ムカデ

庭にムカデがいた

ムカデはぽっかり空いた垂直の穴の中にいて周りにはカナブンの片羽や胴体を失って力なく転がる眼窩の空いたバッタの頭なんかがあった
ムカデはその中のスズメバチのちぎれた下半身を選び、首を突っ込み中の肉をジュクジュクの溶かして歯をカチカチいわせてうまそうにむさぼった

その姿はまるは親愛なる女王様が大鬼に犯されているような恐怖を僕に与えて、僕は身震いするも体中を鎖でグルグル巻きにされて金縛りにあったように動けなかった

僕も捕まったら同じ目に、いやもっとひどい目に合うあだろう
ムカデはきっと僕の体に麻痺毒を注入し生きたまま肉を溶かして食うのだ
きっと血液は凝固液で固められ、頭は僕がまだ生きていると錯覚し続け魂をその体に結び続けるだろう
そして脳みそを一かじりされるその時まで僕の肉体は生きながらえるのだ
そうしてなすすべもなく前菜の苦痛からメインディッシュの絶望に代わっていく僕の目をみてムカデは心の底から喜び打ち震えるのだ

もしかしたら性的快感を覚えたムカデは僕にタマゴを産み付けるかもしれない
生かしたままドロドロに溶かした僕の体をチビムカデどもの離乳食にする気かもしれない
チビムカデは僕を全身の内部から食い荒らし、いっちょまえに僕を狩りの練習台にして初めての嗜虐心を満たすのだ

きっとそうだ、そうに違いない
とにかくこのバイオレンスで人の心なんてこれっぽっちも持ち合わせていないムカデは僕をつま先から生きたまま食らうか、肉の保育器に改造して延々生かし続けるのだ
なんて野蛮な奴だろう

僕はこぶしを握り締めて怒りに打ち震えるもそれは束の間ですぐ頭の中は恐怖でいっぱいになった
ムカデがスズメバチの死骸からまるで感情を感じさせない飾りのような不気味な目でじっとこちらを見ているのに気付いたからだ
もしかたら僕のいるシェルターの内部を見透かしているのか
いま見つかれば逃げるすべはないだろう


というのも僕の体は頭からつま先までが小指の先ほどしかなくて、この蠱毒の中を一人と一匹きりになるまでこのカナブンの死骸の殻の中でぶるぶる震えて生き残れたのは全くの偶然にすぎなったからだ

ムカデ

ムカデ

  • 小説
  • 掌編
  • 冒険
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-11-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted