さくら


――願わくば 花の下にて 春死なん その望月の如月の頃

 学校帰りの桜並木。薄紅の花びらを眺めていたら、

「やっぱ死ぬなら桜の咲く季節がよくない?」

 なんとなくそう言った私。

「なんそれ、オヤジくさ!」

と笑って私の腕を叩いた親友。

 あの日から私の時間は止まったまま。あの子と別れた後、飲酒運転のオヤジによって止められたまま。

 そういう意味じゃなかったんだけどな、あんなこと言わなきゃよかった。

 あの子は、学校を卒業して、就職して、結婚して、毎日昼下がりになると、この並木道をベビーカーを押してやってくる。

 ほら、来た。

 今日は目の下のクマが濃い、息子の夜泣きがひどかったんだろうか。
 それでもいいじゃない。あなたは、生きているんだもの、大人になれたんだもの。

 ふと彼女は足を止めた。
 ゆっくりと顔を上げ、まだ三分咲きの桜を、なぜか悲しげに見つめる。

「和佳子……?」

 いきなり私の名前が出てきて、めっちゃおどろいた。
 でも、そっちじゃないよ、私は後ろだよ思いっきし。

「ねえ、もういきな……」

 彼女はそう言うと、ベビーカーを押して行ってしまった。

 わかったよ。

 この桜が満開になるのを、待つのはやめにするよ。

さくら

さくら

桜の咲いている季節に死にたいって、なんとなく言ったけど、本当に死にたかったわけじゃない……

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-22

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