碧い花のつわものどもは彼の谷を野を超え

1/100 の確率

私鉄沿線、といやー、都会の中の我が庭!
と粋に構えたか、斜めに構えたか、知らないが。

池上線長原駅、今日も賑わって、らっしゃい!まいどー!なショップたちと同時進行してるのが他に、あっちもこっちも田んぼのあぜ道の名残りだろうか、裏途(みち)いっぱいな街格好、新旧建物のゴチャゴチャ感、返って親近感をいざなう。
それもそのはず、時代劇とまでは行かないが、明治が終わって程なく建てられた駅であるからです。

広くない通路両側に競い合うように並ぶ建物それぞれの古参顔やら若い顔やらが親しげに交じり合う渋い商店街を抜け。
右に目をターンすると、グワーンと開ける地と天が重なる一対の風景、急こう配の下り坂、急斜面な登り坂が浮き現れ。
登りきったこの所までわずか6分、静かな住宅街、瀟洒(しょうしゃ)とはまでは云えないが、いさぎよく、天にそびえる十字架の塔。

この丘から見下ろす下界に大きな池がどっかりと水面(みのも)を広げる、名は小池です。オシャレな住宅、風雪の中生きて来た家屋、面々が取り囲む。

ここ長原教会、毎水曜日に午後七時から聖書研究祈祷会が催され、なかに中高生らも交って、こざっぱりとしたいでたちの少年、真、多感な中2生も今日ここに加わっていた。
やがて礼拝のお祈りが終わると、アーメン!(確かに!)と唱え待ちに待った解放感に戻った面前に、回ってくるおさいせん袋、真は、百円を入れこの礼式を完としていました。
「神様に失礼でしょ、10円なんて!」と母が言うからでした。
信仰を求めて来たのではなく「マブい子が居る」との評判から来たのでした。


「バカやろー!こんなに云っても分からんのか!」
「・・・・・・・・・・」
「聞いてるのか!」
「・・・・・・・・・うるさいな、・・・」
「え?」
「親だからって僕は奴隷じゃない!僕には僕のやりたいことがある!」
「なーにー!バッシ!」

「この子の気持ちもあるでしょ!なにもこの子が継がなくてもいいじゃありませんか!それよりあなた、身体に障るからもう止めて!」
本態性高血圧症の夫を止めに入る妻はなさん。

この山元喜蔵さん夫婦、人類史上最悪の第一次世界大戦後、片やアメリカには莫大な利益をもたらし、1920年代の軍事景気が起き始め一躍世界に名を馳せ脚光を浴びているニュースを日本でも目にするにつれ、アメリカ人宣教師たちの活動も活発になった1930年に届こうとする頃、誘われるまま若きこのカップルが「日本国先駆者になってやろう!」との意気込みを抱きその地を目指す。
アメリカ留学・労働・布教活動を経てこの地に帰国し、自宅を伝道所として1932年(昭和7年)10月ようやっと開設したのがこの教会の始まりと聞きます。
初代長原教会牧師となって、その功績に多大な足跡を残すことになるが。

功績と人格が一致してれば良いのですが、たとえ牧師さんでもいまだ迷える羊*か。
*自分の意志で神から離れていった者(参:100匹の羊のうち、1匹が群れから迷い出る。99匹の方が大切か?たとえ1匹でも絶対に失ってはいけないものとする聖書の譬(たと)え)

「くそオヤジ!イテッテッテ!」
殴られ腫れた所の周りに、今日も、冷たい手ぬぐいをあてる息子。
この後しばらくし、家を出、苦労の末に都立大学(現在名、首都大学東京)教授にまで登りつめましたその息子、鳥居先生。
実は、この家出・独立を手助けをしたのが母・妻であるはなさんでした。
夫の高血圧悪化と息子の希望を叶えるためでした。
ずっとずっと後の晩年になってからの話ですが、細くなった腕に痩せ細くなった顔をし、息子の温かな手を取り号泣してしまう、また息子も力なく弱々しくなった父の握る手に涙が止まらなくなっていた父子、やはり血で繋がっていた実の親子。
この後、数年を経て父は天に召されてしまう。意地を張るほど馬鹿らしいことはない、きっと神様の意地悪か、ミスか、身内たるや「牧師さんなら分かってはず」と親子の絆の大切さなんたれを教えてなかったからでしょう。外の民には博愛*と唱えていても。
*博(ひろ)く愛する。平等愛。


幸不幸は一体誰が決めるのか。
神か、悪魔か、人の業(カルマ)が招くものなのか。
いつもいつも好調にとは行かず、邪も時として起きるのが現実、遭ってならない人間様交通事故に気を付けるしかないだろう、・・・・が。

「やだー!やだぁー!やめてー!やーだーあー!」必死な叫び!逃げ惑う!掴まれ押し倒される子供。
カタン、と母の返ってくる玄関ドアの音。
父は半裸姿に手を遣ってた腰から離す。
幼娘(おさなご)は身づくろいをする。
この家族たちも暮らすこの地。


駅舎に向かい右は、JR五反田を経て銀座への道一直線、左方は東京都民飲料水の水所、大河川多摩川に通じる街道、それらに位置するローカル線の駅です。

「自転車で銀座まで行ってみたーい!」
「馬鹿か!チャリで!」
「シンくんらしい」
男子女子二人から入れ換わり返事が返って来たことがありました。

この水曜礼拝後、名目は聖書研究会としているが、真っ白なバスケットシューズにご丁寧に前後左右にラメ入り、ダメ押しにミサンガを両腕に十本程も付け、合コンもどきな三個上の自称男前さんも同席、男前とは程遠く。

立った姿はお互い、目線が同じ高さまであと少しに来てる、だか相手には云いようのない貫禄がそこに。
ミサンガさん高2の目当ては一個下の女子、みんなが知ってる。
このターゲットは大場佳菜さん狙いの神所暮ら、水曜日主さん。

夏も過ぎ、陽も短くなり、教会の影も長く、秋の気配が日に日に忍び寄る、やがて、晩秋深くになるにつれ佳菜さんの美しさも、深く・・・・・・胸へと忍び寄るように。秋深き隣は何をする人ぞ、松尾芭蕉さんは正しかった。
こんなにも近くで佳菜さんの空気を共にする研究会はまさに名の通り、愛を研究する会、席はいつも三メートル離れていました。ミサンガさんが1メートル内をキープしているためでした。

高台下方から、風さんも、時折思い出すかのように、吹きあがり、その体で触りゆく先に、先程来からマッタリな4人のニャん子たち、親子か、ついめんか、カップルたちか、知らないが、やはりこの地の主。人と同族に見えてならないこの空気感。

真の胸のうちに深まる彼女との距離差が近づく日がやってきました。
五分が二十分、髪を左に右に又は左にと、シャネルナンバーファイブを仕上げに、鏡の前を後に、サッサッサと我が道を大股に歩く真の姿格好。

長原駅前広場、煌々(こうこう)と、盆踊り大会、「あぁ~~そ~~れぇ~~~♪」の囃子リズムに乗って浴衣姿の佳菜さん。半円形に囲む屋台の一角、Goldfish(金魚)釣りをしてる姿、待って!待ってた!ついにスペースが空いた!思うが早くポイを手に隣へサッと滑りこみ!セーフ!
「気付いてくれてない、気付かせなくちゃ!」

「おっしい!見て!」
「ポイの紙が張ってあるほうが裏、張ってない方のこれが表!これを上に、上の方に近寄って来る、大きいのは避けて、ちっちゃいのをゆっくりとさっとすくうとね、ほら!またゲット」

「ワオー、スゴ!」
佳菜さん、メッチャ笑顔。やっと話せた。

「ちゃうちゃう、追っちゃだめ、ポイがやぶける、ね!見てて、ほれ!来た来た、向こうから近付くのを!そっと素早く、ね!ゲットしたろ」

「なーるほど、そんなに浸けといていいんだ、破れるかと思った・・・・・・」
「浸けたままにしておく方が紙繊維の強度が増すんだよ、その時は動かさないでジッとね。やってみて!」

ついに生な手にも触れました。温かった~ぁ。自然を装ってワザと触れたのでした。

「カワュー!」
ついに云ってみた!

「シンくん、頭良いよね、かっこイイ、かもー」

きっと、互いの心うちで、それぞれ、そう云いたかったにちがいない。

商店街の特賞3万円、大田区内共通商品券は当らなかったけどGoldfish が招いてくれたGold記念日になりました。

「これ!・・・・良かったら、カナちゃんに!」
差し出す焼きそば。やはり現れましたか、顔を見なくても腕先が教えてる、無駄な数のミサンガさん。

「ありがと」

「なぁ、見せたいのがあるんだ、ね!ね!……もごもご」口説き戦闘モードの下行ってしまう。

引きずるようにカナさんを持って行かれるのをただ見るしか。
連れだって行くカナさんの友だち結夏さん、こっちを時たま振り返りつつ、「いいの?どうするの?」と言いたげに、右にならえ!


先程からニタニタ、ずっとこっちを見ていた気がする。
やはり、人間観察大好き人。
恋は押して引く、シツコイばかりは絶対に引かれると云う。タコ焼き食ってる口はそのまま目がまだ笑ってる。
洗足池の薬剤師さん、妹がここの花屋さんのおかみさんになってることからよく井戸端会議議長さんを務めていました。
昔イケ女子だったとか、今、名残り1/50くらい。この界隈の放送局、何でも知っているデッカイ耳、されど人情味あふれるさくらさんと云う名、警察から感謝状を貰ったことがあるとも聞く。
駅舎三階の百均ダイソー大好きおばさんとして知らぬ者はいない、お姉さんと云わないと機嫌が悪くなる、が気は若い。
ギュッッ―キー!アツいブレーキタイヤ音と共に仕入れ荷を積んだ車が商店街入り口で横倒、下半身下敷き押しつぶされた幼子、母親真っ青絶叫、いくら押してもビクとも起きようとしないトラック、商店街主みんな総出で軽トラックを「二!一!二!一!」と必死に押し戻し、その幼い子を引きずり出しました。
この時、号令、人呼び、後から入って来る車の交通整理、救護措置、等々仕切ったのがさくらさんでした。背はちっちゃいがデッカイ心の持ち主。
貰ったタコ焼きを食いながら祭り跡を一目振りかえり、二度と振り返ることなく、洗足池の方へ消える、真たち。


学校終わって真っ直ぐ家に帰ることは1/100ない。
先程までのザアザア雨も上がり、モワッとした風も戻る、初夏らしい!寄った家で豆腐にマヨネーズ鰹節付レシピを旨旨と舐めながら小一時間ほど話した。
最近よく話すようになった豆腐屋さんのとっくんちから、じゃ、またねー!と商店街を抜けようとしたその時。

オー!相変わらず威張って歩いてるな、食べるかい?
トリ吉の源さんでした。結夏さんのお父さん。佳菜さんと同い学校のクラスメイト。

間口狭いお店の裏庭、猫の額ほどの一筆のスペース、屋外用テーブルにイス、所々色は剥げ錆も1/10程、が、広く感じ落ちつく一角でのご馳走、店頭には出せなくなった切れはしの照り焼きに、甘辛サツマイモ所々折れて、形はどうでもいい、四方八方味が染み込んでこれがうまいんだなー!
そこへ部活から帰宅したままのジャージ姿の結夏さん。

今日、駅で待ち伏せしてた中学のときの進藤くんに告られちゃった。おどろいたー!
まんざらでもない顔付の結夏さん。

あー、あの先輩、日替わりでいろんな女子を口説いてるらしいよ。
この進藤先輩の弟が真の学校の同級生。

「知ってる。だから云ってやったわ。」
「うち、一筋じゃない人、無理、って」
「一筋はその後の後の話だろ、早過ぎだわ、チャラは、や!」と結夏さん云いたかったのだろうが。

「ハッキリ云ったね、それで何て云って来た?」
「え、どういう意味?」だって。知るか!

そう云うと同時に。
「お母さん!私も甘辛のーォ!」
ポイポイ、口に放り投げる。
形崩れのもの程味が微妙に染み、旨―い!これを料理研究家は知っているのだろうか?

「ホレ!揚げたてソースメンチだ!」
直径二センチはあろうかという程のぶっとい指、これに載せられた皿の上でジュジュウ音に合わせ湯気が立っている。
「あっつっつっ!フゥーフゥー、バリバリ」立ちどころに喉を通って無くなる。残ったのは口の横に付いたソース二か所、やけに目立つ。

わずかに一口残した皿を下へ置く、さっきからすりすりして来るあっちゃんのためでした。口を左右に小気味よく動かしながら、これまた、瞬く間にペロりと。
この界隈ではボス筆頭らしい、威嚇するときの声が「ニャンゴ―グワッー!」ではなく仔猫の時から「アァーーッアッーアッーァ!」と甲高く長くつづく雄叫び声をあげることから、あっちゃんの名が付きました。
・・・・・・・確かに!進軍ラップ音は甲高いです。

「坊ちゃんの先生にはいろいろ世話なってる、んーっと食べな。足りなきゃ持ってくるからな」


「子供が、女房が、極道に居るとしがらみを残す、迷いも生じる。こんなこと能書き垂れるやつは、ほんとは弱いんや勇気がなんやアホなんや。ホンマの強さはな、わしは女房子供に普通な生活をあげたいんや」
四代目山口組組長・竹中正久が云ったことを念頭に云ったか定かではない、後にこの四代目はヒットマンに殺されるがその者のうちに源さんの組が送った者が含まれていたかも定かではない。

組同士の抗争の果て命のやり取りは日常茶飯事、殺され残された女房達の涙を、その後の貧窮を、奈落(ならく)生活を、見るにつけ、当時、若手武闘派組長であった源さんは組を突然解散してしまう。その時の舎弟が同じ路線の戸越銀座にいてやはり真面目な稼業に付いている。

源さんは本名ではない、みなが付けた愛称名です。牛若丸を守ろうと命を張った弁慶の話になると、誰の前であろうと、泣くからでした。
この商店街のトリ吉に見込まれ生計を立てやがて今の奥さんと結夏さんにも恵まれるようになったこの者もこの地に根を下ろし。


真の父は、水曜と金曜は、洗足池駅からふた駅先の昭和医科大学で講師を兼ねる町医者でした。
「画家だぁー!芸術家だぁー!自身の芸術活動を収入源にしたやつなんか僅かの僅かもいいとこだ!世間様は宝くじ頼みの乞食芸と云うんだ。乞食になってどうやって家族を養っていけるんだ!」
父の父の一家言*(いっかげん)の下、医者家業を継ぐことになった真の父親。お祖母ちゃんの話ではそのお祖父ちゃんも曽祖父(ひいおじい)ちゃんから同じような諭しの下、医者になったと聞きます。
*その人独特の意見や主張。

口周りのソースを拭く真、これに対し源さん。
「カナちゃん好きなのかい?」
でっかい声!強そうな眼光、五十近くにはとても見えないつわもの様。

「お父さ-ん!」
止めようとさえぎった娘結夏さんもでっかい目。

「いいじゃないか。俺にも覚えがある。あちらは、お父さんがお偉いさんだからなぁ・・・・・・」
「威張ってるんですか?ヤバいな、怖いのかぁ・・・・・・・」
「いや、政府系の日本政策投資銀行の部長さんでな、月に三・四百万は下らないだろう」
「ワオすげ!そんなリッチなんですか」
「給料は二百万円とか云ってたな、審査部長さんだから他に色々入って来るし・・・・・・・」
「政府のですか、いいな。幕府じゃ金持ちになるわけだ」
「今は株式会社化されてるけど、元々は政府直属の金融機関だ。それにそこの親は実親じゃ・・・・・・・・」
「お父さ-ん!」
「店!店―!」
後を追うあっちゃん、歩調が二人三脚のようにスタスタ同じ、店裏扉に二人とも消えてしまう。

「怖いお父さんなの?実親じゃないってどういうこと?」
「後から来たお父さんだって。私が云ったなんて云っちゃダメだよ。普通に優しいよ、チョコとか菓子パンもくれるし・・・・・」
「そうですか。はい、云いません」
「敬語やめろ、タメ語でいいから」
「はい、あ、うん!」
「カナちゃん小3のとき来たお父さんね。その新しいお父さんの話になるとあまり話したがらないんだよね。だから、それ以上は聞かないことにしてるんだ」
「ところで、シンくん、その時どこ小?」
「雪が谷小。ゆなさんたちは?」
「小池小だよ」
「そっか、谷を一つ越えた所同士だ。でも結夏さんも佳菜さんも頭良いよな、双葉高なんて」
「見掛けはね、“一人一人を大切にし,他者と共に生きる”、つー校是があって、シスター先生の宗教の時間も週一であるけど、どうだろう?女子って面倒だからね、結構バトルかな」

「あ、お祖父ちゃんが云ってた、『攻撃性は本能か?あふれ過ぎれば暴力となって噴き出す。その危ういバランスをとるために、法律や規範が作られた』。毎日だったか?夕刊2003年頃の6月22日付記事だって」

「へー、よく覚えてるね。そうかもね・・・・・・」

「うん!その日付はママの誕生と同じだったし、内容が印象的な話で。毎日、暴力、恐喝、イジメあり過ぎるじゃん、なのでそうなるんかなって考えてところに聞いたからハッキリ覚えてるんだぁ」

「シスター先生たちも云ってた。法を守るのが法治国家。法秩序に反するものは動物以下の以下、人間の証じゃないって」
「ほぉー、ムズィね。そうかもね」
「六中だっけ?」
「うん、洗足池の隣の」
「シンくん、彼女は?もうした?」
「してないよ!彼女居ないのに。ゆなさんは?」
「ノーコメント。並みにみんなしてぽいけどね」
「ヤバ、塾だ!じゃねー!御馳走さん!ありがとー、源さんによろしくー!」
「バイバーイ」

春はスプリング(Spring)、バネは跳ねる、跳ねるは躍動、躍動は夢!恋!
「春休み明けは、中3だ!いよいよおれの天下だ!」
前年の夏終わりに三年生引退に伴い真がバスケ部キャプテンの指名を顧問から受けていました。

春は、寒暖とのせめぎ合い、夏の太陽を呼び込むプレリュード。
お空は辺りをピンク色に染め上げ、その許では、ごった返すお花見の人たち、ここ洗足池に位置する小高い桜山。
朱色な桜の照り光が跳ね上がる、地上に近い天を朱へと染め映る、春ウララ本番となっていました。

「きもちいー!」
さっと頬を撫でゆく風くん、草木も息吹き、鳥さん達も舞い踊り、みなが力みなぎる、萌える空気感。

ドッボーン!舞ってなのか?踊り過ぎか?
池に飛び込みました。
上がって来た姿はブリーフ一枚の裸姿、さむそー!
酔っ払いでした。この予期せぬイベントに一斉に人達の輪が出来る。
そそくさとお池紳士さんは足早に、同僚と思われる者と共に、フラフラと何かブツブツ云いながらスタコラ行ってしまう。
酒は飲んでも呑まれるな。池に呑まれましたね。
一斉に注視いしていた人たちの輪が解かれることはなかった。ひそひそ、指を射す者まで、後になって知ったことだが、大田区議会議員さん、こども文教委員幹事職の看板が泣く、しかも同級生のリンク*くんのお父さんでした。さぞかし後妻に来た23も歳下の奥さんは苦労してるにちがいない。「いやいやー、酔って覚えていませんな」ぽりぽり頭をかきながら区民には、きっと、云い繕うはず。
*セルダの冒険大好きゲームオタクにちなんでみなが付けた愛称名。

あのドボーンさんから垂れた水でぬかるんだ土、所々にデッカイ素足跡と水分たっぷりな土、踏まないように、二股、三股、と跳び跳び歩くと。

「あら!シンくん!」
「あ、佳菜さん!」

偶然、天がプレゼントしてくれたイベント。
「ラッキーにしなくちゃ!」とっさに心に算段する真。

「背高くなったー!ダンディ卵くん!」
とっさにお世辞まじり云う佳菜。

「随分伸びてない!いくつ?」
「84。コメ縦に食べてるから」
「デカ。じゃ、横に食べたら横長デブになるの?」
「胃袋が縦に修正してくれるから」
「負けず嫌いだね」
「正直なだけ」
「もお!」 
「アハハハハハハハハハ・・・・・」
思わず顔を見合わせ笑うふたり。

肩に乗っかた花弁を取る真。
それを手に受け取る佳菜。

「私を忘れないで、と云うフランスの花言葉があるんだって。うちの学校のシスターが云ってたんけど、確かに、咲いたと思ったら直ぐ散る桜の花の命を惜しんでだよね」
「そうなんだぁ。もう一つ!ポジティブな話もあるんだよ」
「どんな?」
「桜の樹はブッ太いだろ。他の木よりもいち早く花を咲かすことによって身を守ってるんだって」
「花が?身を守る・・・・?」
「生きてくのにみんなあの手この手!樹も虫もばい菌までも」
「えぇ?どういうこと?」
「早く葉を付けたら、大きなカラダを維持するため栄養も水分も必要なのにまだ夜間の気温は低いからたくさんの水分が蒸発しちゃって末端は凍って死んじゃう。
みんなより早く花を咲かさればお腹が空いている虫や鳥が寄って来て営養を落として行ってくれる。
なかにはその身の後、栄養として桜に吸収される。その後にゆっくりと葉っぱを出せば、季節の変化に伴う多雨量も重なって、その栄養と共にせっせと今度は葉で栄養も作り易くなる」

「おー、スゲ。なんでそんなこと知ってるの?」
「頭良いから」
「まったく!図に乗るかね!確かに頭良いよね、金魚の時そう思った」
「実は、全部、お祖父ちゃんからの受け売りさ」

調子良く、大股が更に大股で歩く、真。
遅れてなるものかと付いて歩く佳菜。
そっと見上げたマナコが真の横顔をチラッと見、また見る。

池の半分ほどを歩いた端っこの方、ベンチに腰を下ろす二人。
この時の為とハンカチをそっと敷いてあげる。

「実父はどうなってるの?」と聞きたかったが押し黙る真。


それまで一緒に入った時もある佳菜。「小五になってまで、誰が一緒にお風呂入るか」
時折、父の影をお風呂場の曇りガラス越しに気配を感じていた。が、ついに、又も来た。
中一の夏、いきなり後ろから胸を掴まれ、服を下げようとしたが下がらずそのまま強引に服の上から手を入れられ、強く抑えられ動かなくなった体の下にも手を、マジ変態!とバタバタと必死!ついに立ちがり逃げた。

このことを母には云えなかった。でも、薄々気付いていたのか?中3の受験の時は母も何かと理由をつけては伯父の家で受験勉強に没頭するようにさせて貰って今の高校へ進学出来た、けど・・・・・・・。
この恐怖との表裏一体の生活はつづいていく・・・・・・。

「生活費は?学校授業料は?百万以上二百万も掛かる大学入学金、年間授業料は?志望大学に入るまで頑張ろうよ!」何度ママと話し合ったことか。何度フドコ(フードコート)に逃げたか・・・・・・。友だちのとこなんか助けを求めに行けるはずがない、こんなのバレたら恥をかくのは自分とママだけ・・・・・・。

これ以前の元の生活は、実の父が、多額の借財奴隷に堕ちるようになって、佳菜が小1の時、DV度が酷くなり、逃げるように家を跡に去り、結局、家裁調停で離婚となり、この直後、失踪不明者へ、交通事故で亡くなったも風の便りに。

生活の足しにと一時、母がキャバで働き始め、その時に出会ったのが今の父。
「ギブあんどテイクだろ!何が悪い。血が繋がってるわけじゃあるまいし、男と女だろ!自由恋愛だろ。どれだけ生活の面倒を見てやってるんだ。ここまで誠実にやってるんだから受け入れて当然だろ。誠実さへの報酬はどの社会も常識だろ。なにも躊躇(ちゅうちょ)することはない。男のモヤモヤ感は女には分からない。抑える抑えないの問題じゃない、抑えられる訳がない。男なら皆同じだ!このおれの誠実さから貰ってどこが悪い」


うつろに水面に注いでいた目線を急に空へと向ける佳菜。
釣られて同じ空を見る真。

「ガー太郎!」
「え?なんだー、アヒルじゃんか」
「こうやって鳥たちも家族と、カップルと、みな一緒なんだよね。仲良しは無敵艦隊!」
「何それ」
「いやーぁ、君は僕の全世界!ってKポップのユチュがあってさ」
「いいねー、ロマンチック・・・・・」
「でしょ」
「ちがくて、シンくんが」
「テッへへ照れますねー」

「なにアレ?」

かなさんの指さす方を見る真。
「西郷隆盛留魂碑だよ。セゴドンが居なかったら今の日本は、当時の明治政府は、無かった。それなのに竹馬の友だったと思い込んでいた親友にも見離されて死んだ無念さを放っておけなくなった勝海舟が建立したんだって」
「この親友とされた大久保利通の言葉に、『君達は小娘ごときの為に、この国をないがしろにするつもりか?』の一喝がある、さすが首相までを務めたこの御仁、それにしても西郷さぁを小娘と見たか、定かではない・・・・何が明治政界のリーダーだ、人一人の命を、友と思ってくれた者の命を、見限り、他にそれより大切なものがあるのか!屁理屈にもならない御託を並べやがって、結果はどうだったか?救うどころか死に追いやった責をどう言い訳するのか一度聞いてみたい!大久保さんの人物像を再検討する必要ありだね」

再検討する者が居ました!当時、再検討の結果、突然、彼は千代田区紀尾井町清水谷で、「非道な人間目!」と士族6名によって暗殺されてしまう。
更に、ここにも同調した者あり。その辺の事情を勘案した勝海舟が建立したという心意気が、西郷隆盛留魂碑を通し、垣間見えます。

「そーなんだ・・・・・・信じてる人を裏切るなんて人間のクズ!」
「だよ!西郷さぁも呆れるわけだよ」
「何が?」
「大久保さんは明治政府要職に付くと自分の息のかかった者を他要職者のそれより多くを周りに置いたんだよ、大臣大将級30余名、爵位を受けさせた者も30余名、贈位された者40人以上も」
「ゲッ、そんたく仲間作りだわ!だから、西郷さんは政府要職から手を引いたんだーぁ・・・・・・」
「だよ!だよ!それをさ、西郷さぁの故郷にまで追い掛けて行って殺しちゃったんだよ」


勝海舟さんの家と洗足池は、目と鼻の先の隣同士。
洗足池駅と長原駅も、目と口の先の隣同士、位置も斜めに向かい合う同じスポット内の共有遊び場。歩いてもたった五分の距離。くねくね歩きのゆっくりなら10分。
真の家はここからの方が近かったが、この日は遠回りしたかった。佳菜さんを送って帰り道で見た空の夕焼けが真っ赤に萌えていました。

ファミリーロード、洗足池商店街、に入りセブンイレブンT字路を右折すると後は真っ直ぐ坂道を登れば我が家。

自分に呼びかけて来る声か、見上げると。
夕陽に、カラスさん達一家、友だちだろうか、お嫁さんだろうか、どの者たちも一緒にお空へ泳ぐ姿、180度空一体に、それぞれの声を残し。
朱に黒の立体的コントラスト、どの者もお似合い、萌える光景、終日の幕か開演か、様々な朱色を映しゆくシーンに誘われるまま、ふっと息を大きく吸う。

「オイ!」
振り向くと、ミサンガさんだった。目も口もとんがっていた。「なんで?こんなシーンで?」と思った。

「お前さ、人の彼女、口説くのヤバくね!」
「偶然出会ったから話しただけですけど・・・・・・・」

向かい合う目線、勝った、ついに完璧背丈抜いた。
真っ直ぐ立っていた足の片方を斜めに折るもんだから余計低く見えた。
ポケットから煙草を出すミサンガさん、中指の黄色が目立つ。忙しく吸う口と吐く息の往復、中二の時感じた貫禄はもうそこに無かった。「これなら、いざとなれば・・・・・・」と以前より相手が軽く見え、構えられるようになった。

「そっか、俺、お前らを見たんだ。長―く一緒に居たからよ」
「長―く」と強調しましたね。ずっと気にして付けて来たということですね、CPUフル回転。

「え、じゃ、ずっと付けてたんですか?」

馬鹿野郎!たまたまだ。
「長―く!とたった今証言したじゃないですか!」真っ赤な嘘と脳CPU即座に判断、0.2秒。

「ですよね。先輩、紳士ってみんな云ってるし!」
思いっきり嘘の倍返し。

「誰が云ってた?」
「女子みんなです」
嘘完了。

下りきった坂の所の岩に腰を寄せ、短い脚をもう一方の岩に乗せ全然決まらない格好、また一本44円の煙草を1分内で煙と化す。
「おれな、高校止めるかも・・・・・。つか、バンドやりてぇんだ」
「どうしたんですか?」
「佳菜さんは?」
「・・・・・・・ってか、メアド教えてくねんだよなぁ」

この一週間前。
「いいガタイ*してもう子供じゃねえだろ、また学校来てねえって先生から電話があったぞ、サボって何一日中してるんだ!女のケツ追っかけてるなら、働け!親方に鳶**頼んであげるからよ!分かったか!」
*見た目の体格。
**(土木・建築工事の)仕事師。

「やりたいことが他に・・・・・・・」ぼっそと一言ハッキリと云う。直ぐに険しい目つきで父をにらんだ顔を左方へ流すミサンガさん。


「なにー!何だ?それ」
「友だちからバンド誘われてるから・・・・・」
「又かぁ、浮いたことをばかり!ゲー人、スポーツ選手、皆水商売だ!いい時はいいけど、続くの一時!そんないい加減な仕事ばっかり考えやがって、いい加減にしろ!」
「押し付けないでよ、自分の人生なんだから放っておいて欲しいよ」
「押しつけええー!」ボッコン!鉄拳が飛ぶ。

払う、ミサンガさん。
つぎはもっと早いグーパンチが飛ぶ。
「ザッケンな!」の絶叫を残し、茶髪頭炎上したミサンガさんの髪色はもっと燃えるような赤茶髪に!この場を逃げる。

悪いことは続くものです。
この早朝の事件後、父の現場でもっとデカイ事件が!
墜落事故があったのを聞くのはこの日の夕刻過ぎ。
一命は取り留めたが、全身打撲骨折の5カ月重傷となり、後遺症の可能性がないとは言えないとのお医者さんの話も。
配下の鳶若造の不手際を直そうと渡った組み鉄の緩みか、一瞬の強風か、重なったか、滑らせ8階から急落、途中の幾つか張り巡らされた障害物のお陰か、奇跡的に命だけは救われたが。
天から人が降ってくるなんて!あわや危機一髪!急停止した10t(トン)トラック運転手さん!どれだけ驚いたことか。両者とも災難、災難はいつなんどき起こるか誰にも予測不能。
ここにもあの手この手、全力で生きる者の姿、これまた、この地におり。


1年後、高1となっていた真。
ガッタンン~ゴットンン~ゆらゆら池上線、乗った駅からヘッドホーンから奏でるKenny G-The Momentの否応ない甘い旋律。

お、マブい!
大声で。ワザと明るく健康チック効果を演出してみた。

あ、シンくん!・・・・・・やめてよ、みんな見てるでしょ。
とっくにどの乗客もこの大声効果でこちらを注視してることに、小さな声で応える佳菜さん。

つぎの長原駅から乗車してきた佳菜さんとの遭遇でした。
旗の台駅で乗り換えるまで、わずか一駅、真は話す話す、返しトークトークする佳菜さん。
国家公務員試験一種・二種を目指すかも知れないという話も。
この時、これが佳菜さんと話した最後となりました。


過ぎて見れば10年とはまるでジェットコースターのよう。
24歳を超え、ようやっと6年制課程を卒し、信濃町の大学病院、臨床研修センター管理の元、研修医として慶應義塾大学病院27名中の一人となり始めた真。

院内施設喫茶、百花百兆での知り合い来院者と懇談の後、電話する用件をあることを思い出し、医者といえども院内は禁止となっていることから、携帯電話通話可能エリア、2号館1階エスカレター下に行くとなんと最後とばかり思っていた佳菜さんに奇跡的遭遇。

「うわー!宇宙再会だわ!元気ーイ!」
1/10000の確率は宇宙事としていたが、思わず感嘆してしまう、真。

「あー!シンくーん!偶然!御無沙汰―!」
十年程なんて感覚ゼロ、まるで昨日のようによみがえったその日に戻る、佳菜も。

「全然変わってないね、綺麗そのまま!」
男性を釘付けにするオフィスファッションそのままのキャリア姿がお似合い。佳菜が目にまぶしく真に飛び込む。

「ありがとー、シンくんも!あら、お医者って、ここでなの?」
伝え聞きに知っていた佳菜であったろうが、詳しくは知らずにいた、が、今ここに真の白衣姿を目にし。

偶然の確率を算出できる人がいたら、ノーベル賞もんですね。
でも、確率を歌にした者がいました。
絶対なんて誰も言い切れない
何となく不意に振り向いた途端
あなたと視線が重なった
GIRL NEXT DOORの歌だったかな。
なあ、偶然はあるんだよ。

「今、億万長者社長さん?」
真のジョークに笑った顔つきは前にも増して怪しく美しいさを醸す。

「一応お役人さんです」
外務省国際協力課の政策課付秘書補見習を拝命していた佳菜さん。

「スゲーじゃん!官僚じゃんか!」
「シンくんこそ、医学博士なんて。しかも一流病院で!」
「頭良いからね」
「またあ!昔と変わってないね、そこがシンくらしい良さでもあるんだけどね」
「ところで、どこか具合が悪くて病院へ?」
「ちがくて、ちょっとお見舞いにです」
「そっか・・・・・・、その後、お母さん、元気?」
「うん、元気。歳なりにね。・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
これ以上は、プライバシーなことになると首を突っ込まないことにした。真は既に「髪もすっかり白くなって・・・・・」を耳にしていたからでした。


東京地検特捜部、〇△の高山です。
佳菜さんの父は既に本省経済産業省へ戻っていたが、当時の内閣筆頭審議官らによる疑惑が野党をはじめ様々な関係者によって次から次へと露呈し事件化となる状況下にあり、その関係者として特捜部から事情聴取を受ける身となっていた。
やがて数カ月を経て公判となったが、この係争中、更に数ヵ月を経た頃、腹上死した父。相手は親子以上年齢差の銀座のヤングホステスさんのお腹の上で。カネは愛か?権力か?何でも出来るパスポートか?

「頭と下半身は別人」と人はよく云うが・・・・・。
娘に手を出すほどの性癖が生涯治ることはなかった亡き父。

今、このラッキー偶然を共に驚き嬉しんでいる、この医師なりたて真、その官僚への一歩を踏み出した佳菜。
互いに勤務中、さっそく名刺交換、「これさえしておけば!」そそくさ、慌ただしく、真は上階へ、佳菜はタクシーへ、それぞれの任へと帰して行く二つの姿が辺りのガラス面に写る。


よっ、リンク!
ゼルダの伝説ゲームが大好きで、中高の時は、神に選ばし勇者なるぞ!と気取ったセリフ得意な同級生の愛称です。
が、苗字は御手洗です。お手洗い!便所!と先輩が呼ぶので、おれらはリンクと呼ぶようになったという経緯あり。正しくは、みたらい、が正しい呼び名です。紛らわしい名前は止めてほしい、ホモと云う名があってそこの人達はどう思ってるんだろう?愛知県東部の保母(ほも、と読むが)村、村人はみんなホモかしら、となるんじゃないの。「村長!本日は発議したい件がござる、保母呼び名変更につき活発な各位のご議論を!」と唱える人がいないのかしら。


「おー、どうした、二人揃って」
豆腐さんのうっくんと真、これにリンクが交わっての三人。

「いや、お前の話が出てさ。今良いか?」
近場のモスバーカへ。
このショップがなんと私道にあるではないか、ではなく公道だが、細い曲がりくねった奥の奥の路地裏の一角に。
そこへ偶然の突然、源さんが!
「おー、お前ら男トークか」
似合わないセリフ、古いなぁ。すでにあの時とは大違い、髪は2/3白髪、昔は無かったあごひげ、歳も60近くに。それでも変わらないのは例の眼光鋭いでっかい目玉。笑うとまさに自身がこよなく愛する弁慶様の顔恰好へ、これも昔と変わらず。

「シンもみんなも一緒って今日何だ?」
「あー、中学校の同窓会の幹事になって・・・・・・・」
「お、そうか、みんなおれの子供みたいなもんだ、また食いに来いや、カネは要れねえ、変わったけど変わってないな、みんな面影ある!」
みなが中学生だった或る時、五中の番長連が、彼女を取られた、落とし前出せ云々と殴り込みに来た時、一喝の元に即逃げ出すようにしてくれたのもさすが元組長源さんでした。その面影、今なお健在ここにあり。

「あ、ゆかさん、駅のスパー、長原駅舎隣接の東急ストアであるが、でその前見ましたよ、気付いてくれなかったけど、綺麗なママになって、赤ちゃん、女の子さんだったんですね」
真たちが24ってことは、一個上だから、そうかー、25才になっての赤ちゃんか、あの結夏さんがなぁ。

「リンク、お前、フィアンセいるんだろ」
「そうそう、よくユカさんラブレター出してたよな」大声で云う、うっくん。
「そ云う、うっくんも、告ったことあるじゃんねえ」と口には出さなかった真。

図星に頬を赤くしたか焦ったか、リンク、腕に垂れてるバーガ汁に気付きもしないでモクモクと食うソイスパーシモスチーズバーガ430円、相変わらず割高感ぬぐえないモスメニュー・・・・・。ピンポーン!ここでお知られ、マックも入口は100円その奥実態は400円500円超えが満載、すき屋に比べてですが。

「あ、そうだ、佳菜さんに会ったよ。全然昔のまま、あの美しさじゃ男が放っておくわけないね」
「どこで?」
「おれんとこの病院でさ、直ぐに分かったよ、体型昔のまま・・・・・・って云うか一種のオーラーだね」
「へー、やっぱ好きだったんだなあ」
「いや、別に、並みに気になってただけ」
「何か気付いたかあ?」
「え?何が?」
「いや、なんでもねえ・・・・・・」
ハマグリのように口を閉じたままになる源さん。云いにくいことは誰しも一旦はハマグリ口になるもんです。ハマグリになるから余計開けて見たくもなるのも人情。

じゃ、近くに来た時はみんな寄ってくれよな。
デッカイ目にデッカイ体を動かし、モス前の小道へ又小道へと小走りにゆっさゆっさ揺する体付き消え。


「それえ!有酸素運動!」
バカの一つ覚えもつづけば立派な金言。

夜勤明けが二日間の休みの時はミックと一緒にジョギングをするようになった真。
医者になる前はこれほど有酸素運動を心がけることはなかったが、再認識するようになる。
効果は何と言っても川の流れが清らかになる、清らかになると末端まで栄養がいきわたる、行き渡ると美容にも頭にも良くなる。
まだ聞きたい?
専門用語は省き、挙げればざっと大まかに七つほど。
・心臓・呼吸筋の強化
・高血圧・冠動脈疾患の緩和が期待(血管の強化)
・アイデアがひらめきやすくなるなどの脳への刺激効果
・骨の強化
・新陳代謝が促進
・血中のLDLコレステロール・中性脂肪の減少が期待
・ストレスの緩和・発散
冗長でしたね。

いつまでも若さとエネルギッシュは幸せの土台、食い物じゃない、一義的には日頃からの有酸素運動に勝るものなし、で、次に食物です。
これを逆にすると効果半減、或いは、病気街道へも。
食べるために生きてますか?生きる(生き活きする)ために食べてますか?の問題です。
お陰でミックちゃん、我が家のワンちゃん、シェットランド・シープドッグであるが、今年でおんとし16才(犬平均寿命13年前後)、全然元気。

有酸素運動日だからと云って暇ではない、学生時代が懐かしい、未だパシリの身としては仕切ってる教授連達の為にしなくてはならないことだらけ。教授に人事権を握られていたからです。
そんな中、土日は心休まる日ともなって、特に優先順位の一つに、佳菜さんと電話で話をして・・・・・・、であった。

ひと周り、時には洗足池周辺まで、時には長原駅近くの小池公園まで、早歩きジョギングの繰り返しの後帰宅すると、ミックにお水をぺろぺろガブガブ音を立て、手を洗いウガイをし、鏡の前で「うーん、美肌になったのー」と云ったかどうかは別にして、心地好い疲労がなんとも言えない解放感を浸ると、目を閉じ、1/3分眠ったように。

テーブルの上でブッルルーン、開けるとちがう、期待するとき程どうしてこんなにも外れることか。
ついに来た!
「真くーん!話したくなって」
「どーした?」
「ずっと待ってたよ!」そう云えば良かったものをと思いなおす真だが。

「相変わらずツンデラなヤツ、嬉しいくせに」と思いつつ話を続ける佳菜。
「うん、たまには話したくなるじゃーん」

「おー、おれでよければいくらでも構っちょするぜ」
「今日ねせっかくの土曜なのに風邪ひいちゃってさ」
「そりゃいけねえ、夏風邪は治りにくいからな。熱あるの?何か持っててやろうか?」
「いい。ありがと。38度だけど大丈夫、食欲ないし、寝てれば治るから」
「明日治るぜ。神様に一万円あげるからどうか治してくれますようにと頼んどく」
「じゃ、明日治るね」
いいねえ、互いにユーモアを発することの出来る会話って。

「声、少し渋くなったね、男らし」
「男は、渋く派手にいかなくちゃー」
「なにそれ。うん、でもわかる、チャラくてペラペラな男って何所か信用できなくて」
「佳菜さんこそ、声がギャルっぽいと云うか乙女チックに変わってないか」
「もう乙女じゃない。ねー!好きな人できた?」
「うん!出来た!全身毛だらけのやつ。寝るときいつもひっ付いて来て可愛いやつ」
「あ、分かった、猫でしょ」
「どうして分かった?」
「ごろごろの音がしたもん。口元にすり寄ってたんでしょ」
「おー、よく分かったね、実はそう!声にならない音でもちゃんと聴こえるもんだなんだぁ、流石デジタル音」
「優しもんねー、真くんって。動物は勘がいいから分かって近づいて来るんじゃない」
「なぁ、おれらも一度近づかないか・・・・どっか暇なときにさ」
ついに本音を云えたとホッとする真。

「いーよー!また電話して!」
ついに「近づかないか」と真に云わせたと悦になった佳菜。

「電話して!」と佳菜に云わせたと悦に入る真。だが・・・・・、「じゃ、会おう!」とまでは云ってくれなかった,チェッ!

さっそく翌日の午前、お見舞いに果物セットを携え佳菜の家を訪問。
「あらー、ひさしぶりー!すっかり紳士になられて、お医者様ですもんね」
「どうも御無沙汰してます。お元気そうで・・・・」
「あの子ね、お役所の仕事でやりかけのがあるからってさっき出て行ったばかりなんですよ」

「38度ある」って云ってたのに、とは云わずに、「えー、風邪引いてるのにですか?」と云い留め。

「・・・・・そうなんですけど。良かったら甘酒飲んで行きません?作ったばかりのがありますから」・・・・「夏の甘酒は、飲む点滴!」と云い掛けたがやめました。

前半やけにトーンの低い返答、後半明るく、この一瞬の変わりよう、怪し?いや、本当に風邪、いや?・・・・と思いつつ、「いやー、昨夜『いい』と云うのを押し掛けお見舞いになって格好付かない、ハハハハハハ、ドジでした。出掛けるほど回復してればいいんで、あ、これせっかくですから置いて行きまーす」。

「本当にすみません・・・・・。また寄ってくださいね」
「ハーイ」

玄関階段を下った、と、その横の所にけづくろいをする黒ネコさんが陣取って、「残念でした」と話しかけて来る。「まぁねー」と下向きな笑顔をするしかなかった、が、「何も知れない君に云われたくないな」と云うと、「私は、時々この家の横をワンちゃんとジョギングしていくのを見てるから知ってますよ」と云い返されました。

佳菜さんちから右に折れ、さらに右側に長原教会を見、左方下に小池、前方に下り坂、登りきった地点から今訪ねた家の方を再び振り返り、佳菜に電話をすること、これで二回目、やはり「電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません。留守番電話に接続します」のけんもほろろな機械音だけ。

「おはよー!」最前から耳に電話するのを見ていたかどうか知らないが、今回もピンチな時に現れたさくらさん。「おはよーす。そのレッドスニーカーかっこいー!」とさくらさんに精一杯なお世辞を御返礼する。「若者が口にお世辞は、似合わないわよ」のきついご忠言を後に、かつて田園調布警察署から感謝状を貰ったさくらさんは今日もパトロールか、腕を鳥の羽ばたきのごとく左右に大きく振りながら早歩きで行ってしまう、元気なお年寄りが目立つ昨今の風物詩、お年寄りと呼ぶと顔はそのままだが目は機嫌を損なったという方々も、この呼び方は控えるように心掛けるが。

「独りでデカくなったと思うな!わしらが居てこそのお前らの今じゃねえのか!」ときっと云い返される。


「良い事はつづかない、良くない事は直ぐ身に付く」ふともらす真、27才の春を迎え、再び咲き誇る桜たち。桜の花は見せるためではなく自らに営養を呼び込むだった、そうと知らずただ浮かれ洗足池に飛び込んだあの醜態をさらした区議会議員さんは今では自民党代議士、全力でデートを成功させようとした二人、あんなこんなの其々(それぞれ)の同じような事象(イベント)を繰り返すのが時、昔の話と吹っ飛ばすかのような春の風、たたずまいは、地のものたちを等しく包み込み。「太陽も百年*以上繰り返してるぞ!」と桜さんたちも云うに決まってる。
*50億。

あれほどだったジョギングは今では、明日こそ!翌日には、明日こそ!になって。

「真さーん!」
桜の小枝を持つゆみさんが。

「おー、久し!」
「たまには顔を見せてくださいな」
「いやいや、無駄用が多くて。時間があったら行くね」

長原商店街のスナック瞳の二代目ママゆりさんです。
「お水さん、やってられるか!酔っ払い相手無理無理!」と威勢よく啖呵(たんか)を切り俳優を目指し、あと一歩のところ大女優デビューかと突然心境の変化、噂では取り巻く各分野の大物連中の何人かに入れ替わり立ち替わり身体を求め強要に嫌気がさしたことも重なり、スタートと憧れていた女優とはただの営養看板に過ぎない?何一つ人として自由に恋愛すら事務所規程により制約?迷った挙句、ついに事務所に辞職願を出す。
「これが芸能界縮図、ホントに綺麗な人は一般人の中にこそ!五十歩百歩な人しか女優してないよ!」とため息まじりに暴露したゆりさん。
そんなひと悶着の末、解放、一般人と結婚するが長続きせず、母子家庭で育ててくれた年老いた母初代ママを気遣ってるうち、その家業を継ぐことになった色白な一見麗人風なお姉さん。されど依然として憧れのスターをしています、美脚・美人・話上手、これじゃ結構ハマってる常連さんが多いのも納得、と云う者も。

話上手に魅かれたか、麗人容姿か濃艶な振るまいに惑わされたか、例の奥まったモスへと連れだってテーブルを間に向き合う二人。
「ここに入れときますねー!」とゆみさんが手にしていた桜の小枝をコップに立ててくれた店長さんの声、「ありがとうー!さすがー!かっちゃん」と桜色な声を張り上げ、客商売とはの片鱗を見た思い。

「お医者様かっけえ、モテるでしょ。しかもイケ面だし」
「あー、モテるね、寄って来るやつはカネ目立てかも知れないから気を付けてるけど。白衣着ると明るく目立つから池様に見えたりな」
「いいじゃないか、最初は金目当てヤリモクお互い様。なにも関心がないのに近づくはずないでしょ、その後は情ってもんがあるのよ、ここからが勝負ね、マジ恋になるかセフレ業で終わるか・・・・」

「そうかな、お姉さんの恋愛論には適わないわ、まだ経験浅いし」
「ゆみでいいよ。だってこの世は男と女しかいないんだよ、どの道を行くかは本人の自由意志。お互いに良ければ男女は成立ってことね。他人様が口を出すことじゃないわ」
25才くらいと云ってるが30くらいではないかと云う者も、「歳じゃない見た目だ」そう思える、流石、元女優を目指したことだけはある、整形美人には無い天然石の輝きいまだ健在。と同時に、「女の歳とウソは見わけが付かない」とも云われているが、どうせ男するなら「天使にも魔女にもは男の腕次第」と自分を押しとどめ。

「今日はどうしたの?こんな早くから」
「浜の叔母さんから乳がんだ何だかんだ騒ぎ出して叩き起されて私が運転して病院に母を連れて行って来たところなのよ」
「あ、そうか、だから桜山に寄ってあの花を持って来たのか」
「そ、第三京浜抜けてホッとしたところにあのピンクのお山でしょ」

「だよね、おれ的には上の野桜も豪華だと思うけど、ちっちゃときから馴染んだここのが一番だな」
「そう云えばあなた達どうなってるの?中高生の時あんなにデートしてたのに」意地悪そうな笑みに濃艶な目つきで見るゆりさんにドッキと、触れてほしくない話題であったから。

「あー、それっきり。彼氏でもいるんじゃないの?」そうあっては欲しくはないがそう云うしかなかった。

「あんね、時々深夜過ぎ、えっと3時ころになる時もあったかな、黒塗りの高級車で誰かに送って貰ってるみたい」
「一応官僚だから公用車じゃないの」
「高級ベンツだよ」

「マジ?・・・・うそだろ?」
「あおいね、女は魔性だよ」
「魔性って?」
「世間様には1パセント超金持ちが居て金の力にモノ云わせ従う女もいるってことなの」
「え、え、余計分かんねえよ」
「一晩に数百万、それ以上もあって、青山銀座他にもあるけど、入会金が並みにで十万円、VIPなら数百万から数千万で受け入れる高級クラブがあるってこと」
「ワオースゲ。それって売春宿ってことか?」
「甘いね、それじゃ捕まるっしょ。好みの女性を紹介して好みの場所でデートする事なのよ。そうすれば普通のお付き合いになって警察は手が出せないでしょ」
「デート?じゃ、やっちゃうチャンスありってことじゃんか」
「大金を前に、エッチも変態もやり放題、それを甘んじて受ける女も女。こんなの常識だよ、k有名化粧品会社会長さんだって68だよ、連日テレビコマシャールしてるn有名会社ceoさんだって77だよ、それでも夜な夜な女をしたい放題って本当だよ。億ション買ってあげたり高級ホテルでとかで」

「えー??じゃ、ベンツってその野郎??」
「分かんないよ、一般論ってこと。この商売してるとね、大声で、自慢げに、在ることないこと色々お客さんが話すでしょ、中には秘密事も、お酒が入るとみな正直になるからね」
「マージ・・・・別世界の話かと」
「いいい?これはリアな話しだよ。東電の勝俣恒久当時71歳会長さんってテレビで顔を見たことあるでしょ。当時慶応2年の泰子さんを、企画部長をしていた時に東電に引き入れて強引に迫って迫って、そのせいか挙句は渋谷円山町で売春婦まで堕ちて夜毎男なしには居られない性癖になって、ついに客の一人に殺され、この翌年、勝俣は平気で常務取締役に収まって現在職に至ってるつう有名な話、ほれ見ろって、今回の原発事故じゃん、葬られたのは泰子さんと国民でしょって話ね」

「マジのマジ?」
「新聞週刊誌に大々的に出てたからホント」

「じゃ、あのベンツは?その送って来たやつは?」と一気に頭内がゴチャゴチャ感にさいなまれ。
そういやー、噂は噂だが娘に手を出した佳菜さんのお父さんも経済産業省出向の金融機関調査部長、その影響から・・・・?それで以前病院で遭遇した時お見舞いと云っていたけど実際の来院目的はまさか性病検査に?それに孫程の年齢差の女子を手籠(てご)めし放題の挙句に葬り去った、こんなヤツらが現実に居るなんて、「ざけんな!」怒鳴りたくなる!いや、殴りたくなる!

「真さん!・・・・ね!大丈夫?」
云われて我に帰る。ほんの数秒が何時間も時が経ったような妙な幻覚に。

「完全無欠な人間なんていない!」そう自らに云い聞かす。「誰もが青臭い」誰も晴天の空の碧さにだけにはなれない、大地に力強く麗しく生きようとする草木の碧さにもなれない、それでもこれら両方の碧さをバランスよく抱く者こそが人としての花になる。花を咲かせないものが実を付けることはない。碧き彩り、空とその下で生きるものの輝きいずるプライド色。そういうものになりたい。

この二カ月後頃、ゴールデンウイーク前の土曜昼下がり、空を見上げる、曇天であった、口にティーを一口移し。
あのとき肩に乗った桜花弁を取ってあげたときの、盆踊り大会で夜店でのぽいの使い方を教えてあげたときの、初々しいあの純潔な笑みはきっとまだそこにあるはず、チャラとミサンガを見透した勇知もそう簡単に変わるはずはない、真は、メールを飛ばそう、いや、何年振りかに直接佳菜に思い切って電話をしてみることに。8回コールして出なければ切ることにした、その前に例の機械音メッセか?
プルルン・・・・プルルーン。

碧い花のつわものどもは彼の谷を野を超え

碧い花のつわものどもは彼の谷を野を超え

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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