Where is this place? Who is me?

真っ暗な闇のなか。

そこは、夢であり、無限と有限の狭間。

此処は何処?

私は誰?

真っ暗、真っ暗、真っ暗闇のなか。

『さて、此処は何処でしょうか…?』

薄気味悪い笑みを浮かべたウサギ男が云う。

『そして、貴方は誰なのでしょうか…?』

自分の体が云うことを聞かない。

「君は誰、此処は何処。」

そう言いたいのに、動かない。

ゆっくり、靴の踵を鳴らしながら近付いてくるウサギ男。

白い手袋をした五本指で、頤を、すっと撫でられる。

まるで、子猫をあやすように。

『そんな恐いお顔、なさらないで…』

クフフ…と癪にさわる笑いで手を止める。

『大丈夫、大丈夫…。次期に目が覚めますよ…。』

手の甲に、怪しい口付けをされる。

ぞくりと、文字通り背筋が凍るような気がしてならない。

『それでは、またお会い致しましょう、旦那様…』

そう伝えると、ウサギ男は周りの暗闇に、溶けるように消えていった。

電子音が耳を突く。

「ん…夢か…」

目覚まし時計のアラームを止める。

今の時間は、午前6時。

眠い目を擦りながら、部屋を出て、リビングに向かう。

「おはよう、有馬。」

声をかけたのは、明るい茶色の髪をくるくる遊ばせた有馬(ありま)の兄。

悠天(ゆうま)。

世間に聞けば、所謂イケメンの類いに分類される生物だが、弟の有馬は目付きが悪いのと、性格が悪いのを理由にせっかくの顔を台無しにしている。

それに比べ、悠天はたれ目で穏やかな性格で、誰にでも好かれるイケメン君である。

「…ん…」

いい加減に返事をして、ソファーで二度寝を企む。

「あーりまー、起きてってば。朝ごはん冷めちゃうよ。」

「ん…」

渋々起き上がり、食卓につく。

「はいっ、いただきます!」

「いただきます…」

欠伸をしながら、白いご飯を頬張る。

「鮭、焦げちゃってる?」

箸で鮭を持ち上げて引っくり返すと、少し焦げている。

「んーん…平気…」

「だ、だめだよ有馬!焦げは食べたらガンになっちゃうんだって!」

「そんな、皿一杯食う訳じゃないから…」

悠天はおろおろしながら「おにいちゃんのと交換する?」と聞いてくるが、「別に…」と首を横に振る。

「骨、気を付けてね?」

「ん。」

弟に過保護な兄。

「…兄貴、時間平気?」

「んっ…あー…もうちょっとだけ。」

「そう…。ご馳走さま。美味かったよ、鮭。」

有馬はそういって、席を立つ。

「お粗末様でした…って、急がなきゃ!」

焦る悠天を横目にのたのたと着替える。

「有馬っ、おにいちゃんがネクタ」

「遅れるよ。」

「うっ…」

エプロンを脱いで、スーツを着込む。

「戸締まり宜しくねっ!行ってきます!」

「いってらっしゃい。」

ゆっくりとシャツのボタンを留めて、ネクタイをゆっくり結ぶ。

別に丁寧な訳ではなくて、面倒臭いと嫌々なので、必然的にのろくなる。

「さて…」

用意も出来たので、鞄を手に持つ。

ドアを開けると、快晴。

鍵をかけて、庭に停めてある自転車にまたがる。

ペダルを踏み込んで、学校へと前輪を向ける。

心地よい風が、髪を掠めていく。

「桃山ーっ!」

不意に名前を呼ばれて、自転車を止める。

振り返ると、走ってくる不良。

有馬は眉を寄せて、再び自転車を進める。

「えっ、ちょっ、待ってよ!桃山!桃山ぁ!」

やめてくれ、通行人の支線が刺さる。

赤信号で奴に捕まってしまった。

「はぁ…はぁ…も、桃山…おは、おはよう…」

「はよ…」

息切れしている、この見たからに不良男子は、桜木つばめ。

中学から腐れ縁の男だ。

「なぁなぁ聞いてくれよぉ!昨日な!まゆちゃんとなぁ!」

気色の悪い笑みで話しかけてくる。

「それは朝に相応しい話題か?桜木。」

「もちろん!俺っちとまゆちゃんの愛を深め合う、純潔な話題さ!」

親指を突き立てたので、それをつかんで在らぬ方向に曲げる。

「あだだだっ!!いたいいたいいたい!」

絶叫するつばめを鼻で笑っていると。

「おはよう!桃山くんと、桜木くん!」

曲がり角で声をかけてきた、少女。

「ちゃーっす美鳥ちゃんっ!」

「おはよう、落葉松さん。」

「おはよう。あ、あのね桃山くん。これ、この前言ってたやつ…」

可愛らしいリュックから、小説を取り出す。

「ん、ありがとう。読んだら返すよ。」

有馬はそれを受け取って、しまう。

「何!二人して仲睦まじい所を俺っちに見せつけやがってコニャロウ!」

「はん。てか、桜木は本なんか読まないだろ。なら無理な話だよ。」

「漫画は読む!」

「その本じゃねえよ。」

くすくすと落葉松さんも笑う。

これが俺の日常。

この何もない、ユルさが俺は好きだ。

『そうは行きません、旦那様…』

「!?」

心臓が跳ねた。

(なんだ…、今の…)

脳に直接話しかけられたような、よく分からない何かが自分を覆う気がした。

「…桃山くん?」

「…っん?」

「どうしたの?気分、悪いの?」

「…いや、大丈夫。ちょっと目眩がしただけだから…」

「ホントに…?」

しゅる、と髪を結った束が落ちる。

「…平気。」

「そう…。無理、しないでね…?」

「ありがと。」

後ろで桜木が、「うっ!腹が痛い!」と腰を折る。

「えっ、桜木く…」

「行こっか、落葉松さん。遅れちゃう。」

「でも…」

「大丈夫、ビオフェルミン飲ませておくから。」

背中に手をあてて、促す。

「心が痛い!!」

「悪いな桜木。馬鹿につける薬はないらしいぞ。」

「くそぉ…!」

桜木が走ってくる。

「うわっ、落葉松さん、後ろ乗って!」

「え?」

「ほらっ」

「う、うんっ」

自転車のペダルを踏み込む。

「ももも桃山くん!こ、恐い!!」

「あー、ごめん!捕まってて!」

「ど、どうしたらいいの!?」

「しがみついちゃっていいよ!落葉松さんがいいなら!」

「う、うん…」

細く白い腕が、腰にまわる。

きゅっとしがみついている落葉松さんが「ふわわぁ…」と変な声を出す。

二人乗りは初めてなのだろうか。

いや、そうでもなさそうだ。

学校の駐輪場は裏門から入る。

キィっとブレーキをかけて、停める。

「ごめん、平気だった?」

「た…」

「?」

「た、楽しかった…っ!」

きらきらした顔で言われると、なにかこそばゆい。

「はは、よかった。」

かしゃんと自転車にロックをつけて、校舎へ向かう。

『旦那様…、そのまま行ってはなりません…』

ぞわっとした。

また、この声だ。

夢の中の、ウサギ男の。

「か…落葉松さん。ちょっと自販機寄っていい?」

「うん、私も喉乾いちゃった、えへへっ」

小銭を入れて、ストレートの紅茶を選び、キャップを開けて飲む。

すると、もう少し先の方からすごい音がした。

「!?」

「な、なんだろう、すごかったね…」

「見に、行く?」

「うん…」

すでに人だかりが出来ていた。

聞き耳を立てると、階段の上から、部活の備品を落っことしたらしい。

幸い、怪我人は誰もいなかった。

石膏の胸像…。

危なかった。

(ありがとう、ウサギ男。)

心の中で伝えると

『いいえいいえ旦那様…私めは、旦那様が御無事なら良いことなのです…』

(っ!?)

こ、答えた!

(き、君はは誰なの…?)

『私めで御座いますか?あぁ…失礼致しました…。私、ルドロフカニヒェンと申します…』

(どうして俺を助けてくれたんだ?)

『旦那様は、偉大なるお方…。万が一の事は、避けたいので御座います。』

(そうか…)

「桃山くん、平気?」

「…」

「も、桃山くん?」

手を握られて、我にかえる。

「んっ?ごめん。」

「平気?保健室、行く?」

「だ、大丈夫…」

やばい、なんか、クラクラする。

「桃山くん、大丈夫じゃないでしょっ!」

保健室はすぐそばだ。

落葉松さんに手を引かれ、保健室に入る。

有馬はフラフラしながら、ベットに倒れた。


「桃山くん…私、先生読んでくるね…!」

ぱたぱたと走る足音が遠退いて行く。

『嗚呼、旦那様…無理をなさらずに…』

Where is this place? Who is me?

『さてさて。

 お目を通して頂き、誠に嬉しく存じます。

 これからも続く予定では御座いますが、

 それはそれは不思議な、著者は気分屋でしてね。

 誰か様の応援が頂けませんと、たちまち気分は

 急降下…。

 これでは続く物も続きません。

 よければこのまま、ご覧下さいませ。』

*ルドロフカニヒェン*

Where is this place? Who is me?

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-05

CC BY-NC-ND
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