play marbles
君はラムネの中の
ビー玉みたいだ。
キラキラ輝く
手に入れたいけど
手に入らない。
どうしても手に入れたくて
ラムネの瓶を落としたんだ、
母にひどく怒られた。
どうしてそんなことするの?
どうしても
ビー玉が欲しかった。
だけど、ビー玉は
傷ついてしまって
綺麗なまん丸では
なくなってしまった。
play marbles2
美少年…
君への第一印象
サラサラキラキラ揺れる
金髪に
艶々の肌
すらっと長身で
だれもが振り向く美少年
独特のオーラと
声色がとても魅力的だった
play marbles3
田舎の隅のカフェで
働くわたし
コーヒー片手に
煙草を吸いながら
文庫本を読む君を
ひっそり眺めるのが
楽しみだった
君がカフェに
来るようになって
一年ほど経った
柔らかい日差しの差す
春の日
「今度ドライブに行きませんか?」
コーヒーを君の前に置くわたしに
話しかけてきた君
突然でよく理解できなかった
「はい」
と、答えたあとに
心臓が飛び跳ねた
play marbles4
それから君と
何度かドライブへ
夜景を見ながら
いろんな話をした
君といると心地良くて
安心する
活発で社交的な君
わたしとは正反対の性格
だけど
波長が合う
君ともっと一緒に居たい
君とずっと一緒に居たい
そう思うようになった
ああ、君が男の子だったら
よかったのに…
そう思うようになった
見た目は完璧な美少年の君
でも君は女の子
高鳴る胸をどうしたらいいのか
わからなかった
複雑な感情をどうしたらいいのか
わからなかった
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肌寒く
つんと鼻に秋の香りがする夜
君の家に招待された
真っ白で大きなソファ
小さなテーブル
シンプルで飾り気のない
部屋が君に似合っていた
「暇だから作ってみたんだ」
と、注いでくれた
自家製サングリア
甘くて
わたし好みの味
媚薬のようだった
「映画でも観ようか」
ソファに座るわたしを
横から抱きしめながら
テレビのリモコンを
操作する君
観はじめたのは
推理映画
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推理映画
観たことがなかった
今まで興味がなかった
だけど
面白い…
新しい世界を発見した気分
映画が終わり
エンドロールが流れる頃
君はわたしの横で
ソファの上で
正座をする
大きな身体を
小さく畳んで
わたしの方を向き
「好きです」
聞き取れないくらい
小さな声で
わたしに伝えてくれた
play marbles7
その瞬間
わたしの世界は一変した
ああ
そうなのか
君と居れる選択肢が
この世にはあるのか
と
君と居たいと
願った思いは
叶えてもいいのだ
と
正座したまま
顔を真っ赤にして
下を向いている
君に誠実さを感じ
愛おしいと思った
わたしは君の手に
わたしの手を重ねた
play marbles8
すぐに一緒に暮らしはじめた
独特のオーラで
夜な夜な遊びに
繰り出して
派手な生活を送っていそうな
君だったが
真面目な性格で
質素な暮らし方
その容姿からは
想像ができない姿が
沢山見えてきた
その度に
愛おしさが増す
play marbles9
腑に落ちないことがひとつ
どうしてこんな
平凡で何もないわたしを
すきになってくれたのか
「病弱そうで青白いところ
控えめで柔らかい声
折れそうなペタンコの身体
大きくない目
全部好みだよ」
不思議な美少年な君は
好みも不思議だった
そんな不思議な好みに
当てはまることができて
わたしは嬉しかった
君の好みに当てはまることで
何にもないわたしに
魅力が生まれた気がした
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「見せたい景色があるんだ」
そう言って君は
夜を跨いで車を走らせる
一緒に過ごしはじめて
初めての夏の暑い日
遠く離れた
見知らぬ土地を
夜を越え抜けると
見たこともない綺麗な蒼い海
午前中の眩しい光に
当たる真っ白な砂浜
またわたしの世界は広がっていく
海は苦手だった
夏に外に出て日を浴びるなんて
自発的にすることがなかった
だけど
あまりに綺麗な景色が
目の前に広がる
その海に触れたい
生まれて初めて
泳ぎたいと思った
サンダルを脱ぎ
自ら海の中へ足を運ぶ
柔らかい白い砂が
足の裏を掠める
冷たい透明な海水が
心地良く波を運ぶ
今まで持ったことのない感情に
戸惑いながら
海の中を歩く
そんなわたしを
微笑みながら
見守る君
「君に見せたい景色が沢山あるよ」
そう言って手を繋ぎ
また微笑む
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君からもらう
景色は
いつもわたしの世界を
塗り替える
城下に永遠と続く
桜並木と
桜吹雪
山を越え
抜けた先に
広がる
空の色が映る海
紅葉の絨毯
山脈に広大に広がる
雪景色
今までみたことのないものを
わたしに見せてくれる
play marble12
わたしは
人付き合いが苦手だ
苦痛で
息苦しい
ひっそりひとりで
生きてきた
そんなわたしに
きみは生きるエネルギーを
くれる
この世は
素晴らしい景色で
満ちていると
教えてくれる
君からもらうものは
わたしの心を
満たしてくれる
わたしは未熟で
何にもない人間だけど
この世に生きているという
実感をくれる
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テーマパークも
好きな君
いろんな場所へ
連れて行ってくれる
一緒に過ごしはじめて
いつくかの季節が過ぎた頃
君はシンデレラ城の前で
跪坐く
ずっと一緒にいてください
と、わたしの左手の薬指に
指輪をはめる
その姿はまさに
王子様
手が震えているけど
王子様
わたしは嬉しくて
言葉を失う
そんなわたしを
心配そうに見つめる
嬉しすぎて
実感が湧かないよ
わたしが言うと
微笑んで手を繋ぐ
play marbles14
結婚はできない
わかっていた
でも君とこれからの
人生を歩もうと思った
いつか
この国でも
結婚できる日がくるかも
しれない
君といる
満ちた世界で
永遠に生きたいと
心から思った
わたしは毎日指輪を眺める
play marbles15
「ウェディングドレスは着せてあげたい」
彼はわたしを異国へ連れ出す
湿気のない暑さと
柔らかい風が吹く
なんともいえない
心地良いい国
時間はゆっくり流れ
大きな太陽
揺れる椰子の木
暖かく穏やかな海がある
そんな国の砂浜で
ウェディングドレスを着るわたしを
タキシードを着た君が
抱きしめる
愛おしいと
何度も何度も思う
君からの愛を
全身で感じる
play marbles16
君が居ない夜は
君から貰った
沢山の手紙を読み返す
君が書く文字は
とても綺麗
「君はまるでラムネの中のビー玉みたいだ…」
君から貰った手紙の中で
一番好きな手紙
わたしは自分の気持ちを
表現するのも苦手だ
手紙や作文は
難しい
君からの魅力的な
手紙たちを
クローゼットの奥
小さな箱に
大事にしまう
君は食欲旺盛
細い身体で
人の5倍
御飯を食べる
君はいろんなものを
食べたがる
君といろんなものを
食べに行く
食にも興味がない
わたし
だけと君と食べる御飯は
食べたことのないものは
とても美味しい
食べることで
エネルギーが満ちること
心が満たされることも
君が教えてくれた
君の為に君の好きなものを
沢山作る
君が隣で
美味しい美味しいと
沢山食べる
心が満たされていく
「君を幸せにしたいんだ」
そう言って
君はたくさん働く
真面目で
責任感が強く
面倒見が良く
優しい
誰からも愛される君
そんな君は
更に
出世していった
キラキラ輝く世界へ
更に飛び立っていく
play marbles19
だけど
日々過ぎ去る中で
わたしは
そんな君に
劣等感と不安を
感じ始める
なんにもないわたし
毎日コーヒーを運ぶわたし
君は輝きを増していく
君の周りには
輝いている人が沢山いる
こんなわたしは
きっと
飽きられてしまう
わたしは
置いていかれてしまう
わたしは君に
相応しいのだろうか
不安は膨らんでいく
play marbles20
わたしは
勤めていたカフェを辞めた
君に近づきたかった
わたしも輝きたかった
君と居た長い時間で
わたしも少しは
何にもないわたしから
変わっていた
高級店の
ジュエリー売場で
働くことができた
毎日
キラキラ輝くジュエリーに囲まれ
わたしも輝ける気がした
煌びやかな世界
だけど
すぐに息苦しさを
感じ始めた
うまく笑えなくなった
君の隣で
勘違いをしていた
わたしは
何にもないままだった
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すぐに仕事に
行けなくなってしまった
わたし
弱くて何にもないわたし
「仕事は1日の大半を占めるんだから
嫌なら違うことをすればいいよ」
君は優しい
でもわたしは
自分の価値すら
見出せなくなっていた
どうにかしないといけない
何にもないわたしでは
いけない
このままではいけない
君に見放されてしまう
わたしの中で
焦りばかり募っていく
きっとわたしは
君の前で
うまく笑えなかった
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君はとても忙しくなっていった
家に帰ってこない日が
増えていく
わたしは1人
君の帰りをひたすら待つ
何にもないわたしに
何ができるのか
考えながら
ひたすら待つ
寂しさを
紛らわせる
術がなかった
そして
不安と焦りは
疑念へ変わる
君は帰ってこない
play marbles23
「しばらく1人になって考えたいんだ」
君はうつむきながら言う
どうして?
「君は何も悪くない
自分がどうしたら
いいのかわからなくなったんだ」
わたしは言っていることが
理解できなかった
ずっと一緒にいると
誓ったのに
どうして
わたしの不安と疑念は
膨らんでいく
嫌いになったなら
嫌いと言って欲しい
他の人の元へと
行きたいなら
言って欲しい
「そんなことはないよ
ただ
1人になりたいんだ」
わたしは受け入れることが
できなかった
play marbles24
君は言う
「何が大事で
自分がどうしたいのか
わからなくなったんだ」
「幸せにしたいけど
今の自分では幸せにできない」
「幸せにしてもらおうなんて
思ってないよ
一緒に幸せになろうよ」
「ありがとう
でも出来ないんだ」
君のことが
理解できなくなっていた
わたしは君への疑いしか
なくなっていた
何度か話し合った
君は変わらない
わたしは君が
離れて行く恐怖で
いっぱいになる
「どうしてそう思うの?
なんでなの?」
「君は何も悪くないんだ
自分が駄目なんだ」
どうしても
食い違う
不安と疑いと焦りで
わたしは君を責め立てた
すると君は別れたいと
懇願した
そして
泣き叫んだ
「どうしてちゃんとできないのか
どうしていつも通りできないのか
毎日毎日考え苦しいんだ!」
play marble25
わたしはその時やっと
君がおかしい
ことに気がついた
泣き疲れて眠った君
わたしはすぐに
暗闇でパソコンを開いて検索する
君は、きっと病気になっている
心の病気にかかっている
検索した画面には
君が言ったことを
一語一句違わず
言っている
病気の人たちの話
わたしは君が起きるまで
必死に病気のことを調べた
きっと今は一緒にいてはいけない
そして、君が起きたあと
離れて暮らすことに同意した
play marble26
すでに
頭のてっぺんから足のつま先まで
君に染まっていた。
自分ひとりで立つことさえ
出来なくなっていた。
君が居ない
と、いう時間をどう過ごしていいかさえ
分からなかった。
泣きながら眠りに就き
君と夢で会い
泣きながら目を覚ます。
君と居た長い長い時間は
瞬きするくらいに一瞬で過ぎて
いたのに、
君が居ない時間は1秒すら重たく秒針が進む
月日が経つのがこんなにも
遅いことを
わたしは知らなかった
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君の居ない時間を埋めたくて
君が部屋に残していった
君の小説を読むことにした。
君の読む小説はどれも
君に似ている。
孤独と儚さと独特の雰囲気。
小説を読んでいると
君と触れ合っているかのような
気持ちになれた。
君は居ないのに
また、わたしに新しい世界を
見せてくれる。
君は唯一無二。
わたしに世界をくれる人
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