*星空文庫

騎士物語 第六話 ~交流祭~ 第十章 風の指揮者と雷の女帝

RANPO 作

第六話の十章です。
この六話の最後のバトル、ロイドVSアフェランドラです。

第十章 風の指揮者と雷の女帝

『どどどどどうしたら良いだろうか……!』
 アンジュのかつてない攻撃によってもんもんとした状態の中、フィリウスの筋肉を思い出すことでなんとか眠ることのできたオレは、翌朝、連絡用の通信機の呼び出し音で目を覚まし……寝起き一番、アフェランドラさんの動揺しまくりの声を聞いていた。
 どうやら昨日のキキョウの試合の後、アフェランドラさんはキキョウに色々とアドバイスをし、ついでにヒースの試合も一緒に観戦してヒースにもアドバイス、そしてアフェランドラさん自身の試合も二人に観てもらったらしい……のだが、ここで良い意味でハプニングが発生した。
 ヒースに何やら別件の用事が入り、なんとそこから半日ほどは二人きりで行動したというのだ。
 やった事と言えば他校の強い生徒の試合を一緒に観て意見を出し合う――みたいなモノだったらしいが、これは半分デートなのではなかろうか。
 しかも、生徒会長の解説付き試合観戦というよく考えたらかなり嬉しい状況を、もし良かったら明日もお願いできないかとキキョウが言ってきたそうなのだ。
 アフェランドラさんは半ば反射的に「いいだろう」と言い、昨日はそれでわかれたそうなのだが……ふとアフェランドラさんも、これは半分デートなのでは!? と気づいてオレに連絡してきた――というのが今の状況である。
「どうもこうもチャンスじゃないですか。」
『チャンス!? ままま、まさかもう告白を!?!?』
「い、いえいえそれはまだ早い気が……つ、つまりですね、一昨日よりも昨日、昨日よりも今日、どんどん仲良くなっていけばいいのではないですかという話です。」
『ど、どんどんか……正直昨日でいっぱいいっぱいだったのだが……私はきみほど異性とフランクに会話できないのだ……』
「……一応、オレもアフェランドラさんからすると異性ですがこうして――」
『きみは……そういう変な緊張を持たずに話せる――雰囲気と呼べばいいのか、そんな感じのモノがあるのだ。』
「そ、そうですか?」
 そういえばローゼルさんも似たようなことを言っていたな……いや、そういう雰囲気があるとしたら、それこそキキョウがそうだと思うのだが……
『きっとその辺りも、きみが女子生徒に人気のワケなのだろう。ふふ、昨日だけできみの新しい噂をたくさん聞いたぞ?』
「ソ、ソウデスカ……」
『こうして相談している身で言うのもなんだが、師匠譲りで両手に収まらない花をつかむのなら、師匠譲りに皆を幸せにすることだ。』
「さ、さらりと難題を……頑張ります……」
 なんだか、こうして話しているとアフェランドラさんは「良いお姉さん」という印象だ。この感じをキキョウと話す時にも出せれば……
『話がそれてしまったな……まぁしかしきみの言う通りだろう。これを機にもっと仲良く……確かにな……』
 通信機の向こうでうんうんと頷いていたアフェランドラさんは、「そういえば」と言って話題を切り替えた。
『今日の試合、よろしく頼む。』
「あ、はい。こちらこそよろしくです。」
『ああ。実を言うと、試合がこんなに楽しみなのは久しぶりなのだ。良い勝負をしよう。』
「それは……なんというか光栄です……」
『ふふ、私もだ。時間はまた連絡する。朝早くにすまなかった。』
「いえ。ではまた。」
 しかし……楽しみか。昨日のオレの力――誰もそうとは気づいていないだろうけど、吸血鬼の力を見た上でそう言っていると思うのだが……そうは見えないだけで、アフェランドラさんも強い人とガシガシ戦ってみたいタイプの人なのだろ――

「誰と話してたの。」

 切れた通信機を片手にぼーっとしていたところに淡々とした声が響く。見ると寝間着エリルがむすっとした顔でカーテンのところに立っていた。
「エリル!? きょ、今日は随分と早起きで――」
「誰と、話してたの。」
 こ、これはいつものむすり顔じゃない、本当にむすっとしているパターン……! で、でもアフェランドラさんの恋物語はあんまり……
「えぇっとそのー……ご、ごめん! それはちょっと話せない……のです……」
「……」
 表情は変わらないけど雰囲気が一層むすっとなり、すたすたと近づいてきたエリルはオレのベッドの横に立った。その無言の圧力に押されてなんとなく布団にもぐるオレ……あぁ、カッコ悪いぞオレ……
「……まぁ……相手はきっとどこかの女なんでしょうけど、あんたはこっそり浮気しない――っていうかできないからそういうのじゃないんでしょうね……」
「も、もちろんで――え、あれ、エリ……ルさん……?」
 いつもとは逆に、ベッドの中のオレをエリルが見下ろすという状態だったわけだが……むすっとしたエリルはストンとベッドに腰かけ、そのまま上体をひねって――覆いかぶさるようにオレの頭の左右に手をついて顔を覗き込んできた。
「でもあんたは優柔不断の女ったらしで、自分を好きって言ってくれた人を無下にできないとかなんとかで結局全員まんざらでもなくて、くっついたりキスしたり――たまにやらしい事もあったりして……あんたはあたしを好きって言ったけど、昨日みたいに他の女とベタベタしてるところを見ると……不安になるのよ……だから――」
 電気をつけていないし、庭に面している窓のカーテンは閉じたまま。薄暗い部屋の中、いつものむすっとした顔で声もむすっとさせたエリルが、少し目をそらしてこう言った。

「たまにあたしが一番だって事を思い出させてくれないと……燃やしちゃう――わよ……?」

 少しほっぺをふくらませたむすりエリルに思わず手が伸びて――
「ひゃっ!?」
 そのまま抱き寄せた。布団越しに受け止めたエリルの身体を、我ながら加減なしでぎゅっと――
「なな、何すんのよ!」
「…………はっ! あ、ごごめん、つい!」
 慌てて手を離したが、エリルはオレの上に転がったままで……唇をオレの耳元にそっと近づけて呟いた。
「……時々……オオカミよね、あんた……」
「は、はひ……」
 はぅあ……耳にそよぐ吐息の艶めかしさよ……昨日のアンジュの攻撃とは種類の違う色気が……
「……まだ起きるには早い時間ね。」
「そそ、そうですね……と、というかエリルはなんでこんなに早く……」
「どっかの馬鹿がカーテンの向こうでぶつぶつしゃべってたからよ。」
「ご、ごめん……え、えっと……じゃあもうひと眠りする……?」
「……そうね……」
 しばしの沈黙。そして……なんとなく……いや、きっとオレの中のオオカミが顔を出したのだろう、オレは布団の中を移動して横にスペースを作って……掛け布団をめくった。
 それに対し、エリルは無言でその場所に脚を入れ、髪の毛からふわりといい匂いをさせながらオレがあけたスペースにおさまって――掛け布団をかぶった。
 二つの鼓動と体温を包んだベッドの中、お互いにいつも以上の姿勢の良さで天井を見つめ、しかし意識は隣のもう一人に向いていて……ふとしたキッカケで何かが起きそうな状況……
 ……だったが……

「よ、よーし! 最終日だぞエリル! 頑張ろう!」
「とと、当然よ! 今日も勝って全勝よ!」

 という感じに、十数秒でオレとエリルはベッドから飛び起きた。


 朝っぱらからドキドキし過ぎた身体を軽い体操で落ち着かせ、オレとエリルは朝ご飯を食べに学食に向かった。
「おはよーロイドー。」
「アンジュ……!」
 落ち着いたはずの身体がまたもや熱を帯びていく。昨日のあの時の瞬間の五感情報全てがフラッシュバックする――だぁあぁぁ……
「人の顔見るなり赤くなっちゃってー。あたしに惚れちゃったー?」
「――! ……ふ、ふふふー! 何を今更! 既にある程度惚れてますから!!」
 変なテンションで変な反撃をしてしまった結果、アンジュが可愛く照れてエリルにほっぺをつねられた。
「む? 何気にロイドくんからそういう事は言われたことがないような気が……ロイドくん、わたしは!」
「えぇ!?」
「ロイくん!」
「ロ、ロイドくん……!」
 しまった、毎度のことながら考え無しにやらかしたぞ!

「やってるなー、お前ら。」

 どうしたものかと頭をフル回転させていると、おぼんにうどんを乗っけた先生がやってきた。
「その元気は試合にとっとけよー。」
「先生……あれ、先生?」
「あん?」
 そういえば交流祭が始まってから先生を見てなかった気がするな……なんだか久しぶりに会った気がするぞ。
「えぇっと……先生、今までどこにいたんですか?」
「なんだその質問は。」
「あ、いえ……なんだか久しぶりに見たというか……」
「交流祭は生徒主体のイベントだからな。基本的に教師は口出し手出し一切禁止なんだ。でもって、生徒同士の交流の場に教師がいたらできない話もあるだろうってんで、そもそもアルマースの街に入る事も禁止されてる。」
「え、じゃあ……この期間は先生たちはお休みですか。」
「まぁな。だが騎士を育てる先生なんてのをやってる奴が、次代を担う騎士が勢ぞろいのイベントを休みだからって見逃すわけはない。っつーことで、大抵の教師は試合の中継を見て過ごしてる。」
「中継? あれ、この交流祭はそういうのがないって……」
「公には、な。四校の関係者だけは好きな試合を観戦できんのさ。ま、残念ながらスクリーンのついてる闘技場の試合に限るから、一番小さい闘技場でやってる試合は観れないんだが。」
 つまり……デルフさんとかの試合は観れても、昨日のエリルとキキョウの試合は観れないわけか。
「ただ……今日は私だけ、特別に街に入ることになるんだが……」
「え、それはまたどうしてですか?」
「面倒な客の案内だ。ったく、元国王軍指導教官って肩書はこれだから……」
「客? 偉い人でも来るんですか?」
「偉くはないが面倒だ。特にあのクソジジイは……」
「?」



 サードニクスら『ビックリ箱騎士団』とわかれた後、私は面倒な奴らを迎える為に学院の正門に立った。少しの間の待ちぼうけ、私は交流祭について考える。
 生徒には公開されていないが、今のところ四校のポイントは横並びだ。ソグディアナイトが入学してからは割とセイリオスが首位を走ってたらしいが……今年で卒業ってことで他校の生徒会長に熱が入って、それがいい具合に他の生徒に伝わったらしい。なんやかんや、やっぱり強い奴っていうのは周りに影響を与えるもんだ。
 ただ……個人的にはプロキオンのアフェランドラが気になる。『雷槍』と呼ばれてる身として『雷帝』に興味が行くというのもあるが……教師として改めて見ると、たぶんアフェランドラはまだアレに出会えてない。
 もしも会っていたら、おそらくソグディアナイトを超える使い手に――

「んお、教官! 教官に出迎えさせるたぁ、校長もなかなかやるな!」
 まだ「遠めに見える」って表現する距離なのにバカデカい声が聞こえた。シルエットからしてその筋骨隆々っぷりがわかる筋肉ダルマ――《オウガスト》がズンズンと歩いてくる。
「ほぅ、これはまた目新しい格好じゃの! 本当に教師やっとるんじゃな。」
 でもってそいつの隣を歩いてるのが……唯一私が何度も負けてる相手。ハゲてはいないが白髪まみれの頭に、傾いた身体を支える杖。元気ハツラツの顔でかぶってた帽子をふる――《フェブラリ》のジジイ。
 ――と、ここまでは聞いてた通りだったんだが……二人の後ろにいるのはまさか……
「こうしてきちんと挨拶するのは初めてよね。いつも妹がお世話になっているわ。これ、つまらないモノだけど。」
 ついさっきも見た紅い髪。ダルマとジジイとは明らかに雰囲気の違う立ち振る舞い。飾り気のない普通の格好でもにじみ出る気品。
 この国――フェルブランド王国の王族であり、外交にてその手腕を振るう人物にして……私の立場から見ると教え子の姉。カメリア・クォーツ……!
「授業参観に来た奥様のようですよ、カメリア様。」
 そしてそんな人物の後ろに静かに立つのは濃い赤色の髪を長いポニーテールにしたメイド服の女。第四系統を得意とする騎士が自身の誇りにかけて打倒しなければならないと叫ぶ、コスプレではない本職のメイド――《エイプリル》……!
 十二騎士が二人ってだけでも大騒ぎなのに、もう一人増えた上に王族追加? なんだこの状況は……と、私が高そうなクッキーの箱を手に目を丸くしていると、その心を読んだかのようにカメリア様が微笑んだ。
「突然でごめんなさいね。でも仕方がないのよ。お城を歩いていたら珍しい組み合わせの二人が意気揚々とでかけていくところが見えたの。ついていくしかないじゃない?」
 噂通り、仕事の時以外は愉快な人みたいだな……
「そ、そうですか……まぁ十二騎士が三人もいるのですから、護衛という点では問題ないでしょうが……その、御予定などは……」
「ないわ。そうよね、カメリアさん。」
「いえ、今日は七大貴族の方とのお食事が――」
「ムイレーフに気を使う必要はないわよ、カメリアさん。理由どうあれ、無くなったモノを有るように扱うのは誤解のもとよ。」
「申し訳ありません。六大貴族の方とのお食事が――」
「ご機嫌取りに用はないわ。キャンセルね。」
「かしこまりました。すると今日の予定はありませんね。」
「ということだから。今日はエリーと未来の弟の雄姿を見物するわ。」
 さらりとすごい会話がされた気がするが……まぁ、実際この人の実績はとんでもない。騎士とは違う戦場で猛者と呼ばれる人物……飯をすっぽかされたからって、王族って点を除いても文句は言いづらいだろう。
「……んで、そっちの筋肉とジジイの要件はなんなんだ? 昨日いきなり「行くからよろしく」とか言ってきたらしいが。」
「おお! ま、ざっくり言うと《フェブラリ》と賭けをしたから、その結果を見届けにきたんだ!」
「……あぁ?」
「馬鹿正直に言いおって、アドニスが修羅のような顔になったぞ。次代の騎士の力を見に来たとかなんとか言っておけばよいモノを。」
「いい度胸だな、ジジイ……だいたいあんたは他国の人間だろうが。軽く機密に触れるような事をよくも言えたな。」
「十二騎士にはそれほど厳しくないじゃろう、その辺り。それに、機密云々というのは今更じゃよ。」
「なんの話だ?」
「ああ、教官。そこんとこがずばり、賭けに関わってんだ。」



 今日の対戦相手が決まっていて、その相手からの連絡を待つ身であるオレはのんびりとみんなの応援をしていた。三日目ともなるとどの学校の誰が強いかという話が広がっていて、今のところ上級生相手に二勝しているみんなは――なんというか、大体の生徒から距離を置かれるも、一部の生徒からは声をかけられるという状況にあった。後者の生徒とはつまり、フィリウスみたいなバトル好き、もしくは強い相手と戦って成長したいという真っすぐな騎士道の生徒。
 このアルマースの街にいる人は全員騎士学校の生徒なわけだが、残念ながら全員が全員高い志というわけではない。入学したての頃は自分もそうだったと、名門騎士の家のローゼルさんですら言っているのだから……ある程度は仕方のない事なのだろう。
 だけど実際問題、志の有無はそのまま強さにつながっている。ラクスさんというキッカケ……というか目的というか、そういうモノを得たポリアンサさんは見違えるほどに強くなったとデルフさんも言っていた。志という点で言うと身近では一番のエリルはドンドン強くなっているし……正義に燃えるカラードの強さも然りというモノ。
 上から目線になるが……今日、みんなに勝負を挑んでくるような生徒は今後、それぞれに名を上げていく気がする。むろんみんなもそうだし、オレもそうありたいと思う。
 ……んまぁ……昨日の試合が影響しているのか、オレに話しかけてくる人が誰もいないというのがちょっと寂しいのだが……
 う、うん、きっとアフェランドラさんと試合するという話がなんやかんやで広まっている――のだろう!


「ふぅん、リゲルの生徒会? いいよ、試合しようか。ロイくん、勝ったらチューしてね?」
「えぇ!?」
 チュー……き、気を取り直して……最終日はリリーちゃんの試合から始まった。
 リリーちゃんと言えば……本人はあんまり気に入ってないみたいだけど、『暗殺商人』の名の通り、パッと消えてパッと背後にまわって短剣で一撃という戦い方。だけどこの前のランク戦、全身甲冑のカラードとの試合で思うところがあったのか、最近はそれ以外の戦法も使うようになっていた。
 第十系統の位置の魔法。一度会ったこともあって、この系統で最凶最悪と名高い『イェドの双子』ことプリオルとポステリオールについて調べてみた事がある。
双子の男の方、プリオルは古今東西の名剣名刀妖刀宝刀のコレクションを銃弾のようにして撃ちまくるという戦い方をする。この世界のどこかにあるプリオルのコレクションを保管している部屋から剣を位置魔法で呼び出して発射、その後すぐに位置魔法で部屋に戻し、また発射する。普通の銃で言えば、発射された銃弾が弾倉に戻ってくるような状態だ。
 んまぁ、一度発射された銃弾は装填できないけど……この銃タイプをやっているのがポステリオール。どこかに保管しているのだろう大量の銃弾を位置魔法で弾倉に移動させて、弾切れなしで撃ってくるとか。
 そしてこの二人が放った剣と銃弾は位置魔法によって操作されるからとんでもない軌跡を描いて飛んでくる。こんな感じに遠距離武器と位置魔法を組み合わせて使う人というのは結構いるらしい。ただ、位置魔法を使った戦法にはもう一パターンある。
 それがちょうどオレのように武器を遠隔操作するタイプだ。というかオレの曲芸剣術やエリルのガントレット操作はレアなモノで、普通、武器を遠隔操作すると言ったら位置魔法の領分らしい。
 リリーちゃんの新しい戦法というのはつまり、愛用の短剣を手から離して相手に飛ばしたり瞬間移動させたりして斬るというモノだ。戦法としてはこっちの方が優位に戦えるし暗殺にも向いているのではと思ったのだが……

「テキトーに切ったり刺したりならいいけど、急所を確実に一撃ってなると、やっぱり自分の目と手でやんないとダメなんだよ。」

 ……と、熟練の暗殺者としてのコメントが返って来た。よって短剣の遠隔操作でやることは攻撃ではなく、リリーちゃんの必殺の一撃を確実に叩き込むための下準備。カラード戦で例えるなら、甲冑を引きはがす為の印を刻むという行為を遠隔操作で行い、はがしきったらリリーちゃん本人が切りかかる――というわけだ。
 もともとそういう技術は磨いてこなかったらしく、遠隔操作はまだまだ不慣れらしいのだが……

『まるで拷問! 足や腕の腱を位置魔法で飛び回る短剣で切断し、じわりじわりと相手の動きを封じていきます! 人体の急所を知り尽くしているかのような正確無比にして無慈悲な攻撃! 『暗殺商人』ここにありです!』

 そ、そんな風には全然見えなくて、致命傷にはならないけど動きに支障が出るような箇所を攻撃して相手の機動力を削いでいくリリーちゃん。しかもリリーちゃん本人は逃げに徹してるもんだから、攻撃が当たらないこと当たらないこと。
 かつて裏の世界でその名をはせた暗殺者集団が十二騎士の手でようやく壊滅できたというのは、この逃げの技が厄介過ぎたからなのだろう……

「ロイくーん、ボク生徒会に勝ったよー。」
 セイリオスとは選挙の時期なんかが違うらしく、同学年ながらも生徒会に所属しているという、普通に戦っていたらきっとすごい技を色々見せたであろうリゲルの生徒は、開始と同時に足元に出現した短剣に足を切られ、魔法を駆使して善戦するもじわじわと動けなくなっていって――最後にはぺたりと膝をついた状態でリリーちゃんの一撃を受けた。
「まるで悪魔のような戦い方だったな、リリーくん。」
「相手の顔見たー? 最後絶望って感じの顔だったよー?」
「な、なんか……トラウマにな、なりそうな……試合だった、ね……」
「流石元暗殺者ね。」
「やーんロイくん、みんながいじめるよー。」
 むぎゅっと抱き着いてくるリリーちゃんを無意識的によしよしする。
 リリーちゃん的には嫌な過去だったのだけど、オレが……そんなの関係ないって言ってからというもの、本人が気にせずにこれ関係の話をするもんだからみんなも軽く口にする。
 ともかく、その目的の良し悪しは別としてリリーちゃんは位置魔法の使い手として小さい頃から英才教育を受けたというのは事実。慣れないはずの遠隔操作もすんなりとこなせているのだから、リリーちゃんはこの先もどんどんすごい使い手になっていくだろう。
「……ちょっとあんた、いつまでリリーを抱きしめてるつもりよ。」
「――はっ! あ、や、ぼーっとしてました!」
「ロイくんてば、こんなに可愛い子が抱きついてるのにぼーっとしてたの? ひどいんだから。これはチューを一回増やしてもらわないとだね。」
「はひっ!?」


「あ、あたしです、か……えっと同じ学年……え、学年二位? そ、そんな人が……でも……わ、わかりました……」
 口に残る感触に顔を熱くしながら二戦目……リゲルの生徒会の人を絶望的な顔にさせて勝利したリリーちゃんに続き、カペラの一年生、学年二位に挑まれたティアナの試合を観戦する。
 第九系統の形状の魔法における高等魔法の『変身』。それとスナイパーライフルと拳銃。これらを駆使した距離を問わない変幻自在の攻撃がティアナのスタイルだ。リリーちゃんみたいに新しい何かが加わったりはしていないけれど、ティアナの『変身』はより自在になっている。
 昨日のアンジュの……は、裸エプロン攻撃の時にも、腕を蛇みたいにしてティアナを放り投げていたし……
 話を聞いてみると、スピエルドルフに行ったことが良い影響を与えたらしい。

「あ、頭の中で想像するだけ、よりも……じ、実際にそうなってる人を見る方が……イメージはか、かたまるから……魔人、族の人たちは……さ、参考になったよ……」

 腕や脚だけが人間のそれとは異なっている人や、下半身が馬だったり蜘蛛だったりする人、翼やしっぽが生えている人がそこら中にいる魔人族の国。魔眼ペリドットの力でオレたちよりもモノが良く見えるティアナにとって、スピエルドルフは中を歩くだけで『変身』魔法の勉強になったのだろう。
 ちなみに……オレは気絶していたわけだけど、スピエルドルフに現れたアフューカス一味の中には第九系統を使う悪党の中で最強最悪の犯罪者がいたらしい。
 かつて首都ラパンを襲った魔法生物の侵攻を引き起こした張本人だったらしいS級犯罪者――『滅国のドラグーン』、バーナード。この男は『変身』によって丸っきり別人になることができるほどの使い手で、戦闘となればその二つ名通りに巨大なドラゴンになるらしい。
 今はまだ身体の一部を『変身』させるだけで別の器官を追加することはできないと言っているティアナだけど、このまま魔法を磨いていけば、いつかこの悪党と同等の『変身』ができるようになるかもしれない。

『可愛い外見からは想像できないバトルスタイル! 多種多様の生き物に姿を変える手足と百発百中の曲がる弾丸! 姿を変化させるという事と遠距離からの攻撃という、敵にすると厄介な要素が盛りだくさんの『カレイドスコープ』ことティアナ・マリーゴールド! 相手は満足に力をふるえないようです!』

 強い女性騎士ばかりというカペラ女学園、その一年生の学年二位を相手にしている……一応セイリオス学年ランキング的なモノだと五位になるティアナは、しかして終始試合を優位に進め、そのまま勝利してしまった。
 あ、いや、してしまったとか言うとあれだけど……ティアナもすごく強くなっている。

「ロ、ロイドくんは……吸血鬼になった時、は、羽とか……出ないのかな……?」
「どうかな……どうして?」
「も、もしも出せたら……さ、参考にしたいから……動かし方を教えて欲しくて……」
「なるほど。わかったよ。」
「それと……」
「うん。」
「あ、あたし……強い人に勝った、よ……?」
「う、うん。」
「……あ、あたしには……ないの……?」
「えぇっ!?」


「あ、そこの髪の毛すごい人ー。プロキオンの強い人でしょー? 三年の生徒会のー。あたしと勝負しようよー。えー、まさか逃げるのー?」
 エリルとローゼルさんにほっぺをつねられながら三戦目。アフェランドラさん率いるプロキオンの生徒会メンバー……しかも三年生にケンカ――勝負を挑んだアンジュの試合。
 アンジュの得意な系統はエリルと同じで第四系統。クォーツ家のメイドさんであるアイリスさん――《エイプリル》の技を参考に、熱をメインに使う魔法主体のスタイル。『ヒートコート』という触れると爆発する熱の膜で身体の表面を覆い、それを利用した格闘戦や、同じく触れると爆発する『ヒートボム』をばらまいたりという攻撃をする。
 何も考えないでアンジュに攻撃を仕掛けると触れた瞬間に『ヒートコート』の爆発を受け、パンチやキックなら手や足にダメージが及び、武器を振るったなら局所的な爆破によって壊れる場合がある。その辺が二つ名の『スクラッププリンセス』の由来なのだが、この魔法にも弱点はある。
 根本的に、『ヒートコート』の爆発でもダメージを受けないし壊れない攻撃方法で、かつ爆発によって威力を殺されない一撃が出せるならこの魔法は問題ない。が……そんな事ができるのはエリルくらいで、普通は別の方法で攻略する。
一つは水などで『ヒートコート』の効力を弱くする、もしくは無効化してしまう方法。
オレたちの中で言えば、ローゼルさんがそれをよく使うし……リリーちゃんに至っては、爆発のダメージ覚悟で『ヒートコート』に触れ、そのまま『ヒートコート』だけを位置移動させるという荒技を使ったりする。自分以外の生物や他人の所有物は動かせないけれど、それが魔法で生み出されたモノである場合、相当制限がゆるくなるのだとか。やはりミラちゃんの言った通り、魔法というのはとても不安定なのだろう。
 もう一つは連続で爆発させて『ヒートコート』を……感覚的には薄くする方法。
 魔法によって作り出された『ヒートコート』であるから、その膜はアンジュの魔力供給によって維持されており、爆発する度に消費される。だから一度に何度も爆発させると一時的に膜が薄くなるか、うまくいけば無くなるのだ。
 オレやティアナはそれで攻略するタイプで、回転剣や銃弾を一度に何発も撃ち込んで『ヒートコート』を無くしてから本命の一撃を入れに行く。
 とは言え、そんな弱点をそのままにしておくわけもなくて……んまぁ、『ヒートコート』そのものはそのままなのだが、容易に近づけないような工夫している。

『これは予想外です! カンパニュラ選手の『ヒートボム』によって持ち前のスピードが完全に殺されています!』

 今までは指先から撃ち出したり、上から落としたりというくらいの操作しかできなかった……らしい『ヒートボム』なのだが、それをもう少し自在に操れるように練習している。オレが回転剣を、エリルがガントレットを飛ばす時なんかの感覚、そしてリリーちゃんから位置魔法も教えてもらって……そんなに速くはないが、今では『ヒートボム』を衛星みたいに自分の周りをぐるぐるさせる事ができるようになっている。
 赤く光る球体にくるくる囲まれている光景は綺麗だが、機雷だらけの水中みたいなモノなわけで、アンジュに近づくのがかなり大変になった。
 加えて、アンジュの必殺技である火のマナから生み出された火の魔力をそのまま相手に放つ『ヒートブラスト』も進化している。

「口から発射って結構大変だよね、アンジュ。手の平からとかは撃てないの?」
「魔力をそのまま撃つ技だから、身体の中からの出口がないとねー。」
「んー……じゃあ、魔力を固めて外に出しておけばそこから撃てたりするの?」
「それはー……」

 というやり取りの結果、アンジュは火の魔力を『ヒートボム』の中に込めてそこから放つという技を編み出した。魔力という状態は非常に不安定で、魔法にしないで外に出すとマナに戻って空気に溶けてしまうから制御が非常に難しく、今は魔力入りの『ヒートボム』は同時に二つ、しかも手の平サイズが限界だ。
 小さなサイズに込められた少量の魔力。そこから放たれる『ヒートブラスト』は細く、一、二秒くらいしか持続できないのだが、ランク戦でやっていたみたいにそのまま振り回すから……熱線という名のものすごく長い剣になる。
 ポリアンサさんがやっていた『バーンブレイド』に近い技になるが……もしもこの出張版『ヒートブラスト』を自在に撃てるようになったら、アンジュは爆発する鎧をまとって周りに爆弾をばらまいてビーム砲を撃ちまくるという要塞みたいな状態になる。しかも魔眼フロレンティンによってため込んだ大量の魔力が尽きるまで。
 離れるも地獄近づくも地獄である。

「やっぱりスピード自慢って……機動性っていうのかなー? 急に曲がったり出来ない人が多いから『ヒートボム』ばらまけば止められるんだよねー。うちの会長みたいに「光」になったり、急に曲がれるロイドみたいのはレアだよねー。」
 指から発射される『ヒートボム』を頑張ってかわし、周囲に浮いている『ヒートボム』を頑張ってくぐり抜け、ようやっと本人に近づいたと思ったら『ヒートコート』を利用した格闘技に吹き飛ばされた上に全方位高熱攻撃の『ヒートフィールド』で焦がされたプロキオンの三年生。
 なるほど……アンジュがこんな感じなのだから、これの最終形態の一つであるアイリスさんの熱攻撃がどれだけ無敵かがわかるというものだ。しかもアイリスさんの場合は見えない……うわぁ。
「ローイードー?」
「うぅ……」
「もうわかってるよねー? あたし割とすごいのに勝ったよー?」
「……はい……」


「試合に応じていただき、感謝する。全力で挑ませていただく。」
 いよいよエリルのムスり具合が怖くなってきた四戦目。『ビックリ箱騎士団』新規メンバー二人の内の一人、正義の騎士ブレイブナイト――『リミテッドヒーロー』ことカラードの試合。再びリゲルの生徒相手に勝負を挑んだのだが……やはり生徒会長が圧倒的だったのか、それともカラードがめちゃくちゃなのか、一方的な試合となった。
 カラードの『ブレイブアップ』は強化魔法なわけだが、何を強化しているのかというと……それはズバリ全部だった。普通、強化魔法を使う場合は筋力とか身体の硬さとか、具体的に何を強化するのかをイメージするのだが、カラードはただただ「強い自分」をイメージしているのだとか。
魔法にはイメージの強さというのが結構大きく影響するのだが、カラードはその真っすぐな心で疑いもなくイメージし、あの黄金の騎士になっていたのだ。
 筋力や体力、装備している甲冑の防御力や軽さ、手にしたランスの貫通力。強さにつながるありとあらゆる項目を全力全開で強化する。故に三分が限界で一度使うと三日も動けなくなるほどの負荷となる――それが『ブレイブアップ』だ。
 この魔法も大概だが、それがカラードの強さの全てではない。そこに本人の戦闘技術が加わってこそのブレイブナイトなのだ。

『あ、あ、これ――あー、何も言えません! とにかく速くて凄まじいパワー! その上端々に見えるのはレベルの高い体術! だーっとクリーンヒット! レオノチス選手が大の字に倒れますが――相手はそれどころではありません! きっかり五十秒で試合終了です!』

 朝の鍛錬の時に『ブレイブアップ』を使うとその日の授業で何もできなくなるから、大抵は素の状態で模擬戦をするわけだが……その時点でも相当強い。お父さん直伝の体術らしいが……一体何者なのだろうか。

「ありがとうアレク。試合の後は迷惑をかけるな。あ、おれには何もしなくていいぞロイド。」
「するかっ!」


「暇そうだな。ちょっと胸を借りたいんだが?」
 エリルがよく「強化コンビ」とくくる新規メンバー二人目、アレクことアレキサンダーの試合で五戦目。ランク戦の前には『ドレッドノート』という二つ名がついていたのだが、ティアナに負けた事でランクがCとなり、二つ名もなかったことにされたという……話だけ聞くとすごく残念な流れの人物。だがランク戦の時はティアナという銃使いを前に、自身の強化魔法ならば余裕だろうと油断したことが敗因だったようなモノで、実のところかなり強い。
 カラードとは違い……というかカラードが変なだけで、アレクは一般的な強化魔法の使い方をしていて、主に強化する対象は「自身の硬度」と「筋力」。相手の攻撃の中を突き進んでパワーで潰すという……エリルに言わせると「筋肉バカ」的な戦法をとる。
 ただ、その「パワーで潰す」時にある工夫を加えているのがアレクの恐ろしいところだ。簡単に言うと、アレク愛用の斧が対象に触れる瞬間だけカラードの『ブレイブアップ』のようなデタラメな強化魔法が発動する――というよりは一瞬だからこそ強力になると言った方がいいかもしれない。
 強化魔法によって注がれる「力」を斧の一点、攻撃の瞬間に集中させる事でとんでもない威力にしている……のだとか。

『闘技場がドンドンと壊れていきます! 地面は勿論、空気すら爆散させる超パワー! 小手先の技を鋼の肉体で弾きながら一撃必殺を叩き込む筋肉バカも、この域に達すると災害のようです!』

 ティアナみたいに強化した身体の弱点を見抜いてそこを狙えるならいいが、それが難しいとアレクの攻略は骨が折れる。今はまだオレの回転剣で斬れるけど……この先それをガシガシ磨いていくアレクには、いつか全部弾かれることがあるかもしれない。
 ……そういえば吸血鬼の「闇」の力は強化魔法に対してはどう作用するのだろうか……?


「ふん……やはり当面の目標は弱点のカバーだな。いつまた『カレイドスコープ』みたいにピンポイントで狙える奴と戦うかわからん。ゴリ押しこそが俺のやり方だがもう少し工夫を……あ、俺にもいらないぞ、ロイド。」
「やるかっ!」


 続いてローゼルさん、エリルと試合が行われ、我ら『ビックリ箱騎士団』の交流祭における三回の試合はオレ以外全員が終了した。結局生徒会長に挑んだオレとカラード以外は全勝し、その実力の高さを示したが……いや、オレとカラードがみんなと同等の実力を持っているとすれば、やはり生徒会長に選ばれるような生徒は次元が違う――という事だろうか。
 一人は「光」そのものになったり、性質だけ「光」という特殊な身体になったりで、ただでさえ速くて攻撃が当たらないのに一層当たらない状態で文字通り「光速」の蹴りをしてくる人。
 一人は明晰な頭脳とどこにでもある空気を武器に変幻自在、臨機応変の攻撃と防御を繰り出し、仕舞いには『概念強化』とかいうデタラメな魔法を使う人。
 一人は第十二系統の時間の魔法を除いた全系統の魔法と様々な剣術を極めに極め、その集大成として空間魔法という世界を真っ二つにし兼ねない剣を振るう人。
 誰もかれもが卒業したらすぐさまその名を騎士界に轟かす――というかもう轟かせている人物ばかりで、オレはこの後、そこに数えられるもう一人と試合を行う。
 二つ名は『女帝』。武器も戦闘スタイルもわからないが……曰く、『雷帝』というもう一つの二つ名が適応される状態になると、今の三年生で最強と噂されるデルフさんを超えるらしい。おそらく第二系統の雷の魔法の使い手なのだろうが……この系統で真っ先に思い浮かぶのが先生なせいで強そうなイメージしかわかない。
 しかし……そんな強い人と試合ができるという事は嬉しいことで、このチャンスは充分に活かさなければならないだろう。それにポリアンサさんの時とは少し違う雰囲気で、オレと戦いたい理由があるようだったし……何か、思いもよらないことが聞けたりするかもしれないな。
「んまぁ、何はともあれこれが最後の試合。後の事を考えずに全力で挑むとしよう。」
 薄暗い道を抜け、一番大きな闘技場の中、オレはアフェランドラさんと相対した。

『多くの生徒が三試合を終えたこの時にこのような試合が行われるとは、盛り上がりに事欠かない今年の交流祭! フィナーレを飾るのはこの二人です!』

 大きなスクリーンに映し出されるは、プロキオンのまさに魔法使いというような制服を着た、きれいに切りそろえられた長い黒髪の女子生徒。見たところこれという武器は持っていないが……腰に巻かれた茶色いポーチが気になるところ。
 顔立ちとか雰囲気とか、そういうのだけで見るとどこか高圧的な印象を受ける怖そうな人だが、その実絶賛恋する乙女中の優しいお姉さん。

『毎年漫画のように並び立つ交流祭における四強! すなわち各校の生徒会長の、今年の四人の内の一人! あまり前には出ず、しかし我らプロキオン騎士学校の生徒の後ろに君臨する『女帝』!マーガレット・アフェランドラーっ!』

 我ら……ああそうか。実況のパールさんはプロキオンの人だった。

『対するは期待も噂も最大級の一年生! 美女をはべらし踊り回る剣を指揮する男! 『コンダクター』、ロイド・サードニクスーっ!』

「なんて紹介だ!」
「きみに対するイメージがいよいよそちらの方向でかたまってきたな。実体験を踏まえて言うが、一度ついたイメージはなかなか変えられないぞ。」
 ふふふとほほ笑む『女帝』……

『と、ここでお二人に、ひいてはこの場の皆様にビッグニュースです!』

 変な紹介をされつつ試合開始かと思ったら、パールさんが今までになかったことを言い出した。

『本来ならば現役の騎士であっても観戦を許可されない特殊なイベントであるこの交流祭なのですが――こんな方々が来てしまってはそのルールも曲げざるをえないというモノでしょう! ゲストの方々、自己紹介をお願いします!』

「ゲスト? え、そんなことってあるんですか?」
「いや……私も初めてだ。」
 あ、そういえば先生が面倒な客が来るとか言っていたけど、その人だろうか。

『大将元気か! 俺様だ!』

 マイクの使い方を知らないのか、バカでかい声が響いて――
「――ってフィリウス!?!?」
 びっくりして声の方を見――ようと思ったのだが、どこにいるのかわからなくて一瞬キョロキョロしたところ、スクリーンに見慣れたイカツイ顔が映った。

『おうよ! 騎士の頂点、十二騎士の第八系統の席に座るいい男、《オウガスト》とは俺様のことだ!』
「んな自己紹介したことないだろ! つーかなんでいるんだよ!」
『大将の活躍を観に来たというのが理由の半分だな!』
「なんだそれ! 残り半分はなんだ!」
『それはわしじゃ。』

 フィリウスの顔が映っていたスクリーンにひょっこりと顔を出してそう言ったのは知らないおじいさん。白いけれどふさふさの頭と元気な顔をのぞかせる健康そうなその人は、ゴホンと咳払いしてこう言った。

『初めましてじゃの《オウガスト》の弟子よ。わしは十二騎士の一角を任されておる《フェブラリ》というモノじゃ。』

 ふぇぶら――《フェブラリ》! 十二騎士の――さっきのフィリウスみたいに言えば第二系統の席に座る人物! でもってあの先生を毎年負かしているという人! あっちの筋肉はともかく、どうしてそんな人が――

『どうしてわしのような者が、という顔じゃの。なに、理由は隣の男と同じよ。愛弟子の活躍を見に来ただけじゃ。最も、より正確に言えば孫の活躍じゃがの。』

 孫? んまぁ結構な歳に見えるし孫の一人や二人……え、じゃあまさか……
「……アフェランドラさん……?」
 おそるおそるそう言うと、アフェランドラさんは……なんだか嫌そうな顔でスクリーンに映るおじいさんを眺めながらつぶやいた。

「ああ……あれは私の祖父だ。」

 わっと盛り上がる闘技場。どうやらいつものようにオレだけが知らないというわけではなく、今まで……きっとアフェランドラさんが故意に言わなかった事らしく、その場の生徒全員がビックリしていた。

『マーガレットはわしの生涯をかけた研鑽を後々に伝えていく為にその全てを教え込んだ弟子。生まれ持っての才能もあり、めきめきと力をつけていった孫が今、同様に《オウガスト》が育て上げた男と一戦交えようというのじゃ。観なければなるまいて。』
『というわけで頑張ってくれ大将! 大将が勝つとこの爺さんから酒がもらえるんだ!』

「それが目的かこの野郎っ!!」
 思わずそう叫んだオレを見て、嫌な顔をしていたアフェランドラさんがクスッと笑った。
「仲が良いのだな。」
「え、ああいや……付き合いが長いだけですよ……」
「あの《オウガスト》とか。」
「……よくみんな「あの《オウガスト》」って言いますけど、オレからしたら「あんなフィリウス」ですからね……」
「ふふふ、そうか。」

『あらあらロイドくん、もしかしてそっちの黒髪ロングの子とは仲良しなのかしら?』

 突如聞こえた女性の声。パールさんも筋肉もおじいさんも男だから、まだほかにもゲストが? と思ってスクリーンに視線を戻すと、よく見ている紅い髪の女性がニコニコと――
「カ、カメリアさん!?!?」

『はーい、カメリアさんですよー。』



「お姉ちゃん!?!?」
 プロキオンの生徒会長との一戦。なんか知らないけど妙にロイドと親しいあっちの会長を眺めてたらフィリウスさんが登場して、ついでにこの国の出身じゃないはずの《フェブラリ》まで顔を出してどういうことよってビックリしてたら、最後にそんな二人を遥かに超えるビックリがスクリーンに映った。

『私にはわかるけど、エリーはまだまだそういうのわからないだろうからあんまり目移りしちゃダメよ?』

 ななな何を言ってんのよお姉ちゃんはっ!!

『みんなごめんなさいね。私はただの政治屋さんで騎士じゃないのよ。だけどみんなが喜ぶ人を連れてくることはできちゃったりするのよね。ほらほらアイリスさんも自己紹介して。せっかくなんだから。』
『い、いえいえ、そもそも私も騎士では……』
『それでもみんなの目標でしょう? ほらほら。』
『は、はぁ……えぇっと……み、皆様こんにちは……ディモル――い、いえこの場合は……こ、こほん……《エイプリル》です……』

 アイリスまで!? い、いえ、お姉ちゃんがいるなら護衛としていてもおかしくないんだけど……それでもこんなことって……!
「ほう、これはすごいな。現役の十二騎士が三人に、今やフェルブランド王国にこの人ありと言わしめるカメリア・クォーツ。大物ばかりがこの試合を観るためにやってきたというのか。」
「さすがロイドだな。もしかしてあいつの一番の強みって人脈なのか?」
間抜けな顔で感心する強化コンビ――はどうでもいいわよ! な、なんでお姉ちゃんがいるのよ!?

『きっとエリーが何でいるのよーみたいな顔をになってるだろうから説明するけど……だってしょうがないのよ? そこの二人がすごく楽しそうにお城から出ていったんだもの、何があるのかしらって気になるでしょう?』



 今のエリルの顔が想像できるな……んまぁともかく、今まではいなかった大物ゲストが観戦しているというだけだ。終わった後には色々とあるかもだけど、今はアフェランドラさんとの試合だ。
「なんだか大ごとになりましたけど……いい試合をしましょう、アフェランドラさん。」
「! そうだな、サードニクスくん。」
 一瞬驚き、そしてほほ笑んだアフェランドラさんは腰の茶色いポーチに手を伸ばした。ベルトの部分からポーチの部分をぱちんと外し、それをひっくり返すと……中からビー玉くらいの大きさの鉄球がジャララと出てきた。
 だけどそれらが地面に散らばることはなく、弱い電球のような光をまとうと途中で落下を止めてふよふよと浮き始め……最近のアンジュの『ヒートボム』のように、綺麗な円の軌道を描きながらアフェランドラさんの周りをくるくるとまわり始めた。
「さぁ、きみも。」
「――はい!」
 剣――とついでにユーリの目玉を上に投げる。手を叩き、増えた剣を風に乗せて回転させ、オレは曲芸剣術の構えをとった。
 ……なんとなくだけど……わかる。アフェランドラさんの武器はあの鉄球で、その使い方はおそらく……

『王族の方と十二騎士三人に囲まれてテンションの上がる実況席のパールです! 皆さんの盛り上がりも最高潮であることでしょう! それでは始めましょう! プロキオン騎士学校三年生、生徒会長マーガレット・アフェランドラ対セイリオス学院一年生ロイド・サードニクス! 試合開始です!』

 合図と共にオレとアフェランドラさんの双方が放った最初の一撃は、オレたちの間のちょうど真ん中辺りでぶつかった。オレが飛ばしたのは回転する剣で、アフェランドラさんは鉄球。空中で一瞬停止したそれらはすぐに持ち主の元へと戻っていき、ふと視線を向けた先、目の合ったアフェランドラさんはニッと笑った。
 やっぱりそうだ。アフェランドラさんの戦闘スタイルは――オレと同じだ!
「はっ!」
 最低限の防御の分を残し、他の剣全てを飛ばして全方位からアフェランドラさんを狙う。するとそれに応えるように、周囲をまわっていた鉄球が回転剣めがけて全方位へと放たれる。速くて見えないと評判の回転剣の位置をどうやって掴んでいるかはわからないが、飛ばした剣一つ一つを確実に弾き飛ばした無数の鉄球。
 オレのと同様に速くて見えないはずだが、弱く光っている為にギリギリ視認できるその鉄球は、次にオレの方へと飛んできた。
 朝の鍛錬の時にみんなに言われることを思い出す。曲芸剣術は全方位から次々と剣が飛んでくるから休む暇がないと。そしてオレは今、そういう攻撃を前にしている。防御も回避も満足にできるかという状況……ならば攻撃あるのみだ!
「はあああああっ!!」

『両者共に無数の武器を遠隔操作で相手に飛ばすバトルスタイル! 互いの立ち位置はほぼ動かず、しかして猛攻の音は鳴り響いています!』



「まさかロイドくんみたいな人がいるとは……しかしわからないな。ロイドくんは風を使っているわけだが、『女帝』は何を使っているんだ? 位置魔法か?」
 言いながらリリーの方に顔を向けるローゼル。
「……位置魔法であんなスピード出してたらすぐに魔法の負荷でヘロヘロだよ。あれは第二系統の雷の魔法だね。」
「……? 電気であんな風にできるのか?」
「まったくもー、剣と魔法の国の人は科学に疎いんだから。ねーティアナちゃん?」
 あたしもよくわからないリリーの言葉の続きをティアナが説明する。
「で、電気ってある方法、というか方向に流すと……じ、磁力を生むんだよ……だ、だからあの鉄球は……雷の魔法で発生、してる磁力で動かして、るんだと思う……」
「あー、なんか聞いたことあるよー。そういう力で弾を撃ち出す武器があるってー。」
「う、うん……電磁砲……レールガンっていう武器、だね……」



 アフェランドラさんの鉄球は、ざっくり言えば昔ガルドで見たレールガンというモノだろう。電磁力とかその辺の力で弾を撃ち出す武器、その発射速度は相当なモノだ。オレの作る風がその速度に追い付けないわけじゃ……一応ないし、それ以上の風速にすることはできるだろう。だが、それ以外の点で、この攻撃の撃ち合いという状態は……自分から仕掛けておいてなんだけど、オレの方が不利だ。
 それは飛ばしているモノの差。オレは剣という、空気抵抗とかそういうのを考え出したらまったく向かない形のモノを、あろうことか回転させて飛ばしている。対してアフェランドラさんはただの球体。しかも非常に小さいそれをただ真っすぐに飛ばしている。
 どちらが小回りが利くか、どちらが魔法の燃費がいいか、そんな事は考えるまでもない……!
「驚いたよ。」
 超速で全方位から迫る鉄球に対応しながら攻めもするという、頭フル回転状態のオレに対し、アフェランドラさんはどうという事もなさそうに呟いた。
「私のこれに真っ向から挑んで拮抗したのはきみが初めてだ。大抵は私が生み出している電磁力をどうにかして無効化しようとしてくるか……この時点で私の勝ちだから。」
 オレはこれしかできないだけだけど……
「だけど残念ながら……いや、きみも気づいているだろう。この拮抗はそろそろ崩れる。もしもきみが私と同等の魔法技術を持っていたならもう少し続いただろうが、それでもいつかは崩れる。なぜなら私ときみの攻撃ではコンセプトが異なり……この場合は私の方が有利だからだ。そして――」
「!」
 次の瞬間、首にひんやりとしたモノがぴたりと触れた。まるで刃物を首にあてるように、拳銃を頭に突き付けるように、一つの鉄球がオレの首元で止まっていて……オレはそんな背筋の凍る状態に、思わず攻撃の手を止めた。
「電流の関係で鉄球を覆っていた光だが、少し頑張ると消せる。先ほどよりも身体への負荷は増すけれど、そうした時点できみは対処できなくなった。ちなみに、風使いが空気の流れで動きを読むように、私は周囲に発している電磁波できみの剣の位置を把握している。きみの剣が金属製である限り、私はかなりの確率できみの攻撃を回避可能だ。」
 なんてことだ……拮抗だなんてとんでもない。とっくに勝負はついていたのか……!
「……な、ならどうして、オレを倒してしまわないんですか……」
「私が戦いたいのは今のきみではないからさ。」
 オレの首元の鉄球を戻し、試合開始前の状態に戻ったアフェランドラさんは目を閉じ――そしてカッと開いた。
「――!!??」
 瞬間、至近距離に雷が落ちたようなとんでもない雷鳴が轟いた。アフェランドラさんを中心に闘技場の床に放射状の雷が走り、それを目印にでもするかのように上空から無数の雷が降り注ぐ。
 オレが立っている場所に雷が来ないのは偶然か、それともアフェランドラさんがそうしているからなのか……そんな天変地異の最前線みたいな場所の中で雷鳴に包まれるオレの前、雷の中から一歩前に出てその姿を見せたアフェランドラさんは……見たままに言うなら――

「……久しぶりにこの状態になった。」

 ――アフェランドラさんの姿をした雷だった。

『雷・帝・降・臨ーっ!! ざっと一年ぶり、入学してから三度目の『雷帝』モード! まさかこの交流祭で見せてくれるとは思いませんでした!』

「ら、『雷帝』……」
 人の形はしている。まばたきもしているし呼吸もしている。けれど……雷だ。なんだこの状態は……!?
「……さっき私の祖父が言っただろう。私には才能があったと。それがこの魔眼……ユーレックの力だ。」
「魔眼ユーレック……デルフさんがゴールドさんとの試合で言っていた……」
「そうだ。現在確認されている多くの魔眼の中で、こと戦闘に関して言えば最強と称される魔眼。その能力は……魔眼を持つ者の得意な系統、その魔法の性質を身体に付与する事。」
「性質の付与……」
「生物としての機能はそのままに、身体を炎や水そのものに変えるのだ。私の場合は見ての通り雷。今の私は、マーガレット・アフェランドラという人間でありながら、同時に雷そのものなのだ。」
 そう言いながらすぅっと右手を横に伸ばすアフェランドラさん。するとその手の平から雷が放たれ、その先にある闘技場の壁を粉砕した。
「魔法発動による負荷はほぼ無く、マナのある限り魔法は撃てると言っていい。イメロを持つならば……第二系統限定だが、この魔眼の効果が切れるまで、私は無限に魔法を使える。」
 周囲をまわっていた鉄球はさすがにそのまま鉄球だが……む、無限の魔法……鉄球の方が燃費がいいとかの話じゃなくなったぞ……
「雷を切断したり粉砕したりできないように、今の私に物理攻撃の意味はなく、そもそも武器が触れた時点でそれを持つ者は感電する。」
 雷そのものだというならそうだろう……そもそも雷を壊すなんてことのイメージが浮かばないから魔法でも攻略できるのかどうか……ポリアンサさんの空間魔法ならなんとかなるのか? ゴールドさんの概念強化なら? 同じく「光」の性質を得た身体という状態になれるデルフさんなら?
 いや……いやいや問題はたぶんそこじゃない。他の生徒会長の技ならなんとかできるかもしれないけど、たぶんそれは本人たちに大きな負荷をかける。だがアフェランドラさんのこれは魔眼の力……生まれ持っての体質みたいモノだ。ティアナが遠くを見たり高速の動きを見る時に本人に魔法的な負荷はかからないし、アンジュが魔力を貯めておくのも同じ事。
 発動させておける時間には限りがあるようだけど、それはきっと試合の間に切れてしまうような短い時間ではないだろう。七分もの間「光」の性質を得られるデルフさんがユーレックの力を「長時間」と表現したのだから……
「周囲からはよく無敵の能力だなんだと言われるこれを、私は生まれつき持っていた。加えてそんな私を申し子と呼んで魔法を教えたのは十二騎士……そうとも、覚えのある限り、相手が現役の騎士であろうと凶悪な魔法生物であろうと、私は――負けたことがない。」
「――!!」
 無敗……まさに最強じゃないか……
「まぁ、そうは言っても私よりも強い者がこの世界にはたくさんいる事を私は理解している。祖父もそうだろうし、そこにいる《オウガスト》や《エイプリル》も、その気になれば私を軽く倒してしまうのだろう。今まで機会がなかっただけで、私は最強でもなんでもないのだ。」
「そ、それはそうかもしれませんね。」
 ふと出たその一言に、アフェランドラさんは少し驚いた顔をして……そしてゆっくりとほほ笑んだ。
「ああ、やっぱり。きみはきっと普通の生徒では経験しないようなモノをたくさん見て、そして知っているのだ……世界の広さというモノを。そしてかく言うきみ自身もその一つだ。」
「……? えぇっと……?」
「きみは言われなかったかい? 十二騎士が師匠だなんて……ずるいと。」
「……!」
 言われた……事はない。だけどオレ自身がそう思っていた。オレがある程度の強さを持っているのはそのおかげで……だからオレがすごいわけじゃないと。
「環境に差があるのは当然の事だろうが、私の場合はそれが良い方向に傾き過ぎた。生まれ持ったこの力もあって私は……私は……」
 何かを言おうとして、その言葉を飲み込んだアフェランドラさんは、ニッと笑ってオレを指差した。
「そんな時にきみを見た。セイリオスで行われたランク戦の映像に登場したきみは隻眼という聞いた事のない強力な魔眼を使い、しかも《オウガスト》を師匠に持っていた。彼は私と似ている……そう思ったよ。」
「! それで共通点が多いって……」
「極めつけは昨日の試合。ベルナークの剣、その真の力すらもきみは凌駕した。胸が熱くなった……誰かと手合わせしたいなど、本当に久しぶりだったんだ。」
「……強い人と戦ってみたいと……そう思うのなら、おじいさんである《フェブラリ》に頼むなりで……そ、それこそ十二騎士との手合わせを願ったらよかったのでは……」
「そうじゃないのだ、サードニクスくん。強い相手ではなくて私は…………いや、言うのはやめておこう。こういう事は口にすると安くなると聞く。話を最初に戻すと――つまり私は、昨日の試合のきみと勝負がしたいのだ。」

 ……今一つ真意がハッキリしてこない。いつものようにオレが鈍感なだけなのか……ともかくアフェランドラさんは……自分でもきっとずるいと思っているのだろう力を使って、同様にオレもずるいと思うオレの力と勝負がしたい――らしい。
 吸血鬼の能力は強力だ。昨日初めて使った力だというのに、そんな状態でもベルナークという伝説の武器を相手にできたくらいに。その力を最大限引き出した状態がどういうモノなのか……知っておかなければいけない。
 そして、今オレにそうなれと言っているこの人は、どう考えても最強クラスの人。感覚的にはフィリウスに手合わせしてもらうような……吸血鬼の力を引き出しても勝てるかどうかというような相手。
 相手にとって不足なしとはこの事だろう。闘技場という場所が整っている今こそ試す時。昨日だってそう思ったからやったのだ。。
 この人を相手に試してみよう……吸血鬼の力の全力を。
 そもそも――ランク戦の時からオレとの一戦を望んでくれていた人相手に、手加減なんてありえない!

「わかりました。実は昨日、身体の事を考えてちょっとセーブしていたあの力を、今日この時は全力で使おうと思います。」
「――ああ!」



「げー、あれで全開じゃなかったのかよ。やれやれ……」
 昨日は瓶のふた程度の量だったのを、瓶の中身を全部飲み干して黒い風に包まれるロイド。そんな姿を眺めてると、誰かがそう言った。
「ラクスさんはまだいいではありませんか。わたくしなんて使ってももらえなかったんですから。初日に試合を行った事が悔やまれますわね。」
「……なんであんたたちがいるのよ。」
 カペラ女学園の二人……ラクスとプリムラがとことこと近づいてきた。
「『女帝』……いえ、『雷帝』が久しぶりに本気を出すみたいですから、きっと昨日のあの状態になるであろう『コンダクター』についての解説を頼むとしたらあなた方の近くが良いかと。」
「……そんなに話せる事はないわよ?」
「やや、考えることは同じという事だね?」
 ワンテンポ遅れて、今度はうちの会長が来た。
「……ていうかなんであんたたちはあたしたちの場所がわかるのよ。」
「秘密ですわ。」
「秘密だね。」
「……生徒会長っていうのは全員こんなん――」
「げ、『神速』と『魔剣』がいんぞ、ナヨ!」
「「げ」とかいっちゃダメだよヒースくん……あ、すみません。」
 ……さらにキキョウとヒースまで来たわ……
「おや、そちらの二人もロイドくんの技の解説目当てか?」
 あきれて何も言えなくなったあたしの代わりにローゼルがそう言うと、昨日戦った時とは別人みたいにぺこぺこ答えるキキョウ。
「え、あ、まぁ……そんなところです。実を言うと昨日のカペラの人との試合から気になっていて……いつの間にロイドはあんな技を……」
「ふむ……わたしたちはそれを知っているが、しかし言っていいものかどうかは微妙でな。本人に聞いた方が良いと思うぞ。」
「そうですか……」
「ラクスさんのベルナークの剣みたいに、公になると騒がれる類かしら?」
「ははーん、僕にはわかったぞ。例の国絡みということだね? 確かにそれは面倒そうだ。」
 ああ、そういえばデルフはスピエルドルフの事を知ってるんだったわね……



『我らが生徒会長が『雷帝』状態になり、それに応えるように『コンダクター』は昨日の――えー、ノクターンモードになりました! ベルナークの剣を退けたその力は、果たして雷の女帝に届くのでしょうか!』

 ノクターンモード……ああ、かっこつけてノクターンとか言ったからか。でもいいな……よし、これからはこの吸血鬼状態をノクターンモードと呼ぼう。
 あとはこの増える剣に名前が付けば完璧だな……いっそ指揮棒?
「黒で決めたその姿、『コンダクター』という二つ名に合うな。」
「そう……ですか?」
「ああ。」
 にこりと頷きながら、アフェランドラさんは両腕を広げた。さっきの撃ち合いの時は棒立ちだったけれど……これが本来の構えなのだろうか。しかしそうだとすると、武器を遠くから操作しようって人は大抵指揮者みたいになるような気が……んまぁいいか。
「じゃあ……ここからが試合開始ですね。お待たせしたみたいで。」
「構わない。では……行くぞ!」
 アフェランドラさんが広げた腕をバッとクロスさせると、無数の雷がオレの方へと走った。鉄球の時とは違ってその軌道は丸見えだけど――見えたところでどうしようもなさそうな速度とパワーで、回避したオレの背後の壁や床が粉々になった。
 雷は熱を持っているから、放たれれば空気は大きく動く。それによって動きが読めるわけなのだが、雷の一つ一つが……なんというか太い為に、何発も同時に放たれると単純にかわすスペースが少なくてやばい。
 魔法で生み出された雷だからオレの身体を包んでいる「闇」で弾ける――とは思うが、それでは済まない気もするから頑張って避ける。避けながら――
「『フリオーソ』っ!」
 おなじみの全方位攻撃だ!
「――おお!」
 嬉しそうに驚いたアフェランドラさんは、物理攻撃が効かないと言っていたにも関わらずオレの回転剣――「闇」をまとった黒い剣を瞬間移動のような……というか見たまま雷のような速度でかわし、そうしながらもオレに更なる雷を放つ。
「げっ!」
 空気の流れによって察知したのは、さっきオレがかわした事で粉々になった壁や床から雷が飛んでくるという状況。正面と背後――ついでに視界の隅から現れたグインと曲がる雷によって全方位から囲まれたオレは――
「――なるべく最小限!」
 その内の一本に突っ込んだ。

『クリーンヒットー! 『コンダクター』が雷に飲まれました! 持ち前の機動力でもこれはかわせなかったようです!』
『ふっふっ、人を丸々飲み込めるほどの攻撃にあれだけ囲まれてはのう。鉄球や回転する剣に囲まれるのとはわけが違うわい。じゃがさすが《オウガスト》の弟子……かわせないとわかるや否や、全てを受けてしまう前に一つに自ら突撃してダメージを最小限にしおったわ。』

 いって……あ、ああ……身体が壁にめり込んでるのか……よいしょっと……
「……まだ生きてる――いやまぁこの闘技場で死ぬようなことはないけど……一発で戦闘不能ってほどじゃないか……」
 電撃を受けた時に感じる痺れとか熱さはない。どうやら「闇」がしっかりと雷を弾いたようだ。
 ただ、雷の勢い……と言えばいいのか、触れた瞬間に炸裂したあの衝撃は殺せていない。つまり今のオレにとってこの無数の雷は……さっきの鉄球が砲弾みたいに大きくなって飛び回っているような感じだ。ぼーっとしていたら特大の拳にタコ殴りにされたような状態になるだろう。
「どういう理屈かわからないが、きみのその黒いのは魔法を無効化――とまではいかずとも弾くような性質があるようだな。」
 ずばりと「闇」の特性を言い当てたアフェランドラさんは右手をグーパーしていた。
「私の雷を受けて飛ばされるだけとは少しショックだが、それ以上に驚いたのはさっきのきみの攻撃。電磁波でその位置を把握できるはずの剣が、急に靄がかったように捉えづらくなった。まずいと思ってこの状態では初めての回避を行ったが、間に合わずに一撃かすってしまった。するとどうだ、しっかりと腕が痛いではないか。」
 痛い……という事はオレの剣は効果があるのか。
「この状態の私に生身というモノはないはずなのだがな……まるで雷の膜を切り裂き、どこかにある私の本来の身体に剣が届くような、不思議な感覚だった。」
「……不思議と言えば、さっき雷が変な風に曲がっていましたね。ついでに壁とか地面からも発射されたような……」
「ふふ、この状態になったら鉄球は使わないとでも?」
 ! そうか……自分の周囲から発射するならともかく、少し離れた何もない空間から雷を放つとなると、たぶんイメージが追い付かない。だけどそこに帯電している鉄球があるのならイメージは簡単だ。でもってレールガンを撃つような人だから、鉄球を起点にして電磁力で雷を曲げる事もできる――ってところだろう。
 ついでに、これは先生が言っていた事だが、自然界の雷は空から落ちてくるという事から、第二系統の使い手は距離的にはすごく離れているにも関わらず、はるか上空から雷を落とせるモノ……らしい。
 よってオレは、アフェランドラさん自身とその周辺、死角も含めて自在に飛び回る無数の鉄球、自分の真上に常にある空。これらから放たれる雷という名の砲弾を相手にするわけだ。
 ならば……
「……後の事は考えないって、今日は決めてきましたから!」
 右眼――魔眼ユリオプスに意識を集中。明日や明後日のオレが使えたはずの魔法、その分の魔力を今のオレに注ぎ込み……オレはパチンと指を鳴らした。

『なんじゃこ――し、失礼しました! しかし驚きの光景です! 無数の雷が落ちたと思ったら、今度は数え切れないほどの黒い剣が上空から降り注ぎました! 明らかに昨日のテーパーバゲッド選手との試合の時を超える数です!』

「あなたを倒すまで引き出すとしましょう!」
「……引き出す、か。ニュアンス的に後々何らかの代償がありそうだが……私の全力に応えてのこと、感謝しよう。」
 オレの黒い風とアフェランドラさんの稲妻の渦が闘技場内を埋め尽くし、さながら嵐の中のようになった戦場にて――

「「はああああああっ!!」」

 オレたちの叫びがこだました。



 あたしの目だけじゃ雷の閃光しか見えないところを、闘技場の魔法でロイドの回転剣の軌跡が見えるようになった今……それは雨だけが降ってない嵐のような光景だった。無数の雷がロイドを、無数の黒い剣がマーガレットを、四方八方から襲っている。両者がそれぞれに自分に迫る攻撃をかわし、時には自分の攻撃を当てて弾きながら、闘技場の中を飛び回ってる。

「『アディラート』っ!!」
「『八色雷公』!」

 そしてタイミングを合わせたかのように、黒い回転剣と雷の真っすぐな連続発射がぶつかり合った。
「まるで左右から暴雨が降り注いでいるかのようだね。」
 のんびりした声でデルフがそう言ったけど……その表情はちょっとひきつってた。
「あれほどの猛攻……わたくしの空間魔法でもしのぎ切れるかどうか……『女帝』も『コンダクター』も規格外ですわね。」
 ため息とともにあきれるプリムラ。あの圧倒的な強さを見せた生徒会長二人がそろってこの反応……やっぱり相当すごいのよね……
「んん? なぁプリムラ、今プロキオンの会長さん、なんか面白い技名叫んだな。」
「発音的に、あれは桜の国の言葉に近いですわね。」
「そーいやキキョウの技名に似てる響きだな、なぁ?」
 ヒースがポンと肩を叩くとキキョウはこくりと頷いた。
「き、昨日聞いたんだけど……アフェランドラさんはぼくの故郷のルブルソレーユの文化とかが好きみたいで……だからじゃないかな……」
「へー、ニンジャくんよかったねー。」
「どど、どういう意味ですか……!」
 アンジュのニンマリにわたわた反応するキキョウ。
「技名というのは自分にとってカッコいいモノである方がいいからね。好きな言葉を選ぶのは当然さ。まぁサードニクスくんは『コンダクター』という二つ名から名付けているみたいだけど。」
 そういえば学院の図書館から音楽用語の本を借りてたりしてたわね、あいつ。
「技名と言えば、『雷帝』状態そのものもそうですけど、『女帝』がそういうのを叫ぶところは初めて見ましたわね。何故今まで……過去二回だけと言っていましたわね? あまり披露しなかったのかしら。」
「さっき自分で言っていたけど、ずるいって感じる部分がちょっとあったんだろうね。それと単純に、ああなる必要のある相手がいなかったからとかじゃないかな。」
「……後半はなんだかムッとする話ですわね。」
「そもそも交流祭できっちり三試合するようなタイプじゃないし……そんな彼女がこうして全力でぶつかっている――ぶつかることのできる相手にようやく会えたのだよ。」
「? 何の話ですの?」
「彼女が言っていた通り、自分よりも強い相手なんて探せばいくらでもいるよ。でもこの先自分と同じ時代を駆ける同年代の騎士の中でってなると……きっと今までいなかったんだろうね。互いに切磋琢磨できる相手が。」
 デルフのその言葉にドキッとする。それはあたしにとってのロイド……まさかマーガレットも……あのバカを……?
「おや、彼女が動くようだね。」



 まるでマシンガンのような速度であっちこっちから連射される雷。吸血鬼の「闇」の効果による反射が無かったら、オレに限らずどうやって攻略すればいいのやらという猛攻……ちょっと巻き込まれるだけで消し炭になること請け合いである。
 そんな恐ろしい雷の力の半分以上を無効化して戦えているが、それでも強力な一撃には変わらない。実は何発か腕や脚にかすっているのだが、ジンジンと痛みが残っている。さっきふっ飛ばされた時は全身で受けたからむしろ良かったというモノで、身体の一部だけに受けるとそこがちぎれるんじゃないかと思うくらいの衝撃を受ける。幸い、肉体的にも強化されている吸血鬼――ノクターンモードなので何とかなっているが、それでも大きく姿勢を崩される。
 互いに宙を舞い、無数の武器を飛ばし合っている状態で姿勢が崩れるのは割と致命て――
「ようやく、だ!」
 突如お腹――みぞおちにめり込む膝の一撃。一瞬息ができなくなったところを、唯一「闇」が覆っていない頭部目掛けて放たれるゼロ距離の雷――だが!
「なんのっ!」
 そう来ると思って準備をしていた「闇」を雷と顔の間に展開して直撃を防ぐ。炸裂する衝撃で弾かれるオレとアフェランドラさんだが――追撃!
「ぐっ!!」
 自分が放った雷の衝撃をゼロ距離で受けて姿勢を崩したアフェランドラさんに回転剣を一発。身体をひねって直撃は回避したみたいだけど、多少の手応えはあったぞ!

『双方にダメージ! 曲芸剣術の漆黒の舞をくぐり抜けて『コンダクター』に一撃を入れた『雷帝』! しかしその後の一撃を防がれた事でバランスを崩し、そこを回転剣が一閃! 深くはないが浅くもないダメージを受けたようです!』
『大将はたまに戦闘中でも何かを考えこむことがあるからな。作戦を練ってるのかもしれないが、隙だらけになるから止めた方がいいぞ、大将。』
『それでもただでは転ばずに一撃をやり返すガッツはお主の教えかのう?』

「……げほ、ごほ……アフェランドラさん自身の攻撃も雷そのものか……急所に来る分、普通の雷よりも怖いな……」
「きみこそ恐ろしい反射神経だ……みぞおちへの一撃は一瞬思考が止まるモノなのだが……反射運動のように私の攻撃をガードしたな……おかげでいい一撃をもらってしまった。」
 オレと同じようにお腹を押さえているアフェランドラさん。やはりそこそこのダメージを与えられたようだ。
「手数も攻撃の機動性も同等だが……私の雷がきみにとってはただの衝撃になっているのに対して、きみの剣は私にとって相変わらず強力な斬撃。段々とかわしきれない回数が増えてきたこの撃ち合い、そろそろ趣向を変えなければな。」
 直後、オレとアフェランドラさんの間に格子状の雷が走った。
「なっ!?」
 見ると闘技場の上にも網がはられ――やばい、これはどう考えても何かの攻撃の準備に向けてオレを近づけさせないための……!
「強行突破!」
 いくつかの剣を螺旋上に回転させた即席のミニ『グングニル』を雷の壁に放つ。剣がまとった「闇」によって雷が弾かれ、開いた穴から向こう側へ――
「ほんの一瞬で十分なのだ。」
 視界にとらえたアフェランドラさんは穴をくぐったオレの方に向かって跳躍しており、右手には、目がくらむほどに眩しい光――いや、雷の塊が――

「『建御――」
「『ゲネラルパウゼ』っ!!」



 レベルの高い生徒同士が戦うとよく響くけど、これまた物凄い音がした。
 雷の網を作ってロイドから距離をとったマーガレットは右の手の平に尋常じゃない力が込められた雷を作った。そして小さい『グングニル』を作って網に穴をあけてやって来たロイドに対してその雷を叩き込もうとした。
 だけどそれがロイドに届く前に二人の間に真っ黒な壁が落ちてきて、マーガレットの攻撃はその壁に打ち込まれた。それによってその壁が木端微塵に吹き飛び、ロイドとマーガレットはさっきみたいに元いた方向に弾き飛ばされて……一瞬遅れて雷鳴が轟いた。
「おれとのランク戦の時もそうだったが、ロイドは戦闘が激しさを増してくると瞬間的な判断が鋭くなる。追いつめられるほどに実力を発揮するタイプなのかもな。」
「あの一瞬であの判断は、確かに称賛に値しますわね……」
 ハイレベルな体術の使い手のカラードとあらゆる剣術をマスターしてるプリムラがそんな事を言った。
 理由はマーガレットの攻撃を防いだ黒い壁……あれの正体は巨大化したロイドの剣。たぶん吸血鬼の「闇」をたくさんまとわせて大きくしたモノなんだけど……すごいのはそれを放ったタイミング。
「雷の向こう側であちらの会長が強力な一撃を準備していると直感し、その準備が終わる前に近づくということをしながらも、ロイドは既に準備が終わっている可能性も考慮して次の一手を用意していた――素早い決断と素晴らしい判断だ。」
実は雷の網をくぐるとき、ロイドはミニ『グングニル』を二発、正面と……あとかなり上の方に放ってた。闘技場全体を見渡せるあたしたちには見えるけど、たぶんマーガレットには視界の外で見えてない。もしかしたら雷の網に穴が二つ開いたって事には気づいてたかもしれないけど……そこもさすがのロイドというか、上の方のミニ『グングニル』はワンテンポ遅れて穴を開けてた。
「二発目の風が穴を開ける頃には、『女帝』は既に『コンダクター』に対して突撃していましたから……気づいていたとしても攻撃は中断できませんわね。」
「タイミング的にはそのままあちらの会長を上から攻撃できただろうが……あの一撃は防御しなければそこで試合が終わるレベル。ロイドは剣よりも盾を作る事を選び、黒い壁を下ろした。」
 結局、マーガレットの必殺技っぽい一撃は防がれて……二人の戦いはふりだしに戻ったって感じね。



「その黒い霧のようなモノはあんなことまでできたのか……」
「……んまぁ、このマントもこれで作ってますからね……椅子とかも作れちゃいますよ……」
 やばかった。そりゃあできるかもとは思っていたし、そうしないと防げないだろうと感じたからとっさにやってみたのだが……うまくいくとはオレがビックリだ。ああいう技ならこんな名前かなと技名だけはつけていたけど……たぶん、そのおかげですぐに巨大な剣をイメージできた。やっぱり大事なんだな、技名。
というかそれよりも……どうしてあの一瞬に『グングニル』を二発も撃ったのか、あの瞬間のオレの思考が今のオレにはよくわからない。
 ランク戦の時、特にカラードとの試合の時なんかにこの感覚を……後になって思い返した覚えがある。たぶんこれは、七年をかけてフィリウスがオレに叩き込んだ戦法というか判断というか……そんな感じの何かだ。当時は何の為かわからなかった修行が、最近ふとした時に「ああ、あれはこれのためか」と思う事がよくある。やっぱりあいつは十二騎士で、オレは色んな事を知らずに教わっていたんだな……
「しかし今ので確信した。初めからそのつもりではあったが……改めて決心した。今からは全力で行かせてもらう。」
「えぇ!? そ、その魔眼ユーレックを発動させた状態が本気なんじゃぁ……」
「本気ではあるが全力ではない。全力というのは、自身の力の全てを出し切るような状態だと私は思う。終わった後、空っぽになって一歩も動けなくなるような……!」
 再び落雷。雷そのものとなっていたアフェランドラさんの身体を、一層激しい稲光が包む。
「魔法を使う際の負荷は、先に言ったように無いに等しい。だがこうして出力を上げると、この状態でいる事自体の負荷が増し、より早く体力が削られていく。わかりやすく言えば、きみの友人のブレイブナイトのようなモノだ。」
「それはおそろ――わかりやすいですね。」
 持てる力の全てを三分間に使い切るカラードと同じ状態……それはやばそうだ。
 オレは……今のオレに更なるパワーアップはない。だけどミラちゃんは言った、血を飲めば飲むほど強くなるだろうと。それはつまり、オレの中にはまだ力があるという事だ。
 望め、引き出せ、オレの文字通りの全力を……! あの正義の騎士と同じように、そして何よりエリルみたいな強い意志と共に全力でぶつかってくる人が前にいるのだ。
 フィリウス的に言えば――
「こういうのはきっと……熱い展開ですね!」
 オレがニヤリとすると同時に、闘技場内が雷に飲まれた。全ての剣が地面に叩き落され、武器のないオレの方へ、その雷の海を超速で突き進んできたアフェランドラさんが楽しそうな顔で拳を放つ。それに対し、オレは黒い風をまとった拳を合わせる。
「ここからはノンストップだ、『コンダクター』っ!」
「望むところです、『雷帝』!」
 雷の炸裂、「闇」の反射、それを力づくで押しとどめ、オレは――オレたちは次の一手を叩き込んだ。



『なな、なんじゃこりゃああぁああっ!』

 とうとう実況のパールが叫んだ。さっきの剣と雷の応酬も大概だったけど、ここまでくると何を実況すればいいのやらって感じよね。
 相変わらずロイドの曲芸剣術は飛び回っていて、ティアナの眼によるとその剣の数は遂に二百を超えたらしい。しかもさっき剣を大きくした事で感覚をつかんだのか、デカい剣とか長い剣が混じって回ってる。もはや闘技場の中がミキサーの中だわ。
 そしてマーガレットの雷は規模がバカバカしくなった。さっきまではロイドの剣を一本一本狙い落としてたのに、時折闘技場を丸ごと包む大きさの落雷で一気に落としたりするようになった。まぁ、そんな一撃もロイドのバカでかい剣が盾になって防いだりするんだけど。
 でもって一番の変化は……二人が格闘戦をするようになってきた。二人がって言うか、マーガレットが接近戦を仕掛けるからロイドがそれに対応してるっていうのが正確だけど。
 確かに、あんな全身雷状態でパンチやキックの一発一発が雷の威力っていうなら、そのパワーでさっきみたいな急所狙いをした方が魔法を弾く今のロイドには効果的よね。だけどロイドもロイドでアンジュの『ヒートコート』をまねした『エアロコート』……プリムラの剣を直前でそらせたあれを黒い風バージョンでやってて、吸血鬼状態の身体の強化と風の力でマーガレットの雷のパワーに対抗してる。

『ふぅむ。孫のあの状態の一撃は、仮に耐電魔法を重ね掛けしようとも五発も受ければそれが砕けるほどの威力じゃというに、お主の弟子にとってはただの衝撃波か何かにしかなっておらぬようじゃ。防御の達人、《オウガスト》にもそこまでの魔法はなかったと思うのじゃがのう、えぇ?』
『だっはっは! 言っとくが大将に教えたのは身体の動かし方だけだ! 魔法に関しては大将の独学とセイリオスの授業以外の要素はない!』
『ほう、ではあれが何か師匠にもわからぬと?』
『大将は時々変な事を考えるからな! 俺様には思いもよらない何かをやってるのかもしれない!』
『バレバレのにやけ面でぬけぬけと。はぐらかしが下手過ぎるわい。』

 さすがにフィリウスさんはロイドの力を察してるみたいだけど……この十二騎士の会話、こんな風に垂れ流しでいいのかしら……

「む。ロイドもあちらの会長も、大技の為に力をため始めたぞ。」
 もしかしたらティアナと同じくらい見えてる……のかもしれないカラードが、『ブレイブアップ』をした後はいつも座ってる車いすから身を乗り出す。正直あたしには相変わらずの嵐にしか見えないわ……
「きょ、曲芸剣術の風にま、混じって……らせんの風がキュルキュルしてるよ……きっとあれ……」
「ふむ。わたしの家でわたしの家の家宝である槍から覗き見たわたしの先祖の技をヒントに作り上げたロイドくんの必殺技、『グングニル』だな。」
「さっき穴を開けるのに使ったのは小さかったからねー。そっちが本番かなー。」
「『女帝』の方はさっき防がれた攻撃をもう一度準備していますわね。先ほど以上の力を込めて。」



 アフェランドラさんが全力になる前の撃ち合いはまだなんとかなっていたけど、今はまずい。放たれる雷も本人も、スピードとパワーが段違いだ。オレの攻撃は「闇」のせいで捉えづらくなったと言っていたけど、そもそも速すぎてなかなか攻撃を当てられない。全方位から囲んで逃げ場をなくそうとすれば、特大の雷で剣を叩き落とされてしまう。
 結局オレは数撃ちゃ当たるで、剣を大きくしたりなんなりして攻めるしかない。それに……さっきも若干そうだったんだが、雷が連発されるせいで空気の流れが滅茶苦茶で、動きを読もうにも読めなくなってきているのだ。
 幸い、今のアフェランドラさんは魔法の塊みたいなモノなので、魔法的な感覚が鋭くなっているオレには五感以上にその動きを感じることができているが……集中が切れたら最後、見失ってすぐにやられるだろう。
 というかその前にやられそうな気配……アフェランドラさんが凄まじいエネルギーをためているのも感じている。雷の網の後に繰り出してきたあの技……「闇」をまとった剣を粉々にしたところからして、確かに直撃したらノクターンモードでも一発KOだ。「一瞬で十分」と言っていたあれをさっきからため続けているのは、オレがどんな反撃をしようともそれを破ってオレに届かせるためだろう。
 ならばこちらに出来る事はただ一つ、今のオレの最高の一撃をぶつける事だ。



「レベルの高い者同士が戦う時、ある一瞬に相手の思考が流れ込む時があると言うよ。互いにここだと思ったその瞬間に大技がぶつかり合う……二人は――今だね。」
 デルフがよくわからない事を言い終えた瞬間、黒い風と剣、そして雷の嵐が一瞬晴れて――まさに必殺技を放とうとして向かい合った二人が見えた。

「『建御雷』ぃいっ!!!」

 地面を砕きながらの強烈な踏み込みで周囲に落雷を起こしながら、雷そのものになってる本人以上の発光と轟きをまき散らす塊を右手に突撃するマーガレット。対して――

「『グングニル・テンペストーソ』っ!!!」

 螺旋状にまわる黒い風に乗る無数の剣、それによって形作られた巨大な槍が周囲の空気を刻み、飲み込みながら突風のような――いえ、風って言葉じゃ表現しきれない速さでロイドから放たれた。
 黒く、荒々しくも一直線に、全てを削って穿つ螺旋の黒槍が稲妻を尾引かせる迅雷にぶつかる。雷鳴があたしたちに届くよりも短い均衡の後、雷は黒い渦の中に飲み込まれ――いえ、入り込んだ――!!
「――! あれに突撃とは……!!」
「まじか!」
 カラードとラクス、ロイドの『グングニル』を受けた事のある二人が思わず声をあげる。だけど中に突撃した雷は黒い竜巻にヒビを入れながら突き進んで――

「――っあああああああっ!!!」

 風と剣、そして黒い「闇」を爆散させながら咆哮するマーガレットは、ロイドの前に到達する。そしてその勢いのまま、右手でロイドの顔面を殴り飛ばした。
 だけど――

『あーっとこれはまさかー!』

 殴られたロイドはそれでやられる事はなく、むしろその勢いを利用して空中で無防備なマーガレットに回し蹴りを叩き込み……二人は少し離れてドサッと倒れた。

『ほぉ……孫の一撃と互角とは。』

 ぼそりとつぶやいた《フェブラリ》の言う通りで……ロイドの技を撃ち破った時点でマーガレットの右手に雷はなく、それどころか身体も普通の状態に戻ってた。要するに何のことはない普通のパンチで迫ったマーガレットだったんだけど……対するロイドも、あの『グングニル』に出せる「闇」を全部乗せたのか何なのか、吸血鬼モードからいつものロイドに戻ってて、普通の格闘技で対応した。
 結果、ロイドは殴られて、マーガレットは蹴飛ばされて倒れた。

『りょ、両者とも、最後の一撃で全てを出し切ったのか、雷でもなければ黒くもない状態へと戻りました! これはつまり双方が魔法切れという状態でしょ――』

 パールの言葉の途中で、二人はガバッと起き上がってお互いの方へ走り出した。すとんと整ってた髪を乱れさせたまま、鋭いパンチを繰り出すマーガレット。それをいなし、その勢いを乗せた拳をマーガレットのお腹に打ち込むロイド。苦しそうな顔をするも、そうして一瞬動きの止まったロイドの首をつかんでバチンと、さっきまでの攻撃に比べたら貧弱だけど今のロイドにはきっちり通る電撃を打ち込む。ぐらつくロイドは、だけど似合わない食いしばり顔で首をつかむ腕をとり、強風との合わせ技でマーガレットを数メートル上空へ投げ飛ばした。

『こ、これは……』

 着地を狙って迫るロイドに対し、空中で身体をぐるりとひねって蹴りを放つマーガレット。腕でガードするも横に蹴り飛ばされたロイドを追い、着地と同時に跳躍したマーガレットが膝を入れようとするけれど、ロイドは転がってそれを回避。二人はすぐに態勢を整えて……相手を睨みつけた。

『さ、先ほどまでの大魔法の応酬が嘘のようです。おそらく全てを出し切った両者、わずかな魔法と共に武器も無しの肉弾戦に入りました!』

 ロイドは両手両足に風の渦を、マーガレットは両手に電撃を、それぞれまとって二人の戦いの……たぶん最終ラウンドが始まった。

『戦場あるあるだな! 学校にいる間はそうそうないが、イメロを動かす為の火種すら生み出せないほどにその場のマナがすっからかんになって、身体一つでぶつかり合うってのは実戦じゃ割とある! この場合はちょっと違うが、こういう時にモノを言うのは筋肉だぞ、大将!』
『それが全てではないわ。そもそも疲弊しきった状態で満足に動かせん筋肉なぞただの重りよ。重要なのはその状態でも戦える技術じゃ。』

 いつも剣を回してるから意外と見たことが無かったんだけど、ロイドの体術……回避じゃなくて攻撃は、円の動きをそのまま応用した感じの……なんていうか遠心力の乗った攻撃だった。さっきもマーガレットの攻撃にカウンターを入れてたし……なんかキキョウに似てるわ。
 まぁ、二人に共通する人に防御の達人のフィリウスさんがいるわけだし……よく考えたら当然の動きかもしれないわね。
 で、それに対するマーガレットの動きは攻防バランスのいい……言ってしまえば普通の体術。ただ、ちょいちょい相手をつかむ動作が目立つのは電撃を入れるためかしら。
「あんなアフェランドラさん初めて見た……」
「そんだけ『コンダクター』が追いつめたってことじゃねーか? さすがの会長も空っぽなんだろうよ。」
「ううん、そうじゃなくて……あんなに楽しそうな顔もするんだなぁって。」
「は? おいおい、どこが楽しそうなんだ、あれの。見るからに満身創痍だぜ?」
 キキョウとヒースがそんな会話をしていると、アンジュがニヤニヤ顔になった。
「好きな人の表情って、結構わかるようになるよねー。ずっと見てるからさー。」
「そ、そういうんじゃないですから!」
「む? 残念ながらおれにも楽しそうに見えるが。」
 話の流れとか空気を読まない正義の騎士が真面目にそう言った。
「お、ナヨ。ライバル登場だぞ。」
「だ、だから違うってば!」
「安心してくれ、そういう気持ちは一切ない。」
 きっぱり言うカラードだけど……それはそれでどうなのかしら。マーガレットってかなり美人なんだけど……
「ただ共感できるのだ。苦しい戦いの中にあっても嬉しい気持ちがこみ上げる感覚――あちらの会長の今の表情はまさにそれ。好敵手に巡り合えたというやつだ。」
 ――! ……なんか……胸がざわついた。

『四肢にまとった風を噴射させ、動きの速度と威力を高めている『コンダクター』の攻撃は今の『雷帝』には一撃必殺でしょうが、『雷帝』がまとう電撃も今の『コンダクター』の意識を絶つには十分! 先にクリーンヒットを入れた方が――っとこれは!』

 高度な格闘戦をしていた二人が、互いの手をつかんで押し合う力比べのような状態になった。でもこの場合起こるのは力比べじゃなくて――

「『サンダー――』」

 チャンスと見て電撃を打ち込もうとするマーガレットだったけど……たぶんその一瞬の隙を求めて取っ組み合いの状態に持って行ったらしいロイドは、風の力を利用しながらぐるんと腕をクロスさせた。当然、その手につかまれているマーガレットもぐるんと身体が回転する。ロイドの狙いに気づいたマーガレットは全力で続きを叫ぶ。

「『――ボルト』ッ!!」

 元々そのつもりだっただろうけど、より一層気合の入ったマーガレット渾身の電撃。身体をバリバリと明滅する光に包まれたロイドは、つかんでいた手を離してそのまま後ろに倒れていく。
だけどそれで終わらない。ロイドにぐるりと回転させられてほとんど逆さまの状態だったマーガレットにロイドの最後の攻撃――突風が直撃した。いつものグルグル回転させて相手を酔わせる技に比べたらスピードは無いけど、ロイドが与えた回転の勢いと風によってグワングワンと回りながら吹き飛ばされたマーガレットは、そのまま地面に落下した。

『言ってるそばから双方の一撃が入りました! 電撃が直撃した『コンダクター』! そして回転による酔いもあってか、受け身をも取れずに高所から落下した『雷帝』! 万全の状態であればなんてことのない攻撃ですが、今の二人には致命的! どちらが先に起き上がるのかっ!』
『いや、これは終わりだな。』

 二人が倒れて起き上がらない状況に息を飲んでいたら、フィリウスさんがあっさりと言った。

『どっちかが起きるのを待ってたら俺様たちはここに二、三日いなきゃならなくなるぞ。なぁ?』
『そうじゃの。魔法による負荷というよりは、互いに特殊な力を出しつくした故の肉体の疲労。早めに闘技場の魔法でリセットをかけんと、最悪二人とも二度と起きんぞ。』
『ええっ!? で、ではこの試合、マーガレット・アフェランドラ対ロイド・サードニクスの勝負は――ダブルノックアウトで引き分けとします! い、急いで魔法を起動してください!』

 パールが慌ただしくそう言うと闘技場の中が一瞬変な色に染まり、元に戻ると……二人がのっそりと起き上がった。スクリーンに映った二人はお互いを眺めて――いまいち状況がわからないっていう顔になる。

『あー、えっとですね……一応過去にも何回か記録がありますが……この試合、引き分けとなりました!』

 パールの言葉にキョトンとする二人。あたしもそうだけど、引き分けがあるなんて思ってもみなかったって顔だわ。

『よくやったな! いいバトルを見させてもらったぞ!』
『厳密に言うならば先に倒れたのは《オウガスト》の弟子で、その二秒くらい後に孫が倒れたわけじゃからそれで勝敗を決めても良いとは思うが……』
『だっはっは、孫びいきか《フェブラリ》? こんな熱い戦いにそれは野暮ってもんだ。』
『どうしてもと言うなら、じゃ。スポーツの世界であればともかく、実戦においてあの状態の二秒に意味などないわい。』
『え、えー……であれば我々は騎士ですから、実戦の意味を取るべきでしょう。よって結果はやはり引き分けです!』

 実況の宣言の後、闘技場の中に拍手が響いた。ゆっくりと立ち上がった二人はどちらからともなく互いの方に向かって歩き、ガシッと握手をした。

「……」
「……」
「……えぇっと……」
「ああ……とりあえず出ようか……」

 何かをしゃべりたかったんだろうけど、お互いにふらふらしてるのを見て苦笑いをし、二人はそれぞれの出口に向かって行った。


 いつものように闘技場の外、試合をした生徒が出てくる場所であたしたちはロイドを待ってた。カペラの二人はプリムラがマーガレットと話がしたいって言ったからそっちに行って、会長もそれについていった。もちろんキキョウとヒースもマーガレットの方に行って……でもって強化コンビは、カラードが「厳しい戦いの後に迎えるべきは帰りを待つ女性だろう」とか言ってどっか行った。
「正義の騎士はここぞという時には空気の読める男なのだな。確かに、出てきたロイドくんと熱い抱擁をする時は二人の世界としたいところがある。」
「それはボクがやるんだからね!」
「両方やんなくていいわよ!」
「でもさー、あんなにふらふらだったし、肩をかす係は必要だよねー。」
「あ、ロ、ロイドくん出て来たよ……」

「やぁやぁみんな。」

 表情はいつも通りで声も元気なのに歩き方が変っていうかふらふらしてるロイド。や、やっぱり誰かが肩を――
「だ、大丈夫……?」
 妙な時に一歩前に出るガッツを見せるティアナが真っ先に動いた。だけど――
「いやぁ、実は変な感じどわっ!?」
 ふらふらの足でつまづいたロイドは近寄って来たティアナを巻き込んで転んだ。

「や……ん、ロ、ロイド……くん……」

 前のめりに倒れたロイドはティアナを押し倒したんだけど、その両手はティアナの胸をがっちりとつかんで――って何してんよ!
「わわ、ごめんティアナ! ――あ、あれ?」
「ひゃ、んん……ロイド、くん……だ、だめ……」
 手を離すかと思ったらロイドはそのままティアナの胸をぐにぐにとこね始め――!?
「ロ、ロイくんてばなにやってるの!?」
「ち、違うんです! 指が何かに引っかかって――あ、とれた!」
 色っぽい顔と声になってきたティアナ――の胸からようやく手を離したロイドは慌てて立ち上がった。だけどふらふらの身体で急な動作が満足にできなかったらしく、今度は後ろ向きに倒れて――

「きゃっ、ロイくん!?」

 後頭部をゴチンって地面に打ちつけたんだけど、その場所はリリーの足元っていうか足の間で、それはそのままスカートの中を覗く姿勢で――!!
「も、もぅロイくんてば……見たいなら見せてって言ってくれればいいのに……」
 ロイド相手でも反射的にスカートを押さえたリリーはニンマリと笑ってその手を離し、そのまま端っこを持ち上げ始め――!?
「あびゃらば! ごめんなさいでした!」
 変な声をあげてスカートが開き切る前に立ち上がったロイドだったけどやっぱりふらついてて、その身体をリリーが受け止めた――っていうか抱きしめた。
「ロイくんてばもー、うふふ、ボクの――見ちゃった?」
「は、はひ、すみません!」
「ほんとー? じゃあ何色だったー?」
「色!? それはそのばぁあ!? リ、リリーちゃん脚を絡めないで――」
「な、に、い、ろー?」
「――!! しし、白でした!」
「やーん、エッチなんだからー!」
 くねくねとロイドにくっつくリリーに蹴りを入れ――ようとしたけど避けられた。
「……試合が終わるなり何やってんのよ変態……」
「じ、事故です! 偶然と不幸が重なったと言いますか!」 
「ロ、ロイドくん……」
 胸を抑えながら立ち上がった……まだちょっと色っぽい表情で頬の赤いティアナはロイドに近づいて上目遣いで小さく言った。
「あ、あたしの……触ったのは……不幸……?」
「びゃ!? そ、それは――し、幸せでした! ありがとうでした!」
「そ、それなら……良かった……」
 可愛く――っていうよりは小悪魔みたいに笑ったティアナに対して真っ赤な顔で目をぐるぐるさせるロイドは、ハッとしてあたしの方に向き直った。
「あの、このふらついてるのには理由がありましてですね! なんかこう――今のオレはすごく変な感覚なんです!」
「ほー、どういう感覚なのだ?」
 ジトッとした目でロイドを睨むローゼル。
「さ、さっきまでノクターンモードで五感とか魔法的な感覚が鋭くなってて、ラクスさんとの試合以上に色々感じ取れる状態だったんだけど今は普通に戻ってて……そのギャップっていうか、急に戻ったせいで世界がふわふわしているというか……そ、それに加えて単純に身体がぐったりもしてまして!」
「ノクターン……ああ、吸血鬼状態の事か。そういえば実況がそんな風に言っていたが……なるほど、ちょっとした後遺症――と言うほどでもないが、要するに今のロイドくんは感覚がちぐはぐでバランスが取れないのだな。」
「そ、そうなんです!」
「そうかそうか。ならばやはりロイドくんと一番背の近いわたしが支えとなるべきだろうな。」
「え、あ、それはありがた――」
 手を取ったローゼルにふらふらと近づいたロイドはまたけつまづいて、今度はローゼルを押し倒し――

「ロ、ロイドくん!?」

 しっかりと受け身を取ったローゼルに対し、ロイドはローゼルの上に覆いかぶさるようにびたーんと倒れて、その顔をローゼルの胸にうずめた。
「ここ、こういうのをしてくれるのは嬉しいのだが、で、できれば二人の時の方が――」
 嬉しそうに照れるローゼルだったけど――
「もがふが!」
 なぜかロイドはそこから離れずに息苦しそうにもごもごした。
「はぅ……あ、その、ロ、ロイドくん……ひぅ……そ、そこでそうやられると――ひゃあ!?」
 ローゼルがまずい感じの声をあげた。何故ならロイドの両手がローゼルの胸を左右からむぎゅっとつかみ、揉みしだきながらさらにもごもごと――!?!?
「あ、はぁ、こ、こんなところで――んん……ダ、ダメ……あぁ……」
「ぷはぁ! い、息が……まさかシャツのボタンがローゼルさんのにからま――」
 また何かに引っかかってたらしいロイドは目の前の――ちょ、ちょっとやばい表情になってるローゼルを見て自分がものすごくやらしい事をしてるのに気づき、バンザイのポーズでピンと立ち上がった……
「ロイドー? さっきからわざとやってなーいー?」
 ちょっとやらしい感じで荒く息をはくローゼルを見て湯気が出そうなくらいに赤くなったロイドを半目のアンジュが覗き込む。
「ちち、違います! ボタンがからまって外れなくて――く、苦しくなって無意識につかんだ場所がむむむ、胸だったという――事故です!」
「ほんとー? なーんかさっきからすっごいエロいけどー?」
「ひぇっ!? ふ、ふらふらしてるのがたまたま――そ、そうだ、こうすれば!」
 そう言ってロイドは腕を真っすぐに伸ばし、アンジュの肩に両手を置いた。
「か、肩をかしてもらうみたいなくっつく状態だと一緒に転んじゃうから、こ、これで大丈夫! ちょっとつかまらせてください! 倒れそうになったら手を離すから!」
「……でもこれだとあたしがつまんないなー。」
「えぇ?」
「えい。」
 ロイドがあずけた両手をつかんでグイッと引っ張るアンジュ。
「あたしもああいうのして欲しいなー。」
「ちょ、アンジュ――」
 アンジュは無抵抗に後ろに倒れ、ロイドはそれに引きずられた。そうやって二人仲良くズテンと転んだ結果――

「きゃん、そ、そんなところー……」

 今度は胸をつかむことも胸にうずめることもなかった。ロイドの顔はアンジュの胸の下あたりに来ただけ……だったんだけど、そもそもアンジュはへそ出しの格好で……上に着てるシャツをまくしあげるように顔を押し付けたロイドは、その無防備な素肌に……胸のすぐ下あたりにキスをしていた。
「むぐ!?」
「ひゃ、そ、そこ……息をかけないでよー……」
 がばっと立ち上がったロイドは、あられもない姿になったアンジュを見て顔を青くしたり赤くしたりして……ゆっくりとあたしを見た。
「……事故なんです……」
「……ふぅん……」

「相変わらずの噂通りだな。」

 あたしがロイドにパンチを入れる一歩手前で誰かがそう言った。
「! アフェランドラさん!」
 ロイド同様にふらふらだったマーガレットは、なぜか……ちょっと顔の赤いキキョウに支えられてあたしたちのところにやってきた。フィリウスさんもどき――ヒースはいないみたいね。
「あれ? デルフさんたちがそっちに行ったはずですけど……」
「ああ、来たよ。特にポリアンサさんに質問攻めにされたから、また後でという事で逃げて来た。」
 困った顔で笑ったマーガレットは……何かしら、キキョウを横目でチラッと見て、その視線をロイドに向けた。そしてロイドはその視線を受けて……なんでかニコッと笑った。なにこれ?
「さっきできなかった話をしよう。」
「そうですね。あ、じゃああそこのベンチで。」
 ロイドに色んなことをされて顔の赤い面々とあたし、それとキキョウに囲まれた二人は近場のベンチに座って話をした。
「まず……うん、いい試合だった。ありがとう。お互いに全力を出し切ったな。」
「はい、もう空っぽですよ。」
「私もだ。だがそれでも、私はきみに勝ちきれなかった。」
「決着がああなるとは思わなかったですね。」
「そうだな。」
 しみじみとしゃべる二人はなんだか……語るべきことは試合の中で語り尽くしたとでもいう感じだった。
「あー……そうだ、例のもう一つの件……感謝する。ここまで来たなら残すは私の仕事だと思う。橋をかけてくれてありがとう。」
「みたい……ですね。できればそうなったところを見たかったですけど……アフェランドラさんは卒業ですもんね。」
「そうだな。だがきみとは今後も連絡を取りたい。だからあれは持っていてくれ。国内であれば届くだろう。」
「わかりました。」
 何の話をしてるのかわからないわね……もう一つとかあれとか……
「さて……私は今回の運営だから生徒会長として仕事が残っている。ひとまずはこの辺で。」
「はい。」
 すっと立ち上がった二人。そして……マーガレットが恥ずかしそうに言った。
「……その、なんだ。ロイド――と、呼んでいいか?」
「もちろんです。それならオレも……えぇっと、マーガレットさん?」
「別に「さん」はいらないし、ついでに敬語もよさないか?」
「それは……急にはちょっと慣れないですけど……が、頑張りま――るぜ!」
 なんかキキョウみたいになったわね……っていうか何この空気。
「今後も励もう。次は勝つ。」
「こっちのセリフですよ。」
 互いの拳を突き出してコツンとぶつける二人…………それは……そういうのをロイドとやるのは……
「ふふふ、しかし、やはりきみだったな。思い立った日からそういう相手を探し続け……ようやく出会えた。今日この時からきみと私は……」

「戦友だっ!!」

 二人の変な世界をぶち壊す大音量で叫んだのは……まぁ声量だけでわかるけどフィリウスさんだった。
「言葉にせずに別れそうだったんでな! 悪いがセリフをいただいた!」
「フィリウス? ……いや、つーかそんなところで十二騎士が立ってたら他の生徒に囲まれるぞ。」
「その前に終わらせる! 俺様は伝えておきたいのだ!」
 ずかずかと歩いてきたフィリウスさんは、その大きな手でロイドとマーガレットの頭をガシッとつかんだ。
「どんな時でもこいつがいれば何とかなる! こいつになら背中をあずけられる! ただ強いだけじゃ結ぶことのできない、友情や愛情、その両方を持ちながらも枠が一つずれる絆! 互いの全力をぶつけ合い、認め合った者のみの戦利品! お前たちは非常に得難いモノを得た! 大事にしろとは言わん! 何故ならこの先、これをないがしろにするなどあり得ないからだ! だからもう一度言う! いいバトルだった!」
「――! たまにそれっぽいこと言うな、フィリウスは。」
「馬鹿言え、俺様は常にいい男だ!」
 言いたいことをドカドカと言ってニカッと笑ったところであとから現れた……割と怒ってる顔の先生から逃げるようにフィリウスさんは去っていった。
 戦友……ロイドの戦友……それは……
「あの豪快さは気持ちがいいな。確かに恥ずかしくて言葉にしにくかったところだが……まぁ、そういうわけだ。今後ともよろしく。」
 そしてマーガレットも、キキョウに支えられながら仕事に向かって行った。ロイドはそんな二人に手を振り、ふぅと息をはいてベンチに座った。なんだか満足そうな嬉しそうな顔で……
「…………良かったわね、立派な戦友ができて。」
「うん……うん? そうですけど……なんかエリル怒って……あ、さ、さっきのは本当に事故なんですよ!? いたずらされてるんじゃないかってくらいに転んで――」
「怒ってないわよ……ただ……」
「た、ただ……?」
「あんたの……そういう相手はあたし――でありたかったっていうか……二人でいい感じの雰囲気しちゃって……何よ最強の魔眼って……吸血鬼の力って。」
「え、えぇっと……」
「! い、いいわよ、何も言わなくて。」
 ……らしくない愚痴が出たわ。だから何よ、そんなの関係ないじゃない。
あたしは――あたしを奮い立たせるためにもロイドに言った。
「特殊な力? 上等じゃない。そんなモノ殴り飛ばして、マーガレットもあんたも超えてみせるわ。必ず。」
 自分でもわかるくらいにむすっとした顔でそう言ったら、ロイドは嬉しそうに笑った。
「さすがエリル。だからオレも負けられないんだ。」
「ふん。」
 ロイド自身もわかってる。今のあたしはこいつの……こいつの全力の遥か下。絶対にたどり着くんだから……そのまま走ってなさいよ……!
「……相変わらずの熱血だな、エリルくん。というか突然そういう世界に入らないでくれるか?」
「う、うっさいわね!」
「でーロイドー? この後はどうするー? さっきの続きやるー?」
「え、さ、さっきと言いますと……」
「んもー、人の――あ、あんなところにキスしておいてー。」
「びゃ!? つつ、続きはしませんよ!?」
「や、やれやれまったくだぞロイドくん。わたしなんかあの場で……は、初めてを……捧げる事になるのかと思ってひやひやしたのだぞ!」
「ハジメテ!? あ、あんなところでそんな事はしませんよ!」
「……場所が違えば良いということだな?」
「えぇ!?」
「というか……ほ、ほほー、「初めて」という単語を理解できるのだな……このス、スケベロイドくんめ……」
「べ、や、それは――」
「あ、あたしも……い、いきなりあんなことされて……嫌じゃ、な、ないけど……あ、ああいうのは……もっとロマンチックな時が、いいかな……」
「ねぇロイくん! よく考えたらボクだけ触ってもらってないよ!」
 戦友話はなんのその、空気が一気にさっきのエロロイドの方向に――

「おお、稀有なるかな稀有なるかな。やはりこうなっておったか。少年は妾に新しい事をたくさん見せてくれるのぅ?」

 今度は完全に知らない声。見ると……なんでそんなのがここにいるのかわかんないんだけど……小さい女の子がいた。長い布をぐるぐる巻いただけみたいな変な格好の褐色の子で、長い黒髪を先っぽで束ねてる。大人になったら美人になりそうな整った顔のその子を見て……ロイドが立ち上がった。
「!! 恋愛マ――」
 立ち上がったには立ち上がったんだけど、勢い余ってバランスを崩し、ロイドはあたしの方に倒れこんできた。
「ちょ、ロイド――」
「だわ、エリル――」
 グイっと押されてバランスを崩し、二人して倒れる。
 お尻に広がる痛み。割と久しぶりに尻もちなんかついたあたしだったけど――

「――ひゃん!!」

 変な声が出た。お尻の痛みなんか掻き消えるくらいの感覚。一気に熱くなる頭と身体。さっきまでの決意とか決心とかに靄がかかって白くなる。
 チカチカする視界の中、見るとロイドが……ロイドは……あたしのス、スカートの中に頭を突っ込んで――!!
「んぐ!?」
「ひゃぁ!?」
 スカートの中どころじゃない……その奥のあたしの……し、下着に……ロイドは顔をうずめて……!!
「もがが!」
「あ――ば、ばか、そこでしゃべらな――や、んんっ――!」
 頭がびりびりする感覚に全力で脚を閉じたけどそれは無くならなくて、それどころかもっと強く――きゃぁあ!?!?
「ちょ、ば、どど、どこ触って――ダ、ダメ、ロイド――あぁ――」
 ローゼルの時と同じように苦しいのか、ロイドはその両手をスカートの中に入れてあたしの脚っていうか太ももっていうか――お、お尻にの近くをつかんで――!!
「んー!」
「や、あ、ひぅ、そ、それ――ひ、ひっぱらな――あ、や――んぁ――!」

 時間にしたらほんのちょっと……だけどあたしの頭の中はとろけそうだった。
 あたしたちは恋人関係で、あたしたちは同じ部屋。何もかも鈍感でアッパラパーで、だけどきちんと男の子してるこいつは……それでも頑張って見も触りもしない。せいぜい唇を重ねる程度だけど、それでも段々とそういうのが増えてきた気がして……あぁ、このままいくと見たり触ったりっていうのもその内にくるのかしらって……色んな意味でドキドキしてた。
そんなあたしに……何段も階段をすっとばした感覚が……しかもいきなり……

「だはっ――」
 勢いよく顔を出したロイドは呼吸を整える間もなく、スカートがめくれた状態で少し脚を開いてるっていう――ア、アレな状態のあたしを正面から見て、バッと横を向いた。
 あたしは両脚をぺたんとさせ、スカート越しに……ま、まだ感覚の残る場所を押さえる。
「あ、あの……エリル……これは……」
 わなわなと震えながら真っ赤な顔で鼻血を流し始めるロイド。さっきまでのエロロイドを一段階超える事をしたロイドとされたあたしを、口をパクパクさせて見下ろす他のみんな。
 あたしは……とりあえず片手は押さえたまま、もう片方の手に炎をためる。
「ロイド……」
「はい! えっと! その! あの――」
 姿勢を正座にしてあたしの方を見るロイド。よく見る……潔く怒られる時の顔……
 正直、されたコトは別にい――そそ、それよりも急がないと……ロイドはロイドだから、きっと変な事を言う……その前に殴らな――
「い、いい匂いでしたっ!」
「ばかああああああああああっ!!」

『騎士物語 第六話 ~交流祭~ 第十章 風の指揮者と雷の女帝』

交流祭における試合はこれにて終了ですが、最後にすごい事が起きましたね。
ああいうラブコメ的ハプニングはどういう風に描写すればいいのやらですが……
我ながらすごい文章を書いているなぁと思いましたね。何せ視点が本人らなモノで。

次でこの六話は終わりです。色々と広げたふろしきを頑張って閉じます。

『騎士物語 第六話 ~交流祭~ 第十章 風の指揮者と雷の女帝』 RANPO 作

交流祭最終日、ついにプロキオン騎士学校生徒会長のアフェランドラとの試合を迎えるロイド。 他の生徒会長らと比べると目立たず、好戦的でもない彼女はなぜかロイドとの試合を待ち望んでいた。 他の生徒会長を凌駕する彼女の力に、ロイドは持てる力の全てで挑む――

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-01-13
Copyrighted

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