トワトワ

 永遠、永久、それは人にとって避けられないテーマですよね。それをね、恋愛と絡ませてみました。

 永遠なんて存在しない、僕はずっとそんなことはわかっているつもりだった。いつかはみな死んでしまう。でも本当にその意味を知ったのは二年前、世界で一番大切な人を亡くした時だった。

 彼女と僕が出会ったのは二人が十九歳のとき、ボランティアによる成人式実行委員会『二十歳の集い』でのことだった。「出会った」と言ったが、正確に言うならば再会だ。なぜなら、その十五年前にぼくらは同じ幼稚園に通い、しかも同じクラスで一年間共に過ごしていたのだ。僕は卒園を前に市内の別の地区に引っ越したため、それ以来彼女と会うことはなかった。十五年という時間を経て僕らは再会した。それも二人が二十歳になるという節目の年に。
 『二十歳の集い』で彼女に会ったのは、花が散り、若い葉をつけた桜の梢から柔らかな木漏れ日が差す心地良い日だった。彼女は水色の薄手のワンピースの上に白いカーディガンを羽織っていた。背が高く、肌は透き通るように白く、黒くて長い髪を春風で揺らし、彼女のその颯爽とした立ち居振る舞いはとても美しかった。僕はその姿を見た瞬間、心の底から湧いてくる恋心と、僅かに儚い切なさを感じた。

 僕と彼女が付き合うのは自然な事だった。同じ幼稚園だったという話題で親近感が生まれ、二人は十五年の空白などなかったように一緒に過ごした。
 そして僕が気持ちを伝えようと考えていた頃、彼女から告白された。こう言うと傲慢なようだけど、彼女が僕のことを好いてくれるのは当たり前な気がした。彼女もそう思っていたはずだ。
こうして二人は付き合うこととなった。

 不思議と二人の間には何の摩擦もなく、喧嘩なんてしたことなかった。週末には二人で映画や買い物に行ったり、近くの公園で散歩したりと、他の人から見たら大したことはない、何の変哲もない日常が、僕にとってはこの上ない幸せな日々だった。
 だが時には不安を感じることもあった。僕は幸せを感じつつ、彼女に「ずっと一緒にいよう」と言うと彼女は潤んだ瞳で僕を見つめ、悲しみを隠しふざけているかのように「トワトワ?」と言った。その時の彼女の顔を思い浮かべると、今でも僕は切なくなる。
 僕は一瞬意味が分らなかった。彼女の眼の奥深くに見入り、意味を読み取った。『永久とは?』だ。彼女はそんな冗談を言った後に僕の胸に顔を埋め、声を押し殺して泣いた。
 涙でシャツが濡れ、初めて僕は彼女が泣いていることに気が付いた。彼女が何故泣いているのかわからなかった。彼女はきっと、端から永遠など信じていなかったのだろう。

 彼女がいなくなったのは突然のことだった。僕が働き始めて会社にも慣れてきた頃、そろそろ結婚を申し込んでも良いだろうと考えていた。そんな時、彼女の携帯から電話があった。仕事中に電話をしてくることなど無かったので不思議に思ってすぐ折り返した。電話に出たのは彼女の母だった。
 その口から告げられたこと、それは僕にとって余りに残酷なことだった。彼女はもうこの世にはいない、という内容だった。
 信じられなかった。電話を切り、僕はただ呆然と立ち尽くした。梅雨の空を見上げると、暗く重たい鈍色の空が延々と続き、僕を絶望の淵へと追いやった。

 彼女を失って今年で二年。それ以来僕は女性を好きになることはない。友達はもう忘れてもいい頃だと言うが、そんなことができるわけがない。
 永久とは何か。終わりが無いということか。僕自身が死なない限り彼女に対する愛も終わらない。それは永遠ではないのだろうか。
 今でも僕は彼女への「永久の愛」を胸に抱いて生きている。

トワトワ

 この短編の母体は自分の体験です(もちろん実話ではありません)。『二十歳のつどい』というのがあって、それに参加し、そこで出会った元同じ幼稚園の女性と付き合うこととなった、という部分は事実です。
 
 書いた当時、彼女を失ったらというのを想像して書きました。(そして今、実際に彼女を失いましたが・・・・・・死んではいませんけどね。)正直言うと割と適当に十分くらいで(嘘かも、本当は三十分くらいかかったかも)書いたものです。それを最近少し手を入れて直しました。
 
 できるだけ典型的な恋愛小説っぽいものを書こう、っていう思いもありました。そのほうがウケるかなという魂胆でして・・・・・・。
 どうでしょう? 成功したかな?

トワトワ

『僕』と『彼女』の短い愛の話。 『彼女』は永久(トワ)の本質を知っている。『僕』は彼女を失ってそれを知る。物理的な時間とは無関係のもの。胸の奥のほうでうずくもの。それでも確かにそこにあるもの。 『僕』は永久の愛と悲しみとともに生きていく。とな。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-03

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