣が飛び出し、右横腹を掠め赤を散らした。
 何とか身を起こし、赤が流れる右横腹の裂傷を左手で塞ぐ。


(これは…まずい、かな…。)

 怪我そのものは深くないが、部位が部位だ。
 戦い続ければ、どんどん悪化していくのは明白。


(だけど、まだ退けない…!ここで退くのは、シルスさんに失礼だっ…!)


 再び駆ける。
 横腹の痛みに顔を顰めつつも、速度は落とさず、氷剣に向けて走る。
 一本の氷剣の上部を斬り落とし、氷の床を蹴って、
 その氷の台座に飛び乗った。

 疲弊も怪我も気力で捻じ伏せ。
 尽きぬ闘志を漲らせ、決着をつけるために剣を構える。

 剣握る右手を後部へ退いていた、これまでの構えとは打って変わって…。
 傷を押さえていた左手も剣に添え、正眼の構えを取った。


「…お互い、もう疲労困憊といったところでしょうか。
 次で、決めましょう」


 ―決着の時は、もう目の前―


 - - - - - -


    無数の氷剣の突き上げにより、
    結果的にレイルに裂傷を与えることとなったが……
    依然として「必死に凌いでいる」のはシルスの方だ。


    シルスは最初から薄氷の上で戦っているようなものであった。
    魔術の詠唱が間に合わなくても防ぎきれず、
    攻め続けなければジリ貧、精霊力が底をつきても負けが確定する。


    さらに、広範囲魔術【氷剣乱舞】(アイシクルタービュランス)の消費量が途方も無く、
    眩暈を感じていた。


   「でも……まだ終われない!」

    あと少し、ここで終わっては何の為に戦ってきたのか。

   (倒れるにしても全力を出し切った上でないと、
    レイルさんにしめしがつかないッ!)


    かぶりを振って、混濁する疲労感を振り払う。


    刀を正眼から後ろに倒し、脇に構える。
    刀身が地面と水平になる。

    再び集中し――、レイルを迎え撃つ。


    いかに高速なれど、『来る道筋が解っているならば』、
    対処の手立てはある。氷嵐と氷剣の合間に姿を見せたのは、
    レイルが正面から向かって来ることを予測して。


    氷剣を無数に突き立てたのは、本命のカムフラージュの為。
    氷剣の内、五本を頂点とした『五芒星』が描かれていた。
    それは、シルスの切り札の効果を高める結界――。
 

 * * * * * * * * *

[6] 傑出と決着

 
 正眼の構えで、少年は一度深呼吸。
 魔術といった超常の力への対策となる術は、少年にはまだない。
 そもそも頭を使うような事象が苦手で、
 部隊の仲間たちに任せきりだったのだ。

 しかし今、少年はシルスと一騎打ちの最中。
 どのような術で来られようとも、己の力で乗り越えなければならない。


(…それでも、シルスさんの守りをこじ開けるにはこれしかない。)


 ここまでの打ち合いで、お互いに現在の力量を推し量れたことだろう。
 速さと腕力は少年の方が上であっても、戦いはそれだけでは決まらない。
 シルスには、少年にはないマルチな対応力がある。
 小手先の戦術では簡単にあしらわれてしまう。


 剣先をゆらりと揺らすと同時に氷の台座を蹴り、
 シルス目がけて跳びかかる。
 風の如く、隼の如く変わらぬ速さだが、真正面からの突撃故に対処は簡単。
 しかしそれでも、引き下がるわけにはいかない。
 己の取り柄は、この剣だけだから。


 正眼の構えからわずかに腕を引き、鋭い一突きを放つ。
 そのまま剣を横薙ぎ、身体が回るに合わせて
 蹴りの追撃【潜身脚】を繰り出し。
 再び剣を閃めかせ、続くは振り下ろしから斬り上げ、
 斬り払いに返し刃の全4連撃の剣戟…【四湊天幻】。

 その4連撃の合間全てに【潜身脚】を織り込むという、
 ここまでは冒険者時代にも多用した連携だが…。


「まだ、終わらないっ!
 全力でもって相対すると誓ったからっ!!」


 酷使される身体がギシギシ軋み悲鳴を上げるが、
 それでも返し刃を跳ね上げ、大上段から一気に剣を振り下ろす。
【四湊天幻】から【絶砕斬】へと、
 それぞれ独立した剣技を繋ぎ合わせ纏め上げ、その全てを叩き込む!


 それは大事な仲間である青年のために一度だけ使用したことのある、
 とっておきの我流技術…【剣技連結】( スキル チェイン )

 剣技の組み合わせ方次第で千変万化する、
<疾風剣士>の呼び名の真なる所以。

 満身創痍の少年の、全力の中の全力。魂を込めたその術は如何に。


 - - - - - -


    めまぐるしい攻防の末。
    互いに意地で持ちこたえているが、両者共に余力は無い。

    剣術だけではレイルの手数を越えることは叶わない。
    魔術だけではレイルの体力を削り切るに至らない。


   (ならば――やはり、水神流(みなかみりゅう)の極意
   『剣魔一体』の攻撃で勝負に出るしかない。)


    予測通り正面から突進してくるレイルが、
   “氷剣の五芒星”内に到達する。
    繰り出される突きを、身を捻った横ステップでかわす。
    続く横薙ぎに対し、剣を振り上げ打ち合わせる。


   (ここからは防御度外視で!)


    最後の勝負に持ち込む為に、ここまで集中を維持してきたのだ。
   【潜身脚】をまともに受けるのも構わず、渾身の奥義を放つ。


   (――行くぞ――)

   (――【水神連月波】( すいじんれんげつは )――)


    刀の流れるに合わせ、
    斬り上げ、袈裟懸け、逆胴斬り、逆袈裟斬り上げ、逆袈裟、胴薙ぎ


    そして飛び上がり、【落水圧】(ウォータープレス)の牽制と共に真上からの正面斬り……

    いずれの斬撃も、【天空斬】( てんくうざん )の鋭さと、
   【水月波】( すいげつは  )の水属性の衝撃波を併せ持つ。
    これぞ『剣魔一体』の奥義【水神連月波】( すいじんれんげつは )
    修得している中で最大の技だ。

    しかし……

   「まだ、足りないッ!
    レイルさんを越えるには、全力を超えた全開をッ!」


   “氷剣の五芒星”内で、
    詠唱を高速化しているからこそできる無理の上の無茶……

    
   「さらに【激流瀑】(リバーストライク)ッ!」


    畳み掛けるように、【速水流】(スピードウォーター)の上位魔術を、
   〈激流刀〉に被せるように放出。
    速度と威力を上乗せし、【絶砕斬】と真っ向から相対する。
    それはまるで激流を纏い、天に昇り地に牙を向く龍――。


    魂と魂のぶつかり合いの結果は……


 - - - - - -


 少年による刺突からの11連撃は、
 ガキン、ガキンと高らかな金属音を響かせ、
 シルスの振るう剣と火花を散らしながらぶつかり合う。
 地から天目がけ振り被られた少年の【絶砕斬】と、
 跳び上がったシルスが振り下ろした【激流瀑】(リバーストライク)を乗せた〈激流刀〉が
 接触した直後、互いの間で空気が閃光を伴い爆発した。

 その余波は、結界に守られている観戦組にまで広がり、
 審判たる青年が思わず腕で顔を覆い隠すほど。



 閃光が収まってから青年がゆっくりと腕を下ろし、
 二人の決め手が激突した場所へと視線を向ければ、
 一方の主役である少年は、フィールドに倒れ伏していた。

 その傍に落ちている少年の剣は、
 あれほど激しい打ち合いをしたにも関わらず、
 折れることも(ひび)を生じさせることもなくしっかりとしており、
 さながら彼の“折れない心”を表しているかのよう。


「…はっ…あっはははっ……!」


 思わず零れる笑い声。
 ごろりと転がって仰向けになって、ひとしきり笑い続ける。
 無茶したために全身がギシギシと悲鳴を上げているし、
 横腹の傷は深まって赤が流れ続けているが、
 それも、シルスさんとの試合に全力だったことの証なのだ。


 恐らくシルスさんもボロボロで動けないことだろう。

 結果はきっと引き分け。

 だけど、全力を出し切って戦えたからか、とってもすがすがしい気分。


「…楽しかったですね。シルスさん」


 ああ、身体を起こす気力もないや。
 だから寝転がったまま声をかけた。
 はてさて、シルスさんはどう感じているだろう?


 - - - - - -


    硬質で激しい打ち合う衝撃音と、互いの体に直撃する音が続いた。
    眩い閃光と振動が鎮まると、
    魔法剣士も同様に大の字に天を仰いでいた。


    大地に刺さった〈激流刀〉は、
    理念を貫かんとする意思の表れの如く、
    光を浴びて輝きを放っている。


   「……フフッ……ハ、ハハ……」


    呼応したかのように、洩れる笑み。
    体中に生傷が絶えず、力が入らない。
    両者、真に全力を出し切ったが、決め切れなかった。
    つまり、引き分けだ。


「…楽しかったですね。シルスさん」

    お互いが研鑽を積み、強くなったことを確信し、
    それをさらに越えようとぶつかったからこその結果。


   「……ええ、とっても」

    全身はズッシリと重く、当分立ち上がることすらできないだろう。

 - - - - - -


「両者、行動不能につき今試合は引き分けとする!
 …まったく、無茶しすぎだ二人とも!!」


 結界の中から二人の様子を見つめていた青年は審判らしく判定を下した後、
 この舞台を包み込んでいた空間魔法を解除し急いで駆け寄って来た。

 空の一部分を頂点に、じわりじわりと景色が塗り替えられていく。
 (ひび)割れ氷の張られた大地も、
 そんな事実などなかったかのように元通りになっていく。


「いくらシルスさんとやるからって、こんなボロボロになるまで…」


「俺とエレボスで、二人をリビングに運び込む。
 エレボスはシルスさんを運んでくれ。

 アテン。シャスを呼んできて、協力して治療に当たってくれ」


 そう指示を出すや否や青年はひょいっと少年を背負い、
 扉に向かって歩いて行く。

「わかった」

「承知した」

 アテンとエレボスが承諾の意を返す。


 光精霊が青年を追い越して、その姿を扉の向こうへと隠せば、
 闇精霊はシルスを背負い、青年の後ろを追う。


 - - - - - -


―少女と光精霊に治療された二人が青年にこんこんと説教されるまで、
 あと数分?―


―それでも、全力でぶつかり合った二人は、
 きっと満足さから笑っていることだろう―

                              ~ 了 ~

好敵手(きみ)には、負けない! レイルVSシルス/AUC24期S鯖

左が友人の文章、右が筆者の文章です。


元が掲示板上でのやりとりである都合上、小説形式に直すにあたり
自然さ・解りやすさの為、省略・発言者名の補完・段落入れ替え等をしている所があります。
 

好敵手(きみ)には、負けない! レイルVSシルス/AUC24期S鯖

友人とオリジナル創作キャラ同士でのRP(ロールプレイ)バトルです。 「――飛び切りの熱い戦いを」

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. [1] かつて、交わされた約束
  2. [2] 待ち合わせ
  3. [3] 期待と機会
  4. [4] 勝算と性分
  5. [5] 展開と点火
  6. [6] 傑出と決着