リン やぐら編

ハバネロ二世と紫のペイント

「大丈夫?ツルギ」
『独りぼっちは、つらいよね』
「リン
あなたは私の
光だったよ」
***
リンの過去を知っているのはツルギだけだ。
深い深い闇に包まれたリンは、孤独に埋もれたツルギを見つけた。
″この子にだけは優しくなろう″、そうして努力したリンは、
いつしかみんなのリンになっていった。
もう深い闇で暗がるのはやめよう。そう思ったリンは、いつしか仲間たちを見つけた。クラスメイトと、先生と、そして、親友と。
オビトやカカシと出会う前にリンはツルギと出会っていた。

「またあの子よ」
「オイ!ハバネロ二世!」
「わたしは赤くないもん!」
「お前の尊敬するクシナが子供の頃なんて呼ばれてたか教えてやろうか!」
「コラ!やめなさい!」
「ゲッ学級委員長だ!」
何かにつけて絡みに来る男子と、私と距離を置いている女子たちを置いてリンは初めて私に手を差し伸べてくれた。
「学級委員長だから
助けただけだよ」
一人のモブ女子がそう言うと、リンはさっさとそのグループの方へ行ってしまった。
『学級委員長だから
助けただけだよ』
その言葉は、ツルギにとって救いにも傷にもならなかった。ツルギの心は傷つきすぎて、もう傷つく場所がなかったからだ。
「赤い血潮のハバネロ?その理由なら、もう知ってる」
「こ、こっち来るな青髪!」
「髪が逆立ち、髪以外の全身が黒くなり、顔はつり上がった口と赤い目が輝く。それが、由来なんでしょ」
『あ、赤い血潮のハバネロ~~~!!!!』
「クズが」
またやったのかい、ツルギ。そう柔らかい声を出して頭をごついたのは、ミナト。
「…確かに私は波紋一族で、波紋はうずまき一族から派生した一族です。でも、あんな風にクシナ姉を扱う奴らが許せないんです」
「…」
「ツルギは優しい子だね」
失礼します、とそのミナトの一言に照れながらツルギは校内の外へ出た。
一人疼くまる河川敷に、見慣れない少年がこちらに向かってきた。
その少年の髪の色は金髪で、瞳は淡いさくら色だ。
「お前、綺麗な髪の色してんな」
「…あなた何。クラスメイトじゃなさそうだけど」
この髪の色を褒めてくれたのは、三代目とこの少年だけだ。
ツルギはついツンとなって、そのコメントを返せなかったが、内心胸がバクバクしていた。
「オレか?オレは枸橘やぐら!水の国のものだ。木ノ葉の嫁さんをもらいに来たんだが、どうやらアンタで合ってたみたいだな」
はて。木ノ葉の嫁さんとは一体全体どういうことだろう。
「ほら!三代目火影と三代目水影直筆サイン入り見合い手帳だっ」
「え、ええ~~~っ!?」
「お前ホントいい匂いする…なんか、甘い香りっていうか…香水付けてるか?」
確かにツルギは波紋家に代々伝わるハモンの香水(真水の香りエキス配合)を付けている。

「これは、たしなみ…って言うより、
敵を欺くためのトラップ用につけてるっていうか…」
「敵…」
そう言われるないなや、ツルギは少年に抱きしめられた。忍になるには、人らしさを捨てること。それを要求されてきた自分たちにとって、あまりにも残酷な少女の現実である。
「お前の周りの奴らからは、もっとキツい匂いがした。あんなんじゃ直ぐ敵にバレちまうよな」
「…ふふ」
ツルギは含み笑いをして、少年の方に向き直した。
「なっなにがおかしいんだよ!」
「アナタも、ずいぶん目立つお花持ってるんだね。身長よりもおっきい」
「なっ~~~」
ツルギと少年の楽しそうな会話を、リンは嫉妬気味に見つめていた。その瞳には、薄っすらと狂気が満ちていた。
その夜。やぐらとツルギは二人で自宅に向かっていた。
「え、私達共同の一軒家?」
三代目同士が、しばらく共同生活を送るようにと申しつけた家だ。
二人一匹ずつ尾獣を所有している彼らにとって、それは孤独から解放される知らせだった。
「オレ、お前との子どもホントに欲しいって思ってるからな!」
「私はまだいいかな?」
「なんだと!!!」
激怒する血の気の多いやぐらに、淡泊で冷静なツルギは対照的だった。
「だって、やぐらとの時間をもう少し堪能していたいもん」
「ま、真顔で可愛いこというなよ、ブス!」
と思わず褒め言葉やら悪態やらを呟いたやぐらを、ツルギは聞き逃さなかった。
「やぐらくん」
ツルギの隠れたた名言『逝ってヨシ!』が放たれたかと思うと、やぐらの断末魔が辺りに響いた。

やぐらの悪寒

『最近アイツ妙に色気ついてるよな』
『ちょっとからかってやろうぜ』
モブ女子グループと男子グループが、ツルギが座るいつもの窓際の席に屯っていた。
「わたし、色気づいた覚えないよ」
「ほ、ホラ!みんな早く席に戻って!ツルギも謝りなよ!」
「・・・ごめんなさい」
「チッ学級委員長のおかげで怪我せずに済んだな!ハバネロ二世!!次からは土下座して謝れよ!」
「リンが言ったの?」
「…」
リンは何も言わず、自分の席に戻った。
「席に付け!授業をはじめる!」
チャイムが教室から廊下、外に抜けて響きわたり昼の時刻を知らせる。
ツルギと同じ年のやぐらだが、木ノ葉にいる間はアカデミーには通わず通信教育で勉学に励んでいる。
演習場で相応の師の元、術の基礎を学ぶ。
アカデミーの生徒たちにはやぐらは外交促進のために来た忍だと伝えられていた。
「ツルギの様子ゥ?相変わらずだと思うぜ。オレがボケても突っ込まないし。いっつも適当だし」
三代目火影のヒルゼンは、やぐらの鈍感さに溜息をもらしながらも
「これからも二人の仲を良い方へ築くように」とだけやぐらに伝えた。
(そういえばアイツ、初めてオレと会った時より…笑わなくなったような…?)
演習の帰り道、やぐらは何気なくツルギに問いかけてみた。
「お前、ヤなことあったか?」
そうすれば、ツルギは仰天したように眼(まなこ)を開き「やなことって、…何?」
と聞き返してきた。
うわあ自覚ねえのかよコイツと呆気にとられたやぐらだったが、もともとツルギは自分と同じ立場だったと意識を戻し、彼女を元気づけようとしたが、
「いや、なんかいつもより…その」と言葉に詰まった。
立場的には自分も同じ。忌み嫌われるものとして、優しい言葉が見つからなかった。
「…リン」
そのツルギの言葉が後に、自らを死に追いやることになろうとは、その時やぐらはまだ知る由もなかった。

土産話と咎人と

アカデミーの実技試験。外交促進のため木ノ葉へ来ていたやぐらも見学することになった。
オビトやカカシという見慣れた顔がいる中、まだ知り合いになっていない彼等と戦う事になったツルギとリン。
もちろんツルギへの偏見はエスカレートしていて、ツルギのチャクラはやぐらがいるのにも関わらず、より一層孤独を増していた。
『零尾、序番弐。わたしを取り巻く奴ら、全員消し去って』
『いいのかァ?お嬢!』
「アンタ、一番のクズだったよね。
悪いけど、死ぬ気でかからないと殺すから」
「上等よォ!!!」
やぐらの背に悪寒が走った。まずい、
このままではあの女子生徒が死ぬと。慌てて近くにいたミナトに声をかける。もともと尾獣を完璧にコントロールできているやぐらだから、水上の実技試験では零尾の序番弐より圧倒的に部があった。
『お嬢がいいって言ったんだぜェ』
「聞き分け悪いやつだな。磯撫、こいつ沈められるか?」
『…やってみるよ』
「やめてよ!ツルギ!」

『お嬢は、お前が闇に埋もれていることを知ってたぜ、リンさん。
お嬢は、嫌われ者だったからお前の居心地のいい場所なんか知らなかったんだ』
「じゃあ私がツルギの友達になる!!!」
『よそ見してる暇ないよ…序番弐』
「おいリンとやら!お前が友達第一号なら、オレはツルギの唯一の夫だ!影公認のな!」
そのやぐらの言葉に、クラス中がざわついた。
「それ、ほんと?」
「オレ達は里を平和に保つため里から厳選された夫婦ってことだよ!!!嫌われ者同士が里を繁栄させる…最高にロックじゃねえか!お前もいい加減目を覚ませ、よっ!ツルギ!!!」
「サファイア…ダイアモンドのように硬いサファイア。硬結の、サファイア。その力は、人を守るために与えられたもの!
硬結のサファイア!!!
あなたは、孤独の人柱力なんかじゃないんだよ!
私が勝手にアナタの中に入ってって、私が勝手につけた通称で、私はアナタの友達第一号、波紋ツルギ、通称、硬結のサファイア!!!アナタは、赤い血潮のハバネロなんかじゃない!!!」
序番弐はツルギの孤独の殻が割れる音が聞こえた気がした。
「オイオイ、オレだっているんだぜ、
ツルギ!」
何事だ!とか上からゾロゾロ大人たちが集まってきたが、生徒たちは一丸となってツルギを守る体制に入っていた。
もちろん、モブグループもその中に。
リンの言葉で、生徒たちの見方は180℃回転させられた。先頭に立っていたのは、リンとやぐらだった。
「お前たち…」
「ミナト先生。これは、私達生徒の、ただの喧嘩です」
「あとで事情聴取を行う」

静かな潮騒の音

「オレの妻が迷惑をかけた」
やぐらの深い詫びに、モブグループの女子は「こっちこそ、悪かったな」
とツルギとやぐらの前で深く詫びて見せた。
ツルギとリンはミナトの元、事情聴取を行っている。戻ってくるまでの間は自習時間となる。
オビトがソワソワしている。
「ん?」
やぐらが異変に気付き、声をかける。
「あ、あのさ。やぐらだっけ?オレうちはオビト」
「ああ、オレは枸橘やぐらだ!」
「…リンっていいよな」
「ツルギはオレんだぞ?」
「今リンの話してんだけど」
「話噛み合ってないよ、お二方」
「お前…白い牙?」
「の子ども」
「ナルホド。木ノ葉も幸先よさそうじゃねえか。つわものぞろいだ」
「つわもの!」
「ツルギの髪って綺麗だよな~」
「え、色とか…変…じゃね?」
やぐらとオビトはどうにも馬が合わないようだ。
その時、ミナトと共にリンとツルギが帰ってきた。
「今回の件は火影直通の元、御咎めなしとする!」
「やったね!ツルギ!」
「うん!ありがとう、みんな」
実技試験場は、あたたかな笑いに包まれた。やぐらはおもった。水の国への土産は、これしかない。と。

リン やぐら編

リン やぐら編

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-13

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. ハバネロ二世と紫のペイント
  2. やぐらの悪寒
  3. 土産話と咎人と
  4. 静かな潮騒の音