育毛脱毛薬ショートコント

テレビから笑い声とともに、くだらない話題が流れ込んできた。
スイッチをつけたなら、仕方がない。
嫌なら見るな、好きなら見るんだ。

「脱毛育毛剤プラス!!この放送が終わった後、先着100名様に限り、特価でご提供させていたきます、
 10日に一度脱毛しますが、薬をまたかけると、10日間再び髪の毛が生えてくる。
 買い続ければ、10日間はえる、10日に一度、笑いものに!あれ?先輩生えちゃったんですか!先輩のいいところなのに
 もういじれない!?心配ご無用、
 大丈夫10日たてば、またいじられる優しい先輩になれる!
 あれ?先輩、やっぱりかつらなんだ。
 育毛脱毛剤、お買い求めください。」

「買わねえよ!!」
テレビに向かって突っ込んだ。

所詮バラエティだ。品がない。
というか漫才師のやりとりに、自分一人でつっこんだ、退屈な土曜の7時。

明日は朝が早い、7時から担当と打ち合わせ。
たまに漫画を乗せてもらう4コママンガ家をしている。
たまに、しか仕事がもらえない、要するに貧乏である。

坂上太郎、24歳だ。
彼はシャワーをあびて、髪の毛をかわかし、一人でテレビと対話したあと、
スイッチをけさずに、ソファーにねころんだ。

あさーー。
カーテンのすきまから朝日が差し込んだ、
頭の上には猫が、我が物顔でのっかっている、
彼(猫)は叫んだ。
ニャー。

急いでおきあがり、ペットフードをあげて、そそくさと今日の用意。
今日は日曜日。

坂上といいながら、サカノウエという土地にすんでいて、土地が高い場所にあるので、行きは下る、
自転車でいける距離に、駅がみっつほどある、
都会に、自動車免許は、必ずしも必要ではない。

担当さんのご希望にあわせて、好きそうな漫画を描くだけ、それだけの人生だ。
こびをうれ。

街についた。サカノウエは、住宅地だから、ここまでは自転車で来なくてはならない。
その日の担当は、懺悔したくなる格好をしていた。
待ち合わせのカフェのドアが開く、座席は中央あたり、そこみると、そいつがいた。

「え!?神父さん!!?」

「コスプレ!?」

しかし、次にその神父らしき人物が言った言葉に戦慄する。

「脱毛育毛剤、間違え、
 やる気活性剤、いりますか?」

彼は、謎のサプリメントをもって自分にそれを差し出した。
「これを飲めば、10日効果が持続します、ですが、10日後また私からこれを買わなければいけません」
「はあ!?」

そして早口で彼は話し出した。それは猛烈なアピール。
「これであなたも、4コマだけではなく連載をもてるようになるでしょう、
 あなたに足りないのはやる気です、間違いがないでしょう」

「やるきい!?あるに決まってんだろ!!なんであんたにそんなこと、ひとのきもちなんてわかるんだ」

この担当は、初めて会う。
いつもお世話になっている有名雑誌社の担当さんの紹介で新しくできた小さな会社らしい
雑誌だが、部数は少ない、はじめからそういうニッチな市場を狙うとかなんとか。
でもなんでこの人にこんなこと、

しかし、わかかった俺はそれに手を出した。
「そのサプリメント、くれえええ!!?」
その日の格好は、たしか、パーカーに、お気に入りのつばつきの帽子、
帽子のつばをにぎり、その辺のDJさながらに格好をつけた。

それからは、仕事はくるわくるわ、
有名雑誌の看板作家になるわ、
とにかく売れまくり、何不自由ない生活をおくり
老後を数々のファンや、アシスタントに感謝されながら見守られ、
ペンをかくてを決して止めず、病気であっけなく死に、墓に埋められた。

そして、その日、やっと目を覚ました。
猫殿はやはり僕を見下していた。
冴えない夢を見たらしい。

かつて、小学生、中学生、ちょうどその時期に僕はあの担当らしき人物をよく目撃した。
いや比喩だ。あれは母親だ。
「やる気がないならやめなさい」
いつも言っていたことば、返す言葉もない。
思えば、ならいごと、趣味、勉強
全て中途半端だった子供の日々をおもいだして。
いまの苦労を笑った。

育毛脱毛薬ショートコント

育毛脱毛薬ショートコント

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-02

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