生徒

朝起きて 布団を剥いだ


それで鏡に 自分の姿を映した


ああ 私はこんな顔だったかしら


朦朧とする視界の中で 密かにそう思った


でも それは 眼鏡をかけ忘れていただけで


私の顔が変わったわけではなかった


眼鏡は嫌いだ 私の顔や目 その他のたくさんの感情を


眼鏡で封じてしまうからだ


私が 私の持っている魅力がはっきりと伝わらないのだ


だけど 眼鏡もなにもつけていないのは好きだ


遠くの景色が霞んで見えて 汚いものなんてなに一つ映さない


全ての人間が都合よく 優しく微笑んでいるように見える


自分にとって きまりが悪くなるようなことは なにも見えないままでいるのだ


そんな無駄 いや 退屈なことを考えながら


私は眼鏡をかけて もう一度外して 顔を洗って また眼鏡をかけて


布団をたたみに行った


ふとしたとき 布団を折りたたむ時に 「よいしょ」と無意識に声が出た


私は こんな老いた婆のような言葉を発する女だったか


ああ この若さを保ってしても 内面は変えられないのだろうか


と  少しばかり 憂鬱な気分になった


今度からは気をつけよう


もっと気品のある女性になりたいのだ


私が 好きでそうなりたいからだ


嫌いを積み重ねて 好きを生んでいくんだ


私は 下品で上品のかけらもない女性が嫌いだ


何か濡れた雑巾を 頭に乗っけているようで 気が気でない


そうだ 私はこんなことを思う 性の悪い人間なのだ


だけど また 私は自分に嘘をつきたくなかった 嫌いだったからだ


他人からの好評を得るためだけに 自分を着飾るためだけに


偽善を働くようなことをしたくなかったのだ


だけど そうしなければならない場面はある


それは仕方ないのだけれど やっぱり自分らしくいたいと願った


その自分がどれだけ 汚い心を持っていようとも


悲しみに溺れることなく 常におなじ場所をキープして


年齢相応に生きていたいのだ


私だって 老いぼれになっても こんなにはつらつと生きる気は無い


老後は 静かに慎ましく暮らしたいのだ 独りで


こんなことを思ったって 一向も外にでれない


これほどまで辛いことがあっただろうか


そこでやっと私は 朝の食事を終えた



さあ これから地獄の日々が始まる

生徒

生徒

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-10

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