*星空文庫

単発 短編集

文月一星 作

  1. 大切なもの
  2. 傘と雪
  3. アブラゼミの恋
  4. 水槽
  5. 青春の喪失
  6. 旅立ちの歌

単発です。作品の実験場だと思ってください。

大切なもの

少年は歌が好きでした。彼が所属しているのはもちろん合唱団です。でもときには嫌なこともあります。そんなとき、彼は真夜中に家を抜け出し、公園へ行き、夜空を眺めていました。
そんな日々の中、ある日真夜中の公園に人がいるの発見しました。
「なんだ、先客がいるのか?」
彼はそう思い、近づいて見ました。するとそこには自分と同じように星空を眺めている少女を見つけたのです。年齢は自分と同じくらい。月明かりのせいか、少女はとても美しく、目があったことに気がつきませんでした。
「君も抜け出したの?」
彼女は少年に話しかけました。我に戻った少年は少女に答えました。
「嫌なことがあった日はここに来るんだ」
「私も」
二人はお互いのことは何も知りません。ただ偶然出会っただけなのです。それでもなぜか少年がそこに行った日には少女がいるのです。少年と少女は少しずつ言葉を交わして行きました。その度互いに言いのです。
「頑張れ」と。
二人の不思議な関係は、日が照った日も、風が吹いた日も、雪が降った日も…
気がつけば少年は少女と一緒に星を数えていました。そしてそのことが少年の喜びとなり、知らず知らずのうちに少女に対して好意を抱いていました。
そんなある日、少年は勇気を出して、明日行われる合唱祭に少女を呼ぼうと公園を訪れました。しかしそこに少女はいないのです。偶然だと思い、寂しくは有るが、誘うのを諦めました。次の日の夜、真夜中の公園へ訪れるとそこには椅子が置いてありました。そして落ちないように丁寧に貼り付けてある手紙がありました。
「私はもうここにはいられなくなってしまいました。あなたとの日々は楽しかった。ありがとう」
手紙に書いてあったのはそれだけです。読んだ瞬間少年の目頭は熱くなりました。もし、もう少し早く伝えられていたら。いや、一言では言えない。伝えたいことがたくさんあった。少年は溢れんばかりの感情を抑え空を見上げ、歌い続けました。その夜は嫌いなほど美しい光を放つ星たちが輝き続けていました。

傘と雪

雪が降る。この街にも降り積もる。雪は嫌いだ。冷たい。そしてなぜか悲しくなる。降らなくていい。
「雪は嫌い?」
彼女が言う。
「嫌いだ」
僕は答える。
一緒の部活に所属する彼女はどうなんだろうか?その質問はくだらないので聞くのをやめた。12月の寒さは一向に増して行く。そして彼女は同じ傘の下、僕に近づく。彼女は僕のことが彼女は好きなのだろうか?僕にはわからない。ただ、一緒にいる時間が長いのは確かだ。彼女は雪降る夜空を眺めている。左手で持つ傘の下、なぜか感じた。彼女には雪が似合う。その肌は雪に似ている。
「なあ、クリスマスって予定あるの?」
ふいに聞いた。
「バイトかな?」
「俺も」
嘘をついた。
「クリぼっち寂し!」
「うるさい」
しばらくの沈黙が続く。雪の音が周りの音と自分の鼓動を消してくれる気がする。
「雪は嫌い?」
僕は聞く。
「好きだよ?」
彼女は答える。
「でも二番目」
「じゃあ一番は?」
彼女は口を開く。
「一番好きなのと一番嫌いなのは一緒」
なんだそれ。聴きたかったけれど、彼女が話そうとしたので飲み込んだ。
「それは私の好きな雪に当たらないようにこの傘を持ってくれている人」
彼女は僕の左手を見た。
この日、僕は雪ともう一つのものに感謝した。

アブラゼミの恋

汗が滴る。大木からはセミに合唱が轟き、太陽の光はどこにも阻まれることなく、私のもとに届いた。なぜ外に出ているのか。なぜこんな暑い日なのか。理解できない人だってたくさんいるだろう。8:26。私がここにいる理由。私の好きな人はこの電車を降りてくる。私もそうだ。でも偶然。ただの偶然。そう言って自分を誤魔化す。
「あ、おはよ」
彼が私に気づく。
「ああ、おはよ」
気づかなかったふりを終わらせる。こうしてまた二人何気ない話を始める。できることならこの暑さ以外が一生続けばいいのに。私の淡い願い。聞こえる人は誰もいない。でも彼には好きな人がいる。私じゃない好きな人がいる。
「そこ子よりも私の方があなたを想っているのに、どうして?」
問いかけたい気持ちを毎日おし殺した。
ある日、彼は私に言った。
「俺、あの子と付き合えることになった。相談乗ってくれてありがとう」
「ん?」
聞こえたはずの言葉。蝉の大合唱で聞こえないふり。聞き返すようにして、あなたのことずっと見ていた。

水槽

水槽には泳ぐ魚。いや、魚というものだけで分類できるものではないだろう。さらに大きいものも在る。
「すごいな。すごい大きい」
「そうね」
しまった。もう少し勉強してから来るべきだった。この一言で自分に知識がないことが筒抜けだ。
「そうだ、写真撮ろう」
さっと携帯を向ける。
「いや」
一瞬にして顔を背けられた。
君は写真が嫌い。僕は撮るのが好き。話を逸らすためとはいえ、こうも拒否されてしまうと流石に凹んでしまう。
「行こう」
彼女に置いていかれそうになって慌てて追いかける。なぜだろう。距離がある。ここにいるのにここにいない。手を繋いでいないとすぐ行ってしまう。そしてさっき離してしまった。少し進んでから彼女が止まる。
「ねえ、繋いで」
この一言で僕は救われている気がした。少しずつ行こう。だってこの隣から見える景色は、このレンズに写っているのだから。

青春の喪失

青春には限りがある。
移動中の電車でそう考える。
私は15を過ぎた時にそう思った。そもそも私の人生に春は存在していたのだろうか。勉学において可も不可もあったわけではなかった。身体的能力も特に褒められた記憶がない。色恋沙汰にも疎かった訳ではないが、どれかが特別記憶には残っていない。平凡
平坦
大衆
私に似合った言葉だ。先ほどの言葉を訂正しよう。私に青春は来なかった。それが正解だ。ふと思い立ったとき、扉が開き、外から杖を持った老人が入ってきた。そんなことより先に扉の外から吹く風に不快感を覚え、早く扉が閉まることを願った。しかしながら、その老人は奇しくも私の目の前に立ち続けていた。居た堪れなくなり、席を譲ろうとした。
「席、どうぞ」
「いやいいんですよ」
「一度譲ってしまったんです。受け取ってください」
「そうですか」
老人は座った。よくわからない罪悪感に打ち勝ったような気分であったが、同時に自分の状況を再確認し、自虐的に笑った。

旅立ちの歌

それは晴れた日だった。眩しく暑い、別れとは程遠い真上の太陽があった。
「見送りなんていらなかったのに」
「私、一応恋人なんだよ?これから長いお別れなんだから、見送らないわけないでしょ」
彼女はそう笑顔で言った。なんの湿り気もない。太陽と同じだ。
俺はもうすぐ旅立つ。この小さな島から。同じ月の下歩いた道、その手を握り永遠を誓ったあの日。君との思い出の全てが星のように輝く。
「そろそろかな」
「うん、向こうで勉強して、少し遊んで、観光もして、また勉強して、たまには私のことも思い出してね」
その言葉にたまらなくなり、彼女の力んだ肩を抱き寄せた。共に流れる涙が寂しくも暖かかった。
「これが夢なら、この瞬間が覚めなきゃいいのに」
震えた声で彼女が言った。
「大丈夫だ、側にいる。ずっと側に。俺の歌は君にだけ届けばいい」
繋がった彼女との解き、彼は一本のギターを手に旅立って行った。

『単発 短編集』

『単発 短編集』 文月一星 作

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-11-12
Derivative work

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