求めていた俺

第四部 「摩天楼の決戦編」

十九話


『芭部流の塔』一階層の闘技場。観客席の空気は、一回戦第一試合による緊迫感に満たされていた。



東ゲートの選手は桐生。『相手に触れるだけで敵の動きを止めることができる』力を持つ自称平凡高校生。 なぜそんな自分がこんな大勢の観衆に囲まれながら戦場に立っているのか。それにはとある理由がある。

ー『冥王』ー。 正体不明のそれは、『最後の審判』という、単刀直入に述べてしまえば、地球の滅亡を目論んでいる。(当然この塔の中にいる選手や観客はよもや知るはずなどないのだが)それを止めるためには桐生自身の手で『冥王』の息の根を止めなければならない。だがそいつは地球ではなく月面に宮殿でも作ってそこに潜伏してるらしいため、一刻も早く宇宙に向かいたいところだ。そのためにも早くこの大会で優勝して賞品の『月旅行』を手に入れたいところだが・・。

(道のりは長いな・・。)

桐生はそんなことを頭の中で考えながら戦場の中心でぼーっと突っ立ってると、
突然前から"けん玉"の赤い玉らしきものが顔面に向かって飛来してきた。
否。"らしきもの"ではなく、文字通りけん玉の玉だった。

上半身を横に逸らしたことによって頰を掠るだけで済んだ。けん玉の速度はそこそこ早かった。 頰のかすり傷から少々血が出てきたが気にするほどでもない。桐生は顔をペタペタと触り、自身の無事を確認するや否や、けん玉の玉から伸びた白い糸を辿り、それを放った相手の顔を睨む。 やがてその相手は口を開く。

「Hey, you!!なーに、ぼーっとしてるんだ?今は試合中だぞ。」

「ああ悪りぃ、そうだったな。」

桐生の最初の相手、『秋山清史』。 ウェスタン風のカウボーイの格好をした戦士だ。外国人のような顔立ちをしているのに何故か日本国籍の人間だ。


『おーっと、いきなり出ました!!秋山清史選手のデバイス、 "鋼鉄の紅玉"!!けん玉状の武器なのは分かりますが、"一度敵に向けて玉を放つと攻撃が当たるまで敵を追尾し続ける" って言うのは本当なんでしょうか!?解説の牟田さん!』

『ええー、そうですねー。あんなのチートですよねー。うーん。』

『対する桐生選手は一体どんな力を持っているのか、それが我々も知らないんですよね?』

『ええそうですねー。なにせ彼は今年デビューのようですしね。いやあ楽しみですねーマジで、ハイ。』


実況者と解説者が適当にくっちゃべってる。



「what are you gonna do?さあどうする?桐生君!」

「秋山君こそ。俺の能力の詳細を知っているのか?」

「I don't know. さあな。だが俺の"鋼鉄の紅玉"は、 敵との間合いを詰めることを許さない!!」

そう言うと、秋山は再びけん玉のデバイスを振り回す。桐生はジャンプをして躱す。
しかし桐生の足元を潜った赤い玉はグインっと一度Uターンをすると、空中の桐生の着地を待たずに背中に襲いかかる。

「しまっ!!」

桐生は反応速度が遅れ、鋼鉄の玉に被弾してしまう。

「グハッ!!」

早さはそこそこだが玉は鋼鉄だ。ダメージはそれなりにはでかい。

「てゆーっか背中いってえ!!」

秋山がけん玉をペン回しの要領でクルクルと回しながら一歩前に踏み出す。

「Hey boy!!ほら立てよ。試合はまだまだだぜ。」

桐生は痛む背中をおさえながら立ち上がる。


「桐生の奴、ピンチじゃないの!?」
戦いを見ている観客席のサファイが言う。

「やばいもー、まずいもー!」
片手にポップコーンの容器を持ちながら焦る敷島。

「いや・・桐生なら大丈夫だ。・・見ろ。あいつの顔を。 笑っている。」
マナトは冷静に分析する。


この試合を見ている他の観客達からして見たら今桐生は圧倒的に劣勢だ。今の所桐生は攻撃さえ仕掛けていない。
だが、マナトの言う通り、桐生は笑っていた。

そう。桐生は活路を見出していたのだ。


『桐生選手、何やら笑ってますねー。これには深い意味でもあるんでしょうか?』

『どうやら何かいい案でも思いついたんじゃないですか?』

『しかし秋山選手は去年の"全国けん玉選手権"に出場していて、ベスト四まで上り詰めた強敵のはずですよ!?』


『まあまあよく見ててください。これから一気に戦況はひっくり返ると思いますよ。』



解説の牟田の言う通り、本当に戦況がひっくり返ってしまうなど、この時秋山は思ってもいなかった。

「じゃあそろそろ、トドメと行くぜ!
Go ahead !"鋼鉄の紅玉"!!」


秋山は鋼鉄のけん玉を鞭をしならせるように、桐生めがけて射出する。

「かかったな。」


桐生は広い闘技場を利用して、秋山の周囲を囲うように何周も何周も走り回るという行動にでる。
結果、桐生の走った軌道をなぞるように追尾するけん玉はやがて持ち主の秋山の体をぐるぐると巻きつける。

「What happened !? なんだこりゃ!?」


『おーーとォ桐生選手!ここに来て一本有効を取りましたーッ!』

『相手の攻撃を逆手に取るとは、なかなかやりますなーあの少年。』



桐生の術中に嵌り、身動きが取れなくなった秋山。

「クッ、くっそ!!」

桐生は自らのけん玉の白糸に絡まれて秋山が動けなくなったところをさらに"例の掌"を肩にポンと触れた。

「Why!?動かないぞ!!」


『なんだなんだ!?桐生選手が秋山選手の肩に触れた瞬間棒のように固まった!?』

『もう勝負は決まりましたね。』



桐生は無謀にも必死に足掻く秋山の前に一歩足を進め、握り拳を握る。


「悪いな、好敵手"ライバル"。俺にはやるべきことがあるんでな。」

バキィッ!!

桐生の渾身のパンチが秋山の身体を吹っ飛ばす。

「Oh..my god.....」

秋山は自分のけん玉の糸に全身巻きつかれたまま仰向けになりやがて気絶した。


ビーーーーーーーーーーッ

『試合終了ーーーーッ!!なんと見事初戦を勝ちぬいたのは桐生選手です!!」


ワァアアアアアアアア

会場は拍手喝采に飲み込まれた。


「ふう。とりあえず初戦突破っと。こんなところで負けてらんないぜ。」

桐生は一度安堵の一息をつくと、二回戦が行われる上の二階層の控え室に向かう。


ホール全体に一時休憩の放送が流れる。
この階層ではまだ第一回戦の第二試合〜第八試合が残っている。 第二試合開始まであと二十分。その間にスタッフが闘技場のお掃除を済ませる。


そして第二試合、第三試合と、試合は着々と進んでいった。 やがて一階層にての一回戦は終了する。


この頃敷島はすでに手元のポップコーンを全て食べきってしまった。

「やべ、もう全部食べちゃったも!!」

「アホか敷島。まだまだ試合は残ってるぞ」
サファイがツッコミを入れた。

「じゃあ売店にまた買いに行ってくるもー。第二回戦はこの上の二階層でやるみたいだから皆んなは先に行っててくれもー。」

「ああ、わかった。」

桐生は二階層の控え室にて待機していた。



一方その頃。『月の都』の雅な宮殿でただ一人、玉座に腰掛け、黒いテーブルの上に置かれたモニターを眺めながら微笑む『人間の少女』の影があった。
モニターには地球のとある場所で開かれているとある高い建物の中のとある少年の姿が映っていた。『人間の少女』は、指パッチンをしてモニターの電源を消し、やがて椅子を立ち上がる。そして前に歩き出す。



「さて、そろそろ行くか。真打は最後に現れるといえども、宴に間に合わぬのであれば格好がつかないものね。」


皇楼祭 一回戦 対戦成績

第一試合 《勝》桐生 《負》秋山清史
第二試合 《勝》猿男 《負》しゃもじ君
第三試合 《勝》石ころ《負》 浦上
第四試合 《勝》ジョンレモン 《負》桜田
第五試合 《勝》 クズ 《負》 ゴミ
第六試合 《勝》 虎次郎 《負》 塚田
第七試合 《勝》 黒崎龍弥 《負》 牛山
第八試合 《勝》 もんたみの 《負》 レオ


To be continued..

求めていた俺

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-12

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