*星空文庫

自販機の端っこの安物

白石 あめ 作

飲み込んだ口から吐き出すほど 不味くはないな


だからと言って 幸せそうに胃に入れるほど 美味しくもないな


五月時雨は あたしの頬を静かに濡らしたんだよ


飲みかけのコーラを投げ出して


あの春に向かって走り出した


飛び立った放課後は どこへ行ったの?


この声は 誰なの?


寒くて凍えるような冬になると 春が恋しくなる


暑くて焦げるような夏になると 秋が恋しくなる


結局これは 贅沢な悩みだと


そんな簡単なことでまとめられてしまうのだから


青春なんてものほど 恥ずかしいものはない


あんな 甘酸っぱい レモンの絞り残った余韻のような


甘ったるい顔をして青春をほざいている人ほど


たいした青春を送ってないもの


ホンモノの青春を送った人は 青春がいかに恥ずかしいものか知っているのよ


あの自動販売機は 今もあの場所にあるのだろうか


あのゲテモノのかたまり


端っこにいつも 冷たいブラックコーヒーがあった


暑い夏も 寒い冬も


そこに赤い文字が刻まれているのを見たことがなかったのだ


ああ かわいそうね


まるで あたしみたいだわ


なんていうほど 悲劇のヒロインじゃないけれど


まあ あたしは 不幸な方だと思っているのよ


端っこの安物だけには なりたくないのだけれど

『自販機の端っこの安物』

『自販機の端っこの安物』 白石 あめ 作

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-11-14
Copyrighted

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