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騎士物語 第六話 ~交流祭~ 第八章 優等生対触手魔人

RANPO 作

第六話の八章です。
何やら嫌なタイトルになりましたが、普通に交流祭の試合です。
ローゼルVSパライバです。

第八章 優等生対触手魔人

 ここ最近で一番きつかった気がする。ランク戦でアンジュと戦った時は我ながら全力を出したと思ってたけど……今回はその上を行ったと思う。
 戦いの内容的にはそれほど濃くないし、お互いが順番に技を披露するような……まぁ、別の言い方をするなら互いの強さを確認しながらっていう変な試合だった。
 だけど最後にやった温度の上昇。熱だけをコントロールするのがあたしにはまだ難しいからああやったんだけど……想像以上に魔法の負荷が大きかった。やっぱりちゃんと練習しないとダメだわ。
「落ち着いたか? エリル。」
 へとへとの身体をベンチに座らせてるあたしの顔を覗くロイド。結局こいつは初めから最後まであたしが勝つって信じ切ってたらしくて……試合中、応援も心配するような声も聞こえなかった。
 まぁ、あたしにとっては嬉し――
「だ、大丈夫よこれくらい!」
「いはは、はんへほっへを?」
 ロイドのほっぺをつねるあたしを半目で眺めてたローゼルが、ふぅと息をはく。
「エリルくんも回復したようだし……そろそろわたしたちも試合をしなくてはな。」
「あのキキョウとかいうニンジャは学年三位なんだよね? 昨日戦ったテキトーな上級生よりも強そうだったし、もしかしてエリルちゃんがゲットしたポイントってかなり大きいんじゃ……」
 ポイント……交流祭のルールの一つで、自分よりも格上の相手に勝つとたくさんもらえる。元々は学校同士が生徒の集めたポイントの合計で競うモノなんだけど……あたしたちはあたしたちの中で一番多くポイントをゲットした人の願いを聞くっていうのをやってる。
 現時点で、プリムラに負けたロイド以外は全員、上級生相手に勝ってる。でも今リリーが言ったように、上級生が下級生よりも必ず強いかっていうとたぶん、そうじゃないのよね。
「かもねー。極端な話、三年生で最下位の人と一年生で一番の人なら一年生の方が強い気がするし、その辺も考えて選ばないとだねー。」
「じゅ、順位はもらったほ、本でわかる……けど、ど、どうやって見つければいい、のかな……?」
「そうなんだよなぁ。オレもどうやってラクスさんを見つければいいのやら。」
 騎士になった時、どこかに潜んでる悪党を見つけ出す――みたいな任務はよくありそうだし、この交流祭の状態がそれの訓練になるとは思うけど……そもそも何をどうすればいいのかさっぱりなのよね。
「とりあえず人がたくさんいるところに行くのが定石だね。商売でも何でも、情報は人が持ってるんだから。」
 リリーの提案に従い、あたしたちは人が集まる場所――街の真ん中にある一番大きな闘技場の方に向かう事にした。近づくにつれて人は多くなっていって、闘技場の周囲まで来るとあっちこっちで試合の申し込みをする生徒が目立ってくる。
「ふむ。どうやら他校の生徒の情報をまとめるのはわが校の生徒会だけではないようだな。どこの学校の生徒も小さな本を手にしている。」
 ローゼルの言う通り、デザインは学校によって違うけど、たぶん中身は同じ感じの本を各校の生徒が持ってるのが見える。どうやら交流祭で定番のモノみたいね。
「それでかなー。さっきから妙に視線を感じるよねー。」
「ま、わたしたちはランク戦の上位者だからな。わたしたちが強い生徒を探すのと同様に、他校の生徒もわたしたちに目をつけるのだろう。」
 キキョウみたいな学年の順位をつけるなら、セイリオス学院一年生の……えっと、三位決定戦みたいのはやってないから……同率五位にローゼル、リリー、ティアナ。同率三位でカラードとアンジュ。二位がロイドで一位があたしってことになる。
「ただ……視線の半分は違う理由のようだがな。」
「……自分が美人だからとか言うんじゃないわよね……」
「それもあるがそれ以上に――」

『おお……あれが『コンダクター』のハーレムか……』
『さすが《オウガスト》の弟子だな……』

「ロイドくんが視線を集めている。」
「心外な噂話が聞こえるんですけど!?」
 まだちょっとふらふらしてるあたしの横に立ってなんとなく気遣ってくれてたロイドが「えぇっ!?」っていう顔になる。
「戦闘に支障が出るからという理由で団内における恋愛を禁止している騎士団も少なくないというのに、我らが『ビックリ箱騎士団』は団員全員が団長を好きという状況なのだから、文字通りビックリだな。」
「部活の申請をしたらカラードたちも入りますから!」
「ついでに他校の女子も入部しそうで怖いのだがな。例のパムブレドさんとか。」
「だ、だからあの人は大丈夫で――」

「逃げんのか腰抜けが! タマぁついてんのか、あぁっ!?」
「初日に殴ってやろうと思ったら昨日どこにもいなかったお前はどうなんだ!」

 パムブレドっていう、プロキオンで人気の女子生徒が実は魔人族っていうのをあたしは知ってるけど、それを聞いてないローゼルたちは未だに怪しんでる。一応スパイみたいな状態だからあんまり言わない方がいいみたいだけど……面倒な事になりそうだし、どっかで話すべきよね……なんて思ってたら、そんな絵に描いたような喧嘩の声が聞こえてきた。
「あ、ラクスさん――とあいつは……」
 前よりも一層嫌な顔……を通り越して怖い顔になるロイド。一番大きな闘技場の壁の近くで喧嘩してたのは、昨日ローゼルが氷漬けにしたゲス男と今日のロイドの対戦相手のラクス・テーパーバゲッドだった。
「……ラクスさんいるし……無視はできないか。」
 そう言いながらしぶしぶと二人に近づいていくロイドの後ろ、あたしたちもそれなりに嫌な顔でついていった。
「んあっ!? てめぇら!」
「お、『コンダクター』! ちょっと待ってろ、先にこいつをぶちのめ――」
「おいくそ女! てめぇだよごらぁっ!」
 今まで喧嘩してたラクスを放置して、ゲス男はずかずかと……ローゼルの前までやってきた。
「昨日はよくもやってくれたな、ああっ!? グチャグチャにしてやっから闘技場にあが――」
 昨日のやらしい視線の代わりに、完全に恨んでる目をローゼルに向けながら手を伸ばしたゲス男は――その腕をロイドにつかまれた。。
「……おいもやし、おれさまにさわ――」

 その時、きっとあたしたちの近くで喧嘩を眺めてた学生までもが感じたと思う。この前のスピエルドルフで、ザビクが変身した偽ロイドを見た時のカーミラが放った気配。心臓をつかまれてそのまま潰されるんじゃないかっていう感じの圧力。

「この手をどうするつもりだ?」

 黄色い右眼を光らせて、ゲス男の腕をギシッていう音が聞こえるくらいの力でつかむロイドの圧倒的で絶望的な――殺気。王家とか騎士の名家とか言っても普通に育って普通に騎士の学校に入ったあたしやローゼルとは違う、広い世界で色んな事を経験してきたロイドやリリーが時々見せる迫力。
「な……てめ……」
 このゲス男がこれまでにどんな経験を積んできたかなんて知らないけど、その迫力に吸血鬼としての力が上乗せされてるこんなゾッとする殺気が平気な奴なんてそういない――っていうか、学生にはまずいないと思う。
 何度か経験済みのあたしたちでさえ身体が動かなくなるこれに、ゲス男の表情が少しひきつる。
 いい気味だわ。
「ありがとう、ロイドくん。」
 怖い顔のロイドの肩にローゼルがすっと手を置くとその圧力はふっと消え、ゲス男はロイドの手を振りほどいて二、三歩さがった。
「お前の兄は昨日の氷がいい薬になると言っていたが、残念ながら効果はなかったようだな。」
 ほどかれたロイドの手を両手で握りながら、ローゼルは冷ややかな顔をゲス男に向ける。
「お前は……ほう、銀色の腕輪という事は二年生だったのか。しかし低俗過ぎて示す敬意は見当たらないな。」
「あぁっ!?」
「三年生であったら良かったモノを、二年という事は来年の交流祭でも会う可能性があるわけだが……会う度に頭の悪い会話はしたくない。昨日ので足りないというのなら徹底的に教え込んでやろう。美しい花には棘があると。」
「ローゼルさん!? こんなのと戦う事は――」
「二年生で生徒会長の弟……ほら見ろロイドくん、リゲルにおける学年別ランキングは五位だそうだぞ? 中途半端ではあるがそこそこ強いようだ。きっとそこそこのポイントが得られるだろう。」
「……上等だくそ女。ちゃんと勝負下着をはいてるか? さらす準備はバッチリか? あぁ?」
「彼以外に見せる予定はない。そっちこそ覚悟はいいのか? 一年生に完敗する用意は?」
「てめぇでヌク用意ならできてるぜ?」
 下卑た笑みを浮かべ、ゲス男は闘技場……一番大きな闘技場に入っていった。生徒会とか委員長とかの役職についてる生徒はここで試合する決まりらしいんだけど、別に空いてるなら誰が使ってもいいらしい。幸か不幸か、今はちょうど使えるみたいね。
「ローゼルさん……」
「心配するなロイドくん。さっきエリルくんを信じ切っていたように、わたしの事も想ってくれればいいのだ。」
「うん……」
 心配そうなロイドににっこりとほほ笑んだローゼルは……ころりと悪だくみの顔になった。
「しかしながら上級生で五位であるからな! ロイドくんが何らかのご褒美を用意してくれるのなら、わたしの勝利はより確実なモノになるだろう!」
「えぇ!? ま、またその流れですか!」
「わたしの士気をあげて欲しいだけだよ、団長殿。」
「徹底的に教え込んでやるってやる気満々でしたよね!?」
 あらゆる事をロイドとイ、イチャイチャする為の口実に変えていくローゼルはすご――くないわよ、ただのエロ女神よ!
「わたしが勝ったら――熱い抱擁や深い口づけなどをしてくれるかい?」
「びゃっ! え、えぇっと! その!」
 ロイドにグイッと迫って――その突き出た凶器をふにょんと押し付けるローゼル。ゆらりとリリーが暗殺者の挙動を見せたところでふと、ロイドは何かを思いついてごほんと咳払いした。
「い、いやいやローゼルさん! 勝つ事は前提ですよ! さ、さらりとこなしてもらわないといけませんですよ!」
「! ほう。」
 今までにない返しにローゼルが……文字通り「ほう」って顔になる。
「なな、何しろ現役の十二騎士の技術をお、教えているわけですからね! ご褒美というのであれば、試合内容で用意するのがだ、妥当でしょう!」
「ほうほう。ではどのような条件にするのだい?」
「えぇっと――あー……そうですね……で、ではそのぉ……い、一度も攻撃を受けない――というのはどうでしょうか。」
「むぅ、仮にも上級生相手にか? なかなかの高難易度だな。」
「ほ、ほら! フィリウス直伝の動きって主に回避の技なので……と、と言いますかその……」
 ローゼルから目をそらしたロイドは、恥ずかしそうにこう言った。

「き、きっとあいつは触手を使ったいやらしい攻撃をしてくるんでしょうから……そ、それにローゼルさんには触れて欲しくないといいますか……」

「それは……」
 面食らった……だけど段々と嬉しそうな顔になるローゼル。
「つまり、わたしに触れていいのはオレだけだと?」
「そそ、そういうわけでは! た、ただあんなのは……」
「なるほどなるほど、そういう事にしておこうか。二年生にして学年順位五位を相手に無傷――いや、一度も触れられずに勝利するという条件、飲もうではないか。しかし難易度の高さに見合ったご褒美でないといけないぞ、ロイドくん。」
「うぇっ!? え、えぇっと……」
「そうだな……わたしのお願いを一つ叶えるというのはどうかな?」
「えぇ!? い、いやそれは……」
「なに、いきなりエリルくんを捨てろなどとは言わないさ。そこは自分でなんとかするから……そう、熱い抱擁にも深い口づけにもなり得る自由度が魅力なのだ。どうかな?」
「はぁ、そ、それなら――」
「ロイくん! そんなご褒美ダメだよ! きっとエッチなお願いするんだから!」
「えぇ!?」
「おいおい、リリーくんやムッツリエリルくんやお色気アンジュくんと一緒にしないで欲しいのだが。」
「だだ、誰がムッツリよ、エロ女神!」
「変なあだ名つけないでよー。」
 あたしたちがブーブー言うと、ローゼルは再びロイドにくっついて身をくねらせ――!!
「あびゃあっ!?」
「あーロイドくんロイドくん、わたしはこのご褒美でないとダメな気がしてきたぞー。あーあー、それ以外であった場合、きっとわたしはあのいやらしい男にあんなことやこんなことをされてしまうのだー。あーあーあー。」
「だ、びゃ、あびゃら、わ、わかりました、わかりましたから! それでいいですから!」
「よろしい。」
 ひょいと離れた満足気な顔のローゼルは、制服を整えてピッと人差し指を立てた。
「この試合に先の条件をクリアして勝利すればロイドくんはわたしのお願いを叶えてくれる。主に頑張るのがロイドくんであれば何でも。そんなところで良いかな?」
「へ、あ、そうです……ね……」
「そうかそうか。」
さっきまでの殺気やら冷ややかな視線やらが飛び交うピリピリした空気が嘘だったみたいに、意気揚々とトリアイナを組み立てたローゼルは――

「では、勝ってくるとしよう。」

 元々妙に上から目線だけど、それでも今までに感じたことのない……雰囲気ににじむくらいの余裕。自分が負けるわけはないとでも言うような……そんな背中を見せながら、ローゼルも闘技場に入っていった。
「――だはぁ……あぁ、お、お願いかぁ……一体何を……」
「……エロロイド。」
「ロイくんのスケベ!」
「ロイドくん……エッチだよ……」
「ロイドも男の子なんだからー。」
「えぇ……」



『こちらの大闘技場、主に生徒会や委員長などの役職についている生徒が試合を行う場所ですが、それ専用という訳ではありません。故に誰が試合を行っても良いのですが――この試合だけはここでやってはいけない気がしている、実況のパールです。』

 どうやらこの一番大きな闘技場の実況は毎回パールさんがやるようだ。
「わー、別に生徒会のバトルでもないのに人が多いね。」
「大抵の人が一日一試合だろうから……今のエリルみたいに朝一で暇になる人って多いのかもしれないな。」
「どっかの馬鹿の知り合いのせいで暇な上にへとへとよ。」
「すみません……」
「や、やってはいけない、って……どういう、意味かな……?」
「たぶんあれのせいだよねー。」
 アンジュが指差したのは、闘技場の中で腕を組んで立っているパライバ。

『リゲル騎士学校二年、『ディゾルブ』ことパライバ・ゴールド! 会長であるベリル・ゴールドの実の弟ですが、兄とは正反対! 先の二つ名よりも『触手魔人』や『エロ魔王』という通り名の方が有名な生徒! 彼と試合を行ってトラウマを背負った者は少なくないとの噂です!』

「でぃぞ……? どういう意味だ?」
「溶かすという意味だよ、サードニクスくん。」
 こういう時に詳しく教えてくれるローゼルさんがいないわけだが、代わりにデルフさんがやってきた。
「デルフさん? えっと……この試合を観に来たんですか?」
「サマーちゃんをけなした男の負ける姿を観に来たのだよ。」
 ああ、そういえばそんな事が……というか溶かす? 変な二つ名だな。
「ゴールドくんの弟くんはこの前のコンサートで見せた触手を使って戦う魔法主体のタイプなのだけど、その触手にはひと手間かけてあってね。衣服に触れるとそれを溶かしてしまうのだよ。」
 オレのこころの中の疑問に答えてくれるデルフさ――
「服を溶かす!? な、なんですかそれ!」
「言葉通りさ。最終的には裸にされてしまう。」
「えぇ!? そ、そんなの――い、いやいや、そういういやらしいのは闘技場の魔法が防ぐんじゃあ……」
「うーん、そこは難しいところでね。二次的な被害で服が破けるとかは確かに防いでくれるけど、服を溶かす事を目的――いや、戦術としている攻撃を無効化はしないんだよ。」
「せ、戦術? 服を溶かすのがですか?」
「主に悪党が使うけれど、立派なね。例えば、凄く腕の立つ若い女性騎士に囲まれた悪党が、彼女たちの服をはぎ取る事を初めに狙う事は非常に効果的だとは思わないかい? きっと彼女たちは恥ずかしがって動けなくなるからね。」
「それは……そうかもですけど……」
「痛みとは違った方向で動きを鈍らせ、しかも耐性をつけるには特殊な訓練が必要な精神攻撃。欠点は相手の年齢が上であればあるほどに効果が薄れることかな。まぁ……彼の場合は戦術というより欲の意味合いの方が強そうだけどね。」
「それじゃあもしも触手に捕まったらローゼルさんは――そ、そうか、それでパールさんはここでやっちゃいけないって……こんなに人がいる前で……」
「あー、誤解のないように言っておくけど、仮にリシアンサスくんが裸にされても僕らには見えないよ。もちろん『触手魔人』にもね。」
「えぇ?」
「戦術として効果が認められるギリギリのラインでハレンチを防ぐわけだね。具体的に言うと、リシアンサスくんの目には裸の自分が見えるけれど、そのほかの者にはいつも通り制服を着ているように見えるんだよ。もちろん、試合が終わったら溶かされた服は元通りに復元されるから、闘技場の外にも安心して出ていける。」
「?? えっと……それだとあんまり恥ずかしくないような……」
「ふふふ、こればっかりは実際にそうなってみないとわからないだろうけれど……相手には見えていないとはいえ、自分が裸である事は認識してしまうからね。その上こんなにたくさん人がいるという状況、羞恥心はキッチリ働くと思うよ? それに、触手そのもののうねうねした感覚は普通に感じる。」
「なるほどー。あの触手が優等生ちゃんのあんなとこやそんなとこをうねうねして、優等生ちゃんが「いやーん」って叫んじゃうわけだねー。ロイド、想像しちゃダメだよー?」
「ならそんな事言わないでください!」

『そんな最悪の生徒に対するは! 学院内ではもちろんのこと、ランク戦の映像を通して他校にもファンが多いという誰もが認める美女! セイリオス学院一年、『水氷の女神』ことローゼル・リシアンサス!』

 パールさんの紹介と共に、ローゼルさんが闘技場に姿を現す。軽く微笑んだ……なんだろう、いつも以上に余裕たっぷりの顔だな、ローゼルさん。

『国王軍にてセラームとして活躍する『シルバーブレット』を父親とする、名門リシアンサス家の一人娘! 手にしたトリアイナから繰り出される名門の技に加え、第七系統の水魔法を駆使した高度な魔法戦も得意としている、期待値抜群の一年生です!』

「すごいなローゼルさん。他校にまで。」
「あんたが言うと嫌味になるわよ、『コンダクター』。」
「えぇ……」

『ちなみに、同様に注目の一年生である『コンダクター』と深い仲にあるとかないとかで多くの男子生徒がモヤモヤしているようです。』

「なんだそりゃ!」
「へー。セイリオスだと割とみんな知ってるけど、他校にはまだ伝わってないんだねー。優等生ちゃんがロイドにベタベタなのってー。」
「でも今の聞いちゃったらローゼルちゃん、他の男が自分に近づかないようにこの場でロイくんにもう一回告白してもおかしくないね。」
「えぇ!?!?」
「確かにやりかねないわね……」

「結構な人気だな。ま、余計にかきたてるだけだろうがな。男の想像力ってのはすげぇんだぜ?」
「? いきなりなんだ?」
「肝心な部分は見えないが、おれさまの攻撃でてめぇがよがり狂う様で十分に、観客はてめぇをおいしくいただけんのさ。良かったなぁ?」
「いや無理だろう。お前の攻撃はわたしに届かないのだから。」
「あぁ?」

 セイリオスの闘技場と同じように、本来なら聞こえるはずのない選手二人の会話は設置されている大きなモニターから聞こえてくる。そして画面の中のローゼルさんは……自信に満ちた顔でこう言った。

「断言しよう。わたしはお前の攻撃を一切受けずにお前を倒す。」

 ざわつく観客席。エロ魔王と美女の戦いというのは一先ずとして、一年生が二年生相手にそう言ったのだから当然の反応か……
「おやおや、随分とかっこいいことを言うね、リシアンサスくんは。彼はあんなんだけど結構な強者なのだけどね。」
 デルフさんが強者と認めている……! あれ、もしかしてオレ、ローゼルさんにものすごい無理難題を……?
「けれど……ふふ、あの自信。そうなる未来が見えているかのような気持ちの良さだね。これは面白いモノが見られるかもしれないね。」

「……馬鹿にしやがってくそ女が……」
「ああ、馬鹿にしているのだ。」

『どのようないきさつかわかりませんが、両者のにらみ合いはヒートアップするばかりです! 残りは戦いで語って頂きましょう! パライバ・ゴールド対ローゼル・リシアンサス、試合開始!』

 パキンッ!

 開始の合図と共にローゼルさんの足元が……数メートルくらいの範囲で氷づいた。

『開幕速攻! 両者の魔法発動速度は互角のようです!』

「え、両者? オレにはローゼルさんが地面を凍らせたのしか見えないんだけど……」
「ははは、まぁゴールドくんの弟くんの攻撃は姿を見せる前に封じられたからね。今、リシアンサスくんの足元に何らかの土魔法が発動したのだよ。おそらく、彼が得意とする触手だろうね。」
「へー。じゃー優等生ちゃんはいきなりエロシーンになるのを防いだんだねー。」
「エ、エロシーンとか言わないでください……」
「ちなみにロイくんはそういうの好き?」
「えぇ!? い、いやいや――…………――そ、そんなのはまったく!」
「……あんた今想像したわね……?」
「なな、なにをおっしゃいますやらエリルさん! というかさすがですね実況の人! 魔法の事よくわかりましたね!」
「わが校と同じように、こういった場で解説を担当する生徒は基本的に実力者だからね。」

「予想通りの攻撃過ぎてあきれるな。」
「は、ただのあいさつを防御したくらいで調子にのんなよ?」

 エリルから冷たい視線が……うわ、なんだあれ……
「う、うねうねしたのが、た、たくさん……生えてきたね……」
「きもちわるっ。ロイくんてばああいうのが好きなの? ボク困っちゃうなぁ。」
「好きじゃないから!」
 まずい方向に話が行く中、パライバの背後ににょろにょろと出現した触手が、その外見からはイメージしにくい弾丸のような速度でローゼルさんの方へと放たれる。しかしこの前のようにいつの間にやら出現した氷の壁に防がれ、ついでに防がれた先から触手は凍りついて砕けた。

『おー! 宣言通りに触手を防いだ上に一体どれほどの低温なのか、触手が氷解しました!』

「第五系統の土魔法と第七系統の水魔法を合わせ、泥で出来た自由自在な触手を作り出す。高度な技術だというのにやっている事はひどいものだな。その上第九系統の形状魔法で水の組成を変えた馬鹿な水溶液をまとわせているせいで凍りやすいときているのだからどうしようもない。」

「水溶液?」
「さっき言ったひと手間だね。あの触手には衣服を溶解させる液体がついているのさ。」
「えぇ……で、でもそれができるならそんないやらしいやり方じゃなくて、相手の武器を溶かしたりするような強力なモノにすればいいのに……」
「どうかな。場合によっては、相手の羞恥心を利用する方が強力な攻撃になり得るからね。」
「……なんか嫌ですね……」
「うん、僕もそう思うよ。」

「昨日の凍らしてくる壁か。だがんなの、こいつらから水分を抜いて操りゃあいいだけ。まずはそれ、粉々にしてやるよ。」

『おー、パライバ選手の触手の色が薄くなりました! ちょうど泥が乾いて砂になるような変化です! あっと、加えて先端の形状が変化! 剣や斧などの武器に形を変え――その上表面が金属でコーティングされていく! いやらしい触手が一変、無数の凶器となったー!』

 金属のコーティング……金髪のにーちゃんが先生との模擬戦でやってたあれか。
 ……というかその前に……
「す、水分を抜いたらただの砂というか土というか……泥じゃなくてもあの触手は作れるんですか。」
「泥ゆえの滑らかさだったんだろうけど……そうだね、今は水の力で得ていた自在さを形状の魔法で補っているのだろうね。」
「何よそれ……すご腕なのにつくづくゲスなのね……」

「何秒耐えられるか見ものだな!」

 パライバが叫ぶと同時にかすむ触手と、壁からドーム状へと形を変える氷の壁。自身をすっぽり覆う壁と足元の氷によって全方位防御態勢になったローゼルさんの周りで、豪雨のような激しさで金属音が鳴り響く。
 もはや先端がどういう形になっているかも視認できないほどの速度で、時に一直線に時にしなって真横から、まともに受けたら細切れにされてしまうような猛攻が繰り出される。しかしローゼルさんの氷は――

「す、すごいよロゼちゃん……あ、あの氷、全然……傷が一つも入らないよ……」
「何よ、今の自分じゃできないとか言っておいて。前とおんなじ氷が出せてるじゃない。」
「すごい硬さだよねー。純水でできた氷だっけー?」
「言葉で表現するならそうだが、自然界には実現困難な魔法ゆえの代物だな。」
 突然難しい口調で話に入ってきたのは、闘技場で戦っているパライバと同じ金髪を王子様のような感じにしている、メガネでほっぺに刺青みたいのがある人物。
「おや、ゴールドくん。やっぱり弟くんの試合は気になるのかい?」
 ベリル・ゴールド。リゲル騎士学校の生徒会長で、パライバのお兄さんだ。実況のパールさんも言っていたけどこの兄弟は性格が全然違って、あっちが欲望の塊みたいなのに対してゴールドさんは逆に何にも興味がなさそうな顔をしている。
「勝敗が分かり切っている試合に興味はない。弟の負けだ。」
「ほう、それはまたどうして?」
「一度負けた相手に無策で挑んでいるのだ、結果は変わるまい。」
「そうなのかい?」
 きっぱりとパライバの負けを宣言したゴールドさんは、興味なさそうな顔で闘技場に立っている弟を眺めた。
「ひいき無しに弟の魔法は強力だ。キリ状であれば厚さ数十センチの鋼鉄を貫く力がある。」
「へぇ、それはすごいね。世にある大抵の盾や鎧を貫通できるのだね。」
「魔法的強化がなければな。武器状にしたあの先端には一点集中の強化魔法もかかっているのだが、見ての通り完封されている。あれが入らないというのなら、弟にあの氷を砕く術はない。」
「それだけリシアンサスくんの氷の壁はすごいのだね。まずさらりと純水による氷を作り出しているところがすごいのだけど、それ以上にあのテクニックだね。サードニクスくんは団員に一体何を教えているんだい?」
 生徒会長同士の話に急に引き込まれたオレは、とは言ってもデルフさんが何を疑問に思っているのかもわからないわけで……
「テ、テクニックですか? いや、その……なんのことやらなんですが……」
 いつもオレたちには見えないモノを教えてくれるティアナの方を見たが、ふるふると首を振った。ならば魔法的な感覚が鋭いエリルかと思ったが、こっちも「さぁ?」って顔をする。
「えっと……ローゼルさんは何を……何かをしているんですか?」
「学生の域を超えた高度な魔法技術を使っている。」
 オレの質問に答えたのはゴールドさん。
「あの氷の壁が持つ二、三十センチほどの厚みの中は、厳密には氷でないモノが詰まっている。」
「えぇ? 一枚の氷の塊じゃないんですか?」
「純粋な氷塊は外側の表面の数センチ程度……いや、状態変化の具合からして境界などないからこの表現はおかしいか……」
「??」
 説明の途中で自問自答モードになってしまったゴールドさんを引き継ぎ、デルフさんが口を開く。
「簡単に言えば硬い氷は表面だけで、その内側は……なんというか、水と氷の中間の状態だね。」
「ちゅ、中間?」
 溶ける一歩手前の氷……もしくは固まる一歩手前の水? どういう状態だ?
「自然界では存在しえない状態だよ。必ずどちらかに寄るはずのモノを魔法でとどめているのだね。リシアンサスくんは水から氷、氷から水への状態変化が得意だから、まぁ納得といったところだね。ゴールドくんが言ったように、学生の域は軽く超えているけれど。」
「はぁ……それで……その状態にしておくと何かいいことが……?」
「固体としての硬さと液体としての柔らかさを絶妙なバランスで保っているだろうから、その特性は衝撃の吸収にあるだろうね。」
「吸収……威力を殺すって事ですか?」
「そう。ガラス玉を地面に投げつけると割れてしまうけど、ガラス玉よりも遥かに硬度の低いゴム玉を投げつけても割れることないだろう? 壊れない程度の適度な柔らかさっていうのは、時にガチガチの硬さを超える強度を生み出すんだよ。」
「えぇっと……水と氷の中間? のそれがその役割を……?」
「その通り。しかも硬い壁の後ろにバネを設置するような単純構造ではなくて、硬い氷から段々と柔らかな水へ変化させるっていう超精密制御。その衝撃吸収能力は非常に高い。その上あの壁はドーム状だから、受けた衝撃は地面に散らされてしまう。ただでさえ硬い純水の氷の壁の強度を、この仕組みによって何倍にも引き上げているわけだね。」

「――っ、くそっくそっくそっ!! 氷の分際でとっとと砕けろ馬鹿がぁっ!」

 何本かずつが束なってより大きな触手、より大きな武器へと変わって猛攻がエスカレートするがまるで効果がない。内側のローゼルさんはのんびりと……何かを待っているように見える。パライバのスタミナ切れでも狙っているのだろうか。
「氷故、たとえ亀裂が入ろうとも瞬時に修復可能。突破するには第四系統の熱などが必要となるだろう。物理的な衝撃では攻略できまい。」
 自問自答から帰ってきたゴールドさんは……表情が変わらないからたぶんだけど、ほんの少しだけ興味深そうにローゼルさんを見た。
「自分がこの試合を観に来たのはあの女を見る為。昨日も今も、あまりに高度過ぎる魔法を使いこなしているが……別に魔眼の持ち主というわけでもなさそうだ。あの技術力は一体どこから……」
 それはオレも不思議に思っている。アンジュはオレの……吸血鬼の力を持っているオレの何かが影響しているのではないかと予想していたけど……
「……」
 ゴールドさんと一緒に難しい顔になりかけていたオレだったが……
「何を難しく考えているんだい? リシアンサスくんの心に変化が生じただけだよ。」
 あっさりと、デルフさんが答えを言った。
「きっと、リシアンサスくんは感情で魔法の腕が跳ね上がるタイプなんだね。」
「感情……? え、というかタイプ? 体質って事ですか? ローゼルさんに――えっと、イクシードみたいな特殊な力が……?」
「そんな大げさなものじゃないよ。クォーツさんみたいに魔法に対して人よりも優れた感覚や、負荷への耐性を持つような状態は体質と言えるけど……リシアンサスくんのそれは単なる心の持ちようさ。」
「こころの……? そ、それが魔法に関係あるんですか? 技術がいきなり上がるような……?」
「大ありだよ、サードニクスくん。魔法を使う時、マナの量やそれを変換した魔力の質、発動の技術などは勿論大事だけど、最も大切なモノは何かと言ったら、それはイメージなのだからね。」

 イメージ……ああ、そういえばオレが風をうまく回転させられるのは曲芸剣術を通して得た尋常じゃない回転のイメージのおかげ……らしい。
 魔法を発動させる場合、その方法はざっくり二つある。火を出すとか風を吹かすとか、割と簡単な現象ならそれをイメージするだけで発動する。対して複雑な効果を持つ魔法を使おうと思ったら呪文がいる。
要するに算数みたいなモノで、簡単な足し算引き算程度で答えが導けるモノなら見ただけで答えが出るけど、複雑な計算式を使わないと答えが出ないモノに対してはしっかりと計算しなければいけなくなる。その「パッとわかる」のと「頭を使う」のの差が、「イメージでできる」のと「呪文を唱える」のの差なのだ――と、前に先生が言っていた。
 とは言え、難しい計算を行う魔法も、最終的にどういう現象を起こそうとしているかが頭の中にないと何も起きない。

「どれだけハッキリと世界を歪ませるイメージを持てるか。これが魔法という技術の根っこなんだ。残念ながら、「魔法を使ってるんだから世界が歪んで不思議な事が起きるのは当然」っていう逆のイメージで魔法を使っている人が多いけどね。」
 やれやれという顔をするデルフさんに対し、ゴールドさんはあごに手をあてて難しい顔をする。
「確かに魔法はイメージが結果に大きく影響を及ぼすが……それと感情に関係があるか?」
「そりゃあそうだよ。イメージは頭の中のモノで、感情もそこから生まれるんだからね。」
「そういうものか?」
 当然だろう? という顔のデルフさんといまいち納得できていないゴールドさん。たぶん、デルフさんは感覚で、ゴールドさんは理屈で魔法を使うタイプ……なのだろう。
んまぁ、そもそも見るからにそんな感じだし。
「誰の頭の中にも知識や経験から来る「常識」というモノがあって、それは無意識に魔法の可能性を――イメージを制限してしまっている。けれど今の彼女は高ぶる感情によってその「常識」に一時的にフタをしているわけだね。」
「高ぶる? あの女からそんな感情の乱れは感じられないが……」
「ふふふ、ゴールドくんにはこれまで縁が無かっただろう感情だから、感じ取れないのは無理もないかな?」
「なに?」
「愛だよ、ゴールドくん。」
「ぶっ!」
 思わず何かが口から出た。
「愛ゆえに、今のリシアンサスくんは思っている――いや、確信しているのだよ。「今の自分であれば何でもできる」とね。きっとこの試合に勝利したらとても嬉しい何かが待っているのだろうね。」
「それ故に自然界ではありえないような状態を魔法で維持できていると? 理解できんな……」
「理解は必要ないさ、心で感じるのだよ。そうだろう、サードニクスくん。」
「ソ、ソウデスカネ……」
「だいたいゴールドくんも遂に誰かを好きになったのだろう? もう中日なわけだし、そろそろオニキスくんを見つけないとね。意中の人には早めに思いを伝えなくては。そうだろう、サードニクスくん。」
「ソ、ソウデスカネ……」
「ロロ・オニキス……不思議な事に未だ手がかりの欠片も得られずにいる。まるで幻だったかのようだ。」
 あぁ……そっちはあんまり考えないようにしていたのに! 
「おや、あきらめるのかい?」
「……」
 難しい顔で何かを考えるゴールドさんは、ちらちらとオレを見ながら楽しそうな顔のデルフさんの方に……ふと、何かを決心した――ように見える顔を向けた。
「こういうのはどうだ。自分で見つけてこそとお前は言ったが、最終的に見つけられないのでは話にならん。過程の美しさを語るには結果が必要なのだからな。故にお前と約束している勝負に情報を賭けたい。」
「おぉ?」
「自分が勝利したらロロ・オニキスの居場所を言え。お前が勝ったら……そうだな、自分が答えを知っている事であれば何でも答えよう。どうだ?」
「これはまた……ふふふ、ゴールドくんらしくない提案だね。やはり恋は人を変えるらしい。そうだろう、サードニクスくん。」
「ソ、ソウデスカネ……」
「しかし面白いね。場合によっては今話した愛の力によってリシアンサスくんのように覚醒するゴールドくんが見られるかもしれないわけだ。」
「かもしれんな。」
「いいだろう。その勝負、受けるよ。すぐには思いつかないけれど、リゲルの生徒会長に何でも一つ質問できるというのは大いに魅力だ。」
 一層楽しそうに笑うデルフさんと表情の変わらないゴールドさんがガシッと握手する。
「この試合が終了したら勝負といこう。構わないか?」
「いいとも。久しぶりに楽しい戦いになりそうだね。」
 何やら賭け付きの試合を約束した二校の生徒会長――というかデルフさんには勝ってもらわないと困る……! 色々と大変な事になりそ――

「くそ女がぁぁぁっ!!」

――と、いやいや、それはあとで考えるとして、今はローゼルさんの試合だ!

「いつまで閉じこもってるつもりだこらぁっ!!」
「機を待つという事を知らないのか、お前は。」

 と言ってもちょっと前と光景は変わっていない。完全防御を前に触手攻撃はことごとく防がれ、パライバが一人で疲れていっている。やはりローゼルさんはスタミナ切れを狙っているのか?

「――っ、調子に乗りやがって!」

 パライバがバッと両腕を横に広げる。するとそれぞれが猛攻を続けていた触手が広げた腕にならうように……きれいに隊列を組んだ。そして一本一本がキリ状に変化していく。

「くたばれぇぇっ!」

 寸分たがわぬ一斉攻撃。無数の触手が槍の壁となってローゼルさんに放たれ――

「そう、こういうのを待っていた。」

 瞬間、ローゼルさんを包んでいた氷のドームが形を変える。朝の鍛錬でエリルのガントレットを受け流す時なんかによく作る、反りを持った壁。真上から見たらとんがった山のように見えるのだろう、攻撃を左右にそらすような形になった氷の壁に槍の壁がぶつかった。

「『アイスブレット』。」

 偉い人が群集の真ん中を歩く時みたいに綺麗に左右に受け流された槍の壁。その左右への分かれ目から槍の壁の根本に立つパライバへと一直線に何かが走った。

「父さん直伝の銃弾の如き一刺し。なかなか上手だろう?」

 そう言ったローゼルさんはまるでビリヤードのようにトリアイナを構えていて、その三又を覆っていた氷の刃は細長い一本の槍となっていて――

「て……め……」

 ――十メートル以上離れているパライバの腹部を貫き、さらに先、パライバの後方にある闘技場の壁に突き刺さっていた。
 長さで言えば数十メートルといったところか。自重で折れてしまうのではないかと思うくらいに細い一本の氷の槍はローゼルさんがくいっとトリアイナを引くと超速で縮み、いつもの三又の刃に戻った。

『こ、これはすごい! 『ディゾルブ』の放った触手の一斉攻撃を真っ二つにそらし! 開いた隙間を狙っての遠距離からの超速の槍の一突き! 槍使いでありながら、弾丸のような速度で伸び縮みする槍を使うという事から『シルバーブレット』の二つ名を持つ父親と同じ技! 鉄壁の守りの中、『水氷の女神』はこの一撃を狙っていたー!』

「愚かなことだ。コンマ数秒の遅れもない一斉攻撃、あの面攻撃であれば壁を崩せると踏んだのだろうが、自身を守るための触手を残さずに放つなど狙えと言っているようなものだ。」
 相変わらず弟に厳しいゴールドさん。
 しかしなるほど。複数の触手が乱れうちされていたさっきまでの状態だと防御される可能性があるけど、今みたいな攻撃をしてくれればこっちの一撃を通すことができる。
 要するに、オレで例えるなら回転剣を全部相手に飛ばしたせいで自分自身を守る剣がなくなったって感じだな。
「うわぁ、ローゼルちゃんってば容赦ないね。お腹貫通してたよ、さっきの。」
「闘技場の中なら血は出ないし致命傷になる事はないけどねー。外でやってたらあの『触手魔人』死んでたんじゃないのー。」
「……どっちにしろ相当痛いわよ、あれ……」
「ロゼちゃんは……け、結構怒ると怖い……からね……」

「……っつ……ああ……」

 辛うじて数本の触手を維持しながら、しかし腹部を抑えながらふらふらに、パライバはローゼルさんを睨みつけた。ちなみにローゼルさんは元の完全防御状態に戻っている。

「やってくれたなくそ女……!」
「いつものわたしであれば降参を勧めるところだが……徹底的に教え込むと言ったからな。お前のそれは認めないからそのつもりで。」
「ったりめぇだ! ナメんのもいい加減にしろよてめぇっ!!」

 いよいよ怒りがマックスになったっぽいパライバがあいている腕を振ると残っていた触手が土にかえり、その背後の地面がゴゴゴと隆起し始めた。

「フルパワーでぶっ潰してやらぁっ!!」



「ようやく効果のありそうな魔法にしたか。普段の技が通用しないと気付くのが遅い上に、そうであってもあの壁は壊せない。感情に任せるままで相手の力量を測れないとあってはいつまで経っても愚弟だな。」
 仲が悪いというよりは兄って理由で擁護しないってところかしら。淡々と事実だけをしゃべる、あんまり仲良くなれなさそうなリゲルの会長。だけどだからこそこいつの言うことは信頼できる……とも言える。だからたぶん、この試合に勝つのはローゼル。
 ま。ロイドとあんな約束したら……下手すれば十二騎士にも勝っちゃいそうな勢いだし。
 ま、まったく……人の恋人と……

「大地よ、その母なる腕をかしたまえ!」

 今のところ宣言通りに無傷のローゼルと結構な深手のゲス男。リゲルの会長でなくたって勝敗が見えてくるこの場面。ここにきて本気で怒ったらしいゲス男が小難しい言葉――呪文を唱え始めた。

「形なき欲望に重さを与え、想像の檻から解き放ちたまえ! 立ち上がれ――『エメト』っ!」

 若干聞き覚えがあるけどちょっと違う呪文を唱えたゲス男の背後、隆起した地面はざざざと形を変えていく。今の呪文はパムが得意とする第五系統の土魔法、ゴーレムの――
「――は……? まさか……」

『あ、あーっとこれはー! 年頃の若者しかいないこの場において刺激の強すぎるゴーレムの出現です!』

 モデル……っていうか……えっと、見たことないからあたしのイメージだけど……男子が買いそうなエ、エッチな写真集から抜け出たみたいな、そんな感じのグラマラスな女性。ゲス男の背後に出現したゴーレムの形はそんな色っぽいっていうかエロい女の人の――上半身の裸だった。

『あまりに精密な女性の裸体――に金属のコーティングがなされていきます! 長い髪をなびかせる白銀の巨大な美女! 下半身まで造形されていたら着色されていなくとも間違いなく十八禁! 観客席の生徒が目のやり場に困っています!』

「えぇ、すごいな。パム以外にもああいうゴーレムを作れる人がいるのか……」
「ロイくんてばやらしーんだから! 何じーっと見てるの!?」
「えぇ!? い、いや、そうかもですけどあのゴーレムっていうか――ほ、ほら! ローゼルさんの活躍を――」
「ロ、ロイドくんのエッチ……」
「どうすれば!」
ゲス男が動かしてるはずだけど、まるで意志があるみたいに滑らかに動いて見た目以上にさらさらしてるらしい髪をかき上げる銀色女ゴーレム。ロイドはリリーに目隠しされるし、他の男子の観客もキョロキョロしたり横目で見たりとそわそわした感じになってる。でも……形はともかく、相当難しい事のはずなのよね、あれ。
 社会科見学の時にパムが使った金属で覆われたゴーレムについてちょっと調べたんだけど、あれはかなりの高等技術だって事がわかった。
岩とか泥とか砂とか、そういうのの集まりだけなら問題ないけどそれを金属で覆ったら……氷で固められるのと同じ感じで、ゴーレムは動けなくなる。攻撃力や防御力アップの為にそうしてるわけだから覆う金属は硬くないといけないけど、例えば関節の部分だけ覆わないとか、そこだけ液状の金属で覆うとかにしちゃったら……そこを狙われて折角のパワーアップの意味がなくなる。
 硬い金属で覆いながらも動くようにする方法は一つ、関節の部分の金属の量とか位置を常に調節するしかない。動きに合わせて金属をコントロールしないといけない上に、大抵一か所の関節を動かしただけじゃ何もできないから……どうしても、同時に大量の箇所に対して精密な魔法制御を行わなければならない。
 そんな高等技術で髪の毛の動きまで再現するんだから、本当に魔法の腕だけはすごいわ、あのゲス男。ゲスだけど。
「でもさー、ゴーレム作るのはいーけどあんなん作っちゃってドン引きだよねー。」
 こういう……っていうかその……や、やらしい話題にはニンマリ顔で割とノリノリのアンジュでも嫌そうな顔になったんだけど、意外なことに会長が「いやいや」と首を横に振った。
「弁護するつもりはないけれど、あれほど緻密な形にしようと思ったら作れる形は限られるからね。自然と一番イメージしやすい形になるのは仕方がないね。」
「一番イメージしやすいのがあれってことなんでしょー? やっぱり『エロ魔王』だねー。」
「ふふふ。彼に限らず、思春期の男子が最もイメージしやすい人型となると、残念ながらそれはマッチョな男性ではなくグラマラスな女性になると思うよ?」
「そうなのロイくん!」
「えぇ!? い、いやそれは――あ、あれ!? そういえばあ、ああいうハレンチなのは見えないようになるはずではデルフさん!」
「ふふふ、さすがにゴーレムに対してまでは闘技場の魔法は働かないよ。攻撃魔法が見えなくなっちゃったら困るからね。言ってしまえば穴をつかれた感じかな?」
「しかし動揺しているのが観客だけなのではあの形に意味はない。ゴーレムに技ではなくパワーを求めるのなら形状の緻密さは必要ないからな。」
「まぁそうだね。でもどうして上半身だけなのだろうね。彼なら全身に対する完璧なイメージを持っていそうだけれど。」
「魔法技術が足りていないだけだ。」

「最後までブレないな。ここまでくると感心だ。」
「欲望の塊だってか? いい子ぶんなよ、どいつもこいつも! 強さの原動力にふたする馬鹿がどこにいんだよ!」

 ゲス男の表情がキレた男のそれになるのを合図に、銀色女ゴーレムはぐぐっと拳を引いた。
 ……細かい事にその動きできちんと胸が揺れるんだからバカバカしいわね……

「欲望って言葉におすましちゃんのいい子ちゃんは嫌な顔をしやがるが、誰かを守りたいだの、国に尽くしたいだの、目標やら理想やら言うそれは結局、そいつの欲だろうが!」
「否定はしない。しかし普通はそこに理性を加えて騎士を名乗るはずだ。昔から、騎士とは誇り高い戦士なのだから。それが欠けていたら嫌な顔にもなるだろう。まるで悪党だ。」
「は! ならここで白黒つけようぜ? おれさまの欲望とてめぇの理性でなぁ!」

 たぶん鈍感ロイドにもわかるくらいの強力な強化魔法が銀色女ゴーレムの拳にかかる。
 さっきリゲルの会長がさらっと言ってた「一点集中の強化魔法」っていうのは、アレキサンダーが得意としてる……要するに、すごく短い時間やすごく狭い範囲に強化を限定する事で威力を文字通り集中させる技術。たぶん、それがあの拳にかかったんだわ。
「あの大きさと重さに硬さと強化魔法。これはもしかするとリシアンサスくんの氷も……」
「さっき言っただろう。弟にあの氷は砕けない。」
「どうしてわかるんだい?」
「弟の魔法のレベルを理解している自分が、防ぐという事に関して人よりも一歩前にいるからだ。」
 ! 難しい言い回ししたけど……そうだったわ。このリゲルの会長は『エンドブロック』って呼ばれるリゲル最強の生徒。見えない空気の壁であらゆる攻撃を防いで止めるってことらしいから……きっと、ローゼルの氷を盾として高く評価してるんだわ……

「……一応訂正しておくが……」
「行くぞくそ女ぁ! 床のシミに――」

 ゲス男が大きく腕を振り、それに合わせて銀色女ゴーレムが拳を振り下ろす……そう――なるはずだったんだろうけど……

「がぼがっ!?」

 ゲス男の動きが止まった。

「今のわたしはお前が言うところの欲望の塊だ。お前をぶちのめしたいという怒りとこの先に待っている幸福への期待感でここにいるのだからな。言っただろう、別に欲望を否定はしないと。」

 ゲス男はのどをおさえてゲホゲホ言いながらジタバタする。

「さっきわたしが言いたかったのは、ここぞという時の為に欲望をコントロールするべきだという話……ああいや、耳に入らないか。」
「ばがっ! で、でべぇ――ばごっ、ば、ばびしやがった!!」
「お前はそこそこに第七系統が使えるらしいから、きっとその顔に水の塊をぶつけてもすぐに取り除いてしまうのだろう。だから一工夫しただけだ。さっき、お前に穴をあけた時に。」
「ばぁっ!?」
「どうだ? 身体の中から溺れる感覚は。」

「ほう、考えたな。第七系統の使い手には水で相手の顔を覆って窒息させるという技を使う者がいるが、相手に心得がある場合は簡単に破られてしまう。その点、内側からであれば気付いた時にはもう呼吸できない上に、体内であるために取り除くべき水が視認できない。自分で生み出した水ならともかく、他人が作った水を、しかも見ることなく操るというのは難しい。」
「う、内側? え、じゃあローゼルさんはさっき氷で刺した時に……相手の身体の中に水を……?」
「仕掛けたのだろうな。そしてあの女は状態変化が得意なのだろう? とくればこの先は――」

「が!?!? あが、ば……」

 ゲス男の暴れ方が変わった……っていうか暴れなくなった。ジタバタさせてた両手両脚は、代わりにふるふる震え始める。
「ついでにこっちも感想を聞いておきたいな……どうだ? 中から凍っていく感覚は。」

『な、なんと恐ろしい技でしょう! 先ほどの一突きの際に『ディゾルブ』の体内に仕掛けた水を操って呼吸を奪い! そして内部から凍らせていっています!』

「ああ……ば……」

 学生の試合とは思えないくらいに本当に死にそうな顔をして、息苦しさと寒さに震えるゲス男は、ついにその動きを止め――

 ドカァンッ!!

「ふぅ、ようやくスッキリした。」

 闘技場の空気があまりに恐ろしい技に冷えてきたその時、見た目じゃわからないけどカチコチに凍ってるだろうゲス男の顔面に、先端の氷の刃をごつごつした岩の塊みたいな形にしたトリアイナで至近距離から全力で突き飛ばしたローゼルは、ふっとんで壁に激突したゲス男に背を向けて晴れやかに笑った。
 そうなるようにふっとばしたのかはわからないけど、頭を下にして壁にもたれかかるゲス男は白目で気絶してて、その口からはまるでよだれみたいに水がドバドバと出てきた。

『これは――パライバ・ゴールド戦闘不能! 終わってみれば完全試合! 宣言通りの無傷! 『触手魔人』の暴挙に女神の鉄槌と言ったところでしょうか! 勝者、ローゼル・リシアンサス!!』

 変態なところに目をつむれば凄腕の使い手だったゲス男相手に無傷で勝利したローゼルは、歓声――主に女子生徒の拍手に包まれた。やっぱり嫌われ者なのね、あのゲス男……あれ?

『あー……おや? 『水氷の女神』、何やら咳払いをしています。勝利者演説でしょうか。』

そのまま闘技場から出るのかと思ってたら、何故かいつもの偉そうなポーズで一人、ローゼルはしゃべり始めた。

「あーあー、わたしの声は届いているだろうか。えー……試合とは関係ないのだが、個人的に気になった事があったので一つ言っておこうと思う。試合の前に実況の方が言っていた、多くの男子生徒がモヤモヤしている、という件についてだ。」

は!? あのバカまさか――!!

「わたしは、わたしの容姿が男性にとって魅力的であるという事をわかっているつもりだ。周りの、特に男子の反応や女神という二つ名をいただいている事からして、そこは間違いないのだろう。」

「いつもの優等生ちゃんなら「わたしは美人だからな!」って言うのにねー。口調はいつものだけど微妙に優等生モードなんだねー。」
「段々といつでも素になってる気がするよね、ローゼルちゃん。でもってやっぱりやるんだね。」
「え……あの、ローゼルさんはまさか本当に……?」
 わなわなとふるえ始めるロイド……

「本来なら人の、異性からの好意というのは嬉しいものだ。しかし残念ながら、わたしには想い人がいるのだ。」

 一気にざわつく観客席。男子も女子も、色んな風に興味津々な顔をローゼルに向ける。

『これは! 実は交流祭の歴史上数名いたのですが――ここにも一人! この大勢の前で想いを告げる猛者の登場です! しかもその相手をほぼ確定的に全員が知っているだろうこの状況! 更なる追い打ち、トドメの一撃をいれにいくのは初めてではないでしょうか!』

「ふふ、今実況の方が言ったように既に噂になっているらしいから、いっそハッキリさせるべきだろうと、今後を思って話すことにしたのだ。モヤモヤしているという男子生徒はここでそのモヤモヤが消えるだろう。」

 一拍おいて、ローゼルは……にっこり笑ってこう言った。

「わたしの想い人は、『コンダクター』ことロイド・サードニクスだ。」

 ロイドの名前が出ると同時に、試合が終わった時以上の歓声が巻き起こった。闘技場の隅っこで未だに倒れたままのゲス男は、もはや誰の眼中にもないらしい。
 っていうか……
「こ、こんな大勢の前で何言ってんのよあいつは!」
「まー、これでローゼルちゃんに言い寄ってくる男子は減るだろうから、その辺が狙いなんじゃないかな。あとで「美人はつらいなぁ、まったく」とか言いそうだよね……」

「わたしは彼が好きだ。それ以上の言葉を積み重ねても足らないほどに。だからわたしに花束やプレゼントと共に愛の言葉を送られても、正直困ってしまう。わたしは、わたしを彼にのみ捧げるつもりだから。」

「ああぁぁあ……」
 大歓声の中、虫の息みたいな悲鳴が隣から聞こえてくる。顔を真っ赤にしたり青くしたり白くしたりと忙しい想い人ことロイドは、頭を抱えてうなだれた。ロイドをロイドと知ってる周りの観客からの視線もグサグサ刺さってる。


『あれが女神を虜にした男か。』
『そんなにイケメンには見えないけど……わかんないものね。』
『つーかセイリオスとリゲルの会長と一緒にいんぞ!? やっぱただ者じゃねーんだ……』
『さ、捧げるってそういうことかしら……? 噂通り『コンダクター』って夜はオオカミなのね……』


「ロイくんがオオカミだったら苦労しないよ。」
「リ、リリーちゃん……火に油を注がないで……」

「そして――どちらかと言うとこちらを伝えておきたかったのだが……わたしの心を奪ったロイド・サードニクスという人物は非常に魅力的な人だから、きっとわたしと同じように惹かれてしまう女子生徒がいることだろう。その人たちに……言っておきたい。」

 トリアイナの、刃とは逆の方を地面に突き立てて腰に手を置き……ローゼルはまるで臨戦態勢って感じのポーズでキリッとこう言った。

「彼を狙うという事は、わたしと戦うという事だ。」



 気持ちは嬉しいし、そもそも優柔不断にキッパリと断れないオレが悪いというか――いや、ちゃんと断った気もするんだけどそれでも諦めないと言って色々ぶつけてくるのがすごいというかなんというか……
 ともかく、女神と称されるくらいのローゼルさんがあんな事を言うと、オレは鋭い視線にくし刺しにされるのだ。こうしてローゼルさんを出口で待っている間も。
「やぁやぁわたしの想い人。試合は観ていたな?」
 晴れ晴れとしたスッキリ顔で出てきたローゼルさん。
「ロ、ローゼルさん……どどど、どうしてあんな事を……」
「美女とお近づきになりたいと寄ってくる男を突き放し、わたしの恋人に近づく悪い虫を追い払うためだ。」
「誰が誰の恋人よ!」
「おや失礼、今の恋人エリルくん。未来の妻たるローゼルさんは、夫を守る為の準備を怠らないのだ。」
「ロ、ロゼちゃん……な、なんかいつもより……す、すごい、ね……」
「ふふふ、だって見ただろう、わたしの魔法を。昨日のわたしが作った氷、その理由をはっきりと理解した。そうだそうなのだ、わたしはロイドくんの愛があれば何でもできるのだ。どこかの吸血鬼のようだが、なんとも心地よい感覚だ……ああ、素晴らしい。」
「ふふ、愛の力は偉大だね。」
「心一つであれほどの力が出るとは……」
 ハイテンションなローゼルにいつも通りの微笑みを向けたのはうちの会長。その隣には置物みたいな無表情さのリゲルの会長。
「誰にでも可能性はあるけれど、出会いがなければ成立しない力。実に得難いね。サードニクスくんはきちんと責任を取るのだよ?」
「デルフさん!?」
「ふふふ。」
 冗談交じりの真面目な顔で笑う会長に対し、わたわたするロイドは……最近よく使う、無理やりな話題転換をした。
「そ、そうだ! いやーパライバ――さん、はその……アレですけど魔法がすごかったですね! パムみたいなゴーレムでしたよ!」
「パム……? ああ、国王軍のゴーレム使いか。いや、弟のあれは正確にはゴーレムと呼べない代物だ。」
 ロイドの適当な相づちみたいな話題に無表情で答えるリゲルの会長。
「真にゴーレム使いであれば第五系統だけで形を保てる。得意な系統でもないというのに中途半端な修行でとどめるから、第九系統で補強する始末なのだ。」
「えぇ? えっと……あれ? パライバ――さんの得意な系統って第五系統の土魔法なのでは……」
「違う。弟の得意な系統は第九系統の形状の魔法だ。」
「えぇ!?」
「そう驚く事ではない。割合としては少数派だが、そういう使い方をする騎士はいる。」
「そういう……?」
「つまりねサードニクスくん。得意な系統をメインに置く人と、他の系統の補助に使う人の二パターンがあるんだよ。」
「へぇ……あの、今更ですけどパライバ――さんって……えぇっと、土と水と強化と形状――の四つを同時に使えるんですよね……? これって相当すごいことじゃ……」
「うん、相当すごい事だよ。僕なんて二系統がやっとだもの。その内ポリアンサさんのようになるかもね。」
 複数の系統を同時に使う。実はエリルなんかは炎を制御する過程で風の魔法を使っていたりするのだが……デルフさんでも二系統が限界というのなら、たぶん普通はその辺がマックスなのだろう。それを四つも……
 割と勢いで言ったから厳しすぎたような気がした条件をあっさりとクリアしたローゼルさんだったけど……果たしてオレだったら、あの触手の猛攻に対応できただろうか……
「さてゴールドくん。後輩の素晴らしい魔法を見たところで、僕たちもやろうか。」
「願ってもいないが……どうした、いつもより好戦的な顔になっているな、デルフ。」
「ふふふ。賭けというのもたまにはいいね。知らずと熱くなる。」
「お前が欲しがる情報を自分が持っていると?」
「割とあるかな。」
 にんまりと笑うデルフさんと相変わらず無表情のゴールドさんは、来た道を戻って闘技場の中へと入っていった。これは見逃せないしあ――
「ロイドくん。」
「うひゃ!」
 むぎゅっと沈み込むオレの腕。ローゼルさんがニコニコ笑顔でオレの顔を覗き込む。
「試合はしっかりと観ていただろう? わたしは無傷だし一度も触れられていないぞ? 条件は達成という事でよいのだろう?」
「そ、そうですね!」
「うむうむ。それはそれとして、団長のスパルタな指導に耐えたわたしに一先ず勝利の口づけが欲しいところだ。」
「えぇ!?」
 未だ遠めにオレを見てひそひそ話している生徒がいるというのに!
「いい加減にしなさいよエロ女神!」
「おっと。」
 エリルの全力パンチをするりとかわすローゼルさん。晴れやかな笑顔となびく濃い青色の髪が美し――い、いやいやいや……
「まぁいいさ。これでロイドくんは……ふふふ、わたしのお願いを一つ聞いてくれるのだ。あぁ、週末のデートが楽しみだ。」
 ものすごいウキウキ顔のローゼルさん……
「ロイくん、僕も次の試合頑張るよ?」
「あたしも強い人と戦ってみようかなー。」
「あ、あたしもロゼちゃんみたいに……あ、愛の……魔法……使ってみたい、なぁ……」
「あたり前にローゼルと同じ事しようとしてんじゃないわよ!」
 いつもの感じになるみんな……
 しかしこれが「いつも」なのがこの、今も突き刺さる男子からの視線の理由なのだろう……そうだよなぁ……オレはもっとこう……ちゃんとなのかどうなのか、とりあえず何かをするべきのような気がするんだよなぁ……
 うぅ、こういう時なにかとプリオルが頭に浮かぶけど、あれは女性との出会いを楽しんでいるって言っていたし……フィリウスもそっちのタイプだし……こういう事を相談できる人はいないものだろうか……
 答えじゃなくても、ハッとするような何かがわかれば……

「いい感じにふっとばしてくれたな、あんた。」

 本格的に悩み始めたオレの前にそう言って現れたのは、どこかローゼルさんのスッキリ顔に近い表情をしたラクスさんだった。
「ローゼルって言ったか? いやぁ、俺もあいつには腹が立っててな。スカッとしたぜ。」
「……それはどうも。」
 文字通りスカッとした笑顔でお礼を言うラクスさん。デルフさんと同じで、サマーちゃんの件で怒っていたからなぁ。
「しかしあれだな。スッキリしたとこで『コンダクター』と勝負をと思ったらそっちの会長とリゲルの会長が試合始めるんだろ? 観ないわけにはいかないよなぁ、やれやれ。」

「あー、まーたラクスくんが女の子口説いてる。」

 ラクスさんの背後からひょっこりと顔を出したのは――うわ、サマーちゃんだ! デルフさん、もうあと数分ここにいればよかったのに……!
「でもあたしの為に怒ってくれてたんだよね。うれしーな。」
「まぁ……な。」
「えへへ。」
 アイドルと荷物持ちという関係だった二人は、サマーちゃんがそそそっと近づくことで傍から見ると恋人のように見えなくもない。随分となかよ――

「何をしているのですかお二人とも! 折角の好カード、良い席がなくなってしまいますわ!」

 続けて登場したのはカペラ女学園の生徒会長、ポリアンサさん。
「『神速』の速度と『エンドブロック』の盾がどのように――あら、『コンダクター』……と『水氷の女神』ですわね? わたくし、女性はもう少しおしとやかに想いを告げるべきだと思いますわよ?」
 ローゼルさんのこ、告白――に注意しながら、ラクスさんとサマーちゃんの肩に手を置いてグイッと二人を離すポリアンサさん。
「んん? いい席で見たいなら先に行ってれば良かったろう。」
「い、いえ! 会長として――交流祭初参加のお二人にはしっかりと観て欲しいのです……! なな、なんならわたくしが横で解説をいれても良いですわよ?」

「ちょっとラクス! 試合見るんでしょ!? 早く来なさいよバカ!」

 更に登場するは……名前は知らないけどこの前ラクスさんといっしょにいた赤い髪の女の子。ちょっと離れたところからラクスさんを呼んで……あれ? 他にも女の子が何人かラクスさんを待っているような……
 ……んん? なんだろう、この感じというか雰囲気は……なんだか既視感が……
「よし、『コンダクター』。この会長同士のバトルが終わったら俺とお前の番だぜ?」
「え、あ、はい。」
 呼ばれるまま、サマーちゃんとポリアンサさんを連れて他の女の子と合流するラクスさんはぱっと見モテモテの……い、いや考えすぎだろう……だって女子校なわけだし、どうしたってああいう風にな――
「うわー、ロイド二号だねー。」
「何言ってるの? ロイくんの方が百倍かっこいいよ。」
「ほ、他にもいる……んだね……ロイドくんみたいな……人……」
「ほほう。みんな、あっちに惹かれたのならあっちに行っても構わないぞ?」
「……女子校に入れられなくて良かったわね、ロイド。」
ああ……どうやら考えすぎではないらしい。鈍いとみんなから言われるオレがなんとなくそう思い、みんながそうだと言うのだから間違いない。つまりラクスさんもオレと同じ……そ、その……たた、たくさんの女の子にこここ、好意を寄せられている――的な男子……なのだ。
「桁違いに強い生徒会長にアイドル、それと遠目ではあったが貴族や名門騎士の集まりで見た事のある顔があったな。メンバーも良い勝負かもしれん。」
「ロイくんの時点でこっちの圧勝だよ!」
「それにこっちには王族がいるし、ここにはいないけど女王もいるしねー。」
「あ、あっちにも……今はいない人とか、いるかも……」
「バカなこと比べてんじゃないわよ……だ、だいたいロイドはあたしの……」
 これは運命か何かだろうか。どうしようかと思った時にどうするべきかを知っていそうな人が目の前に現れるなんて……
「……よし……オレ、頑張るよ。」
「……な、あんたこれ以上増やす気!?」
「そっちじゃないわ!」



 田舎者の青年が自分と似た立場にいる青年に可能性を見出していた頃、フェルブランド王国のとある場所、知る者しか入ることができない特殊な魔法が施された領域、その中にある無機質な建物の中でフードの人物は武装した集団に囲まれていた。
『随分な歓迎だな、御同業。』
「貴様らのような極悪人の集まりと一緒にするな『紅い蛇』。」
 取り囲む集団のリーダー格の男は鋭い視線と共にフードの人物に敵意を向け、それに反応するように周囲の者も武器を構えなおす。しかしフードの人物はやれやれと肩を落とすだけで緊張感の欠片もない。
『やはりこういう時は上の人間と話すべきか。すまないな。』
 とフードの人物が呟くと取り囲んでいた集団一人一人にバチンと電気が走り、リーダー格も含めて全員がその場に倒れた。
 羽織っているローブを引きずらせながら、フードの人物は足音も立てずにスゥーッと歩いていき、やがてその建物で一番高いところにある部屋にやってきた。
『邪魔する。』
 魔法的に、科学的に、厳重なロックがかけてあったはずのその扉を何事もなく開いて入ってきたフードの人物に対し、中でポツンと椅子に座っていた一人の男は驚く代わりに大きくため息をついた。
「随分な訪問であるな、悪党。」
『正面からなら扉を蹴破り、でなければ壁や天井に穴をあけて入るのが悪党というものだ。お褒めの言葉、どうもありがとう。』
「下の警備をしていた者が言ったが、我々とそちらは違うモノである。この状況は悪党が民家に押し入ったのに近い。お引き取り願うところであるが?」
『そちらとこちらの違いは理解しているが、一般的に正義とされる騎士からすればどちらも悪だ。』
「故に御同業と?」
『なんだ、聞いていたのか。』
「見ていた。」
『そうか。まぁつまり、この国でくすぶり続ける消えそうな火に燃料をくべて一つ、大きな火事を起こそうという話だ。』
「なぜ?」
『正直に言うとそちらは怒るからな。建前を言おう――なに、同業のよしみで気まぐれに助力してやろうと思った――だそうだ。』
「バカバカしい……だが…………それを我々に?」
 椅子に座った男は、特に何も取り出してはいないフードの人物の腹の辺りを指差した。
『話が早くて助かる。一人で欲張るとその者は死ぬからミキサーにでもかけて一口二口程度で飲みまわすといい。』
「あの人喰らいじゃあるまいし、そんなモノを食べるわけがないであろう。」
『良薬は口に苦し、だ。今や騎士の注意はいわゆる『紅い蛇』に向いている。そう、そちらはまるで眼中にない。』
「むしろ好機である。」
『それはよかった。ならばその好機、この力で確実なモノにするといい。お代はいらない。』
 すっと屈んだフードの人物が姿勢を戻すと、その足元にはガラスの容器が並んでいた。まるで狂気の研究者の実験室のように、容器の中の液体に浮いているモノは眼球や心臓などの臓器だった。
「……その昔、最凶最悪の悪党がばらまき、多くの悪党が奪い合ったという暴力の塊――ツァラトゥストラ。未だ受け継ぐモノがいたのだな。」
『もういない。そちらが受け継がない限りは。』
「モノが良かろうと何を企んでいるかわからぬ状態では受け取れるわけが――」

「それ、いただきましょう。」

 フードの人物と座っている男以外の声が部屋に響いた。
『ひっそりと登場するのも悪党であるから、そちらはなかなかできるようで。』
「ふふ、悪党を名乗った覚えはないわよ。」
 暗がりから顔を出したのは一人の老婆。腰の曲がった、絵に描いたような老体ではあるのだが、その雰囲気は縁側で日を浴びるような穏やかなモノではなく、一歩後退してしまいそうな黒いモノだった。
「よろしいのですか?」
「どのような企みがあろうと関係ないわ。それをいかに利用できるかが、変革する者に問われる資質。『紅い蛇』如きでつまづくようではいけないわ。」
「……貴女がそういうのであれば。よろしい、それらは我々が頂戴する。」
『是非に。』
 仕事を終え、くるりと向きを変えて出口に向かおうとしたフードの人物は、ふと立ち止まって老婆の方を見た。
『話には聞いていたが、テロ組織のリーダーが貴女のような者とは。』
「その呼称は好きではないわ。新政府や革命者、もしくは名前を使って欲しいわね。」
『なるほど。こちらには名前がないからどう呼ばれても文句は言えないが、そちらにはあるのだったな。訂正しよう。』
 相手の反応は気にせず、ただそれだけを言いたかったという風に出口に顔を向けなおしたフードの人物は独り言のように呟く。
『オズマンドのリーダーが貴女のような者とは。』

『騎士物語 第六話 ~交流祭~ 第八章 優等生対触手魔人』

この物語の魔法の仕組みで「服を溶かす触手」を作ると……と考えた結果、凄腕のエロ魔王が誕生してしまいました。
しかしてそもそも、ああいうのを「使う人」はそういえば見たことがないような気がしてきました。
大抵その辺の遺跡や森に潜む怪物ですよね……

その内出てくるかもしれません。

『騎士物語 第六話 ~交流祭~ 第八章 優等生対触手魔人』 RANPO 作

欲望むき出しの男、パライバに目をつけられてしまったローゼル。 変態さに目をつぶれば相当な実力を持つパライバだが、ロイドとある約束をしたローゼルは――

  • 小説
  • 短編
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  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-11-12
Copyrighted

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