*星空文庫

うお座のあなた

野崎くるす 作

 出逢いはいたるところに転がっている。
 それはよくいわれることだった。

――あなたが好きです。愛しています――

 宇宙無線を趣味とするMにしてみたら、それはまさに一つの出逢いといってよかった。
 ラジオの星占いによれば、今日の運勢一位はうお座。ラッキーアイテムは宇宙無線。すべての状況が、今のMに当てはまる。
 ただ問題があるとすれば、それがどこの惑星、銀河、次元の誰が誰に向けた言葉なのかわからないということだった。

――あーあー……、聞こえますか?――

 Mはすぐに相手の身元を知るべく、高性能マイクロフォンに向かい言葉を発する。

――……、……。あの……、どちらさまでしょう?――

 幸いなことに、言葉がMに返ってきた。
 地球でいうところの女性の響きだ。

――突然すいません。こちらは地球、地球です――

――地球? わたしの住む星も地球というのです――

――え!? それは本当ですか?――

――ええ、ほんとですわ――

――これは! 私の住んでいるところは、地球の日本というのです――

――わたしも、地球の日本というところに住んでいますわ――

――またまた同じだ!――

 Mは驚きの声をあげる。

――ですが、こうしてはなしているということは、わたしのいう地球と、あなたのいう地球とは別物ということになりますね――

 女性のいう通り、宇宙無線を介して言葉を交わしているということは、宇宙空間における隔たりがなければならない。

――ちなみにですが、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?――

 普段は奥手なMだったが、こういったシチュエーションでは積極的にアプローチを試みられる。

――そうですね、mとだけいっておきましょう――

――なんですって! 私もMというのです――

――まあ、なんて偶然――

――いや、偶然にしても……。ちなみに、日本のどこにお住まいで?――

――住所ですか……――

 女性はちょっと逡巡し、Mに自分の住所を口にした。

――なんと! それは私の住所と一緒じゃないですか!――

――まあ、ほんと!?――

 そこでMに一つの可能性が浮かび上がる。
 パラレルワールド。並行世界。
 このmという女性は、もう一つの地球に住む自分ということではないのだろうか。
 それも男性ではなくて、可愛らしい声をした女性の自分。

――あっ……、……。ごめっ……い……――

 突如、やかましいノイズが鼓膜を打つ。

――また、あなたの声が聞きたいわ――

 ノイズの隙間に入り込んだ、しおらしい女性の声。
 それ以降は、激しいノイズが支配する。
 ラジオの音量をあげれば、どうやら宇宙嵐が起こっているようだった。

「はあ、せっかくのチャンスだと思ったのに」

 Mは椅子の背にもたれ、大きく伸びをした。
 時刻は深夜二時。そろそろ寝なければ、明日の学校に遅刻してしまう。

――また、あなたの声が聞きたいわ――

 mはそういい、宇宙無線の電源を切った。
 ついでに、ボイスチェンジャーも。

「はあ、せっかく楽しめていたのに、興ざめすることをいう奴だった」

 mの声は、先ほどの女性のものとはまるで違う、青年から大人へと変わりつつある男性のものだった。
 ラジオをつければ、このノイズの原因は宇宙嵐であることが判明した。実にいいタイミングだった。

「たくよー、地球で日本で住所もおんなじ。んな偶然あるかよ」

 あいつはいったいどこの星の奴なのだろう。少なくとも、地球、日本、細かい地名を知っているということになる。

「気味がわりぃーな。SFじゃあるめーし」

 ラジオでは星占いが始まって、今日の運勢一位はうお座であり、ラッキーアイテムは宇宙無線であると教えてくれる。

「ねぇーわ。こりゃ最下位だろ」

 今日の釣りは失敗だ。
 もしかしたら、自分が釣られたのかもしれない。
 時刻は深夜二時を回ったところだ。
 そろそろ寝なければ、明日の学校に遅刻してしまう。

『うお座のあなた』

『うお座のあなた』 野崎くるす 作

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-11-01
Copyrighted

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