*星空文庫

詩  1

祐喜代 作

  1. 鵺ガ鳴イタ また鳴イタ
  2. 宝船にまつわるエトセトラ
  3. ある工員の備忘録
  4. そしてチャラになった
  5. めぐり地蔵
  6. チャールズ・チャップリンなんかはある種例外だけれども
  7. 西と東の境目で
  8. 今、額に銃を突きつけられて、この詩を書いています
  9. 徒花
  10. 無神論者の夜

鵺ガ鳴イタ また鳴イタ

      
月籠もる夜に 鵺が鳴いた

けぇーん、けぇーんと 鵺が鳴いた

どこぞの方から聞こえて来るの

あちらと思えばこちらもするぞ

「聞こえているのはお前だけだで」

たずねど連れには聞こえていない

月籠もる夜に 鵺が鳴いた

ほぅーぼぅ、ほぅーぼぅ また鳴いた

はてさてさっぱり姿が見えぬ

右は林で左は河原

「追えば獣の迷い道だで」

たずねどはなから連れなどいない

宝船にまつわるエトセトラ


宝船が見えたら死ぬという話を聞いて

僕はまた一人部屋でほくそ笑んだ

本来縁起が良いとされているものが死や不幸の方にベクトルを向けている面白さ

しまった、また非日常へ没我しちゃうなぁ

早く用事を済ませて風邪を治さないと抉れるぞ

曇り空の下で干した洗濯物がパタパタ鳴っている

白い帆をあげて

金塊やら米俵やらを積んだ七福神たちがゆらーりゆらーりと木船でやってきた

祭りで血が騒いだお爺さんはその船をどこかの町内の神輿だと思ったそうだ

それであの世行き

レーサーの業界ではタブーだ

なんで宝船なんだろうな?
なんで宝船なんだろうな?

僕はとりあえずその疑問に半日を費やしてみた

ある工員の備忘録


悲しい出来事ばかりが続いた工場がありまして

夜になると幽霊工員たちがせっせか、せっせか働き出すんだと

「定時まで帰らないと、見えちゃうよ♪」

なんて笑いながら僕にだけ残業命令を出す親切な工場長さんに、(十七回も自殺未遂したくせに……)と、舌を出して、僕は夜の工場内を一人見回りした

高度経済成長の残骸

いたるところが錆びてやたらと足音が響く

機械から漏れる水蒸気と天井から滴る雨水で工場内は湿気だらけ

どこからともなく幽霊工員たちが突然顔を出した

「君、青丹は作れる?」
「君、赤丹は作れる?」

作れません、作れません

「一人前になる気はある?」
「身を粉にして働く気はある?」

ありません、ありません

「お金は欲しい?」
「いくら欲しい?」

もちろんたくさん欲しいです

幽霊工員たちとの作業は朝方まで続くとのこと

そしてチャラになった


ずば抜けた学力を誇っていた男子生徒が
いざ受験になってカンニングを働いた

彼がカンニングをしたのは後にも先にもその時だけ

あまりにも出来すぎたので魔がさしておどけて見せたのだそうだ

彼は受験に失敗して数ヵ月後に教科書とともに飛び降り自殺をした

彼の汚名は払拭されすべてがチャラになった


学校一の美貌を誇る女子生徒が
いざ文化祭のミスコンになってスッピンを晒した

彼女が人前にスッピンを晒したのは後にも先にもその時だけ

あまりにも自分が美しかったので魔がさしておどけて見せたのだそうだ

彼女は恋人にふられ数ヵ月後にメイク道具とともに焼身自殺をした

彼女の名声は保たれすべてがチャラになった

めぐり地蔵


お葬式の時に大きな数珠を集まった何人かで回して、数珠についた小さな地蔵をぐるぐる流します


ドンブク・ブクブク。ドンブク・ブクブク。ドンブク・ブクブク。

ドンブク、ドンブク、ドンブク。

ハンテン・ドンブク。ハンテン・ドンブク。ハンテン・ドンブク。


数珠は念仏が唱え終わるまで回し続け、念仏が終わった時にその小さな地蔵に当たった者は次に家から死者を出してしまう人です


地蔵を抱えたまま旅の途中で死んだお坊さんが伝えた縁起の悪い遊び


僕のお祖父さんから始まって

昨晩酒屋の主人のところに流れていきました

酒屋の主人の次は板金工の若い男でした


数珠は今夜も回さなければなりません

チャールズ・チャップリンなんかはある種例外だけれども


喜劇を好んで駆使する者は

夭折を望んで人生に何度か自殺を試みる

その行為自体が既に喜劇を内包しているので

万一それで死んでしまった時の葬式は

ドンチャン騒ぎのカーニバルなんかがよく似合うと思う

反対に悲劇を好んで駆使する者は

長寿を望んで人生に幾度も徹底した健康管理を試みる

その行為自体が既に悲劇を内包しているので

首尾よく天命をまっとうした時の葬式は

押しなべてしめやかに喪に服すような弔いがよく似合うと思う

さて喜劇にするか悲劇にするかの篩いについては

左利きの者が概ね喜劇で

右利きの者が概ね悲劇とするのが最適だと思う

終わってみればどちらもさほど変わりはないのだから

西と東の境目で


仮物の教義に借りを還すように

大聖堂が歪み

大伽藍が軋む

真理と悟りは汚され

法王も大僧正も

盲目の人となった

永続的に続くであろう過ちに胸を痛めながら

西と東の境目で

キリストと釈迦は孤独を分かち合った

「私は磔にこれほどの苦痛は感じなかった」
「私も断食にこれほどの苦痛は感じなかった」

慈愛も悟りも伝わらなかったが

二人のか細い笑顔はあまりにも美しかった

今、額に銃を突きつけられて、この詩を書いています


堪忍してつかぁさい


誰彼が発したその言葉が妙に頭に重く響いた朝

件の警察官の制服とゲートルが

きちんと枕元にたたんで置いてありました


猟銃             姉の恨み  
   身代金              血の粛清


今日がその日なのです
非常にタイトでヘビーな一日になると思います
世の中の人はこの日を一一・一四などと呼んだりするのでありましょうか?
まこと気の毒な事であります

姉があの岸壁から海に飛び込んだのは昭和57年
月の綺麗な夜でした
木に彫ってあった姉のものと思われる遺書は
全て暗記致しました
軍人が辞世の句を詠んだような文言が壮絶でした
姉の葬儀はしめやかに私たち家族だけで執り行ないました

【ニセ警察官による職務質問】
          
     (毒ガスは楽園のような土地で作るのがよいとされている)


堪忍してつかぁさい


猟銃を磨き、猟銃に弾を込め、警察官の制服に着替えて、姉の遺影に手を合わせた今、誰彼が発したその言葉も非常に心地良いもののように思われます

徒花


のらりくらりと足引きずって

宣戦布告の墓参り

酒は持参せん

だってあんたは自分は人間失格だなんて

才能あるのに謙遜しなさるでしょう

酒に溺れたふりをして

また陽気に川に飛び込むでしょう

今日玉川には一輪の花が可憐に咲いていましたよ

愛でられるのを怖れるように

ひっそりぽつねんと咲いていましたよ

無神論者の夜


楽園は近かった

神は知らずに踊らされていた

僕らは原罪を望んだ

僕らは楽園から追放されたのではなく

僕らは楽園から立ち去った

猿が蛇に怯えるのは必然

それは本能の記憶が持つ

未来の戦慄を緩和させる精巧なシステムだから

僕らは楽園が物足りなかった

そして自ら原罪を背負う息苦しい道を選択した

途方もない遠回りを余儀なくされて

楽園は近かった

『詩  1』

『詩  1』 祐喜代 作

粕谷栄市氏の詩と町田康氏の詩に憧れています。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-01-11
Public Domain

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