*星空文庫

ひとりのブチ猫

音澤 煙管 作

ひとりのブチ猫

人物名以外は実体験です。

ひとりのブチ猫

バブル時代後、特に平成生まれの若年層には現在が普通の景気に思えて居るなら幸せに思う

昭和生まれの当方は、目まぐるしく時代の変化があって職を探して行くのも困難な世代で、就活の終活になっていっている。

数年前まで就業して居た職の話、
ごみを集めて廻る仕事。

清掃作業員の仕事を、
かれこれ7年やっているミツオは、
10月も半ばだと言うのにまだまだ残暑が続く、今日も汗をかいて収集車を運転する。

例年ならば、秋の気配を感じる頃でトンボの姿も少なくなる季節だが、
今年はまだ飛び交って居る

いつもの相棒は、相変わらず家庭の愚痴を言っている

息子がいい年して独身貴族だの、
奥さんの小言と近所の事やらで、
聞き役のこちらは慣れるのに半年かかったが今では慣れ過ぎて右から左へと聞き流す。

一応、この業界では数ヶ月の先輩なのでこちらもあいづちは仕事のうちになっている

元々はお役所の臨時社員あがりなので、嫌な目にもあって来たのだろう
頭のてっぺんがかなり薄くなっている。

この仕事、民間企業とは違い市役所の委託事業は、役所の体制と同じで、決してワンマンでは仕事ができない

安全性と仕事量の問題だろう。
なので人選は委託責任者任せになっている。

うるさくてもおとなしくても、
バリバリやっても、怠け癖があっても相棒は相棒、2人で一台の作業なのだ

他の社員(各車)もまた同じように相棒で手を焼くのも仕事の一部となっている、相棒手当てが欲しいくらい。

ミツオは、それも仕事の一部と割り切って居る、
淡々と運転と作業をこなす毎日である。

もっとも性格上、黙って机の上の書類を片付けるだけの仕事は向いて居ないから、外回りの職業は天職だと自負して居る。

今日は、少し汗ばむくらいの快晴。

"それにしても朝から暑いなー、
もう10月だよ?
早く涼しくならのかなー、、"

夏の延長で、熱中症対策のスポーツドリンクを信号待ちで飲みながらブツブツ文句を言う

海の見える道を走っていると、カモメも飛びながら暑そうに鳴いている

岸壁で餌を漁ってうろついてるカラスも口を開けたままで暑そうだ。

"さあ!あと三ヶ所積んだら焼却場へ開けに行くよー" と、老いた相棒に茶々をいれる

"ぼちぼちやろーやーミツオ、
焦って事故したら元も子もないやん"
と、やる気のない相棒が応える
でも、最もな事も言うので年配には逆らえない

ここの地域は週二回、回収に来る
通称南コース、
火金(かあきん)コースとも言う、
1日、計90ヶ所弱がこのコース。

昔はだいぶ栄えた港町、今では区画整理が始まって、更地とアパートが多い

随分と殺風景になってしまった
箇所数も全盛期よりだいぶ減った、

ごみ集積所の移動や新設等、役所から連絡が頻繁にあった時期を境に、廃止の方が多くなって居る。

東日本大震災の後、津波による風評被害でこの辺の地価も下がり、引っ越し避難した人々も増加し町の人口も減っている

唯一の救いは、港町特有の地場産品でふるさと納税が全国首位と言うこと。

更地の前は、昔からの古い家が密集して子供の姿もよく目にした

現在では、天気が良ければ昼間から年寄りが自転車や歩いてウロウロしている姿しかない。


小さな港沿いを走ってカーブを過ぎるとクリーニング屋がある、その手前を勢いよく右折する、直ぐ現れるごみ置き場、いつもカラスに散らかされ、
いたずらされている場所だ

住民も手の施しようが無いから、
全てこちら任せになっている

無風の時ならまだしも、寒い冬の風が強い日は道路中散乱しているから始末が悪い、全て生ゴミだからだ。

"お?今日はやられてないねー、、
ラッキー!"

散らかされているごみも綺麗に清掃しなくてはならないから、とても厄介であるが、今日はあいにくカラスも居ない、ごみ袋も破られていないようだ。

"さっさと積んで、あと二ヶ所だぁ!"

張り切るミツオ、無言の相棒。

ホイッ!、、おらよっ!
今日のミツオは調子がいい

週の始めはゴミの質が悪いから、
腰に堪える

週末、週明けの合わせたごみ。

生ゴミ、片付けゴミ、子供の古びたおもちゃ、、

季節外れの暑さも重なって、
朝から一時間もしないうちに汗だくになる。

"もう少しだぁー、おらよっ!"

ゴミの山がだんだん減っていき、
やがて地面が見えてくる、、

もう2つ3つ終わりに近づくと、
ミツオは、1つのダンボール箱を見つける。

"何だろうこれ?
「ネコ」って書いてあるよ?!"

嫌な予感がした
きっとのら猫の死骸が入ってると思ったからだ

車で惹かれたのら猫を住民が箱に入れて出したんだろう、可哀想に。
飼い猫だったら、役所へ届け出済みで鑑札が付いてるかもしれない

猫版住民登録ってところだろう。

"ミツオ!鑑札を確認してやー、
あとで日報に地図付けて報告なー"
年配のベテラン相棒が珍しく口を開く

慣れて居る口調だ、
臨時職員時の話だと、猫や小動物の死骸を一日一度回収すると500円の手当が付くらしい

委託側のこちらは手当は付かない、
鑑札有無の報告のみ

箱を開けて確認しないといけない、
委託清掃作業員の嫌な仕事だ。

"飼い猫かもしれないなー、
鑑札を確認しないとなーどれどれ。"

ミツオは次の場所へ急ぎたいので、
嫌な気持ちも抑えて手際よく開箱する

白黒ブチのまだ大きさは、仔猫くらいが横たわって居る、外傷は無い。

"鑑札が付いてない、のら猫かぁー
可哀想に、、"

と、言ったか言わないかくらいで
白黒ブチが首を動かしミツオの方を向いたのだ

"おっ!こいつ、まだ生きてるぞ!"

ミツオが驚嘆したと同時に、
"シャァーッ!"
白黒が怒って鳴く。

"滅茶苦茶元気あるやん!
誰だよー生きたままごみに出しやがってよーったく!"

文句を言いながら嫌な気持ちが吹っ飛んだ、生きた仔猫だった

捨てる神あれば拾う神あり。

"さぁどーしよう?
まだ元気そうだし、午前中は同乗させようか?!その後にでも動物病院へ連れて行こう"

仕事は?と自身に問うが、まずは仔猫の命。
直ぐにでも動物病院へと思ったが、上司の怒った顔を想像しての決断。

一応無線で上司へ連絡した、
鑑札が無いからこちら任せにされた

詰所では、
ミツオは大の猫好きで有名だ。

"よし!少し辛抱しろよー?
お昼前に動物病院へ連れてってやる!"

ミツオらしい言動だ、
困って居る者がいれば助けてあげたい性分、それらが人間だろうがのら猫だろうが、小動物でも。

残りの集積所を積み終わり焼却場へ向かう、
可能であればもう少し積んでいきたいところで、仕事も後半にははかどるのだが、積載量オーバーをすると始末書の洗礼が待っているので諦める。

運転しながら、信号待ちでのら猫の様子を伺う、
"おい、大丈夫かぁー?"
少し心配して声をかけるミツオ、

"シャーッ、、"
のら猫にまた怒られるミツオ。

もう少しもちそうだ、
でも内心はこのまま動物病院へ行きたい。

"そーだー!実家の母さんに頼もう、
そーすれば仕事オンリーできる。"

名案が浮かび、年配の相棒に許可を取る、
無事にOKサイン。

実家は、地図上では火金コースの内側に入っているので午前終わってそのまま寄ればいい、その後に帰社をする事にした。

"じゃー頼んだねー!"
と、実家の母親へのら猫を届ける。

"はいねー"
母親も無類の猫好き。
快く引き受けた、さすが親子だ

これで気持ちよくお昼時間だ、
それと午後の打ち合わせの為詰所へ帰社する事に、、


午後の作業も全て終わり、洗車も済ませ詰所で仕事談議になる

午前中の猫救出作戦!の話に花が咲く。

就業時間まで残り30分、
助けたのら猫の事が気になり母親に電話をする

"やぁーおれー!
午前中の猫はどーなったぁー??"
ミツオが聞く。

"一番近い◯◯動物病院へ連れてったよー!
でもさぁ?あそこはちょっと有名なヤブ医者なんだよねー?!"
母親が気遣って答える

数秒無言になり、、

"あーぁ、、
そーだったねー
◯◯動物病院は何か言ってたの?"

"一応、保護した猫は診てくれるって、でも3日間らしいよー"

"じゃーその後は、また里親探しに保健所なのー?!"
ミツオは不安になった。

"動物病院でも里親探しをしてくれるみたいたけどー、、
その後は知らないよー"

ミツオは考えた、、

"◯◯病院へ電話して帰りに寄るわ!"

就業終了時間になり、ミツオは電話する間も無く母親が預けに行った病院へ向かう。

動物病院へ着くと受付で、今日の事情を話す

診てくれた医者を呼ぶ
"何も食べて居なかったようで、
栄養剤の注射もして処置はしましたが、、もって数日ですねー、、"

"、、そっかぁー、、
今、会えますか?その猫に?!"

数時間ぶりに、のら猫とのご対面。

暫くして、、来た!

保護した時のまんまのダンボールに入って、ミツオが応急で用意したタオルが敷いてある上に弱々しく横になって居るのら猫のブチ。

午前中のシャーッ!と怒って居た元気が無い、注射を打たれて落ち着いたのか、安心したのか、もう余命も悟ってか寝ている。

ミツオは可哀想になり、ブチ猫の頭を撫でる

医者の話では、
保護した時は気が付かなかったが
首元を何か他の動物に噛まれた跡があり低体温症との事。

"わかりました、暫く様子を診ててあげて下さい、よろしくお願いします。"

そう行って病院を後にしようとするミツオ。

帰路に向かおうとマイカーに乗る、
暫く考えるミツオ

帰られないミツオ、、
何とかしたい、助けたいと思うミツオ

"そだっ!
D動物病院があった!!
そっちへ連れて行こうー
このままじゃー見殺しだからっ"

この動物病院から車で10くらいの場所にあるD動物病院。

ちとばかり、診察料金高めだが以前にも救急で何度かお世話になっている病院。料金並みの診察を人間並みに細かくしてくれるので安心だと考えた

"すいません、こちらで後は診てみますので連れて帰ります、ペコリ。"

保護した猫は、どの病院でも三日間はお役所に言えば無料、応急処置はしてくれたが、ここのヤブ病院へはびた一文出せない

どーせなら、手厚い診察をしてくれるD動物病院へ移そうと車を走らせる。

"ごめんよーブチ、また移動だけどもー少しの我慢だからなっ!"

ノラに話しかけながら、帰宅ラッシュが始まった慣れた道を慌てず急いで車をとばす。

高速道路のインター近くで、付近はスーパーや地場産販売の大型施設の出入り口がある

ここを通らないとD動物病院へは行けない。

焦る気持ちを抑えつつも急ぐ、
とにかく急ぐ。

車の流れも火曜日となると少し落ち着いてる様子で、とりあえず到着する

保護した時のダンボールそのままを抱えて受付へ急ぐ。

前もって電話連絡済みだったので、
直ぐに診察をお願いする

他にも患者の犬と飼い主が2、3人居た。

暫く待つ、15分くらい経ったか?
診察してくれた、主治医さんに呼ばれる。

主治医さんは言う、
"危ないところでしたよ、
脱水症状と一週間くらい飲まず食わずで胃の中は空っぽでした。
おまけに、首に他の動物?同じ猫かな?それに噛まれた跡があって、だいぶ膿が溜まって腫れていましたよ。
処置は以前の病院でやってもらってるので、こちらでは膿の除去と破傷風の注射を打っておきましたから、暫く安静にしないとですね?"

◯◯動物病院、
やっぱりヤブだった、、

"D動物病院へ連れて来て良かったー、
悪い予感的中だー"

ミツオは、さっきまでのピリピリした空気から安堵の気持ちに切り替わっていくのを感じた。

"入院させて良いですか?"
主治医が聞いてくる

"勿論、よろしくお願いします!"
間も無く、元気な返事をするミツオ。

そのまま、奥で診察の続きをするので主治医さんは引っ込み、続けて受付で保護した猫の手続きを済ませる。

症状からして入院となると、三日間では済まないと思うがお金の心配をして居る場合ではない

"いつも、仕事が終わってこの時間位に来院できるので明日、また様子を見に来ます、よろしくお願いします。"

手続きと挨拶を終えやっと帰路につくミツオ、長い一日だったと思いながら車を運転する。

−−−翌日−−−

この日は水曜日、
可燃ゴミはお休みだけど、代わりにリサイクルできる廃プラスティックの回収があるが、午後過ぎくらいには終わってしまう。

まだ午後2:30、、
仕事帰りに昨日のブチ猫の所へ行く予定だが、あと2時間もある

他にする事も無く、
時間が有り過ぎるのでミツオは担当者である各コースの地図作りに励む。

ここでは、他にパソコンと言うものを弄れる者が居ない
少しなら居たりもするが、厄介で細かい仕事なので皆やりたがらずミツオが抜擢されて居るが、手当ては無い、
皆やりたがらない訳だ

少し作業、作成すればあっという間に時間が過ぎる、今日のミツオにとっては好都合だ

直ぐに終業時間になった。

ミツオは直ぐにD動物病院へ、
ブチ猫のもとへ急ぐ、、

到着。

"昨日の保護した猫の様子を見に来たミツオです!"
受付の獣医の女性が
奥の診察室へ案内してくれる。

個室の診察台、暫く待つ

来た来たーブチ猫との一日ぶりの再会、丁度午後の食事の時間だったので台の上でご飯となる。

少し怯えた様子、、

獣医の女性が説明する
"この子は、男の先生は怖がるみたいですよー"

なるほど、
でも恩人はわからない模様。

これから数回、面会しに来るので慣れてもらうしか無いのかな?
再会できた反面少し寂しくなるミツオ

ミツオは既婚者だが子供は居ない、
居ればきっとこんな感じなのだろうと、父親の気持ちも少し感じる

ミツオに少し慣れたのか、ブチ猫はご飯をガツガツ食べ始める。

一週間も食べたり飲んだりして居なかったのだから、元の健康な体に戻るには時間が少しかかりそうだ。

"体も本調子では無いので、半日ほど栄養剤の点滴を打って居ます"
獣医さんは言う。

そうだよなー、栄養失調だったからなーとミツオは納得する

背骨も外観から分かるほど、痩せているブチ猫、まだ目もうつろだ。

ご飯を食べ終わり水を勢いよく飲むと、丁度面会が終わりの時間になった

"明日、また来ますので、
よろしくお願いします!"

そう言うと軽く会釈してミツオは病院を後にした。

"またねーブチ猫!"

聞こえてるのかどうかわからないが、お別れして気持ちよく帰路につくミツオ。

---数日後---

何度か仕事帰りに様子を伺い、
D動物病院へ通ってから一週間が経過した。

いつものように、診察台のブチ猫に話しかけてみる、、

"だいぶよくなってきたなーブチ、
おいらも怖がらないで首をスリスリしてきやがる、かわいいね〜♡"

瀕死の状態から様子を見てきたので、
日に日に良くなっていくのがたまらないくらい分かる、人間同様に命の尊厳が改めて身にしみる。

主治医が現れるとミツオが質問する、
"どうですか?先生。
だいぶ良くなっているように見えますが、、"

主治医が答える
"随分と元気になりましたね、
もう2、3日すれば退院できますよ!
三種混合ワクチンがありますので、仔猫なら初めての場合二回を1ヶ月かけて注射します、明日一回目を打ちます。"

"そーですかー、注射
よろしくお願いします。"

ミツオの声が明るい、一週間前のピリピリした不安な声が遠い昔のように懐かしいくらいに思えた。

"良かったなーブチ!
もうすぐ我が家へ帰れるぞー、
って言っても初めて来る家だから、
病院からお引越しだな!?"

今日はブチ猫に沢山話しかけるミツオ。

そう言えば、まだ名前が無かった、
退院するまで考えたいところだ

外観の模様でブチ猫として居るが、
人間並みのちと可愛らしい名前をつけたいと思った。

"じゃーまたねーブチ!"

元気になり、経過良好で気分が良い
仕事の疲れなど忘れて帰路へ。


入院してから10日が過ぎ、
いよいよ退院の日になった。

"お迎えに来たよー、ユメ!"

ミツオは、ブチ猫に『ユメ』と名付けた。

ユメ=夢、、

瀕死の状態からミツオのお陰で生還し、普通の猫に戻って、人間の家族同様、コイツにもいつまでも夢を見て居てほしいと言う意味らしい

因みに、入院して5日目ぐらいでブチ猫はメスと判明していたので、それらしい名前を今まで模索していたのだ。

メス猫のユメ、これからミツオの大事な家族の1人だ!

1匹、、
そうは言えない

人間並みの大切な家族の1人だからだ。

『ひとりのブチ猫』

小さくても大切な命。

『ひとりのブチ猫』 音澤 煙管 作

ゴミとして捨てられた瀕死の状態だった捨て猫を保護して看病、入院、我が家へ向かい入れるまで。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-12-12
Copyrighted

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