*星空文庫

わたしの友達が部活ものコンテンツに新天地を開こうとしている件

儀間ユミヒロ 作

 「自転車、ビーチバレー、ボウリング。弓道に、なぎなた。よさこい踊りも運動部かな? 百人一首っつーか競技かるたはほとんど運動部だね。あと吹奏楽も。野球とかサッカーとかは定番だから多くて当たり前でしょ? つかサバゲー部多すぎじゃね? だいいち現実の高校にサバゲ部なんて存在するの?」
 商店街の小さな書店。わたしは友達の女子に連れ回されながら、ライトノベルの棚と、いわゆるゆるふわ系四コマを中心とした漫画の棚を行ったり来たりして、並べられた本を取り出しては、ひとしきり文句を聞かされたのち本を元に戻すという作業を繰り返している。
「わたしに言われてもなあ…いや、環ちゃんがわたしの趣味に合わせてラノベとか読んでみたいっていうのはうれしいけど、さっきから全然決まらないから…」
そう、もとを正せばわたしの友人、環ちゃんがわたしの趣味を理解しようとして誘ってくれた。でもなかなかうまくいかないんで、困っているというわけ。
「だって、あたしのハートをぐっとつかむようなやつが無いんだもん。てゆか、これだけ運動部を舞台とした漫画やラノベがあってよ? しかも競技人口少ないとか、日本じゃほとんど知られてないとかで、実在するわけない部活まで漫画になってるのに、なんであんなメジャーな部を舞台にしたのが無いんだろ」
「それこそ、わたしに言われても、だよ。環ちゃんの言ってることはよく分かるよ。でもだからこそ、なんでって聞かれても答えらんないよ。だって同じギモン感じるもん」
「だよねえ。まあいいや、この話ナシにして? 悪いけど。あたしが考え甘かったよ」
「ううん、こっちこそごめんね、せっかくわたしに趣味合わせてくれようとしたのに、できなくて」

 わたしと環ちゃんは自他共認める仲良しだが、キャラはまるで正反対。
 環ちゃんは一見華奢だけど、しなやかかつ敏捷な動きに対応出来る身体を持ったスポーツガール。一方わたしは、身体がひょろっとしてて運動が大の苦手。だから二人の趣味はなかなか一致しない。でも不思議と気は合うのでいつも一緒にいる。

 環ちゃんは中学二年のときに北海道から引っ越してきた。その明るく人見知りしない性格からたちまちクラスの人気者となったが、最終的に一番仲良くなったのは不思議な事にクラスでも目立たないわたしだった。
 それにはわけがある。転校時の自己紹介のとき、
「札幌から来ました。名前は…」
そのあとどこからともなくクスクス笑いが漏れだし、少しずつ広がっていった。幸い担任の先生がそれにいち早く気づき、
「静かに!」
と全員を制したことで大事には至らなかったけど、環ちゃんにとってはちょっとでも笑われたことはショックだったと思う。だって笑われた原因が彼女の名前にあるから。自分の名前を笑われるってすごいイヤだと思う。
 ちなみに環ちゃんのフルネームは、
「玉木 環」
なのだ。

 「では玉木さん、あそこの席に座ってください。それから今日の一時間目は鈴木先生が出張だそうだし、先生も空き時間だから、全員が逆に玉木さんに自己紹介する時間にしましょう」
先生がそう言うと、端から順番に自己紹介が始まった。ぶっきらぼうに名前だけ言って終わらせようとする男子に、
「ほら、もっと言わなきゃダメでしょ、恥ずかしがらずに。部活とか、趣味とか、将来の夢とか、色々自由に言って下さいね?」
と先生からダメ出しが出た以降は順調に進んでいった。が、わたしの番が近づいてくると、何やらくすくすと笑い声が聞こえてきた。そちらの方は先生に気が付かれないように十分注意された小声でされていて、慣れている感がある。ま、わたしもこういうのには慣れているから、それらを無視して、順番が回ってきたら静かに席を立ち、自己紹介を始めた。
「名前は、二切うめです」
我慢しきれなくなった数名が、くっくっく、と声に出さない引き笑いを漏らした。さすがに先生が気づいて注意をしてくれたが、いつものことだと悟っているわたしはそれでムカついたり悲しくなったりすることもなく、席についた。


 休み時間が来る度に、環ちゃんのまわりには人だかりが出来た。でもわたしは気後れしちゃってその中に入れなかった。ところが昼休み、わたしがトイレの手洗いのところで歯を磨いていたら環ちゃんが個室から出て来たの。すると、突然わたしに話しかけてきてびっくり!
「あ、あの、歯磨き終わってからでもいいんだけど、き、聞いていいかな? 今朝の自己紹介のこと…」
待たせたらわるいので、わたしはすぐに口をゆすいで、環ちゃんに言った。
「な、何ですか?」
つい緊張して敬語が出てしまった。
「やめてよ、ですか、だなんて。それより質問あるんだけど、いいかな? どうして二切さんが自己紹介した時、みんなクスクス笑ってたの? もし、いじめとかそういうのだったら言ってね。味方になってあげるから」
正義感と行動力のある子だな、と思った。まあ、人気者の環ちゃんが言ったら、たちまちいじめなんてストップするだろうけど。幸いわたしはいじめられてはいないので、それは否定して、笑われた訳を説明し始めた。
「みんながくすくすしたのは、わたしの名前のせいなの」
「え、どういうこと? あたしは分かるでしょ? 名字と名前がおんなじ読みだから、結構ウケちゃうんだけどさ」
環ちゃんは、もともと違う名字だったんだけど、両親が離婚したから名字が変わったんだって。
「あ、家庭は円満だから変な気遣いとかしないでよ。かえってミジメな気分になるから。ウチってパパがムコ養子に入ってたんだけど、それってママの家が、なんか由緒ある旧家とかいうやつ? でさ。だからママもパパに大していつも高飛車でさ。結局パパの心が折れちゃって離婚したんだけど、そしたら一族みんなムコの代わりなんていくらでもいる、みたいな感じで超ムカついたからあたしパパについてく! って言ってやったの。でもそのときは気づかなかったんだよねー、ギャグみたいなフルネームになるなんてさ」
頭をかきながらワハハと笑う環ちゃんの表情は、全然影みたいなものがなかった。
「でもパパもママの家の関係の会社に務めてたから、そこも辞めなきゃでしょ? パパは生まれが東京で大学から札幌だったからさ、東京にいる高校時代までの友達何人かに離婚したことを連絡したら、じゃあウチの会社来ないか? って言ってくれた人がいて、会社は横浜だからこっちに引っ越して来たの」
「へえ~、大変だったんだね」
「いやだからいいって、心配しなくても。逆に気を使われると疲れるって言ったっしょ? それよりさ…」
こんどは環ちゃんが質問する番だった。

 ついついトイレに長居しちゃったので、教室に戻ることにし、歩きながら話をした。
「…二切さん…」
「うめ、でいいよ」
「じゃあ、うめちゃん、でいいかな、とりあえず。で、なんで自己紹介の時、みんなクスクスしてたの?」
しょっちゅう聞かれてることなので、わたしはいつもどおりのパターンで答えた。
「えっとね、わたしの名前と名字を英語みたく反対にするとどうなる?」
環ちゃんが少し考え込んで、
「うめ、二切…うめ、にぎり…うめにぎり…あっ!」
わたしと環ちゃんが同時に言った。
「うめおにぎり!」
 わたしは、なぜそうなったのかを説明し始めた。
「そう。うちのお母さんは最初、うめ・もも・さくらの三姉妹が産みたかったんだって。うちって女系家族とかいうやつみたいで、本当にそんなのあるのか知らないけど、お母さんも三姉妹だし、おばさんたちも女の子産む事が多いからきっとそういう家系なんだってお母さんが。もちろん、もし男の子が生まれたらどうするってお父さんとかおばあちゃんとかは言ったんだけど、桃太とか桜太とかいう名前にすればいいってことで話がまとまって。それがね?」
ここからが本番、といった雰囲気を出してわたしは話を続けた。
「うちの収入だと三人は厳しいぞ、っておじいちゃんが猛反対してさ、言われてみれば確かにそうだってんでお父さんは納得したの。お母さんは不満そうだったみたいだけど、実際二人目を産んだ後に子どもが産めない病気にかかっちゃって」
教室に到着したので、わたしたちは椅子に座った。
「しかも産まれたのは男の子だったから、お母さんの名前計画は失敗になっちゃったわけ。お母さん悩んじゃったみたいよ。桃と桜、どっちをとっても中途半端になるから。そしたらおじいちゃんがいい案がある、って言って、
『考え方を変えればいいのだ。花づくしってのも綺麗でいいが、姉が可憐な名前だからそれとの対比で勇ましい名前を付けるというのもなかなか良い美意識だと思わんかね?』
とか言って、
『命名、勝男!』
って。もう、わかるでしょ?」
今度は環ちゃんもここで気づいて笑いをこらえながら言った。
「かつおおにぎり…」

 この件をきっかけに、わたしたちは冗談みたいな名前同士ってことで意気投合。他のクラスメイトの中にはスポーツ万能の環ちゃんを自分の部活に引き込みたいという下心で近づいてきた人もいたらしく、それよりも「変わった名前」といいう共通点を持ち、それをあけすけに話してくれたわたしと友達になりたいって言ってくれた。
 もちろん環ちゃんの友達はわたし以外にもどんどん増えていったけど、わたしは特別だったみたい。わたしは運動が苦手だから美術部に入ったんだけど、なんと環ちゃんも一緒に入ってくれたの。
「だってどこの部の先輩もしつこいんだもん。だからハッキリ言ったの。あたしは文化部に入ります! って。こんなあっちこっち引っぱリ回されるくらいなら運動部なんて入りません! って」
環ちゃんは思ったことをハッキリ言う性格みたいで、先輩たちもその勢いに押されてそれからは勧誘をやめたみたい。もっとも、特に入りたい運動部がなかったというのもあるみたい。スポーツ万能だからかえって絞れないのかな-、ってわたしは思ってた。


 そして、時は流れた。
 私立六角橋女学院高等学校。結構なお嬢様学校なのだけど、成績優秀な生徒の授業料を減免したり全額免除するというユニークな制度がある。わたしと環ちゃんはこの学校に近いので受かったら通学楽でいいなあと思っていつも二人で勉強してたら、なんと学費全額免除に受かっちゃったの。環ちゃんは集中力もすごいから、わたしもつられて勉強がはかどったんだと思う。
 あとうちの高校は、部活動が運動部・文化部ともに活動が盛んなの。できれば高校でも環ちゃんと同じ部活に入りたいけど、絶対運動部入るだろうし、そしたら絶対わたしついていけない、それにわたし実は結構オタクだから、漫画研究部に入りたいから…別に部活が違ったって仲がいいのは変わらないと思ってた。
  わたしの運動音痴は筋金入りで、かけっこは常にビリ、球技をすればボールを顔で受けちゃうし、その上高所・閉所・暗所の三大恐怖症を持ってるから、体操や陸上のジャンプ系競技なんて論外。
 これは恥ずかしいからあんまし言いたくないんだけど…小学校の運動会の時、身体も小さいし力も無いしで、組体操のピラミッドで一番上になった。あれって下の人も重いし、つぶれたら痛いしで大変だけど、上は上で超怖いの。そしたら運動会本番の日、お客さんがたくさんいるってので緊張しちゃって、しかもその日は風が強くて、わたしがピラミッドの一番上に登って四つんばいになったら、そこに突風が吹いてみんなの目の中にゴミが入ったみたいで。目にゴミが入ると反射的に手を目の所に持ってくでしょ? みんなそれやろうとして思いとどまったみたいで、ピラミッドがぐらついたの。そこでわたしの恐怖心が頂点に達しちゃって、急におへその下のあたりの力が抜けちゃって、スパッツのあたりがじわっと暖かくなって…。
 わたし達観客席から一番近いところでしかも区のえらい人や教育委員会の人の席もあって、しかもケーブルテレビで中継してたものだから大騒ぎになっちゃって…そのあとは非難ごうごうってこういうの言うんだ、って感じ。インターネットでもこのウワサが広がってしまいにはローカルの新聞社やテレビ局もこれを取り上げて…わたしは顔にモザイクかかってたから良かったけど、問題は学校のほうで、翌年から組体操は区内すべての小中学校で禁止になっちゃった。わたしはあんな怖い種目なくなったほうがいいと思ってたし、わたしのところに取材に来た新聞社の人や教育現場から危険な競技を無くそうという運動をしている大学の先生も、組体操は多くのけが人を出す危ない種目だから無くなったのはいいことだし、無くすきっかけを作った二切さんのおかげだ、とお褒めの言葉をもらったりもしたんだけど…。

 案の定、環ちゃんは入学初日から運動部のスカウト合戦に巻き込まれていた。高校運動部の情報網ってすごいなーもう環ちゃんの噂が流れてるんだとか思いつつ、引っ張りだこであちこち連れ回される環ちゃんに苦笑しつつ手を振って、わたしは漫画研究部を訪問した。
 でも、わたしは少女漫画系やゆるふわ四コマ系が好きなんだけど、ここは男子部員がメカものを描き、女子部員がBLを描くという具合になっててそれ以外のジャンルは描いてないみたいだったから、わたしはついて行けそうになかった。
 次に中学でも入部していた美術部に行ってみたけど、美術といいつつ漫画やイラストを描いている方が多かった中学時代に比べて、水彩にしろ油絵にしろ、賞を取りに行ってやろうという気合が満々の雰囲気にはついていけそうになかった。
 狙ってたところ、二つともダメだったな。他の部を探さなくっちゃ、わたしはそんなことを考えながら教室に戻ってきた。そしてカバンを持ってひとまず家に帰って考えようとしたその時、
「お~い、うめ~」
突然、机の下から声がした。
「わ、わっ! 環ちゃん、どうしたの?」
「さすがにあれだけ追い回されると疲れてさー。だって一個の部を体験し終わったらすかさず他の部の先輩に捕まって体験しての繰り返しなんだもん。だからスキを見て逃げ出して、隠れてた」
残念なことに環ちゃんとは別のクラスになってしまったけど、環ちゃんはわざとわたしの教室に隠れてたのだとか。自分のクラスだとすぐ見つかるし、他のクラスの人と鉢合わせした時、うめをびっくりさせようとして隠れてた、と言い訳するつもりだったみたい。
 「大変だったんだね…わたしは、漫研も美術もイマイチで、どうしようかって迷ってるとこ。だから家に帰ってゆっくり考え直そうと思って。あっそうだ、環ちゃん、一緒に帰らない?」
「うんうん、帰ろ帰ろ。あ、そしたら悪いけど、あたしのカバン取りに行ってもらっていい? なんかに隠して上手く持ってきてよ。ウチのクラスの前にもいろんな部の先輩が張り込みしてるんだよ」


 わたしの家は、高校がある高台の向かいの丘にある。両親が共働きでがんばってマンションの上の階を買ったので、部屋の窓からはみなとみらいのビル群が見える。それをなんとなく眺めながら、わたしは入りたい部活動を考えていた。時々学校でもらった部活動案内を読んでみるが、ピンと来るものはなかった。
 わたしのお父さんが子供の頃は、丘を降りたところにある商店街に住んでいたそうだ。いまそこでは祖父母が酒屋をやっている。酒屋と言ってもいわゆる角打ちというやつらしく、あくまで商品として売られた缶ビールやチューハイなどを、あくまで商品として売られた柿ピーや魚の缶詰などを肴にして、あくまで在庫として置いてあるビール瓶の箱などに座って、あくまで客が勝手に店の中で飲み食いするというもの。隣のお店とほとんどすき間が無く、しかも建物じたいが相当古いので、とてもじゃないが住めないってことでマンション買ったんだけど、お店というか商店街そのものがわりと賑わってるし、おじいちゃんもおばあちゃんも元気有り余ってるし、ってことで相変わらず酒屋さんは営業している。お父さんとお母さんは会社員をやっていて、お店は定年後に継ぐつもりらしい。
 その商店街をつらぬく、人ひとりがすれ違えるくらいの狭い道を、環ちゃんは毎日登校してくる。わたしは大通り沿いで環ちゃんと合流して登校する。高校はちょっとした丘の上にあるので文字通り学校に向かって登るのだ、ってダジャレかっ。横浜ではゆるい方だけどね、崖の上に家があるなんてのもあるし。
 もっとも、まだこの通学路使うようになって何日かしか経ってないけど。

  「あ、二切さんおはよう」
「おはよう。うめでいいってば」
教室でわたしが席につくやいなや声をかけてきたのは、隣の席での石渡希子ちゃん。一見ギャルっぽくてわたしの苦手なタイプだと思ったけど、話をよくよくしてみたら結構馬が合う感じだった。わたしの名前の由来のくだりでは腹を抱えて笑ったり、明るくあけっぴろげな雰囲気だからかもしれない。
「そっかー、ウチ名字が石なのに名前が木だから似たようなもんだよ、ってちょっと違うか、てへ」
イシワタリ キコ、と片仮名で書けば確かにそうである。なんか知らないけどあたしの周りにはダジャレっぽい名前が集まる運命なのかな。まーわたしはそういう偶然信じないし、こじつけようと思えばいくらでも出来るんだろうけど。

 一方環ちゃんは、すでに入る部を決めたクラスメイト達に勧誘を受け始めていて大騒ぎ。挙句、朝のホームルームもまともに出来ない状態に先生がたまりかねて、クラス内で環ちゃんを部活に誘うことを禁止してしまったので、なんとか騒ぎは収まり、環ちゃんはその日の帰りのホームルームまでは平穏に過ごすことが出来た。
 そして放課後。希子ちゃんは帰宅部決定ってことで速攻で下校した。環ちゃんは今日もあちらこちらの運動部から引っ張りだこだろう。それにひきかえ、わたしはといえば…。結局考えがまとまらず、どの部に行くかをためらい続けていた。
 困ったな…このままじゃ帰宅部になっちゃう…でも希子ちゃんもそうだし、高校で帰宅部は珍しいことじゃないとも噂で聞いていた。この高校は部活動加入が必須になっているけど、幽霊部員というのがあって、どこか特定の文化部が実際活動しているのは数名だけで、名簿に載っているだけの生徒が実際は帰宅部員になるという逃げ道があるらしいし。
 そうだ、希子ちゃんに帰宅部ってどんなもんか聞いてみよう。わたしは教わったばかりの彼女のSNSのIDめがけて打ってみた。
「私も帰宅部になろうかな」
しかし、速攻で帰ってきた返信は、意外にも、
「ダメだよ! うめちゃんみたいな子はちゃんと部活入らないとダメだよ!」
というもので、キャラクターが怒りの表情をしているスタンプも付いてきた。わたしは早速返信した。
「どうして?」
「ウチは放課後遊ぶトコ知ってるけど、うめちゃんそういうタイプじゃないじゃん。うめちゃんみたいな子が帰宅部とかなったら絶対高校三年間思い出ゼロとかなっちゃうよ」
確かに、希子ちゃんの言うとおりかもしれない。わたしは特に趣味もないというか、アニメとかは好きだけど漫研は入らないことに決めちゃったし、家で漫画とかアニメとか見てるだけの青春になっちゃうかも。自分で漫画描いて(一応漫画っぽい絵は描ける)同人誌にしたり、っていうのも立派な青春だと思うけど、ウチの漫研で扱ってる漫画が読んだこと無いジャンルと作品ばかりだったし。どうしよう…。


 「うーめっ!」
そのとき、いきなり後ろから抱きつかれた。環ちゃんだった。
「わ、わわっ。ど、どうしたの」
「先輩たちからこっそり抜け出してきた。もうさ、決まったから」
ニヤッとする環ちゃん。
「え、ということは…部活決まったの? おめでとう」
「あんがと。でも、決まったというよりは…」
「え? どういうこと?」
「あのね。新しい部活を、作ろうと思うの」

 「そういうの好きっしょ? うめのよく読んでる漫画でもあるじゃん、こないだ商店街の本屋さんで見たやつ。なんか新しい部活作って、みたいなやつ」
「あーあるある。四コマ漫画とかでよくあるよね? でも、実際に漫画みたくうまく行くかなあ」
「やってみなけりゃわかんないよ。とりあえず先生にきいて、新しい部活を作る条件教えてもらってきたよ」
新しい部活動を作るには、最低生徒四人と、顧問の教師一人が必要となる。但し、申請者および部員予定者が全員一年生の場合のみ特例で、生徒が二人でも作れる。顧問教師を立てる必要はあるのだが、今回は幸いなことに就任二年目の先生にそろそろ部活動顧問の経験も積ませたいと他の先生がちょうど思っていたとかで、タイミングが良かったみたい。
 「ラッキーだったよ。あと、一応高校生にふさわしいかも審査があるらしいんだけど、何部が作りたいか先生に言ったら、ああそれなら健全な部活動だから一発で通るだろう、って」
「環ちゃんのことだから、運動部だよね。何部作りたいの?」
「ん? 何部だと思う?」
教えるのを勿体ぶって、クイズにしてしまった環。相当気分がいいようだ。もっとも突然出題された梅はこう言うしか無い。
「ええ~? そんなの急に言われても…ヒントちょうだい、ヒント」
「ヒント? んーそうだなあ、あたしの転校してくる前の家はどこにあったでしょう?」
「ヒントがまだ問題になってるじゃん…でもそんなの覚えてるよ、札幌でしょ?」
「そう、札幌。では、札幌で盛んなスポーツといえ…」
「あ、わかった、はーい、はーい!」
環ちゃんをさえぎるように、わたしは勢い良く挙手した。
「スキー!」

 環ちゃんとあたしは中学から一緒なので幼なじみのようなもの。環ちゃんが札幌に住んでいた頃、冬は毎日のようにスキーやスノボをしていたことを聞いていたし、冬休みや春休みには家族でスキー場へ旅行にいくことも、学校の授業にスキーが含まれていることまで知っていた。わたし達の通ってる六角橋女子には部活動が盛んで、運動部もかなりの種目がカバーされているけど、確かにスキー部は無い。だから答えは一発で出た。が。
「ピ、ピンポーン。スキー部。たぶん」
だから半分正解、だそうだ。なぜなら、
「スノボもやりたいし、スケートがやりたいって人も対象にすれば入部希望者増えるっしょ? だから、ウィンタースポーツ部ってのがいいかも、って先生とも話してたの」
どっちにしろやることは同じだから、ということで環ちゃんは部の名前にはそれほどこだわっていないようだった。ただ、
「うめはどう思う? ウィンタースポーツ部でいいかなあ? できれば早く届け出の紙出したいんよ」
と聞かれたときにはちょっとびっくりした。部活の名前って結構大事だから、と思っていたし、スキー部のようになるべく短いほうが何かと楽なんではないかとも思っていた。ただわたしは、こういうときの環ちゃんの性格をよく知っている。わたしがどう答えようと、すでに答えは自分で決めている。わたしへの質問は自分を心を決めるための踏み切り台でしかないのだ。だから、わたしはこういう時どうするか決めていた。時間を掛けて考えるよりも、すぐ直感で答えた方がいいと。ま、言っちゃ何だけどこの件に関しては部外者だしね。
「えっとね、スキー部のほうが言いやすいけど、いろんなこと出来たほうが楽しいかもだから、ウィンタースポーツ部のほうがいいかな、ってわたしは思う」
「よし、決まり」
ほら、やっぱり踏み切り台だった。おそらく環ちゃんはすぐさま新しい部活の設立希望用紙にウィンタースポーツ部と書いて、職員室に提出に行くだろう。そして早速部員集めを始めるのだろう。いや、もう始めているかもしれない。あちこちの部活見学の中で環ちゃん同様ピンときていない子に声をかけているかもしれない。だとしたらもう設立確定だ。
 環ちゃんはその通りの行動をすると廊下に躍り出た。ちょっと付き合って、とわたしの手を握って。

 「失礼します!」
わたし達はそう言うと担任の先生の所に直行し、用紙を提出した。代表者名には「玉木 環」と、顧問名にも担任から紹介された先生の名前が書いてある。確か女性の、優しそうな先生だ。で、提出したからには、設立の条件である他の新入生一名を確保したのだろう。相変わらず仕事が速いなあ。
「つーわけでうめ、今後共よろしくね」

 え?

 「二切 うめ」
用紙にそう書かれているのがちらっと見えた。先生はその紙をクリアファイルにしまい、
「今日午後に職員会議あるから、そこで議題としてかけるよ。大丈夫、全会一致でいけると思うよ」
との担任の一言で、正式なウィンタースポーツの発足はほぼ確実となった。

 呆然としたまま、わたしは環ちゃんとともに職員室を出た。
「うめさあ、部活決まらないって言ってたっしょ? だからこれはジャストタイミングだと思って。あたしは部活の設立希望届けが出せる、うめは部活が決まる、win-winの関係っしょ?」
「て、待ってよ! あたしの意志は?」
我に返ったわたしは抗議した。環ちゃんがいくら親友とは言え、こんな不意打ち的に計画に巻き込まれるのは御免だ。
「意志? でも、入る部活決まってるの?」
「…うっ…」
痛いところを突かれたので、グウの音も出せなかった。
「とりあえず何もしたいことないなら、あたしと一緒にやろうよ。大丈夫、そんな無茶な運動しないし、冬まではいっぱい時間あるから、それまでにスキーが出来る身体にすればいいんだよ。それでも何かしたいことが見つかったら他の部活に移ってもあたし追わないしさ、その頃には誰か入部してくれてるよ」
環ちゃんの説得に、あたしは段々追い詰められ、最後のセリフがとどめを刺した。
「こうやって無理やりやらされて好きになるのって、部活マンガのお約束パターンの一つなんでしょ? 良かったじゃん、マンガのヒロインだよ、主人公だよ」
ああ、思い出した。わたし、そういう講釈した覚えがあり、それを猛烈に後悔した。まあ部活が決まっていないのも事実だったし、かと言って帰宅部になるのも抵抗があった。
 でも最大の問題は、わたしはウィンタースポーツというものを一切したことがない。陸上や球技とかは下手くそだけどやったことはある。でも冬のスポーツと言えば全くしたことがない。そもそも雪国に行ったことがないし、数年前横浜に大雪が降ったときも家の中でコタツに引きこもり、ソリや雪合戦すらしなかった。不安があると言えばそれなのだが、冬はまだまだ先という環ちゃんの言葉に引きずられて、それ以上の抗議はしなかった。

『わたしの友達が部活ものコンテンツに新天地を開こうとしている件』

 この作品を書いた動機は、作品冒頭の二人のやり取りそのものです。だってこれだけバラエティに富んだ部活動が創作の世界にはあるわけです。それなのになんでスキー部やスノボ部は無いの? と常々思っていました。で、無いんなら自分で書いちゃえ、と思った次第です。
 もし、作者のリサーチ不足で、「すでにスキーやスノボを題材にした部活アニメorマンガorラノベがあるよ!」ということでしたらご一報いただければ嬉しいです。ぜひ読んでみたい。儀間のつたないラノベもどきよりよっぽど面白いはずですから。
 それにしても、宗教上の理由シリーズがいよいよ大詰め、というところにまた余計な話を突っ込んじゃいました。でもウィンタースポーツの話だから冬のうちに、ってのはあったんですよね。とりあえず宗教上の理由と並行して進めて行こうかと思います。

『わたしの友達が部活ものコンテンツに新天地を開こうとしている件』 儀間ユミヒロ 作

「どうして芳◯社や◯迅社の四コマ雑誌にはスキー部のマンガが載っていないのか? という疑問からこの物語は生まれました。ならば自分で書いてしまえと(だってラノベでも心当たりないですもん)。もし「既にスキーやスノボの部活もの商業誌であるぞー」というツッコミはむしろ歓迎です。読んでみたいのでw

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-01-12
Copyrighted

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