さわれない

 さわると、はがれて、ぽろぽろと。
 叩くと、割れて、掴むと、砕けるのが、きみだった。おとうさんは、真珠を売りさばいていて、おかあさんは、土偶をあつめていて、おねえちゃんは、古い本を修繕していて、おとうとは、パソコンでゲームをつくっていて、わたしは、なにもしていなかった。きみは、ときどき、クッキーを焼いて、稀に、ロールケーキを巻いた。近所の商店街の、三分の一の店は、どうぶつがやっていて、おかあさんとおねえちゃんが好きな和菓子屋さんの和菓子は、あらいぐまがつくっていて、おとうさんが三日に一度行く飲み屋さんは、わにがやっていて、おとうとがよく立ち読みしている本屋さんの店主は、ありくいで、きみが、ロールケーキを巻きに行くケーキ屋さんには、しろくまが二頭いて、なんか、もう、どうぶつが、みんな、にんげんにみえて、どうぶつと、にんげんの境目って、なに?と思ったけれど、そもそも、にんげんも、どうぶつだった。
 酷く、苛立ちを隠せないときは、きみの巻いたロールケーキを、巻く前の状態に、はがしたりした。酷く、暴力的な気分におそわれたときも、きみを、傷つけないように、した。(だって、きみは、こわれやすい)
 ともだちの、いもうとが、学校の理科室から、出てこないらしい。りゆうはわからないけれど、素敵なことだと思った。
 おとうとが、立ち読みしているときに、店主のありくいが、長い舌で、ぺたぺたと、せなかを叩いてくる、という。おとうとは、セクハラかな?と、首を傾げるが、たぶん、それ、立ち読みはやめてよ、って意味だよ、と思った。
 いろいろ思うけれど、やっぱり、ふいに、きみを、砕きたい衝動は、わたしのなかに、やってくる。やんなるね。

さわれない

さわれない

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-12-01

CC BY-NC-ND
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