求めていた俺

第四部 「摩天楼の決戦編」

三十二話


ー 前回のあらすじ ーーーーーーーーーーー


『芭部流の塔』 最上階。 本来ならば皇楼祭の決勝戦が行われる場所だった。 しかし、
会場の誰もが予想だにしていなかった異常事態が発生する。 闘技場に突然、一体の野人が乱入したことによって試合は大波乱に。
そして野人は桐生を狙い襲いかかるも、絶好のタイミングで現れた宿敵、一ノ瀬佑太郎によって一旦は窮地を免れる。 だが野人の襲撃者は一人では無かった。 すでに何体かの野人が会場に紛れていたのだ。 刀剣や斧など、多種多様な武器を持ち合わせ、暴れだす野人達。 観客達は一触即発の危機に瀕していた。

さらに状況は悪化していく。
芭部流の塔の天井が一瞬にして吹き飛んだ。
そして、空から数百体もの野人が大胆にも建物の中に乗り込んできた。もはや武闘会どころじゃなくなってしまう。

野人を率いる統領、『冥王』と呼ばれるそれは桐生たちの前に自ら現れた。
長い歴史の中で直隠しにされてきた未知の存在、『冥王』。 それは太古の昔より数多くの大陸と生命を滅ぼしてきた【最も神に近いとされる人間】である。 肉体が滅んでも魂は死にきれず、輪廻転生を繰り返し、五千年もの歳月を経て現代までやって来た。(正しくは生まれ変わった)

そして今。桐生達の時代に生きる『今代の冥王』はこの世を滅ぼすためだけに君臨し、
桐生は遂にその正体を知ってしまう。

今代の冥王の正体。 それは以前桐生と生き別れてしまったはずの幼馴染の少女、
『白石茜』 本人だった・・・

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「・・君が噂に聞く『冥王』か。はじめましてだね。」

一ノ瀬が言う。

「誰だ?」

初対面の男に冥王白石が問いかける。

「おや。冥王ですらこの一ノ瀬を知らないのかい?これは参ったな。 一から説明するのが面倒じゃないか。」

「・・・人間はみな虫ケラ同然だ。たかが虫ケラ1匹の素性なんて知ったことか。」


白石は一ノ瀬に向けて手をかざす。


ボッッ


すると掌からバスケットボールサイズの青いエネルギー弾が放たれた。エネルギー弾は地面スレスレの位置を高速で飛行する。

ガギギギギギッッ

莫大な熱量を帯びたエネルギーの塊は闘技場の地面をかするたびに容赦なく削っていく。


「危ないッ!」

桐生は叫ぶ。 ・・だが心配する必要はなかった。

シュンッ!

一ノ瀬はエネルギー弾が当たる直前に空間転移をしたからだった。そして転移先は白石の頭上。

一ノ瀬は落下の勢いに任せてそのまま白石の後頭部を蹴りつけようとするが・・

タンッ。

白石は軽く一歩足踏みをしたかと思いきや、
時速約八百kmものスピードで一ノ瀬の蹴りを回避し、一瞬で一ノ瀬の背後に回り込む。

「なっ」

一ノ瀬はワープで回避を取ろうとしたが反応が遅れる。


「凍てつけ」

白石がパチンッと指を鳴らしたと同時、空中から数多の氷柱が現れ、一ノ瀬に向けて直進する。

ズバァッッ・・

氷柱は一ノ瀬の右肩に命中し、その傷からは大量の血が噴き出た。

「うぐっ・・!」

必死に肩を抑える一ノ瀬。



「一ノ瀬ッ!もういい!今のお前の実力じゃ
白石にはかないっこねえ!」

「くっ、無様な姿を見せてしまったね・・」

「いいから後は俺に任せろ。これは俺と白石の闘いだ。」


その時、どこからか軽薄な声が聞こえて来た。


「違うぜ、桐生。お前だけの戦いじゃねー。」

「この声は・・」


桐生が声のした方角に目をやると、削り取られた天井からその少年は降って来た。

「ルビア!!」


赤い装束を纏った少年が炎でできた剣を白石の背中から生えてる巨大な左翼を狙って振るった。

ザンッ

そして見事に攻撃は命中した。
炎剣の炎が翼に燃え移る。

「やったか!?」

「いや・・・。」

桐生はルビアの顔を見た。しかしその表情はまるで見てはいけないものを見てしまったかのような不可思議なものだった。


白石の左翼は一度ルビアの炎でチリヂリに燃え散った。しかし直後、見る見るうちにその翼は背中の付け根からゆっくりと再生を始めた。

「そんな・・、再生能力まであるのか?」


「クッククク・・。ザコの分際で私に楯突くなんて、人間とはこれ程までに愚鈍で健気な生き物だったんだね。
・・だがまあいい、その勇気に免じて命だけは助けてやるよ。"桐生以外"の人間はね。」


驚く桐生とルビアを見て白石は言った。まるで桐生が今まで接した来たそれとは全く別人の様な口調で。
だが今のセリフの中でたった一つだけ気にかかることがあった。


「"桐生以外" だと?どういう事だ?それって俺だけは絶対殺さなくてはならない理由があるって事か?」


「・・まあそういうこと。私の狙いはただ一つ。貴様の体内に眠っている『力』だ。」


「力・・。もしかして、『泰無離未途』の事かっ!?」

・・ここに来て桐生が最も懸念していたワードが登場した。


『泰無離未途』。神のミスにより桐生の体内に宿ってしまった天性の力。本来は『冥王』が最後の審判を行う為に所有するべき物だが、持つべきでないものがこれを持つと莫大なエネルギーを制御しきれなくなり・・・


「時が来れば・・・俺を中心に大爆発が起こって世界が滅亡する・・?」


「なんだ桐生、知っていたのか?まぁ大方誰かから聞かされたって感じだな。 けど貴様は一つだけ情報を取り違えている。」

「なんだと?」


「訂正しよう。仮にこのままじっと待っていても大爆発など起こらんし、ましてや世界など滅亡しない。 "犠牲になるのは貴様のみ"
だ。」

「ど、どういう事なんだ!?」

「時間を迎えると貴様の身体が数秒で肉塊と化すだけだ。 だがそれではいかんのだ。私の計画が頓挫してしまうからな。」

「それじゃ・・・」


「もう気付いているだろう?私は貴様を殺して最後の審判のトリガーたる『泰無離未途』を奪還し、この世界に終焉の狼煙をあげる。阻止する為には私を殺すしかないが、
まあそれは不可能だろうからいいとして。」


「つまり、俺が勝っても俺自身が死ぬだけって事か。」

「私が勝てば世界は終了。 どのみちお前は勝っても負けても助からん。 惨めな人生だったな」


白石はタイムウォッチを取り出した。

「三十分だ。世界を救いたいなら今から三十分以内に私を殺せ。 果たして貴様にできるかな?
クハハハハ!」


「なあ、聞きたいことは山ほどあるが時間がねえから端的に言うけどさ。お前はなぜ世界なんかを滅ぼす必要があるんだ? いや、それ以前になぜ自分が冥王である事をずっと黙っていたんだ?」


「ん? やけに落ち着いてるな。 まあいい、教えてやろう。 結論から言うとだな、世界を滅ぼすのに理由などない。 無邪気な子供がトンボの羽を千切るのと同じ事だ。」


「ハッ、なんだそれは?まるで論理が破綻しているじゃないか。」

口を挟んだのは一ノ瀬だった。

「おい、まだ怪我は治ってないだろ!お前は休んでろ・・」

「いいから。」

桐生は無理して立ち上がろうとする一ノ瀬を止めようとするが押しのけられる。


「なんだ?まだ私に歯向かう気か?」

「要するに君は世界が憎いだけなんだろ?なら最初からそれを言えば良いじゃないか。」


「貴様は何か勘違いしていないか?私は私怨でこの世を滅ぼそうとしているわけではない。言っただろう?最初から理由など存在しないと。」

「じゃあ質問を変えて良いか?」

話し手は再び桐生に切り替わった。

「何故お前は俺に自分の正体を隠してたんだ?」


「そんな事か。もし私が貴様に馬鹿正直に目的を話したら厄介だからに決まっているだろう?私の様な悪人は放って置けない人間だからな貴様という人間は。」

「悪人か・・。自覚はあるんだな。」

「そして私は悪人だからこそ、こんな事も出来るんだよ!!」

パチンッ

白石が指を鳴らすと、会場のあちこちに散らばっていた手下の野人総勢百人以上が一斉に闘技場に集結し、桐生、一ノ瀬、ルビアを取り囲む。

「何のつもりだ?」


「まだ時間はある。まずは小手調べと行こう。 やれ。」

白石茜が右手をサッと上に挙げると、

ズドドドドドドドドドドッ!!

百を超える野人の大軍が刀剣を振りかざして一気に襲いかかる。
野人の一体が言う。

「能力者ト言エドモ多勢に無勢ダッ!! 」


桐生、一ノ瀬、ルビアの三人はお互いに背中を合わせて迫り来る敵に備える。

「はぁ・・やれやれ参ったな。」

頭を抱える一ノ瀬。だがそれは不安によるものでは無かった。


「こんなに大勢いたんじゃあ、うっかり死人を増やしちゃうかもね。」


遠くから楽観主義者一ノ瀬の声を聞いていた白石は、一言漏らす。


「クク・・その余裕はいつまで続くかな。」


世界の命運を賭けた最大で最凶の攻防戦の火蓋が切って落とされた。


To be continued..

求めていた俺

求めていた俺

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-12

Copyrighted
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