零度

誰かが夜空に針で穴をあけている。天の電灯から漏れた光はその穴をかいくぐって私たちが息をしているここまで降りてきている。時折何かが穴を遮るから、揺らめく光は瞬いているように錯覚してしまう。新品の剃刀のような尖りきって鋭い風だ。もうすぐそこは冬だ。紛れもない冬だ。 一人で、野良猫の鳴き声も酔っ払ったおじさんの景気のいい怒鳴り声もしない裏路地を歩いていると、私のちっぽけな体がこの空気の中を流され漂っていく、そういう気がした。スナックからぼんやりと聞こえてくる音程の外れた歌声。ぬめぬめと不気味に輝く真っ黒なアスファルト。叫んでも誰も答えてくれない。私を知っている人はここにはいない。震える手で巻いていたマフラーを握りしめる。ぎゅっ。口の中でつぶやく。ぎゅっ。緩んで隙間風が入り込んでいる箇所を巻き直す。 明日になればいいのに。はやく朝になればいいのに。日の光に照らされてしまえば、こんなにきりきりと痛む孤独など溶けて消えてしまうのだ。白い息を眺めながら、私はひたすら歩みを早める。

(2017/12/07)

零度

零度

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-15

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