*星空文庫

神とサイコロ

野崎くるす 作

 巫女は神の言葉を伝えている。けれどその姿を見ることはできない。村の長はその言葉で政治を行う。
 いまこの村は混沌のなかにある。政治は乱れ、人々の心を荒んでいる。
 巫女のなかでもその力に長けているヒイラはまだ若く、世のなかのことには幾ばくか疎かった。
「ヒイラよ、神はなんといっておるのだ?」
 ヒイラの倍以上は生きている長がそう訊ねると、ヒイラは凛とした姿で「なにも」と首を横に振る。
 長は「そうか」と唇を噛み締め姿を消す。薄暗い部屋のなか、巫女はその背中を見送った。
 巫女のなかでもことにお喋りなユウリがやって来て、「本当になにもいっていないの?」と訊ねる。
 それにもヒイラは「ええ、なにもおっしゃってはおりません」と首を横に振る。
「神様はサイコロを振らないのかしら?」
「その姿を見ることはできませんからね」
「双六とかしないのかしら?」
「神無月、神在月にはしているのかもしれませんね」
 ユウリはぱちんと指を鳴らし、「それって面白くない? なんか小説みたいじゃん?」と浮かれている。
 ヒイラは茶を啜り、呑気でいいわね、なんてユウリを眺める。神はなにもおっしゃてはくれない。サイコロは振らない。未来は決まっている。それがヒイラにはわかっている。それをいってはいけないと神に命じられているわけでもない。
 その存在を疑おうと思えば疑える。その姿を見せてくれたら皆も納得するのだろうが、その姿を晒してしまえば神は神ではなくなってしまう。神というのはなにもかもを超越したもの、もしくはものですらないなにか。言葉にすることなどできはしない。
 その神の息吹、もしくは震えのようのものを無理くりに言葉にし誰かに伝える。それがヒイラの役割だった。けれどこればかりは伝えられぬ。村の混沌、荒廃などは瑣末なことだ。饅頭を頬張るユウリの口角には白い粉がついている。

『この世界は消えてなくなる』

 そんなことをいえるわけがない。いったところでどうすることもできぬのだ。神はサイコロを振らない。自分の力を疑われ、殺されてしまうことだって考えられる。
 ヒイラは目を閉じ神に問う。あなたは本当にいるのですか。どうすることもできぬのですか。消えるということと滅びるということとは同じですか。
 けれどなにも返してはくれない。いつものことだ。ユウリは大きく伸びをして、「神様も遊べばいいのにね」という。ヒイラは心のなかでいう、サイコロを振ってくださいな、と。

『神とサイコロ』

『神とサイコロ』 野崎くるす 作

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-10-30
Copyrighted

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