*星空文庫

儚みて

ビターチョコレート 作

  1. 一、はかなみて……
  2. 二、冷めた雪
  3. 三、凍てつく星
  4. 四、眠る木々
  5. 五、冬の海

月の揺らぎで精神が不安定になる日には、世の穢れに嘆き、日本本来の美しさに悲しくて涙が出た。
今の日本人は日本の心を忘れてしまった者が多い。嘆かわしく、人間とは愚かなものである。無下に貶された怒りの心を鎮めることが難しい私も。
しかし忘れてはいけない。決して。奥にある本当の”心”はそこに居てくれている。小さな頃から育んだ小さなものへの愛情や真心も。それが真実。
美しい心を癒していく。

一、はかなみて……

白い桜の蒸せる先 満月はようように冴えて花びらを透かすけれど
降りしきる甘やかな薫りをば この身に染みさせて
平安の貴族も愛した吉野の里で 永く続いた日本の心の美しさよ
それが今にも世の穢れに儚みて 降りしきるようで 私は泣いてしまうのです
桜色の灯篭揺れる 花びらに染む撫子色よ
優しさも染むならば苦も無いのに
今生の忌まわしき言葉や心持ちなどは全て 全て埋もれてしまえ
美しい花びらが積もることさえ花びらが愛しく哀れとも思うから
私はそれなら砂をかき集めて穢れの上に被せるだろうか
それともこの地から剥ぎ取るだろうその苦しみの根源を
そして本来の日本の心だけを 大和の心を土に染む
それならば 無碍な言葉にも桜の下の骸は邪魔もされず
桜の栄養となった肥沃の土地に静寂の白骨となり眠れるだろう
根に骨を抱かれて 美しの国を 清らかな心を彩らせるのを ただ見る
夜の闇に紛れて土から妖齢な桜の横に 何にも穢されぬ誰かの幽玄が浮かぶ

二、冷めた雪

雪の白さと柔らかさよ
結晶を身に纏い舞うおなご
白んだ月は大地を照らす
全てを隠して密やかな声さえも無音のようにするけれど
雪に隠れたものも発された声も 雪は知っている
つまびらかに知っている
結晶はその形を変える前に眠るだろうか
そして吹雪に闇に消え去って
降り積もって押し潰れてしまうと
あとは静かな夜が流れる純なる夜よ
吹き流れる粉雪は月光に結晶を白く浮き上がらせる
もう何も無いただ雪と闇と月光の夜
木々は冬の眠りに入り
動物たちは身よ寄せ合うか冬眠している
どこかに色づく実は光り
静かに雪が触れてゆく
夜気に包まれる夜は
凍てつく樹氷の森はダイアモンドダストをきらめかせ
深い森は動物たちの住処
冬になる前に一年の生命を絶えた昆虫も儚みて命を身に変える自然の巡り
ただ生命を全うする昆虫の清らかさ
終わった生命を食されて栄養となり
または大地へと還り木々の栄養となる
自然界の美は確立されたもの
そのままに続くもの

三、凍てつく星

闇だけでは無い 夜の空はあまりに絢爛に星が輝くから
星の一つ一つは古の人に名はつけられてはいるけれど
あの青白い星はなんと美しい夜空の飾りだろう
まるで乙女がその黒髪にそっとつけているような
まるで乙女のとざす瞼を濡らす涙のような
または微笑みひらかれた瞳が光るような
そんなあの星を
真冬の空にささやかにそこにあるあの星よ
冬に巡る 巡る星
誰かが架かっているのだろうか?
それは心の悲しさだろうか
いつも世を儚みた哀しみのときも見上げて
見つけては微笑む
かすかな星は心のよりどころ
この身は夜空に飛んで行き
そして星屑とともに踊るような情操
全ての星はクリスタルで神聖な音を鳴らす夜の女神の楽器のよう
星から星に弦がかけられ爪弾けば
青い地球の悲しみ癒せれば良いのに
星は見つめる 悲しみくれる乙女の背を
そしてささやかに光る 見つけて微笑んでくれるように

四、眠る木々

冬は静かな季節
雪に閉ざされ 木々は冬眠に入っている
雪の下の養分は凍った土とともに積み重なり眠る
ごうごうと風と雪は静寂を掻き
吹き溜まりの形を幾重にも変えて
しまいには深い雪の場所にする
恐ろしくゆるやかになる水脈を抱えた木々は眠る
木の幹に動物の巣を抱きながら眠る
夜の遠吠えや鳥の鳴き声
そして何種類もの雪の小さな小さな大きな大きな足跡
毛並みは雪に紛れる
白い雪をまとった木々は眠る
時々雪の重さに葉の上からぼとりと落として
山のどこかに湧き出る天然温泉の小さな小さな岩陰で
動物たちが湯につかる
その周りの木々は眠っておらず湯気を覆うように囲っている
丸い夜空の星は湯気か星雲かにさらさら流れて
冬の木々は眠る

五、冬の海

荒れ狂う冬の海
吹雪がごうごうと海面を打ち冷やす
水煙を煙らせて白く霧けぶる
切り立つ崖に打ち付ける波飛沫と雪と
崖の鋭い溝に入り込み染み付く雪の白さよ
吹雪になぶられて岩肌を晒して飛沫さえも凍らせる
崖の上に群れをなす海の鳥は羽毛を吹雪きにそよがせて
鋭い目で海原を 曇りの天を 灰色の水平線を見る
吹雪を頭に乗せては風がさらさらと雪をさらっていき
ふっと大きな羽根を広げて海原に飛び立つ
凍てつく風を切り冬の空を悠々と飛ぶ
真っ白い崖の上の雪も吹き積もり
雪を被った林の木々も風に揺れて潮風を受け海を囲う
冬の崖に打ち付ける飛沫がごうごうと
冬の唄を奏でる 風の伴奏 爪弾かれる葉掠れ 鳥の歌 雪の舞い
青い地球の奏でる冬の音楽
吹雪がうねる空
厚い雲の下で 低い空で 海原で雪は踊る

『儚みて』

『儚みて』 ビターチョコレート 作

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2018-01-03
Copyrighted

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