*星空文庫

うつしおみ

しとと えと 作

  1. 1月12日(金) 晴れ -結び
  2. 1月13日(土) 晴れ -2日目
  3. 1月15日(月) 晴れ -日向ぼっこ

1月12日(金) 晴れ -結び

"神様を育てよう"
税込1280円

①陽当たりの良い場所に
②お水は1日1回かえてください
③たっぷりと愛情を注いでください

ポップにそれだけ書いてあった。

お店の名前は忘れた、けど、
衝動買いだった事は覚えてる。

それはひとつだけ置いてあった。
ダチョウの卵くらいの、それ。
お店に似合わない、それ。

最初の1個だったのか、
それとも最後の1個だったのか、

お会計をしてくれたお姉さんに
(私より2つ位歳上で少し怖そう)
「ちゃんと育ちますか?」と聞いたら
「ちゃんと育てればね」と、
何とも曖昧な答えが返ってきた。

変なモノを買ってしまった自覚はある。
疲れてるんだ、私は、多分。
もう少し早く寝て3食しっかり食べよう。

なんて、
地味に明日からの生活スタイルを見直し
微妙に長い説明書を適当に読み流した。

説明書によると
まず名前を決めなくてはいけないらしい。

名前が決まったら
それに向かって名前を叫ぶ。

そうしたら、生まれてくる、らしい。

ポチ、タマ、ミケ、ポン太…
ネーミングセンスが壊滅的な私は
2時間かかってこの名前に辿り着いた。

(ゆえ)

それに少しずつヒビが入る。
SF映画に登場する様なグロテスクな何かが
出てきたらどうしようと恐る恐る見てみると、

透き通った青色の瞳に、
真っ白な毛を持つ狐みたいな何かが
ひょこっとそれから顔を覗かせた。

私を見ると、キィッと鳴いた。

色々と思う事はあったけど
最初に浮かんだのはポン太にしなくて良かった

だった。

人間と神様、
私と結の奇妙な生活が始まった。

ああ、そういえば、
ポップにはウサギの絵も書いてあった。
あのお姉さん案外優しい人なのかもしれない。

1月13日(土) 晴れ -2日目

「何か、犬みたい…」

生まれたばかりの(ゆえ)
部屋の中をぐるりと見て回ると、

気になる物に
鼻を近づけて匂いを嗅いだり、
前足でソロりと触っては驚いていた。
(結が触った衝撃で動いたからかな)

「結」と呼んでも
"名前"をまだ理解してないらしく、
10回に1回、振り向いてキョトンとする。

急に"お茶"の事を思い出した。
去年の2月に病気で死んだ犬。

12年、生きた。

部屋を好き勝手動き回る結を見ると
子犬だった頃のお茶と重なって
少しだけ懐かしさと寂しさを覚えた。

別れは、辛かった。

何となく、何となく、、
「ちょっとずつ家族になっていこうね」と
声に出して言ってみたら結がキィッと鳴いた。

似合わない事を言ったのと
結が返事をするとは思ってなかったのと、で、
顔に熱が集まってとても恥ずかしいと思った。

そういえば
結は男の子なのか女の子なのか
生まれた事に驚いてすっかり忘れていた。

結を捕まえ仰向けにゴロンと寝かせ
調べてみた。が、結局分からなかった。

不機嫌になった結は
私の指と腕を3回程噛むと
また部屋の探検に戻っていった。

噛まれた指と腕がジンジンと痛んだ。

1月15日(月) 晴れ -日向ぼっこ

昨日は疲れて、寝た。

(ゆえ)はだんだんと慣れてきたのか
それともただたんに飽きたのか
部屋の探検はもうやめてしまった。

陽の光が当たる
窓辺が気に入ったらしい。

結用にまあるいクッションを
2つ置くと結はすぐにそこへ収まった。

のんびり日向ぼっこをする結は
生まれたばかりなのに
お年寄りみたいでちょっと笑えた。

結にはお水をいれて、
自分にはお茶をいれて、

1人と1匹(?)で日向ぼっこをした。

緩やかな暖かさは心地が良くて
私も結も気付いたら眠っていた。

1人と1匹(?)で過ごす何でもない時間、
慌てない時間、慌てる事がない時間、
何だか良いなと思った。

1人でいる時より"楽しい"が増えた。

『うつしおみ』

『うつしおみ』 しとと えと 作

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-01-12
Copyrighted

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