*星空文庫

妖怪の住処。

よつえだ 作

もう夜中だけど、そのあたりの繁華街では
都会は朝まで賑わいをたやさない。
だがもう11時だ、人もまばらになってきている。
そこは裏路地に近い表通りから離れた場所で、人がなにかにつまづいただけで驚きそうなほど薄暗い。

(また僕は失敗してしまった、電車内ではみんなひどい疲れた顔をしている、こうしてちゃんと生きている人間もまるで死人のようだ。)

ある人の心のつぶやき、彼は通行人、不幸な通行人、おどろおどろしいものにその姿を、木陰から見つけられてしまった不幸な人。
通行人がそう思った、スマホをみる、時刻は11時半、もうそんな時間になってしまった。
全身はよくみえないがスーツ姿の男性。
「はあ……」
ため息をついた。
一連の動作が彼の前数メートル前からちかづいてきた怪しい影から注意を背けてしまった。
その瞬間、通行人の目の前に怪物はその姿を現した。

街燈の明かりがあたりと一緒に、自販機や、その通行人とともに、ある怪物を照らす。
そいつは、傘だった、古い傘だった、傘が足をたたせてあるいていた、今は一般には使われていない和傘のようだった。
その傘部分の下の長と中央のあたり、普通とってのある場所から、片足だけがみえている。
そして傘の左右から両腕がはえていて、
目玉が、中央にあってきょろきょろとこちらをみた。
傘部分はひらいたりとじたりしている。
古臭い傘は脅かすでもなく単にこう言葉を発するだけだった。
それも、自身なさげに。

「こんばんは、お兄さん……。」

通行人は、ぎょっとした反面、そのシュールさに笑うでもなく、顔をひきつらせ、目を真ん丸くしたままに硬直してつったっていた。

「ギャアアアアア!!!」

そのとき、影からそれをみていた何かしらの獣は、
通行人が驚いて声をあげたかに見えた、
なぜなら、古今東西得たいの知れないものに出会ったとき、人々はそれなりの礼儀をもって驚くような態度をとるのが当然な
はずだ。

しかし意外にも通行人は驚かなかったのだ、だから傘は叫んだ、すると通行人の彼は叫ばずに、逃げ去っていった。
傘はつぶやく。

「ここまでして逃げますか、つかれすぎでしょうお兄さん。」

そして傘は、とぼとぼ、片足でぴょんぴょんと路地から裏路地のほうに光を避けるように隠れるようにさっていった。
傘は腕と腕との間のあめよけの部分にたったひとつしかない目玉の部分に、あふれ出んばかりにいっぱい涙をためた。

はしって飛んだりしているからまつげからもあふれでてしまう、目がまっかに充血してきていた。
驚かすだけでいい、ただそれだけでいいのに、あの人間のしらけたような冷めた態度は……まるで自分が否定された気分だった。
最近では、どこをみてもああいう、面白みのない人間ばかりになってしまった、それが人間の変化だとしても
むかしからこの国で生き続けてきたあやかしのたぐいには到底受け入れられるものではなかった。
傘はしみじみ思う
(我々の仕事が、奪われてしまった。)

とぼとぼとかえる妖怪の傘、
おなじくとぼとぼあるく同胞にであったのは、
隣町、都会に隣接する田舎まちの奥まで急いでかえってきたとき、都会のすぐ近くにあるのに森や雑木林や、田園風景が広がる場所、
その都会に一番近い山に、ひとつの寺がある。
妖怪たちは今日もざわつきながら、その歴史ある古い寺へあつまっていた、一様に玄関から礼儀ただしく
境内へ入り、建物の前にあつまり、住職は妖怪たちをなぐさめる。
妖怪たちは木々に囲まれて、ほとんど明かりのついていないくらい境内で静かに音をたてないようにないているようだった。

「今日もよく働いてくれた、いずれ、人間たちも正しい心を取り戻すことができるだろう、いつかおどろいてくれるじゃろう。」

妖怪をたしなめながら、住職がいう、右手には猫又、左手には提灯お化け。
代表的な面々が住職をたよっている、そのどんよりとしたおどろおどろしい雰囲気は、恐怖よりも悲しさを身にまとう。
どよめきのような声によってかき消されている。
これは泣き声だ、彼らの泣き声だ。

昔から、人間からしっかりと気味悪がられる彼らにも、現代では居場所がない。
人間が暗闇と安息を放棄したように、人間を怖がらせ、恐れられ、煙たがられるはずの彼らに、人間に正しく嫌われるための方法がない。

急いで逃げてきたかさのおばけ、
からかさの妖怪、からかさ小僧はふるくから、かさかさ妖怪。そう呼ばれていたけど
最近では自分の名前を知らない子供たちも多い。

「名前くらい覚えておいてね」

ぽつりといった。
それは数日前の体験、またひとつ自身をうしなった体験を思い出してのことだった。

和尚は、普段は人間としていきているが、あごひげを触りながら、左右の目のちょっと上の丁度おでこの真ん中にいちする部分にぽっかりと
空洞ができて、もうひとつの目玉がこちらをみた。

「今は耐えるしかないのだ……。」

妖怪たちは、妖気をもとに生きている、彼らは恐れられることを、生きるかてにしている。
妖気というのは、人がおそれ、おどろおどろしいものに感じる恐怖がつちかっていく。
人間でいう食事と近い、それがこれじゃまずいのだ。

唐笠小僧は、ひっそりと数日前のことをおもいだしていた。
今日の夜のように暗い夜道、散歩していたからかさ小僧。

子供がおとしものをしたからひろってやった、
それをひろったら、子供は平気で喜んだ、それでむっときて、顔をあげた。
同時にあいても、自分を真正面から見るための様子で、顔をあげる、
(しめた)
と思った、だが顔を上げた瞬間驚いた。
相手は、何も驚きもせずよろこんだ様子の、一つ目小僧だった。
子供と夜の道、これほど恐れを生むものはない。
だが問題は時間だった、子供がそんな時間に歩いているはずもないのだ。
黄昏時ならまだしも、そういう状況は普通じゃない。

都会に似合わない山奥の寺の変わった住職のいるお寺の本堂の裏手の庫裏のあたりで、真夜中。
妖怪たちは縮こまって、明日の生活をどうするか、
今日もひっそりと悩み相談をかわしていた。

『妖怪の住処。』

『妖怪の住処。』 よつえだ 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-01-14
Copyrighted

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