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※此の話は酷く残虐でありグロテスクな表現が含まれます。苦手な方は回れ右を。此処から先は自己責任となっております。



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之は少女がまだ施設に入っていた頃の話.少女が十つ程の歳だった頃だ.





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彼女達,実験体.否,其処ではExperimentalの略,Exと呼ばれていたそうだ.Ex達の朝は早い.朝四時に起床し身支度,朝餉等を済ませれば直ぐに勉強を開始する.その間喋る事は許されない.勉強をして約五時間経った後各自の予定に分かれる.此処からの時間はEx達にとって唯一の楽しみであったとも云う.音楽や裁縫,武術に射撃.各分野に程よく人数が散らばった中,或る分野だけ一際人気が有った所がある.戦闘だ.場所は地下の広いコンクリートで出来た所だ.必ず何処かの分野には行かなければならなく,もしサボりでもしていたら鞭で叩かれ堪ったものじゃない.

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各分野にはそれぞれ教官が五名程居た.だが戦闘においては二十人も居たという.どれだけEx達が暴れていたのだろうか.多くのEx達が居る中,いつも端に座ってぼうっとして居る少女が居た.教官は最初こそは鞭で罵ったが,少女は表情を一切変えず微動だにしない.教官は疲れたのか.どうせお前はあの試験に落ちる.呆気なく死ね.と言い諦めた.少女は何時も何処かを眺めていた.其の目に無論光は無く,ただつまらなさそうにしていた.

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就寝時間になると必ずと言って良い程殆どのEx達は友達と小声で話していた.教官達もせめてもの情けなのか見て見ぬ振りをして居た.深夜は教官達のようやく一息付ける時間だ.朝から夜迄ずっと監視をするという仕事は案外辛いもので.中には子供が好きな教官もいる.其の人は鞭で叩く事さえするが,深夜に泣きながら愚痴を零す人もいる.昼間に声に出せば上に聞かれる.もし聞かれれば即処分されるのだ.

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そして月日は流れ,試験が始まった.先ずは筆記試験.試験時間は約一日.何千もの出題だったらしい.総合得点は2000点.1900点以上取れなかったものは即処分となった.処分と云うのはつまり殺める事である.其の行為は教官が行った.合格点に届かなかった全員に睡眠薬を飲ませ同じ部屋に入れ,全員に青酸カリを呑ませた.本人達はそれが毒だとも知らずに安らかに逝った.亡くなった人数は総人数の約三分の一以上.凡そ千人程だ.

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日は過ぎ,最後の試験が始まろうとしていた.最後の試験とは,殺し合い.残った人数は凡そ二千人.先ずは二部屋で千人ずつ.次に生き残った者達二百名程で最後の夜を迎えた.最後の夜は皆泣いていた.罪悪感,憎しみ,そして明日には自分が死ぬかもしれないという恐怖.殆どの者が可笑しくなったそうだ.正気をなくし,ただ嗤っていた者も居るし,自害した者もいる.だが,一人だけ自分を喪わなかった者が居た.そう,あの少女だ.彼女は律儀にも就寝時間になると直ぐ眠り,起床時間になると直ぐ起き.今考えればその時点で選ばれるのは彼女に決まっていたのかもしれない.

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そして,最期の試験が始まった.見れば,少女は何も持っていないじゃないか.殺られそうになったら対応する,という形式だったのだ.あるExが包丁で少女を殺そうとした.無論少女は直ぐ包丁を取り彼の胸に向けた.すると包丁を奪われたExは言った.







_____まだ生きていたい.死にたくない_____







_____俺は昔の記憶が有る.小さい頃は幸せだった.俺は一人の弟と婆ちゃんと住んでいたんだ.お婆ちゃんは歳とってくる癖に働き者で,何時も俺達の為に一生懸命だった.寝る間も惜しんで内職をして.時にはクレームも来たさ.借金取りも来た.婆ちゃんはただ頭を下げてた.俺のせいだと思った.だから俺は此処に来た.知ってるか?此処の実験体になる代わりに,家には何千万も払われるんだよ.お前の親だってきっと金が目当てだ.俺はもう一度外の世界の出て,婆ちゃんに会うんだ.だから頼む,生かせてくれ…_____






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少女は無慈悲にも包丁を突き刺した.一回で逝ける様に急所を狙った.ザク,と不快な音がした.逝った彼の顔は苦しんでいた.まるで絶望している様な.少女は律儀にも自分の白いハンカチを顔に乗せ,隅へと運んだ.少女は辺りを見回した.辺りはまだ殺し合っている.その者達は狂気に溢れ,此の世のものとは思えない程だった.斧で首を刎ねる者も居れば,後に回り込み縄で首を絞める者も居た.冷たい床には真っ赤な血が流れ,紅い臓器は排水溝の方へ流れていっている.少女はその時微かな感情を取り戻し,此の光景を忘れてはならないと心に決めた.例え死んだとしても,だ.

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少女は上に対する憎しみが溢れて止まらなかった.そして少女は我を忘れ,残酷にも斬り掛かった.部屋__否,牢屋は悲鳴で溢れていた.ザク,ザク,と少女は泣きながら何度もEx達の心臓を刺したという.後から聞いたんだが,彼女は色が見えないそうだ.だとしたら此の光景は何と悲惨なものなのだろう.

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気付けば最後の二人になっていた.少女とある小さな男の子だ.彼は見るからに軟弱で,戦闘など縁が無さそうに見えた.だが此処迄生き残って居るという事は余程の実力者か,もしくはただ運が良いだけなのか.暫くして彼は言った."少しお話しませんか"と.少女は其の誘いに受けた.

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聞けば其の彼は先程少女ご殺った弟だと云う."兄を殺した貴方は許せませんが,何れ一人になる運命なのだから,しょうがないですよね.___貴方は,此処を嫌だと思った事は無いですか?"と何とも和やかな雰囲気で,二人は死体の無い床に座って話した."私は物心付く前から此処に居たから,思った事は無い.__と思っていたが,君のお兄さんと話して初めて此処が嫌いになった."表情を変えずにそう述べると彼は苦笑しながらも言った."僕の自慢のお兄ちゃんなんです.__此のまま貴方と闘っても僕が負けます.だから,之を持っていてくれませんか."そう言うと彼は少女に海の写真が貼ってある小さなペンダントを渡した.大切なものだという.少女はそんな物貰えない,と言い彼に返そうとした時だった.






__________ザクッ__________






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彼は不意を狙って少女を刺した.不覚にも横腹になってしまい急所は外したが,彼は何とも嬉しそうな顔をていた.そう,彼は演技をしていたのだ.其の時初めて少女は悲しみと云う感情を知った.そして彼は少女に覆い被さる様に押し倒した.少女の頬の真横に包丁を突き刺し動けない様にして,満面の笑みで少女を見下ろした.少女は酷く悲しみを知った.そして彼の兄が持っていた包丁を拾い,満面の笑みの彼の心臓を刺した.其の目には涙が映っていたと云う.











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数時間後,地下牢へと教官が来た.そしてあの男と対面する事になる.

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-05

Copyrighted
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