ふと思いついたことです

見上げれば月が寝そべり、泣きたくなった。

天気予報は、雨のち曇りだった。
思った通り、帰り道、傘が邪魔になる。
横切った公園。
街灯のオレンジが優しく照らすベンチ。
見上げれば木々の隙間から、三日月が顔をのぞかせている。
あなたと別れてから何年経ったのでしょう?
あの頃、怖いもの知らずの私たちは何かと理由をつけては、唇を寄せ合っていた。
覚えている?
ちっぽけな夢寄せ集め、目を輝かせ語り合った遠い日。
何にでもなれる気がしていた。
何でも手に入ると思っていた。
どちらともなく疲れて行った。
あなたとならどこまでも行けると思っていたのに。
かさかさと音を立て、枯葉が転がって行く。
立ち止まっていられない私たちは、別々の道を選んでいた。
巡り巡って行く季節の中、変わって行く自分が悲しくて、そんなとき決まって思い出すのはあなた。
ばかげた話ね。
もうそんな年でもないのに。
フッと笑みを零した私は、足を速める。
あの日あの時、振り返ってはまた歩き出す。
そして大事なものを一つずつなくして、大人になった。
点滅する信号。
自転車が通り過ぎる。
すれ違って行く人に、あなたの面影を探す。
一番楽しかったのは、たぶんあの頃。
夜の帳に包まれ、私は家路を急ぐ。
こんなことを話せば、あなたは心配してくれるかしら。だけど、それなりに幸せしているから大丈夫。ただ何となく懐かしい風に吹かれ、あなたを思い出しただけ。あなたはあなたらしく生きていますか?
私は私らしく生きられているのかな?
胸を張って、あなたに、あなたにだけは、幸せと言いたいから、ハイヒール、かかと鳴らして、階段を駆け上がって行く。
開く扉の先、暖かな明かりが灯る、これが私の幸せです。

本当に思い付きのとても短い物語です。

特別な話でもなんでもありません。帰り道になんとなく思い浮かんだ話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-11-21

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