*星空文庫

アキレスと亀 異聞④

ケケロ脱走兵 作

          「アキレスと亀 異聞④」


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスはす

ぐに亀に追い付いて追い越そうとしたとき、亀が振り返って話しかけた。

「よ若いの、もう追い付いたのか。さすが速いね」

アキレスは、

「悪いけど先に行くよ」

すると亀は、

「まあ、そんなにあわてるなって。おれだって始めからおまえに勝てるな

んて思っちゃいないんだから」

その言葉を聞いてアキレスは立ち止まった。すると亀は、

「ところでおまえ、ゼノンのパラドックスって話知ってるか?」

「さあ、知らない」

「なんじゃ、主役のおまえが知らなけりゃあ話しになんねえだろうが」

「えっ、どんな話?」

「まさにこの状況がそうなんだけれど、おまえがおれに追い付くまでにお

れもそれなりに先へ進んだだろう」

「いやあ、亀ってもっとのろいもんだと思ってましたよ」

「お世辞はいいから。つまり、おまえがおれに追い付くまでの間におれも

前に進む」

「ええ」

「おれが進んだ分だけあまえも追い付かなければならない」

「ええ」

「おまえが追い付いている間におれは更に前に進むだろ」

「ええ」

「いいか、よく考えてみろよ。それを繰り返している限りお前はおれを絶対

に追い越せないってことになるだろう?」

アキレスは少し考えてから、

「あっ!そうかっ」

アキレスは亀の話を聴くと忽ちパラドックスの呪縛に囚われて足が強張っ

て走れなくなり、亀の後をトボトボとついて行くしかなかった。つまり、

アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。


                           (おわり)

『アキレスと亀 異聞④』

『アキレスと亀 異聞④』 ケケロ脱走兵 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-11-12
Copyrighted

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