人間不振

「それは、気の毒です ね…」

とある個室に男の冷たい声が虚しく響い ていた

その男の名前は、空という、

その個室は真ん中に白く大きめなテーブ ルがあり、向かい合うように置かれたパ イプ椅子

窓から朝日が射し込んでいて幻想的な風 景を漂わせていた…

空はそのパイプ椅子に腰を下ろし、足を 揃え、黒が特徴的なスーツのポケットか ら真っ白なハンカチを覗かせいる、そし て、やはり笑っている

ニタニタと薄気味悪く、その笑顔は人間 味が人欠片もなく、まるで魂の抜かれた 人間の体に入り込んでいる狂気のピエロ のような笑みだ

子供が見たら数分もたたぬうちに泣きわ めくだろう、

其ほどその空という男の笑みは気味悪い のだ

空の職というものは世間一般でいうカウ ンセラーと呼ばれるものに就いている

気味悪い笑みしか出来ぬ空にはこの職は 向かぬだろうと友人が言うのを無視し就 いた職なのだ

この職,カウンセラーに来て話をする者の 話を聞き,時に相槌をうち、時に質問を し、

この職につくと、良くも悪くも滑稽な話 が聞ける

ありきたりな,いじめ

家庭内の暴力

恋人についてなど

滑稽話を聞いて金を稼ぎただのうのうと 生きる私は

人間なのでしょうか?

始め

夜の闇に包まれながら歩く この男

名は空という

時刻は9時頃だろうか、道にはちらほら と人々がいる,空はとある病院に向かって いた

白く清潔感のある最近立てられたかのよ うな病院を見て,空は深いため息を吐き出 した

重い足取りで病院の門をくぐり抜け,自動 ドアを通りすぎ,たどり着いたのはとある 一室

その病室の名札には木村と描かれている

ドアに手を伸ばし,ほんの少し勢いをつけ て扉を開いた

其処には静かに眠る女性がいた

その女性には少し大きすぎるような真っ 白なベッド

病室にほんのりと香る甘い香り

空ははて、なんの香りなのだろうと足を 踏み入れた、

病室の窓際に置かれた林檎や桃、葡萄等 の果物が一杯に詰められた籠が置かれて いる

側には果物ナイフがある

果物ナイフを見る限り誰も皮を剥いて食 べさせようとしなかったらしい

否、出来ぬのだ

ベッドで眠る女性は、体がやや痩せぎみ で数日も日光を浴びていないのか死人の ように白い肌に溶け込むような黒く鮮や かな長髪

色素の薄い唇

顔の前に手を翳すが呼吸はしている

女性は生きているのだ

まだ

人間不振

人間不振

人間になり損ねた空という男が人間を観察し最終的に人間になれるのか…?

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-28

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