過カ現ゲ未ミの仕事

私は未来。

過去、現在、未来のミライという存在です。

あの、知っていますか?

現在という存在は、あっという間なんです。

光の瞬く間に過去に過ぎ去っていくの。

今この文字を読み進めるように 過去という空間に飲み込まれていき過去は積み重なる記憶となるのです。

難しいですかね?…それとも知っていましたか?

…過去という存在は、今という一筋の線を超えた時点で過去となり対なる向こうは未来となる。

過去は暗い部屋で 未来は明るい部屋なんですよ。

理由は簡単、過去の部屋?空間?どちらも同じですが過去には山積した記憶が詰め込まれ 光すら入らないほど とっ散らかっているのです。

逆に未来の空間?部屋は いつも空っぽで明るいんです。

…あ。ごめんなさい。部屋の話は単なるイメージを伝えたかっただけでして…完全にフィクションです。

つまりですね。

自分が選び起こした行動も、他人から与えられた影響も、ましてや木々から散りゆく落ち葉の行方さえも絶対現実であり、全ての結論は良くも悪くも平等に時に刻まれるのですよ。

その刻まれた過去を、命ある者は未来に踏み出す一歩の知恵とし、又、命無き形ある物は消滅のための鍵とする。

その知恵や影響は、時に無能であり、残酷であり、希望であり、食事である。

また…私は誰かの未来となる。又は、何かの未来となろう。

あ。意味不明ですね。沢山のことが意味不明なのです。
文章すらとっ散らかってしまいましたね。

未来…つまり私は、予測とは矛盾した世界にいるから、けして見えず、そして絶対に分からず、無限の答えを待ち続ける存在なので…上手く言えませんが…意味不明な存在なのです。

未来とは、命ある者にも、命無き物にも存在している。
それが未来。

私は未来である。

全ての先に存在する者なのだから…。

(だから…クマノ子よ…あなたの未来になれなくて…ごめんね…だって、あなた…溺れて死んでしまうんだもの…)

でも大丈夫よ。これからは腐敗するクマノ子の未来となるから…。

私はちゃんと腐敗しながら他の獣に食われるクマノ子を最後まで見ていた…。胃袋の中に入り栄養となり他の生き物の体になるまで私は、クマノ子の未来になった。

綺麗に世界から消滅した事をみとった次の瞬間には、私は1人の人間の未来となっていた。

ある嵐の日、1人の小さな人間が川に足を滑らせ落ちた。

まだ10歳の子供だった。

泳げぬ子供は簡単に溺れた。

必死ね…そうよね…必死になるわよね…。

(必死だけど…残念だわ…だってね、この川は…死んじゃうの…)

五分後くらいかしら…どうかしら…。

その子の先に私は立っていられなかった。

小さな人間は、死んだ。

ただただ抜け殻となり濁流に流れる小さな人形、その抜け殻が沈んだり浮いたり、木に当たったりする。

その全ての今より先に私は立っていて人形となった小さな人間が傷つき流れる姿を見つめていた。

ふと岸辺を見ると大きな人間が走りながら人形に向かい大きな声で叫んでいる。

大きな人間はこの子の父親だった。

男の顔はなんとも言えない必死な表情だ。きっと彼と分岐点を相談でもしているのだろう。

彼とは…現在という存在だ。

こんな時、命ある者は決断を迫られるのよね…飛び込むか?飛び込まないか?誰かを呼ぶか?呼ばないか?棒を探すか?探さないか?

そう…色々とね。

私はこの子の父親の未来ではないけど…ついつい男の決断を願っていた…。

あら…。

どうやら父親は分岐点を迷わなかったのだろう。

茶色く濁って捻れ暴れ狂う川に勢いよく飛び込んだ。

私はそんな彼の行いの先に立ちたいと強く思った。

未来としては失格な思考だけど…私は父親の未来にもなってあげることにした。

大きな人間は濁流に呑まれながらも人形に向かい必死で泳ぐ。

流れの強さで水を飲んでしまったり、流れてきた木に体を当てたりと、このままでは死んでしまいそうだ。

途中何度も私は消えそうになるが、父親は私という存在を離すまいと強く握りしめて決して離さない。

その父親からは、恐怖と絶望、そして人形となった子供との思い出が伝わってきた。

これが、この人間が私をここまで強く握りしめる理由なのか。

父親の記憶は、子供とサッカーをやったり、誕生日を祝ったりと優しい記憶ばかりだった。

それは、恐怖や絶望を超えた何かだ。

私は少し不思議だった。

彼の恐怖は自分が死ぬ恐怖ではなかったのだ。

自分が死ぬ恐怖より、子供が死ぬ恐怖を感じているようだ。

過去は消えない…それは思い出も同じ…という事なのか…。

でも何でだろう。

人間は未来の為に生きている。

人間は自分の未来のためなら、どんな残酷な事も出来るというのに。

未来という存在の私だというのに理解出来なかった。

父親はなんとか子供を抱き寄せると、最後の力を振り絞り対岸に泳ぎだす。

既に命の無い我が子を片腕に抱きながら。

(お父さん…気がついてるかしら…息子さんもう死んでるのよ…)

わずか5m程の距離を父親は溺れるように泳いでいた。

父親にとっての私は、意識が薄れていく。

それは父親の死が近い事を暗示しているのだ。私が一度消えた時、彼は死に、次に目覚めるとお父さんも人形となっている。

過去に何度も見てきたわ…同じ様な死に方を…私は無限と見つめてきたから…。

色んな未来をね…

そうね、私は…諦めるわ。

だって幾度もの未来を経験してきたのだから、こんな山奥の川で 町から離れた事故、私は決まって消えてきた。次に出会う父親は者ではなく物になっている。

私という存在は、無力でそこにあるだけの存在なのだから。

その諦めは現実となりそうだった。父親の向かう先に大きなヒグマが待ち構えていたのだ。

ヒグマは、右往左往しながら父親を興奮しながら見ている。

ヒグマの鼻からは白い息づかいが漏れ出していた。

前途で述べたように、全ての先に私は存在すると言ったが、なにも人間に断定した事ではない。

勿論ヒグマにも未来はあるのだ。

この寒い季節は山の恵みが減り人里に下りてくる。あのヒグマもきっと今という分岐点にいるのだろう。

食べるか?襲うか?待ち伏せして襲うか?子供から食べるか?大人から食べるか?

いずれにしても分岐点の先に存在する私が見るものは肉だろう…。

次の瞬間、ヒグマは川に飛び込んだ。獲物を狙って濁流を器用に泳いでいる。

(あらあら…待ちきれなくて襲いにきたのね…)

そして父親の腕に噛み付いた。

父親は叫びながらも我が子を離さなかった。

ヒグマは岸に向かい親子を引っ張りながら泳ぎだす。
理由は簡単だ河原で殺し食べるためだ。

その時、ヒグマの未来が私に話しかけた。

驚きですよね…。このヒグマね昨年この川で子供を失ったのですよ。ちょうど こんな嵐の日でした。どんな未来を選ぶのかと思えば…分岐点は直進したようですね。

ヒグマの未来はクスクスと笑うと、慌ただしくヒグマの未来に戻った。

私は会釈すると無言で見届ける。

ヒグマは岸に上がると、父親の腕を離した。

父親は我が子を守ろうと仁王立ちして手を広げた。

しばらくの間ヒグマと人間は目を合わせたまま動かなかった。

私には分かっていた、父親は逃げるにも逃げられなかったのだと。
もはや立っているのがやっとだったと。

最初に動いたのは父親だった。雨降る中ヒグマに叫んだのだ。

たった一言だった…

私は驚いて呆れた。

だって…お父さん馬鹿なんだもの…。

(…ありがとう…)

その声は山間に響き渡るほど大きかったが、結局は雨風で消え去った。

私は未来、その先を知りたいわ…。

雨のせいか、私には両者泣いているように見えたのだ。ヒグマは少し離れた場所まで後ずさりすると座り込んだ。

森には戻らなかったけどね…。

父親は息子の息がないのを知り必至に心臓マッサージを繰り返している。

ずぶ濡れの携帯電話を取り出すも無駄に終わり、父親はヒグマの見るその前で叫び泣いた。

(しょうたー!!…)

その叫び声に反応するかのようにヒグマは 雨降る天に小さく叫ぶと、突如起き上がり父親に向かいゆっくりと歩いていく。

父親は、再び仁王立ちした。

ヒグマは父親の前で頭を低くする行動をとり弱く鳴いた。

父親は、恐る恐るヒグマの鼻を撫でた。

そして父親は言った。

(俺も…俺も食べてくれな…)

自ら選んだ決断だから私は良いのよ…。

大丈夫よ…

ちゃんと最後まで見ていますから…。

父親はヒグマに道を譲って子供の横に寝そべった。

その顔には激しい雨が当たり苦しそうだ。

ヒグマは子供の前まで来ると、大きな手で子供の胸を叩いた。
胸からは爪が当たり血が滲み出る。

父親は体をブルブル震わせて目を開けず寝転んでいる。

(怖いわよね…食べられるのを待つって、お父さん…膝を震わせてるわ…でもね大丈夫よ、大丈夫だから…)

何度か鈍く低い音で子供の胸を叩いた後、ヒグマは父親の瞼に溜まる水を舐め飲んだ。

父親がゆっくりと目を開けた時…

開けた時…

ヒグマの姿は森の霧が晴れる様に消えていた。

次の瞬間、私は…少年の…未来となっていた。

(…そうか…あのヒグマは…)

私も、まだまだだ…。

終わり。

過カ現ゲ未ミの仕事

過カ現ゲ未ミの仕事

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-10

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