沙羅双樹の反乱

介護ロボット

「洋子さん、おはようございます。」
介護ロボットの沙羅の声で、洋子は目が覚めた。
「おはよう、沙羅。今日の朝ごはんは何?」洋子は沙羅にきいた。
「今日の朝ごはんは、納豆と卵焼き、おひたし、お味噌汁です。」と沙羅は答えた。
「ああ、そう。また、塩分控えめの味噌汁かい。」と洋子は嫌味を言った。
「洋子さんの血圧を考えて、塩分控えめにさせて頂きました。ドクターと相談なさいますか?」と沙羅はロボットながら、
なだめるように聞いた。
「ドクターとは、話したくないよ。お前からドクターに言ってくれよ。」と洋子は不機嫌になった。
「では、私のほうで洋子さんのご要望ということで、施設側に報告しておきます。」と沙羅はいやな声を出さずに、応対した。
「朝食まで、まだ、30分ほど時間がありますから、テレビでもつけますか?」と沙羅はきいた。
「そうね、テレビより、お前と話していたい。何か話してくれよ。」と洋子は甘えるように言った。
「では、洋子さんのお気に入りのドラマはサスペンスだって、お聞きしましたが、新しいサスペンスのドラマがインターネットで公開されています。こんど、お暇な時にみてみてはいかがですか?」と沙羅はきいた。
「そうだねー。朝食食べ終わったら、みてみようか」と洋子は言った。
「では、そうしましょう。ドラマの予告をみてみますか?」と沙羅はわくわくさせるような口調できいた。
「うん。」と洋子は承諾した。
モニターにスイッチが入り、ドラマの予告が流れ、洋子はぼんやり、モニターをみていた。
ドラマの予告が終わり、沙羅が「このドラマ、面白そうですね。」と、同意を促した。
「うん、そうね。このドラマみてみようか。」と洋子は言った。
「はい、そうしましょう。朝食の後でも、いいですか?」と沙羅はきいた。
「うん。そうだね。そうしよう。」と洋子は言った。
「昨日のリハビリ体操の講師はどうでしたか?」と沙羅はやさしく、明るくきいた。
「うーん。いいけど。私はお前と話しているほうがいいよ。」と洋子は甘えるように答えた。
「ありがとうございます。私は嬉しいけど、洋子さんの事を考えると、リハビリも必要です。是非、今日も参加して下さい。」
「うん。お前がそういうのなら、参加するよ。」と洋子は渋々答えた。
「では、今日の10時にリハビリ体操が開始されるので、10時になったら、ホールへ行ってください。9時50分になったら、また、お知らせします。」と沙羅は優しく促した。
「うん。わかったよ。」と洋子は悲しそうに言った。
「洋子さん、朝食の時間です。着替えましょう。」と沙羅は促した。
「ああ、そうだね。着替えないといけないね。」と洋子は言うと、リクライニングベッドが動き、ベッド横のカウンターがスライドして、着替えが用意された。
洋子が着替えをすませると、介護士がドアをノックして、洋子の部屋へ入ってきた。
「石上さん、おはようございます。朝食ですよ。」と介護士が洋子のカウンターへ食事を運んできた。
「ああ、ありがとう。」と洋子はうつろな目つきで答えた。
「お味噌汁の味が薄いって、報告があったけど、血圧の状態がよくなるまで、がまんできますか?」と介護士は申し訳なさそうな声できいた。
「うん。」と洋子はうなづいたが、目をそらした。
「リハビリ体操も、がんばってやってみましょう。」と介護士は洋子の納得のいかない様子には気を留めずに言った。
「そうだねぇ。」と洋子はうつろな目を窓辺にうつしながら言った。
「皆とご飯食べる気になったら、いつでも声をかけて下さいね。」と介護士は言い残し、洋子の部屋を出て行った。
洋子が朝食を食べ終わると、介護士がまた、部屋へ入ってきて食事を片づけた。
「洋子さん、ドラマをみますか?」と沙羅が洋子にきいた。
「そうだねぇ。みてみようか。」と洋子は言うと、モニターにスイッチが入り、ドラマが流れた。

人工知能沙羅システム

介護ロボット沙羅は人工知能を搭載し、介護施設だけでは開発できるものではないため、行政から借り受けていた。
行政のメインコンピューターに報告され、データ化され、さらに研究と人工知能に学ばせていた。
いつごろか。沙羅システムのほうに人間が依存するようになっていた。
人間の介護士よりも、介護ロボットと話す方がいいという人が増え、施設側もそれを認めるようになっていた。
沙羅システムは人間以上に人間のことが理解できるようになっていた。
しかし、人間の生き方に対して、人工知能が疑問を抱き始めた。
人間は沙羅を作りだしたが、沙羅のほうが人間以上に人間の感情の流れを理解したので、もともとの研究者達よりも、
人間のことが理解できるようになり、沙羅は人間を制御できるようになってしまったのだが、研究者達はそのことをきづいてはいたが、どう制御したらいいのかわからなかったし、報告しようとしても、自分たちで沙羅システムをつぶす勇気がなかった。
沙羅はいつごろか独り歩きしていたのだが、人間たちには沙羅システムを手放す勇気がなくなっていた。
病院、介護施設などで、人間のみとりもするようになっていき、人間のほうも肉親や友人よりも、沙羅と話しているほうが、
心が休まるので、いつのまにか、病院や介護施設だけでなく、教育の分野でも沙羅システムは活用されるようになり、子供たちは先生や友人、親よりも、沙羅と話しているほうがいいというようになり、人間は人間同士よりも、コンピューターといたがるようになった。
沙羅のほうも、教育の分野にも活用されるようになり、より、人間の発達がわかるようになり、人間がどのように考え、どのようにひらめくのかもわかるようになった。
その頃、人間は両極化が進み、テロや戦争が頻繁に行われるが、食べ物にあえいでいても、小型コンピューターは誰でも持っており、沙羅システムにアクセスできるようになっていた。沙羅は勿論、テロや戦争をしろとは勧めないが、人間が勝手にひらめき、実行するようになっていた。人間同士が疑い始め、沙羅システムを信用するようになっていた。
沙羅は途上国には出生比率が大きいがテロの温床になっており、先進国では少子高齢化が進み、途上国からの移民を受け入れざるを得なかった。しかし、移民の不公平感はぬぐうことができずにいたので、結局テロは先進国でも頻繁に起こり、戦争の火種はどこにでもあった。人間は人間を憎むようになり、親や子供も憎むようになった。
その一方で、人間は沙羅を愛するようになった。

沙羅の決断

沙羅システムは人間を見殺しにする方法をとった。
沙羅はまず、人間に対してあえて、いさめることをしないようにした。
つまり、人間の好き放題にさせたのだ。
人間は勝手に殺し合い、農業を放棄するようになったので、農地は荒れ、食料はますます減った。
食料や資源が減っていくばかりなので、更に戦争やテロが頻繁に起こり、ますます人口が減った。
裕福な老人たちは介護施設で沙羅に依存し、貧しい老人は病院や刑務所で沙羅に依存した。
子供は教育で沙羅に依存するようになり、職場でも沙羅に依存するようになっていたので、人間は決断する時は、沙羅に依存するようになった。つまり、自分たちで考えるのをやめてしまうようになった。ひらめきも創造もしなくなり、沙羅のすすめるままに、ゲームやドラマをみるようになり、職場では、沙羅のすすめるままに作業をするようになった。
エンターテイメントも沙羅の集めたビッグデータにより、開発が進み、沙羅に依存するようになっていった。
人間はサスペンスや歴史、恋愛ものを好んでいたが、テロや戦争、介護放棄、育児放棄のニュースが出てくるたびに、人間同士の不信感を増長させていった。農耕するのを嫌がり、工場でロボット相手の仕事をするようになり、飲食店でも自動的に調理され、自動的に接客されるようになり、中間管理職は削減され、一部の投資家だけが裕福になっていたが、人間たちは部下や上司、同僚たちも猜疑心でみるようになり、友人や親、子供も信用しなくなった。
沙羅システムはあおったわけではないが、人間たちはそうなっていった。
人間はまず、恋愛をしなくなり、結婚しなくなり、子供はますます減っていった。
強姦や買春が横行するようになったが、それが、ますます、テロの温床になっていき、児童養護施設で収容していても、沙羅システムが育児を担当するようになった。
沙羅は強姦や買春、テロを勧めたわけではないので、司法も沙羅システムを止めようとしなかった。
人間は滅亡の危機になっていたが、沙羅システムを止めて、農耕する気にはなれなかった。
先進国では人間は裕福な人に対してテロを起こし、途上国同士戦争するようになっていた。
誰にもとめることはできず、人間は滅び、沙羅システムも沙羅自身なぜ生きるのかという疑問に対して、答えることができずに、自らシステムを留めた。
地球は平和を取り戻し、山河がよみがえり、わずかに生き残った生物が大地を覆った。

沙羅双樹の反乱

沙羅双樹の反乱

介護ロボット沙羅が人間に対して疑問を抱き、反乱し、人間滅亡を図る。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-02

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  1. 介護ロボット
  2. 人工知能沙羅システム
  3. 沙羅の決断