*星空文庫

求めていた「俺」

たいくん 作

第1部 「変わる日常編」 No.6

とある日。桐生のクラスに転校生がやってきた。

「転校生を紹介する。さ、入っておいで。」

ガララ

ドアが開いた瞬間、まるでバブルの世を生き抜いてきたかのような金髪アフロの少年が入ってきた。

「ブッ!!」

白石が思わず吹き出す。

桐生も笑いを堪えるのに必死だ。

やがて転校生は喋り出す。

「冷泉です。よろしくおねがいします」

ペコリと頭を下げる少年冷泉。

「えーと君の席は、じゃあ・・ マナト君の隣で。」

マナトの席はちょうど教室の真ん中のあたりである。

「よろしくです。マナトくん。」

「よ、よろしく。」

それを見ていた白石は

「何だ、可愛い子じゃない」

「お前なあ」

桐生はそう言うことを平気で口に出す白石がちょっと不思議だった。



(あれから一週間か・・)

自分が狙われるようになったのは謎のコートの男に能力を与えられてからだ。これがすべての始まりだった。

「アイツは何で俺なんかに能力をやったんだろう?」

「何1人でブツブツ言ってんのよ。」

「はっ」

桐生の悪い癖だ。



一方、マナトは、

「・・ノート忘れた・・。」

「なら、貸してあげますよ。」

冷泉は潔くマナトにノートを渡す。

「あ、ありがとう。」


4時間目の体育の時間が終わる。

「気をつけー、礼!!」
(あじゃじゃしたー)

ガヤガヤと全員が教室へと戻っていく。

「ん?」

桐生は見た。みんながぞろぞろ体育館から退出する中、たった1人、少しも動かずに体育館のステージの上に佇んでるアフロの少年の姿を。

「おーい、冷泉、何やってんだー?お前もこいよー」

桐生がステージの上に登ったその時!

体育館の電気がパッと消えた。そしてステージの上だけがスポットライトで照らされる。

「な、何だこの演出は」

直後、目の前のアフロから予想外の言葉が漏れる。

「待っていたぞ、桐生。あのお方の命で、お前を殺す!」

「まさか、お前もソイツの手先なのか!?」

「いかにも。あのお方の直々の命令を受け、ここにきた。」

「おい!あのお方って一体誰なんだ!!教えろよ!」

桐生の怒鳴り声は体育館全体に響き渡った。

「いいだろう。教えてやる。ただし、僕に勝つことができたらね。」

「くっ、てことはお前も能力使いだな。」

「フッ、流石勘が鋭いね。そう。僕は『じゃんけん』の能力の使い手だ。」

「え、じゃんけん?この流れで?」

「お前はあのお方が認めた重要人物だ。光栄に思え。そしてお前があのお方と戦う資格が本当にあるのか、
僕は小手調べのために送られてきたってわけさ。僕に勝てたらあのお方に会わせてやる」

その役回りに不満はないのかと思う。

「いくぞ!ジャンケンポン!」

「わわ、いきなりかよ!」

パーを出した桐生に対しチョキを出す冷泉。

「フッ勝ったな。」

「いやだからどうした!」

「僕はジャンケンの能力の使い手だ。僕は100パーセントじゃんけんでは負けない!勝負は終わってないぞ。じゃんけんは三回勝負だ。」

「ああ、面倒くせえ。」

桐生はこのくだらねー戦いを早く終わらせることにした。

「なあ、じゃんけんで一番強いのってどれか知ってるか?」

「この僕に対しての質問かい?まあいい教えてやろう。じゃんけんでもっともつ・・・」

バキィ!どゴォ!ゴシャ!

冷泉は最後まで話しきることはできなかった。なぜなら桐生が冷泉の顔面に渾身のパンチを放ったからだ。

冷泉はあっという間に倒れ伏せ、目が渦巻き状態になっている。

「ひ、ひどい・・」

「じゃんけんで一番強いのはグーに決まってんだろバーカ」

相変わらず姑息な手段を用いるのが得意な桐生であった。

「さ、もういいだろ。その体じゃ何もできまい。殺したりはしねーからそろそろお前の雇い主のところまで案内しろ。」

「わ、わかった。じゃあこれをもっていけ・・ガクッ」

冷泉が渡したのは一枚のぼろっちい地図だ。どうやらあのお方とやらの本拠地の場所らしい。

その時、冷泉がシューっと、水蒸気のように煙と化した。これも「あのお方」とやらの呪いだろう。

「ふざけやがって、こんなことする奴はさっさとかたずけてやる!」

桐生は一連の事件の黒幕を打倒することを誓う。 作戦決行は明日土曜日の夕方5時だ。



次の日。

「えーと、どこにいやがるんだ奴は?」

地図を見ながら敵の本拠地を探し徘徊する。

気がついたらそれらしき物が見えた。

「なんだここ、神社か?」

街の中に一際目立つ山がそびえている。そのてっぺんから麓まで石階段がのびていた。おそらくその奥に奴はいる。

そして場所に間違いがないかもう一度地図を見る。するとある重大な事に気付いてしまう。

「ここってうちの近所じゃねえか!!」

なんとなんと敵の本拠地は桐生の家から徒歩5分の市街地の中にあった。

(馬鹿馬鹿しい。まあいいか、行くぞ。)

桐生は50段の石階段を登り山のてっぺんまでやってくる。さらに進むと鳥居が見える。

「あそこか。」

鳥居をくぐると奥には本殿らしきものが見えた。あちこちに灯籠が立てかけてある。

そして、本殿のちょうど手前。『ソイツ』はこちらに無防備に背中を向け立っていた。

「・・お前だな?お前が『あのお方』なんだな?」

「よくここまでたどり着けたじゃないか。」

緑のコートに革靴の男はようやくこちらに振り向く。その動作はゆっくりと。

「!!」

その男の顔には見覚えがあった。そう、たしか最初学校のトイレで・・

「お前はあの時の・・!」

「覚えていてくれたんだ。」

「忘れるもんかよ。てめえだけは。」

「そうだ。君に初めてあったとき、まだ僕の名前を名乗っていなかったね。」

そういえばそうだった。

『一ノ瀬佑太郎』

「覚えておくがいい。のちに歴史に刻まれるであろうこの名を。」

「てめえにゃ言いたいことが山積している。だがぶっ飛ばす前に一つ礼を言わせてくれ。」

「なんだい?」

一ノ瀬は腕を組み桐生の顔を見据える。

「お前のくれたこの能力のことだ。相手の動きを封じる能力、か。なかなか面白かったぜ。これは血の流れる生き物すべてに通じるそうだな。 路地裏のチンピラ戦ではこいつによって助けられたし、ひったくりを捕まえることもできたし、虫取りにも使えた。」

「そうだろう?なにせこの僕が作った力だからね。」

「やっぱり能力を作ってたのもお前だったか。」

「その通り。有効活用してくれているようで嬉しいよ。」

「一つ聞いていいか?どうしてお前は俺なんかに力を与えたんだ?」

すると、一ノ瀬は一度目を瞑り地面に顔を向ける。浅い呼吸をした後に再び桐生の顔を見る。

「そうだな、僕は力のない奴を見ていると、可哀想で可哀想で仕方がないんだよ。」

「ふーん。それで俺に力を?」

「君だけに、というのは正確じゃないかな。言うなれば力を持っていない弱者全てが対象だけどね。そもそも人間が戦争を繰り返すのはなぜだと思う?」

「?」

「人間は他人を貶めることで自らに足りないものを取り込む。そのために強者が弱者を蹴落とす。そして弱者から『養分』を奪い、吸収する。だが考えてごらん。強者が生きていくためには養分となりうる弱者の存在が不可欠だ。動物や植物だってそうだ。植物を食す草食動物がいる。さらにそれを食す肉食動物がいる。強者が上に立てるのはそれを支える弱者
(どだい)

が存在するからだ。」

「確かにそうだな。」

「だけどそれでは強者のためだけに必死に身を削り尽くすだけの弱者が余りにも報われない!余りにもかわいそうだ。理不尽すぎる!!」

「そうかもな。」

一ノ瀬の目が燃え滾る。

「だから僕は決意したのさ。この世から強弱の壁を完全に壊し、誰も犠牲にならない傷つかないような平等の世界を作り上げるってね!そのために僕は世界中の弱者を能力者
(きょうしゃ)
にする。そして僕は、神と並ぶ存在となるのだぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


「そうか。わかったよ。だから俺はお前のことが心底気に入らなかったんだな。」

「何?」

「俺はさ、これといった特徴もない平凡な人間だよ。
それは自他共に認める事実だ。だからいつもの当たり前の日常に物足りなさすら感じていた。いっそ世界そのものを根本から作り変えちまえばいいのに、て。そんなことも考えたりした。」

桐生は以前、木内の一件の時、クラスメイトの面々が、友達が学校から忽然と消えたあの時の得体の知れないショックを思い出していた。まるで親のように自分の身を案じてくれる白石
(おさななじみ)
の優しさも。

「でもそれら全て俺の間違いだった。俺はあの時痛感したんだ!『当たり前のものが当たり前のように当たり前にある』。それがどれだけ有難いということか!
全部カンケーなかったんだよ!物足りないとか補うとか救うとか、弱者とか強者とか!!なのにテメエは何様なんだよ!!人を勝手に弱者とか無理やり値踏みしやがって。弱者だって弱者なりに必死に生きてんだよ!!そんな人間がテメエみたいに他人を平気で見下す強者とやらに救いを求めるのが必然だと?巫山戯んじゃねえ!!」

「言いたいのはそれだけかい? がっかりだよ。 君はもっと頭のいい人間だと思っていたんだがね」

「うるせえよ。だからその態度が気に入らねえんだよ。これ以上テメェみてえな自己満足野郎を野放しにしておくわけにはいかない。今すぐぶっ飛ばしてやる!!」

桐生は今すぐにでもこのくだらないお喋りを終わらせて、いつもの日常に帰りたかった。

「いいだろう。君を神の意志に仇なす敵と見た。かかって来い、少年桐生くん!!」

「うおおおおおお!!」

地面を蹴っ飛ばすように一ノ瀬に飛びかかり、拳を放つ。 このとき極力能力(もらいもの)
は使わないことに決めていた。理由は言うまでもない。

しかし、そこにいたはずの一ノ瀬の姿がいつの間にか消えていた。ハナから見れば桐生はただ1人で空気と戦っているようにしか見えない。

「!?」

慌てて後ろに振り返ろうとしたがもう遅い。

真後ろに「ワープした」一ノ瀬の拳が背中に直撃する。ミシミシッと脊椎が悲鳴をあげる。

「うぐはッ!?」

桐生は機転を利かせて矢継ぎ早に反撃のパンチを一ノ瀬の顔面めがけて一直線に放つが、やはり当たる直前でパッとその場に残像を残し消えてしまう。

「くそっ!」

さらに背後に回り込んだ一ノ瀬が回し蹴りを繰り出し、 桐生が地面に倒れ伏す隙も与えず追撃のショルダータックルが脇腹に直撃する。

ダメージを受けた体には力が入らない。とうとう地面に膝をついてしまう。口からは赤いものが垂れている。

苦しむ桐生を見て一ノ瀬の嘲りの笑いだけが辺りに響きわたる。

「どうだーい?目の前の敵に、手が届かない気分は。フッハハハ・・・、ハハハハハァァーーーッッッ!!!!!」

桐生は鋭い眼光で自分を見下す「強者」を下方から睨みつける。

「ぶっ殺す!・・・ううっ。」

だが先ほどのダメージが桐生の動きを抑制する。

「は、ははっ。君は本当に最高だよ!その苦悶に満ちた表情!!」

そして付け足すように一ノ瀬が言う。

「・・ああ、言い忘れてた。能力というのは使えば使うほど宿主の魂と肉体を侵食していく。」

「な、なんだとこのクソ野郎・・」

桐生は辛うじて立ち上がり目の前の元凶と対峙する。

そして元凶は禁忌とされた『空間転移能力
ワープ
』で桐生の後ろに数ナノ秒で回り込み、ひざかっくんをかます。

予想外の一撃に対処しきれず桐生は地面へうつ伏せに倒れる。

いい加減戦いに飽き飽きしていた一ノ瀬は、

「そろそろ終わりにしてあげるよ。本当に、がっかりだよ、君には。 」

その一言を告げると同時、もはや動けない「であろう」桐生の後頭部めがけて踵を落とす。

これで終わるはずだった。 がしかし。

その踵が後頭部に当たることはなかった。
桐生がゆっくりと顔をあげると、目の前の視界はぼやけていた。2、3秒立ってようやくピントが合うとそこには吐血をして身をかがめている一ノ瀬の姿があった

桐生はゆっくりゆっくり丁寧に立ち上がる。

「作戦成功ってとこだな。」

「ク、クク、やはりこれが狙いだったか。」

「ああそうだ。テメエの懇切丁寧なアドバイスのお陰だぜ。」

戦いの途中で一ノ瀬が桐生に放った言葉。
『能力というのは使えば使うほど宿主の魂と身体を浸食させていく。』


勝敗はもう決した。


「テメエが能力の過剰な使用で体を蝕み自滅するのを待ってたんだよ。おおかたてめえは俺を黙らせるばかりに無我夢中になって意識してなかっただろうがな。要するにお前は最初っから俺の敵ではなかったってわけさ」

「フッ訂正しよう。大した奴だよ君は。・・だがまだだ。僕の野望はまだ・・・ 。 クハハハハハハ!!」

一ノ瀬は謎の台詞を残したまま灰となり風とともに散っていった。
空を見上げると上弦の月が静かにこちらを覗いていた。




一つの戦いが終わる。そして、これから。桐生は自分に残された「力」とどう向き合っていくのだろうか。彼の戦い(ものがたり)はここで終わりはしない。

まだ始まったばかりなのである。



第一部 「変わる日常編」 完

『求めていた「俺」』

『求めていた「俺」』 たいくん 作

如何だったでしょうか。 ひとまず第1部はここで完結ということで・・。少年桐生の戦いはこれから益々激しくなります。 それでは続きは第2部で。

  • 小説
  • 短編
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-01-12
Copyrighted

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