オウム返しと愉快犯

妙な声がしたので、一度目を覚ましてしまった、いつもは二度寝なんてしないから
その日の二度寝は、やつのせいだ。
『オモイダセ。オモイダセ』
ある晴れた日の朝の事、
あれは春の頃で、深夜アニメを見た後で、
ワイドショーがくだらないニュースを連日流していた頃で、
他人の不幸を貪る僕らにはちょうどいいとしゃに構えていた頃で、

僕は、クローゼットにかかる制服をみながら、
『いてっ』

頭の奥底、記憶の奥底で
鈍い痛みを思いだした。

いつか、一度だけ、金属バットで頭を殴られた事があった。

二度寝から目を覚ましたんだったか、気づいたときには、高校の時分の座席にすわって
いつも通り雲でも眺めてたら、
あの女がやってきた、まず初めに話かけてくるのは、幼馴染だ。

『今朝、変なやつがいてさ』

何々?よってきたのは幼馴染のミエ、
女らしくない女なので、ついでに幼稚なのでそりがあう。

『あのさ、人間じゃなくて、鳥なんだよ、鳥、しゃべるとり』

『オウム?』

『多分ね、目が覚めた頃にはさ——』

——僕が目を覚ました頃には、そいつは、あけ放っていたまどのへりからバタバタと、大きな羽の黒い影だけ残して飛びたっていましたとさ、

『あはは、何それ、詩人なの?気持ち悪い。』

ぎくっとした、
こいつの悪口や、意見には、こいつ自身何の悪気もないのだ、
こいつはそういうやつだ、幼馴染でなければ、僕はこういうタイプは悪くないと思う。
いや、絶対ないか。

『——それから、』

そこで話を終わりにしなくてはいけない。
直感で悟った、というのも、続きを語ろうとして、
僕自身が、何か、とてつもない過去の断片にふれたのを感じた、
それは、寒気と、鈍痛からだった。

『大丈夫?』

いつのまにか倒れて保健室にいたらしい。
優しいな、といったら、あいつは、涙をためながら、わらった
こういう時はどきっとする

——でもあの笑顔、何か隠しているときみたいな——

昔、たった1週間だけ、俺は——失踪した事があったらしい
その時に、あいつだけが、ミエだけが、何か真実を教えようとして、新聞紙の切り抜きを、切り抜きを、
互いの親が玄関口で話している間に、俺に渡そうとして、
家の愛犬、ペロに、脅かされて、手をひっこめたんだ。

——でもなんで、いまさら、あのときのことなんて、あの時の、“秘密”なんて思いだすんだろう——

保健室の天上も、床も、ぴかぴかの白で、腹が冷える。

あけ放たれた窓と、ゆれるカーテンをながめながら、
うつらうつらと入り込んだ、夢の中で、
両親に、俺は、あの時の事を尋ねた
たしかに、小学生、中学生のときに
“あの夏の一週間について”
尋ねた事があった、

『母さん、なんで』

小学生の時分
額にこれでもかというくらいに汗をかき、涙目になりながら、
母は自分をだきしめた、

中学生の時は、
『母さん、なんで』

顔は青ざめながら、もう安心しきったように、
同じ言葉を並べた。

『何もなかったのよ、私も詳しく覚えていないの』

まるで、今朝のオウムのようで、君がわるく、
だけど、母は、何も、悪い意味で秘密にしているわけではない、
父は、もっと前に他界していた、

ひょっとして父と関係がある事なのか、

目が覚めたら昼休み
昼食を少したべて、少し寝た、今日は眠い
いくら寝ても、頭がすっきりしない
何か、面倒な病院にでも入れられなければいい、
それから、1日でも置いてかれると怖い、僕はこれでも、不安や恐怖には弱い

二度目の夢で
オウムは、首をひねって体を翻し、たった一度いった。
『それは確かに起こった事さ』

なんだか、気味がわるい
その光景は、今朝、自室で目を覚ましたときとおなじく、オウムは、窓のヘリにつかまっていた、
ただ、飛び立って逃げたりしなかった、

『きみは、僕の真似をした、何度も何度も』

『思いだせ、思いだせ、思い出せ』

——記憶は、突然に過去とつながった、
ビルの廃墟、シャッターの内側、空き缶やら得たいのしてない配線やらがちらばっているその内側で、
僕はある男と対峙していた、
男は事情を話したが、名前は名乗らなかった。

『この国は間違っているんだ。この世界は間違っているんだ、
なぜ優しく、臆病で、時分を謙遜するような人が、怯えて暮らさなくてはならない』

『何の事です?』

『彼女の不幸だ、彼女は、子供を産めない、恐怖のせいなのだ、幼少期の恐怖の、
だから、俺は養子をもらおうといった、他にも色々方法はあるさ、
だが彼女は拒絶した』

『なら、いいじゃないですか』

男は、顔を真っ青にして、頭を抱えていた、もう三日も、その格好だ。

『違うんだよ、彼女は、そんなに嫌がっていたのに、欲していたんだよ、俺たちの子を。』

オウムは、ドラム缶の上にいた、僕が、ロープでぐるぐるまきにされた、すぐ右わきのドラム缶から、
男の視界に移らない形で、鎮座していた。

僕はオウムに何度もといかけたんだった、
『思い出せ、思い出せ、思い出せ』
ここは、帰り道によく見る廃墟——

この人は、子供に八つ当たりする
ユ——ユ——
その頃、まだ、僕は小学校低学年で、

『ユカイハン』

そういうと、はっと何かをきづいたように、男は泣き出して
『やめよう』
泣きながらロープをほどいて、
ビニール袋の中の、アンパンとコーラをくれた。

オウムは、最後に男の言葉を代弁したんだ、
スーツの、よれたスーツの、汗だらけの、傷だらけの、男の言葉
『彼女はもう死んでしまったよ。』
何度も何度も、オウム返しで、ただ一人で、叫び続けていた
俺は、汗びっしょりで、夕方に目を覚ました。

オウム返しと愉快犯

オウム返しと愉快犯

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-18

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