Where is this place? Who is me?

有馬が倒れて夢のなか。

はてさてそこで、見たものは?

夢?

現実?



無限と有限の狭間にて。

「桃山くん…私、先生読んでくるね…!」

ぱたぱたと走る足音が遠退いて行く。

『嗚呼、旦那様…無理をなさらずに…』

声の主、ルドロフカニヒェンが透けながら現れる。

『クフフフ…さぞや驚きでしょうね、旦那様…。ちょっとばかし、失礼致しますよ…っと』

空中で手を動かす。

まるで虫を捕まえるような動きで。

『どうぞ旦那様…』

空っぽの手を開かれる。

「?」

『あら、見えませんか…。困りましたね…。』

うーん、と結んだ手を口元にあてる。

『何も見えませんか?』

「あぁ…透けてる君以外は…」

『おや!透けてまで!おかしいですねぇ…』

すると、遠くから人の声が聞こえる。

『おやおやおや…ちょっとばかし、失礼致します。さようなら、旦那様…』

また、すうっと消えていった。

ウサギ男が消えると同時に、頭痛が始まる。

「っ…」

がらがらとドアが開いて、白衣を着た悠天がやって来る。

「大丈夫?どうしたの?」

手を額にあてて、熱を確かめる。

「計ってみようか…」

プラスチックの引き出しから、体温計を取り出す。

軽くカーテンを引いたのは、多分そこに落葉松さんがいるのだろう。

シャツのボタンを外して、脇に体温計を挟む。

暫くすると、電子音が鳴り響き、測定が完了する。

「7度5分…ちょっと熱があるね…下がるまで寝てようね。」

カーテンから出ていって、氷嚢を作る。

からからと気持ちのいい氷の音が、遠くに聞こえる。

「あの…先生…桃山くん、大丈夫なんですか…?」

「うんっ、平気だよ、だだの発熱みたいだから。冷やして置けば、随分良くなると思うよ。」

「そうですか…」

悠天が氷嚢をセットしている背中から、覗いてみる。

「!」

ぱっと身を翻し、元の位置に戻る。

(み、見ちゃったぁ…!きゃあぁ…!)

白い、胸板。

初めて見た。

小さい頃の男の子とは違う。

もう、大人の男の人の、身体。

(み、見ちゃったぁ…)

顔を真っ赤にしながら頭を振る。

「落葉松さん?どうしたの?」

悠天が顔を覗き込む。

「ひぇわっ!い、あ、だ、大丈夫です!!大丈夫ですぅぅ!」

走って保健室を出ていってしまった。

「?」

寝返りをうったのか、ベッドが軋む音がする。

そっとカーテンをめくり、静かにぴったり閉めあわせる。

「有馬…」

優しく頬を撫でる。

「…学校だから…名前で呼ぶな…」

「…誰もいないしいいじゃない…」

長い指が、するりと落ちて、シャツのボタンを外す。

「兄貴…」

「着替えないと…」

冷えちゃう、と笑う。

「このホモ…!」

「こら。おにいちゃんにそんな口聞いちゃいけません!塞いじゃうぞっ。」

「やめろやめろっ」

起き上がってボタンを留める。

「…どいて。」

「どこに行くの?まだ、ほら、熱はあるから。寝てなさい。」

「授業始まる…」

「きちんと担任の先生には言ってあるよ。」

「でも…」

「言うこと聞きなさい。僕は保健のせんせーですよ!」

有馬は、軽い舌打ちをして寝転がる。

「あっつい…」

いつの間にか眠っていた。

回りは真っ暗で…

今朝の夢みたいだ。

『旦那様!』

暗闇から急に飛び出してくるウサギ男。

「あ、ウサギ男…」

『ルドロフカニヒェンで御座います、旦那様。』

「るっ、るど、るろっ」

『旦那様…ふぅ、ウサギ男で結構で御座います…』

「…此処は何処なの?」

『さぁ…?それは旦那様以外には分かりません。』

「ええっ、俺には真っ暗としか見えない…」

『それは、旦那様が真っ暗としか見ていないからでは御座いませんか?』

「はぁ…」

『まぁ、時間はたっぷり御座います。お茶に致しますか?』

ふわりと手を上から下へおろすと、砂のような白いものが集まって、テーブルになる。

「なっ…ま、魔法使いなの?」

『クフフフッ…おや、失礼致しました…。随分お可愛らしい表現をなさるので…クフフ…』

「む…」

『魔法使い等では御座いませんよ。旦那様も、ほら…』

「やってみろって?」

ルドロフカニヒェンはこくりと頷く。

(そういえばウサギ男のシルクハット、かっこいいな。)

そんなことを考えながら、手を動かすと。

「あ、あれ?」

『クフフフ、何故私めのハットで御座いましょう…?』

目の前の空中に、こぽこぽと湧き上がる液体がどんどん形成されていき、ルドロフカニヒェンの頭に乗っているシルクハットになる。

「え、あ、いや…なんていうか…かっこいいなぁって…」

『有り難き御言葉、ルドロフカニヒェンは嬉しゅう御座います…』

しゅる、と衣擦れの音をたてて、綺麗にお辞儀する。

すると、ルドロフカニヒェンは懐から懐中時計を取り出し、時間を見る。

『遅いですね…、完全に遅刻です。』

「誰が遅刻なの?」

ぽとりと落ちたシルクハットを拾う。

造りが細かくて綺麗だ。

『今日、紹介したく、呼んだのです。が…』

やれやれという風に肩をすくめる。

Where is this place? Who is me?

『こんにちは!

 今回も読んでくれたの?

 あたし、嬉しい!

 次回もたっぷり登場する予定だから、ルドロフよりも

 あたしを見てね!

 見ないと…!

 なんてね、ふふっ。

 とにかく、次回もよろしくね!』


*カモミールガット*

 

Where is this place? Who is me?

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-05

CC BY-NC-ND
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