碧い花、 初

碧い花たちは、 初回

私鉄沿線、といやー、都会の中の我が庭!
池上線長原駅、大正初期に建てられたとは!道理であっちもこっちも田んぼのあぜ道の名残りか、裏途(みち)いっぱいな格好、新旧建物のゴチャゴチャ感、返って親近感を醸す。
広くない通路両側に競い合うように並ぶ建物それぞれの古参顔やら若い顔やらが親しげに交じり合う渋い商店街を抜け。

右に目をターンすると、グワーンと開ける地と天が重なる一対の風景、急こう配の下り坂、急斜面な登り坂が浮き現れて。
登りきったこの所までわずか6分、静かな住宅街、いさぎよく、天にそびえる十字架の塔。
この丘から見下ろす下界に大きな池がどっかり水面(みのも)を広げる、名は小池です、オシャレな住宅、風雪の中生きて来た家屋、面々が取り囲む。

ここ長原教会、毎水曜日に午後七時から聖書研究祈祷会が催され、なかに中高生らも交って、こざっぱりとしたいでたちの少年、真、多感な中2生も今日ここに加わっていた。
やがて礼拝のお祈りが終わると、アーメン(確かに!)と唱え待ちに待った解放感に合わせ、回ってくるおさいせん袋に、真は、百円を入れこの礼式を完としていました。
神様に失礼でしょ、10円なんて!と母が言うからでした。

バカやろー!こんなに云っても分からんのか!バッシ!
親だからって僕は奴隷じゃない!僕には僕のやりたいことがある!

この子の気持ちもあるでしょ!なにもこの子が継がなくてもいいじゃありませんか!それよりあなた、身体にも障るからもう止めて!
止めに入る妻はなさん。

この山元喜蔵さん夫婦、アメリカ留学・労働・布教を経てこの地に帰国し、自宅を伝道所として1932年(昭和7年)10月開設したのがこの教会の始まりと聞きます。初代長原教会牧師となって、その功績に多大な足跡を残すことになる。

殴られ腫れた顔に、今日も、冷たい手ぬぐいをあてる息子。
この後しばらくし、家を出、苦労の末に都立大学(現在名、首都大学東京)教授にまで登りつめました。


やだー!やだぁー!やめてー!必死な叫び!逃げ惑うが掴まれ押し倒される子。
カタン、と母の返ってくる玄関ドアの音。
父は半裸姿に手を遣ってた腰から離す。
娘は身づくろいをする。
この家族たちも暮らすこの地。


駅舎に向かい右は、JR五反田を経て銀座への道一直線、左方は東京都民飲料水の水所、大河川多摩川に通じる街道、それらに位置するローカル線の駅です。

自転車で銀座まで行ってみたーい!

馬鹿か!チャリで!

シンくんらしい。

男子女子二人から入れ換わり返事が返って来たことがありました。

この水曜礼拝後、名目は聖書研究会としているが、真っ白なバスケットシューズにご丁寧に前後左右にラメ入り、ダメ押しにミサンガを両腕に十本程も付けてる三個上の自称男前さんも、男前とは程遠く。

立った姿はお互い、目線が同じ高さまであと少しに来てる、だか相手には云いようのない貫禄がそこに。
ミサンガさん高2の目当ては一個下の女子、みんなが知ってる。ターゲットは大場佳菜さん狙いの神所暮らしを好む水曜日主さん。

夏も過ぎ、陽も短くなり、教会の影も長く、秋の気配が日に日に忍び寄る、やがて、晩秋深くになるにつれカナさんの美しさも、深く胸へと忍び寄るように。
こんなにも近くでカナさんの空気を共にする研究会はまさに名の通り愛を研究する会、席はいつも三メートル離れていました。ミサンガさんが1メートル内をキープしているためでした。

真の胸のうちに深まる彼女との距離差が近づく日がやってきました。
長原駅前広場、盆踊り大会、あぁ~~そ~~れぇ~~~♪の囃子リズムに乗って浴衣姿のカナさん。半円形に囲む屋台の一角、Goldfish(金魚)釣りをしてる姿、待って!待ってた!ついにスペースが空いた!思うが早くポイを手に隣へサッと滑りこみセーフ!
気付いてくれてない、気付かせなくちゃ。

おっしい!見て!
ポイの紙が張ってあるほうが裏、張ってない方のこれが表!これを上に、上の方に近寄って来る、大きいのは避けてちっちゃいのを、ゆっくりとさっと、すくうとね、ほら!またゲット。

ワオー、スゴ!
カナさん、メッチャ笑顔。やっと話せた。

ちゃうちゃう、追っちゃだめ、ポイがやぶける、ね!見てて、ほれ!来た来た、向こうから近付くのを!そっと素早く、ね!ゲットしたろ。

なーるほど、そんなに浸けといていいんだ、破れるかと思った・・・・・・。
浸けたままにしておく方が紙繊維の強度が増すんだよ、その時は動かさないでジッとね。やってみて!

ついに生手にも触れました。温かったぁ。自然を装ってワザと触れたんだけど。

カワュー!
云ってみた!云うと直ぐに目先は別へ。

シンくん、頭良いよね、かっこイイ、かもー。

きっと、互いの心うちで、それぞれ、そう云ったにちがいない。

商店街の特賞3万円、大田区内共通商品券は当らなかったけどGoldfish が招いてくれたGold記念日になりました。

これ!・・・・良かったら、カナちゃんに!
差し出す焼きそば。やはり現れましたか、顔を見なくても腕で直ぐ分かる、無駄な数のミサンガさん。

ありがと。

なぁ、見せたいのがあるんだ……モゴモゴ。

引きずるようにカナさんを持って行かれました。
連れだって行くカナさんの友だち結夏さん、こっちを時たま振り返りつつ、右にならえ!


学校帰りに、最近よく話すようになった豆腐屋さんのとっくんちから、じゃ、またねー!と商店街を抜けようとするその時。

オー!相変わらず威張って歩いてるな、食べるかい?
トリ吉の源さんでした。結夏さんのお父さん。

間口狭いお店の裏庭、猫の額ほどの一筆のスペース、屋外用テーブルにイス、所々色は剥げ錆も、が、広く感じ落ちつく一角でのご馳走、切れはしの照り焼きに、甘辛サツマイモ、これがうまいんだなー!
そこへ部活から帰宅したままのジャージ姿のゆかさん。

今日、隣のクラスの進藤くんに告られちゃった。

あー、あの先輩、日替わりでいろんな女子を口説いてるらしいよ。
この進藤先輩の弟が真の学校の同じ同級生。

知ってる。だから云ってやったわ。
うち、一筋じゃない人、無理、って。

ハッキリ云ったね、それで何て云って来た?
え、どういう意味?だって。知るか!

そう云うと同時に。
お母さん!私も甘辛のー!
ポイポイ、口に放り投げる。

ホレ!揚げたてソースメンチだ!
直径二センチはあろうかという程のぶっとい指、これに載せられた皿の上でジュジュウ音に合わせ湯気が立って。
あっつっつっ!フゥーフゥー、バリバリ、立ちどころに喉を通って無くなる。残ったのは口の横に付いたソースだけ。
一口残した皿を下へ置く、さっきからすりすりして来るあっちゃんのためでした。口を左右に小気味よく動かしながら、これまた、瞬く間にペロりと。
この界隈ではボス筆頭らしい、威嚇するときの声がニャンゴ―グワッー!ではなく仔猫の時からアァーーッアッーアッーァ!と甲高く長くつづく雄叫び声をあげることからあっちゃんの名が付きました。
・・・・・・・確かに!進軍ラップは甲高いです。

碧い花、 初

碧い花、 初

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-05

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