カワタン!紳士 34

ひとかけらの幸 34

スーツ着ると紳士になるね、仕草まで変わるね。
鏡見て悦に入るリル紳士*。
生まれて初めて着るスーツであった。
*リル、可愛い、a little gentry

生まれて初めては他にもあった。
今までの軋む(きし)木造ではなく、頑強なコンクリートであった。ビルオフィスである。

労働者服ではなくホワイトカラー族集団の会社内。
飛び交う言葉にも、どこかエリートチックなやり取り、この空気感。
中身はそう大して変わらなのに見掛けは大違い。

「自分の分身」とあの時、スコットさんから云って貰った言葉の意味がようやっとアンディに実感として湧く、責任感を突き付けられてるよう。

日に何度ものミーティング。
このミーティングのうち、面と面ではなく、電報を介することで行われたのは、今でいう電話やメールの類だが、多いときは日に10回程ものボス・スコットとのやり取りがこのミーティング作業となっていた。

そのすべての大半以上は調査事である。
大会社ならすでに今日、どこの会社にも調査部は普通にあるのだが。
名を変えて、○○研究所などと称してる場合が多い。トレンド語でシンクタンクと称しているが。
呼称を変えただけで、これもこの部類である。実態は調査部と何ら変わっていない。忍者部隊と同じ。

それほど調査部の果たす役割は大きいのである。しかも、そのスタッフのほとんどはエリート集団で固められてる場合が多い、国立大・一流私立大卒者やその道のエキスパートらから成る。と思ったら、意外や意外、叩き上げ社員が牛耳ってる調査部もあり。

何故それ程なプロ集団となっているか、これは、人の、仕事の、取引相手の会社の、各分野其々(それぞれ)の世情動向等々に係る事実がどこにあるか?等の正確な把握如何(いかん)によって会社自体の損得を大きく揺るがしかねないからです。一歩間違えば会社の存続すら危うくする事実調査であるからです。先程記した東芝がいい例です。

政治で云えば内閣府がそれに相当します、国家公安委員会*ではない。USではCIA**です。
*お巡りさん達のボス、警察庁を管理する行政機関。
**作戦本部・情報本部・科学技術本部・行政本部の四大組織からなる強大な中央情報局、アメリカ国家安全保障会議の直轄機関である。

かといって、けっして、スパイ等の類などと、くくって判断してはいけない。他者を葬る裏工作でもない、一部会社・グループは行っているようだが・・・。
先手必勝!の働きに貢献するのが、いわゆる、調査部なのである。

経営を栄えさせるための有力な情報、すなわち、客観的事実の調査である。これ如何で栄えも甚大な枯れも招く。しかも得た事実は直接ボスであるスコットにのみ上げる役を担っていた。これがスコットの秘書の仕事であった。

次第に、スコットが目指した秘書以上の仕事をやり遂げるようになるリル紳士。
面白い、と感じたからこそ、率先して命令以上のことをし出すようになったのである。
日々の調査だけでは、持ち前の好奇心旺盛さから、飽き足らなくなる。

調査事実は日課として逐一手書きをし、当初はメモ書きで行っていたが次第に専用ノートを自ら率先して行うようになり、ボスのデスクに置くことにしていた。
そのお陰でフィードバックして過去のメモ要点を整理し易く、また同時に、過去経緯をも把握し易くなると云う両メリットが生じ易くなる。

口頭でのミーティングだけでは失念してしまうこともあることから、一見些細なことと思われるようなコトまでも、必ず書き残すことにしていた。
その際には、末尾に綴りごとを添えることも忘れなかった。
それはアンディの私見を述べ添えることであった。
これは人肌な温かみをスコットに伝えるおまけ、すなわち、思いやりとしても、確実に相手に伝わることとなる。

多くの者から好かれる人はどこか違う、イケメンでもビショビショ美人でも超リッチマンでも有名人でもなく、ただひとつ常に人に温かみを伝え得るひと。としておこう。


通常退社は大体5時になると皆する、スコットも会社から、行き先から、帰宅するが、アンディはその為に、夜間9時過ぎまでも、インスタントを口にしながら、いや当時はなかったので昼に食べ残したピザを口にする時もあった。
時には深夜にまで及ぶこともあったが、苦痛でも義務感でもなかった、ただ面白くなりBURNING CURIOSITY*からであった。
*物見高い。強い好奇心。

好奇心はやる気の母!とアインシュタインが云った*。
か、どうか。
*大切なのは、疑問を持ち続けることだ。神聖な好奇心を失ってはならない。これが彼のコトバだが。

調査事実から見えてくる先々に発生しうるだろう推測事例のいくつかをこの調査事実メモの下欄余白に必ず添えて足すようにした。時には端的に一言、時には詳しく、今でいう添付ファイルですね。

一歩足すことの大切さを教えられる気がす。
燃え上がるもの(BURNING CURIOSITY)だけではできない何か経験知から知り得たモノのかもしれないが、元々のキャラから来る地というものから生じるものなのか?これは実はどうでもよかった。やったという事実が大切なのであるから。


このボス。
元来から経営的実力者であったスコットではあったが、このようなアンディの仕事上の功績はその人肌温かさも加わり次第に倍々と大きくこの上司の思惑を膨らませることとなる。

やはり、世は、そして人の集まりは、たとえ合理的理屈を以てしても限界あり、人肌温かさの方が勝る。これを同情社会*、と云うらしいが。
*理屈正論よりも感情を共有する方を優先する社会性。

いわゆる、この世は、同じキブンが重なり合ってこそスムースに事が運ぶSympathy* Society
(同情社会)ってわけだ。
*共感。

18歳の顔に18歳の風が舞い降り、爽やかこの上ない。
重責をこなさなければならない。
そしてやがて、アンディ18歳にしてピッツバーグ支社の代表つまり責任者に抜擢された。社内全員が年上であったことは云うまでもない。
わずか勤めだして1年余後である。異例中の異例な昇進であった。
スーツもようやっと高級布地へと。

スコットが30歳にしてペンシルベニア鉄道会社の副社長に昇進したことから、自分の意のかかった人物をアンディを自らがそれまで占めていたポジション即ち勤め去った会社の後釜(あとがま)に据えることによってその後も会社全体を牛耳っていきたかったのだ。ここにも綿密なスコットの経営手腕はいきる。

経営マネージメント法、これだけでも経営学・経済学・会計学・人間・思想・生活・生活倫理・生活科学、そして、原価管理、部下の活かし方、経営交渉術、など切りがないくらい実に多くを学ぶようになる。
こんなもんどうでもいい!いくら槍の突き方を部屋で万回練習しても、イクサ場で戦い抜いた槍には勝てない。

学校で習ったのではなく、机上の理論でもなく、実際の経験知を通し学び得たものこそ真の知識。学者さんが聞いたら怒るね。

18歳の支社長、30歳の副社長、ふたりはやる気満々こぼれるばかりの実務者へと。

二人を繋ぐ最大のパイプは信頼であった。
信頼に勝る人間関係はない。
さて?そもそも信頼って何だろう?
“信頼される人とは、それに応えようとする者。”
なーんだ簡単じゃん。
はて?実際となると簡単かどうか。

二人のタッグは、もう無敵艦隊。
事実を証明する実例ここに。

スコット副社長と社長のJ・エドガー・トムソンは、アンディからの調査事実も踏まえ、それぞれの取引関係にあった会社の内部情報である社外持ち出し禁止になっていたはずの極秘情報を知りうる立場にとなっていった。

それが出来ない場合は、つまり内部情報を知ることが難しい会社へであるが、そこの株を入一定程度以上入手すればいいだけ。
これにより容易に会社事情を簡単に知りうるようになるとした手を用いた。云われてみれば簡単なこと。簡単でないのは一定程度以上とする株の入手方法。

これは現代もデラ活きているテクである。
実業家の間では衆知の事実となって日頃より活発に行われている。
登記所の、ファイルの、羅列を鵜呑みにしてはならない。ベテラン現役公認会計士が云うんだから確かだろう。

この株式購入タイミングもアンディによる調査結果も加えてその社長と副社長が決めていた。もうカンペキ忍者行動である。忍者の第一の目的は、忍び込んで手裏剣でやつけるではない、本来業務は敵の正確な動向の調査にある。敵ではありませんね、パートナーにしてやろうとする相手様でしたね。

調査に勝る天下獲りなし。
まさに今でいう、情報化社会だ。
情報を制する者は富をも制す!となる。
これは、人をも制する、ともなりかねない。場合によってはヤバィ。人権を制する、告発事案もあっちでもこっちでも。

問題は制する仕方に在る。また、相手方情報を知ればよいというものでもない。
知だけでは何の役にも立たない。いくら著名な学者がいくら優れた論文を発表しようとも活かされなければ研究室片隅のただのペーパーで終わる。

それらの仕事は大方の会社や政府の存続を握る大切な部署ともなっている。
やり過ぎて反感を買ったCIAの例*は有名である。
*合衆国の中央情報局による個々個人のプライベート情報や各国代表の電話盗聴やらいろいろありました。

いわゆる、会社の命運を決してしまうこともある調査部ないしシンクタンクも実はこの類そのものとなんら変わりはない。
忍者大活躍は今現代でも生きということです。
そう生きか?によって、自らの運命をも決してしまうのだが。

カワタン!紳士 34

カワタン!紳士 34

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-26

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