ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

ボッチ、クラス召喚される

「───うん? なんだこれ......」

 教室の時計の針が8時19分を指している。

 あと1分で朝活が始まろうとしていて、全員がチャイム前席を心掛け、待機しているときに、それは突然起こった。

床が光ってる......うおっ! 眩しい......!?

 窓際の前から二席目に座る近藤(こんどう) 駿(しゅん)は、突然起きた出来事にいち早く気づいたが、床が一層輝きを増して、思わず眩しすぎて目を瞑ってしまった。
 他の皆も最初の微弱な輝きを放っていた床に気付かなかったが、さっきとは比べ物にならないほどに一瞬で輝きを増した瞬間に、やっとこの教室内の異変に気づきはじめた。

「何よこれ!」 「み......見えねぇ!」 「眩しすぎる......!?」 

 全員が目に襲いかかる光を遮ろうと腕で目を隠したため、視界を失い、外に出ようにも正確な扉の位置が掴めず、教室から出たくても出られない歯がゆい状況になってしまった。

 そしてその数秒後、教室から光が溢れだした瞬間、あれほど騒がしかった教室に突然の静寂が訪れたのだった。


= = = = = =
   

 毎日続く平和な学校の日常は、すぐ通りすぎて行くものだ。
 
 だが人生にはアクシデントがつきもので、例えば課題の出し忘れや、再提出、委員会の退屈な仕事、厳しい部活の顧問に会わなければならないという事態が起こってしまい、そこからの日常というのは本当に長く感じてしまうだろう。

 しかし、俺はというと毎日の平和な日常でさえ、長く感じてしまう事態が毎日のように起こってしまうのだ。

それはいつものように朝、襲ってくる眠気に負けて、教室の自分の机に頭を突っ伏していると───

「近藤君......おはよう。今日も相変わらずだね? ふふっ......」

と、駿の机の横で美しい少女が優しく微笑みかけた。

「..................ぅあ? あ......ああ! おはよう峯崎さんっ! ごめんいつも寝てて......」

「別に謝ることじゃないよ? 近藤君はそのままいいと思う......それじゃ、私、友達のところにいくから、またね?」

「あ、うん......!」

ふ、ふぅ......

 ───そう
誰もが憧れ、文武両道、容姿端麗の完璧美少女の道を行く、峯崎(みねさき) 伽凛(かりん)さんが俺になぜか話しかけてくるのだ。
 それは朝の時間帯だけではなく当然、俺は友達になった覚えもなく、まるで友達のように休み時間も毎日接してくれるのだ。

 それにより、皆が憧れの峯崎さんが俺みたいなボッチで、休み時間になったらすぐに机に突っ伏す奴といつも接してくれることに対して、クラスの皆から、はたまた学年全員から俺は嫉妬の的になり、理不尽な反感を買っているのだ。
 友達に当然なってくれず、俺はこれまで以上にボッチな生活を送らなければならない状況に陥っている。

 それにまだある───

「駿、お前また寝てたのかよ~。夜にゲームしすぎな? 体には気を付けろよな?」

「あ、あぁ優真か。でも止められないんだよね......ボスがなかなか倒せなくて」

「お、じゃあさ。今日お前んち行くから一緒に倒そうぜ。俺もボスが倒せなくてさ~」

「うん。暇だし良いよー」

「そうか!......おっと、もうすぐで朝活だな。じゃあ俺、自分の席戻るから」

 と言って、自分の席に戻った友達がこれまた問題だった。

 浅野(あさの) 優真(ゆうま)。こちらも容姿端麗で文武両道。まさに男版峯崎さんといった感じで、何だかんだで小学校からの友達だったために仲良くしてしまうのは不可抗力であるが、やはり女子からの視線がマジで心臓突き刺してしまうんじゃないかというぐらいに鋭い。

俺のせいじゃないっ! 不可抗力なんだっ!!

と、叫ぶのはさすがに止めとくが、叫びたいほどに訴えたい。

「はぁ......」

 結果的に、この教室では峯崎さんと優真以外から、鋭い視線を感じ、仲間は二人しか居ないことが大いに、改めて理解出来た。
 
 まさに宝の持ち腐れともいうべきか、これをいうなら『豚に真珠』というほうがしっくりくる。
いや、太ってはなく、体はガリなため、『ガリ豚に真珠』ともいうべきだな。
 まぁ豚って実は体脂肪低いから元々痩せてるんだけどね......

 とりあえず豚から離れて......

まぁそんなわけで、俺は皆から理不尽な反感を受ける日々を毎日送り、毎日が長く感じてしまうというわけなのだ。

「俺なんか皆にしたのか......?」

 そんな疑問を毎日抱きながら、いつものように皆からの痛い視線を浴びながら一日をスタートする毎日。

 今も、そしてこれからも、駿はこんな日常が続くと思っていた。

「うん? なんだこれ......」

 しかし、こんな日にもアクシデントは突然起こるというものだ。

 床が微かに光り輝いたとき、俺は逃げたほうがよかったのか。
 それとも逃げなかったほうがよかったのか。

 未来の俺でも判断しかねるのだ。

? ? ? ? ? ?


 自分に呼吸があることを確認し、心底ほっとする。
 
 重い瞼をゆっくりと開け、ボヤける視界だが、すぐにここは教室じゃないと判断できた。

 天井がさっきいた教室よりも奥行きが断然あり、落書きでもなんでもない、様々な美しい壁絵が広がってたのだ。
 蛍光灯、扇風機、いつもの白い天井などがなくなり、あるのはシャンデリア、大量の小さな小窓、彫刻が刻まれた石の天井だった。

「ここ......どこだ?」

 いかにも中世的な造りで、場所で思い当たるところがあるとすれば、日本では教会しか思い当たらない。

教会に誘拐された......?

 しかし、見渡しても室内からでもこんな広く、構造が凝っているのが確認できる建造物が、イメージする教会とどうも合致しない。

あれ!? 何で皆が! 

 何故かクラス全員が周りで至るところに倒れていることに気付き、驚愕した駿は、直ぐに優真の元に駆け寄り、息があるか確認する。

 「............はぁ、生きてた」

寝起きでこんな衝撃的な映像を見せられるとは思わなかった......

 駿がそんなことを思った瞬間に、優真がたてていた寝息を止め、おもむろに起き上がった。

「......っぁあ......うん? お、駿か......ん?......え?......て、ここどこぉっ!?」

「こっちが聞きたいよ......俺もさっきまで寝てたから」

「そ......そうか。わりぃな」

「いや俺も口には出さなかったけど結構パニックになったから別に気にすることじゃないよ」

 優真は苦笑いすると、すぐさま立ち上がり、周りを見渡した。
どうやら周りに倒れてしまっているクラスメイト達を見ているようだ。

「......皆も寝てるのか。よし駿、まずは皆を起こすぞ」

「えぇ......切り替え早いよ......」

「いかにも嫌そうな顔するなよ......ほらやるぞ」

「......へいへい」

 というわけで、優真と俺は手分けして皆を起こすことになった。

「おーい。起きろー......朝の時間かは知らんが、とりあえず起きろー」

 駿は適当にクラスメイトの体を二、三回ゆすって、一声かけたあと、また他のクラスメイトを同じように起こすのを繰り返している。
 
嫌いな奴に起こされたくないよな......

 毎日、駿に対して嫌そうにしているクラスメイトを起こすことに抵抗感が募るが、ここはグッと我慢して、このあと五人起こした。

あ......

 突然、今まで迷いもなく、早く終わらせたい一心で動いていた駿の体が硬直する。

峯崎さん居るんだったぁ~......!

 それは、整った横顔を長くさらさらした綺麗な黒髪の隙間から覗かせ、モデルを優に越すほどの無防備な美しい体を晒す峯崎 伽凛を前に、駿は思わず立ち止まってしまったのだ。

「すぅ......すぅ......───」

 綺麗な音を出す鈴のように、微かな寝息をたてながら、あどけなさが残る美しい寝顔が視認できた途端、駿の脳内で何かが爆発したように言葉は次々と溢れだした。

どどどどうする! 優真はまだ六人くらい倒れている人を起こさないといけないから当分は来ないとして......だからといってこんな俺が峯崎さんほどの人を起こしていいものだろうか!? 否! 断じて否だ! 峯崎さんだって女の子......イケメンに起こしてもらいたいはずだ! いや、だけどこのままこんなところで寝かせておくのも失礼だし......! もうどうすれば......! 実は言うと俺は起こしてみたい......! 当たり前じゃないか! だけど......いや、でもここは毎日に理不尽な反感を買っている俺にもご褒美は一つくらいあっていいのではないだろうか! よし......これはご褒美だ。これは枯れ果てた砂漠に突然涌き出てきた真水なのだ。砂漠のなかで命の要となる水を取らない馬鹿など居ない! よって、俺はこの時を、この瞬間を楽しむことにする!

───ゴクリ......

「峯崎さん、峯崎さん......起きて」

 葛藤を続けること僅か十秒、脳内で驚くほどの早口で葛藤を終わらせた駿に、もう迷いはなかった。

 細く、柔らかい肩を優しく揺する。

「......んっ......ぁ......ぅ? ぁあ!? こここ近藤君!?」

 ゆっくりと目を開け、目がしっかりと駿に焦点に合わさったとき、慌てたように起き上がった。

「おはよう峯崎さん。今はいつもと逆の立場だね?」

 駿は跳ね上がる気持ちを抑えて、それでも会話できる喜びを噛み締めながら、平常心を保ち、笑顔を伽凛に向けた。

「っ!?............うぅ......」

 そんな伽凛は何故か駿の顔をまじまじと見つめながら、頬を赤らめせている。
 
「うん? どうしたの峯崎さん? どこか痛いところでもあるの?」

「い、いやいや......! そんなことないよ......そ、そそれよりも......近藤君は此処がどこなのか分かる?」

 伽凛はおもむろに起き上がりながら見開いた目で見渡し、率直に疑問に思ったことを駿に質問した。

「あ......いや、俺も分かんないんだ。さっきまで峯崎さんのように寝てたから......」

「そうなんだ......」

さすが峯崎さん......さっきとは180度方向性が違う内装をみて少し驚いただけとは......

 感心していると峯崎さんが急に話しかけてきた。

「こ、近藤君っ......その......」

「......!?」

 頬を火照らせ、うつむきながら話しかけてきた峯崎さんに、俺はこれ以上にないほど心臓が跳ね上がった。

な、なんだ......!? 

 駿がそう緊張していると、伽凛はうつむいた顔を駿に向け直し、改めて口を開く。

「えと......あ、ありがとう......起こしてくれて......」

「え?......あ、ああ! そんなことか! いいよ! 別に礼をするほどでもないことだし」

「う、うん! 分かった! でも......起こしてくれたのが近藤君でよかっ───」

「ん? なんか言った?」

「な、何でもない!」

「......?」

「駿! そっちは終わったかー?」

首を傾げていると、優真がそう言って駆け寄ってきたので、完了したことを優真に伝えると嬉しそうに「そうか!」と、笑顔で俺の肩に思いきり手を置いた。

 クラスメイト達は覚醒しきってない人がほとんどなため、五分待機をした。

そして五分後

「よし! 皆起きてるか?」

「はーい」

 似たような返事があちこちに響いた後、優真は手を叩き、まずはなぜこんなところに居るのかについて話し始めた。

「まずはなんでこんな場所で俺たちが仲良く眠っていたことについて皆がわかっている範囲でいいから何か教えてくれー」

 優真はそう言ったが、誰も手をあげなかった。

「......そうか......俺を含めて全員知らないとなると、誘拐かはたまたテレビのドッキリしか思い付かないよな?」

「そうだね......」

 伽凛は優真の言葉を肯定し、誘拐という言葉に不安を抱きながら首を縦に振る。

その後、次々にクラスメイト達は不安を口々にしていたが、優真が結論を出した。

「俺が考えた結果だが......これは誘拐だと思う。そもそも寝かすほどのことをいきなりするドッキリなんて聞いたことないし、カメラも一応起こしてる途中で歩き回ったがそんなものは見つからなかった......だから俺は誘拐しかないと思ってる。皆はどう思う?」

 もっともな意見に、全員がうなずく他なかった。
そして頷くことによって、もしかしたら、という最悪の事態が、恐らく本当になってしまったことに全員が恐怖に包まれた。

 そして同時に、30人いるはずのこの空間が、不気味な静寂に包まれた。
しかし───

「───お待ちしておりました。救世主の方々」

「「「......!?」」」
 
 ───突如、クラスメイト達しか居ないこの広大な部屋の静寂を破った身に覚えのない威厳のある声に、全員が驚愕した。

誰、このおじさん......!?

ボッチ、勇気を出す

「お待ちしておりました。救世主の方々」

「「「......!?」」」
 
 ───しかし突如、クラスメイト達しか居ないこの広大な部屋の静寂を破った身に覚えのない威厳のある声に、全員が驚愕した。

誰、このおじさん......!?

 今まで開かずの大扉がゆっくりと開き、その奥には玉座に座る、王冠を被った老いた人物が座って待っていた。

「これって......」
「誘拐のはずだけどどうして......?」
「なぁ......あの人王さまっぽくね?」
「あの......ネタということは......」
「ないな」
「うん、ない」
「流石にこんな大きな扉作ってまでやらないでしょう......?」

 全員が息を呑み、そのまま縫い付けられているように動かず、王冠を被っている人物と、その他に周りにいた部下達もこれには慌てた。

「何をグズグズしておる。早く私のまえに顔を見せて来たらどうだ」

「おい......来いだってよ」
「お前行ってこい」
「......行ってきたらどうだ?」
「嫌よ......あなた行きなさいよ」
「俺は......まだ生きたいし......」
「死にゃしねえよ......多分」

 畏怖の目を王に向けながら、怯えた口調でそれぞれ口に出す。

 王はそんな生徒たちを見て、自分がなんかした訳じゃないのに何で怯えられてるのかが理解できず、しかも口々には「生きたいし」といわれる始末に焦った。

「待て待て......別にお主達を取って食べたりなんかしないのだが......」

 しかし、伽凛を筆頭にその言葉を警戒した。

「誘拐しておいて......よくそんなことが言えますね? 国ぐるみで私たちに辱しめをやるんでしたら私たちは断固拒否し、徹底抗戦します」
 
 そう伽凛が言うと、駿以外のほとんどの人が同調する。

 また、伽凛の後に続いたのは、友達である朝倉(あさくら) 優菜(ゆうな)だった。

「なにがなんでもいきなり何処か分からないところに皆連れかえっといて......そんな上から目線はどうかと思いますよ? 誘拐犯だったらその態度に納得できますが、あなた方のその姿じゃとてもじゃないけど、想像できませんね」
 
 優奈が言った言葉に、誰もが同感する。

 誘拐するにしても甲冑をつけている人、白いローブを着て杖を持っている人、ましてや玉座に座っている王冠を被って赤いマントを羽織っている人も居るのだ。

 明らかに目立つし、そんな大層なコスプレをするお金があるのならば誘拐なんてしないはずなのだ。

 皆が怪訝な表情を浮かべる中で優真も優菜の後に続いた。

「何がしたいんですか?......手も足も縛り付けずにそのまま放置とは聞いたことがありません。逃げないようにする誘拐犯ならばそんなことぐらい常識だと思うんですけど?」

 その優真の言葉で、皆が首を僅かに傾げた。

 たしかにそうだ......と、何故この人達は自分達を縛らずに、そこの大きな部屋に三十人もろとも放置してたのか、理解できなかった。

「お主達......誘拐とは人聞きの悪いの」

「じゃあ何だって言うんですか?」

 王は伽凛からそう聞かれた時、玉座から立ち上がって、騎士達十人くらい連れて、呆然としている三十人の前で何故か、頭を下げた。

「今回は少々、いやお主達にとってはいきなりでよく分からない上、結構な手荒な真似と感じる事をしてしまった。誠に申し訳なかった......」

 下げた頭を元に戻して、王は続けた。

「これで謝罪が足りなかったら後でまた何か贈ろう────さて、では本題に入るとする。まず何故お主達がここにいたのかの経緯を話そう。先に言っておくが、お主達を呼んだのはこの私を含む王国じゃ。理由としてはだが、ある七つの剣を探してほしいのじゃ。その七つの剣は種類にもよるが、一つあれば小国を容易く滅ぼせる程の威力を持っておる......言わば伝説の剣じゃな。その剣を何故探すのかと言うと、今世界中の敵になっておる強大な勢力『魔王軍』が、その剣を求めて探し回ってるらしいのじゃ......『魔王軍』の強力な貴族に持たれると、もう私たちでは太刀打ちできなくなってしまう。そんなこともあって、先に見つけ出そうという魂胆に至り、お主達を呼んだというわけじゃ」

「え? ちょまって。『魔王軍』? なにそれ? ゲームじゃね? なんで今そんな話すんの? あり得ないだろ」

 一人の男子が王らしき者から放たれた意味不明な言葉を鼻で笑った。

 それは皆も同じようで、「この人なにいってんの?」と困惑した表情を浮かばせている。

 一部の男子は嘲笑し、大部分が困惑している中で、王は「あれを持って参れ」と近くの騎士にそう命令する。

 騎士は早々に立ち去り、数十秒後には赤い布で覆われた物を手に持って王に差し出した。

「......今から『魔王軍』と戦ったとある戦場の記憶を見せる......注意しておくが、残虐の限りを尽くしている過激な内容となっておる。目をそらすのもよしじゃが......これが真実じゃ」

 王は赤い布を取り、何のへんてつもない鏡を天井に向かって高らかに持ち上げた。

 すると天井に、鏡から一直線に伸びた光が当たり、その瞬間映像がうっすらと浮かび上がっていった。

「「「「「「「おお......!」」」」」」」

 それを目撃した皆は、一様にそう驚嘆する。

 うっすらと見える映像が段々と鮮明になっていく中で何人かはもうその映像がどんなものなのかを察し目をそらした。

「「「「「「「..................っ!?」」」」」」」

 やがて映像が完璧に写された時、皆はその映像に息を呑んだ。

 ────写るのは五メートル程の体格を誇っている牛人が、泣いて必死にその拘束を解こうともがき続けている騎士の腕をその大きな口を開けて食い千切って鮮血を至福な表情で浴びている───そんな内容の映像だった。

 映像はそこで止まり、天井に伸びた鏡から放たれていた光が消えた。
 
 皆は言葉を失い、しばらくの静寂が部屋を支配する。

 たった一分程度の映像で、皆の心には王が言った『真実』が深く刻まれた。

「......どうじゃ。信じてもらえたか」 

 王のその一言に誰も反論はできなかった。

 しかし、徐に一人のクラスメイトが手を上げ、質問した。

「......何故私たちなんですか?」

 その言葉に皆は同感し、頷く人も居た。

しかし、話を聞いていた駿は皆とは違い

あの映像はグロかったが......それにしても魔王と戦えるのかっ! いや~人生は生きてて分からないなぁ~。俺的には戦いたい心もあるし、伝説の剣に触れてみたい気持ちもあるし、皆の意見を優先にしないとっていう気持ちもあるけど......やっぱり戦う方を選ぼっかな~♪

 と、目を輝かせていた。

そんな駿をいざ知らず、王はまた続けた。

「お主達は多大なる力を秘めている可能性が大いにあるのじゃ......その力は、かつて現れた勇者に匹敵、いやそれ以上の非常に大きなもので、戦うごとにお主達はもっと強くなるのじゃ。その強力な力も相まって、力を持っているお主達にこれを頼みたいのじゃ。成功率もぐんと上がるし、何より安心だからの」


「なんであなた方の都合に私たちを巻き込むんです? 『魔王軍』っていう人達と戦争状態で、そもそもどちらが悪いとかじゃなく、戦争をやっていること自体が悪いことだと思いますけど......そして今、私達のように関係ない人も巻き込んでます......今は故意で私たちを巻き込んでいるのでしょうが、戦争をやっているあなた方の都合のことでどれだけの人たちが無意識にも巻き込まれていると思ってるんですか?」

 王が言った言葉に、伽凛が冷静に返答する。その声は冷静に聞こえても、凍えるような怒気を感じられる。

「むぅ......確かにそうだが、この戦争は仕方なくやっているのも同然のものなのじゃ......」
 
 王は困ったような顔をして、目をつむり、顔を横に僅かに振る。

「......? どういうことですか?」

 ここで初めて駿の声が響いた。

 皆はそんな普段は見せない、自分から発言することのなかった駿に少し驚いたが、王はそんな気も知らず、淡々と話した。

「『魔王軍』は、これまでこの世界に存在する魔物と、突如として現れた魔人を魔王が治める形によって組織された、いわば魔族の統制機関じゃ。その『魔王軍』が組織された当時から、近くにある国々に次々と無差別に殺戮を繰り返し、あわよくば世界中に、国として認めろ、と発言してきたのじゃ。最初は穏便に済ませたかったのじゃが、殺戮を繰り返してきた『魔王軍』の過去がどうしても足枷になり、なかなか認めてくれない『魔王軍』側は、ついに戦争を仕掛けてきたのじゃ......」

 その王の言葉に伽凛は瞠目し、さっきの発言と今の王の言葉を照らし合わせて、悩んだ。

これは......仕方ない......かな? 戦争はいけないと思うけど、理不尽な『魔王軍』の要求を飲んだらもっとこの世界は酷いものになってたかもしれない......殺戮を繰り返したのならそれは間違いなはず

「すみませんでした......先程の発言、撤回というわけにはいけませんが、少し間違っていました」

でも戦争はいけないのは当たり前だから、撤回をするわけにはいかないよね?

「いや、お主の発言はもっともだった。分かってはいたものの、最近忘れてきていたのは本当じゃった。改めて私に教えてくれて感謝しておる......さて、どうじゃろうか......? 私はこれ以上犠牲者を出したくない。伝説の剣を手に入れられば、負けは必至じゃ......負けたら私達人族の民族浄化もあり得るじゃろう。どうか......どうか私達に力を貸してはくれぬか......?」

 その王の言葉と、一連の話を聞いていた反対していた人達全員が肩を揺らした。

 駿も同様に肩を揺らし、拳に力を入れて、目を細めていた。

静寂が続く。

───

───

───最初に静寂を切り裂いたのは


「皆、やろう」

 駿だった。

 誰もが駿に注目した。

「ここの世界は、もう俺たちが住んでいたところとはかけ離れた世界だ」

 今までとは違う、凛々しく、堂々とした駿の姿に伽凛、そして皆が目を見開いた。

「俺達が居た世界は、果たして俺達を欲していただろうか......? 俺はそうは思わなかった。俺の場合、ただ毎日、学校の教室に来て、ひたすら退屈な授業を受けたあと、机に突っ伏して寝て、チャイムが鳴った後でまた授業を受ける......ただこれだけだった。もちろん、皆の場合は友達と話すというものがあるが、本当にそれだけで本当に楽しいと思ったことがあったか? それだけの生活にほぼ半日無駄にして、そこの世界は俺達を欲していると思ったことがあったか?」

 その問いかけに、皆は目を逸らした。

「......だが、この世界は、俺達を欲していると、そう口々に出してくれている。決してこの世界を望んだわけじゃない俺達をだ......俺はこの世界で、存在価値を示したいと思ってるんだが......皆はあんな退屈な世界で存在価値を示したいか......? 退屈な日々にまた戻りたいのか......?」

まぁ......皆を誘ってるのは怖いだけ......だからこんな大口を叩いてるだけ......ただそれだけだ、うん

 駿はそう言い聞かせてる自分が見苦しく思い、苦笑してから、嘘でも本当でもないことを口にする。

「───俺は一人でも......この世界に残るつもりだ。皆は?」

「「「......!?」」」

 その発言は皆を驚愕させる。

 しかし誰もが頭を悩ませた。

 駿の言ったことは、皆の心の奥底に仕舞い込んでいた『日常からの解放という』言葉を引き立たせた。

 毎日、密かに思っていた、退屈というものの裏にある、解放というもの。

 まだ子供であることを再確認できたこの思いは、皆に止められなかった。

「近藤君、私は残るよ」

 伽凛が挙手する。

「俺も......なんか見過ごせないわ。魔王とかいう奴。あと、駿と討伐してみたいし」

 優真も挙手する。

───それにより

「私も!」

「お、俺も!」

「僕も!」

「俺もだ!」

「私も......」

────......

と、続々と皆が挙手し、ついに全員が挙手した。

「お、おぉ......! やってくれるか! 頼もしい限りじゃ!」

 王の他にも、周りにいた騎士や大臣らしき人達が歓声を上げた。

「お主のお蔭で皆が賛同してくれた! 感謝しておる!」

「ど、どうも......」

 と駿が恐縮するのを笑顔でうんうん、と頷いた王は「よし、さっそく......あれを持って参れ」と命令し、武官が例のあれを持ってきたらしい。

「これからお主達には自分の実力を知ってもらうため、ステータスを調べる。やり方は簡単じゃ。その水晶の上に手を置くだけじゃ。さぁ、まずは並んでやってみるのじゃ」

 皆はそう言われたので水晶の前に並んだのだが

───並んでいる間、皆から駿は質問攻めを受ける。

「近藤......お前どうした! いきなり言われたときはビックリしたぞ!」

「近藤ってさ......案外いいこと言うよな」

「近藤! てめーなに格好つけてんだよ! 格好良かったけど!」

「近藤なんでそんなに変わってるんだ?」

「近藤君って、案外しゃべる方なんだ......」

「近藤君......なんかすごいね」

 と、賞賛や皮肉なども度々混じっている。

なんか......お前らがすごいよ

 と、すごい人数で囲まれている駿はそうつくづく思っていると

「近藤君!」

 と、伽凛が呼んでいるため、駿は「なんだろう?」と、首を傾げた後、人混みをかき分けながら駆け寄った。

「なに? 峯崎さん」

「いや、近藤君の番だから呼んだんだけど......」

「あ、あぁ! なるほどね。じゃあ行ってくるよ」

「う、うん!」

いや、ちょっとまてよこれって峯崎さんのステータスを見れるチャンスなんじゃね?

「優真、先にやってて」

「うん? 別にいいけど」

 と、自分の番をすこし後ろに並んでいた優真に譲った。

よし......!

「そういえば峯崎さんのステータスってどうだったの?」

 と、駿は一度伽凛に背を向けた体をまた向けながら、質問すると......

「この紙に書いてるけど......見たいの?」

お、きたーっ!

「み、見たいです!」

「うん、いいよ? はい」

 伽凛は笑顔で快諾して、紙を見せてもらった。


すると、伽凛のステータスを駿は嬉しい気持ちで黙読する。


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ミネサキ・カリン 

女性 

人族

Lv1

HP  125

攻撃力 50

魔攻力 220

MP  250

敏捷  90

耐久  50



スキル

なし

固有スキル

女神の治癒(下位)
・対称の個体に、全回復、状態異常回復する。
・スキル使用後、自動回復(大)が付加。

-----------------------------

つ、強っ!? すんげえ回復出来るじゃん......しかも現時点で下位ということは、上位になったらどうなるのだろうか!

「はぇ~......」

「近藤君、どうだった?」

「峯崎さんって女神だね」

「......うん?」

「............ぁ、あ! ぼーとしてた! うん、強い! あ、行かなくちゃ! またね」

「え、近藤君!?」

 駿は顔を赤くしながら、ステータスを確認しに行った。

すると......

「な、なんだこれぇ!?」
 
 と、思わず叫んでいた。

ボッチ、ハズレスキルの恩恵を授かる。

「な、なんだこれぇ!?」

「ん? どうした駿?」

 と、優真の声に耳を貸さず、駿はある紙の一点だけをあらん限り目を見開きながら注目していた。

 こ、これは............マジかよ!?

その駿のステータスは───こうだった。

-------------------------------

コンドウ・シュン

男性

人族

Lv1

HP  100

攻撃力 100

魔攻力 100

MP  100

敏捷  100

耐久  100



スキル

なし

固有スキル

状態異常倍加(下位)

・状態異常の効果が二倍される
・自分の体に何らかの異常が起きた場合、それが付加される

------------------------------

おいいいいいいいいいいいいっ!? なにこのク○スキル!? 状態異常倍加って......倍加しちゃいけないものだろ! ふざけるんじゃねぇえええええええ!! どうしてこうなった!? 俺の......俺の固有スキルが......役立たず......いやむしろ足手まといになってやがるぜーっ! て、ばっきゃやろう! おいおいどうすんだこれ......俺、毒とか食らったらもう恐ろしい速さで俺のHPを蝕んでくるじゃん............ていうか能力値見てみろよ......なにこの特徴の無さ!? バランサーすぎだろ! 絶対俺のステータスを決めた神様が居るとしたら「あ、とりまここ全部100でいいや」とか言ってたんだろうな~......おいこら神、いっぺん表出やがれ!

 と、駿の頭のなかは色々とすごいことになっている。

 そんな、紙を掴んでいる両手を明らかに揺らしながら顔面蒼白の駿を心配した優真が声をかけた。

「お、おい駿! 大丈夫か!」

「......アハッ......ハハッ......」

「ヤバイ......こいつ壊れやがった!?」

 どこか遠い目をしながら、不気味に笑った駿を優真は危惧するが

「なぁ......優真......紙見せて」

もしかしたら仲間が......!? 

と、勢いよく開いたが
-------------------------------

アサノ・ユウマ

男性

人族

Lv1

HP  130

攻撃力 250

魔攻力 150

MP  90

敏捷  100

耐久  70



スキル

なし

固有スキル

剣豪の記憶
・剣術のスキル熟練UP経験値限度が1/2になる
・持っている武器(剣限定)に耐久性と鋭さが二倍付与される

-------------------------------

はい......ですよねー......

「..................」

「駿はどうだったんだ?......俺は固有スキルに剣豪ってついてるし戦士とか選ぼうと思ってるんだけど」

「................................................」

「駿? お前なんかさっきからおかしいぞ?」

 紙を見ながらずっと黙り混んでいる駿の様子は明らかにおかしかった。

 しかもよく見ると小刻みに駿の肩が揺れているのがわかった。

「優真」

「ん?」

「俺死ぬかもしれない......」

 そう言って強引に優真にステータスが記された紙を見せ、駿はまたこう呟いた。

「毒には......気を付けるよ......ハハッ......アハハッ......」

 黙読している優真の顔が徐々に驚きに染まっていくのが分かった。

「これは......!?」

 そして、読み終わった時には一杯に目を見開いた顔を駿に覗かせ、優真はこう口にした。

「お......俺とお前で強くなろうぜ......? な?」

「いや......その顔で言われたってな」

 駿は苦笑しながらも、優真に少し嫉妬し、同時に悲しんだ。

仲間なんて居なかったやんや......グスッ......

 この後、一人を除き29人がステータスの紙を見て喜んでいたという。

 そして、俺はこの光景を眺めながら、どうやってこの世界で生きていくか、今はそれだけを考えていた。

「よし......皆確認は終わったな?」

「「「はい」」」

「じゃあ次は職業を決めてもらう。職業を決めたら、その職業に合った武器を贈呈し、その後はベテランの冒険者や騎士がお主らに戦闘技術や知識を叩き込んでくれることになっておる。心して選び、その道を極めて来るのじゃ」

「「「はい!」」」

どうやらまた何か調べるつもりだな......

「ではまたこの水晶に手を置いてくれ。やり方は先程と同じじゃ」

 また並ぶこととなった生徒達は縦に一列になって自分の職業は何かとてもワクワクした表情で並んでいた。

 駿はもう固有スキルのことで一杯な気持ちなのか、あまり興味がなさそうに並んでいる。

 次々と調べられて、次々と適性の職業が言い渡される。

 戦士、僧侶、騎士、槍術士、拳闘士などという一般職の他に、賢者、バトルマスター、パラディン、遊人、武道家など上級職につける人もちらほらいた。

そういえば峯崎さんはどうなった?

 と、言い渡され喜びを露にしている伽凛の元に歩み寄り、職はなんだと、聞いてみたら

「賢者だよ? まさか私も上級職につけるなんて思わなかった!」

「え、すごいじゃん峯崎さん」

「そ、そう?..................えへへ~」

 駿にそう言われて、伽凛は笑顔で照れ臭そうにしていた。

「近藤君は? もう決まったの?」

「あ、そういえば......行ってくるか」

 と、駿は意気込みながら水晶が置いてある机にゆっくりと歩み寄り、そっと水晶に触れた───すると

「こ、これは!」

 言い伝える役目の神官が、目を見張る。

「え?」

 その言葉に、また何かあるのか!? と、駿は嫌な予感をした。

───水晶の中に、浮かんできたおぞましい黒いオーラ。

 周囲の騎士も、武官も、王も誰もが瞠目した。

 クラスメイト達は、状況が理解できず、困惑した表情でその状況を見守る。

 その黒いオーラは、水晶の中の全体に蔓延したあと、すぐに徐々に消えていった。

 やがて、黒いオーラが消え、水晶はまた無色透明に戻った。

「な、なんだったんだ......」

 駿は冷や汗をかきながら、困惑した表情で首を傾げた。
 
 そんな駿に王は驚愕した表情で駿を呼んだ。

「お主......まさか」

「はい?」

 今まで水晶に触れてきて駿のようなことにはならなかった皆は、少し嫌な予感をした。



───しかし、それは駿も最初から同じだった。


「この男を引っ捕らえよっ!」

「「「え......!?」」」

 王の突然の言葉に、駿を含め生徒達全員が驚愕する。

「はっ!」

 そして騎士達も、その言葉に一切抗うことなく、命令に従った。

「なんでだよ!?」

「いいから黙って捕まれ!」

 駿は襲いかかって来る騎士達からこの王の間の扉を強引に開けて、城内を全速力で逃げ回りに行った。

「何でなんですか!?」

 伽凛は突然、王が駿を捕らえようとしてることに、激しい怒りを覚えた。

「彼が......魔王軍に非常に近い存在と分かったからじゃ」

「そんなの横暴です! どうしてそんなことが言えるんですか!?」

 優真も、そして皆も突然のことに怒りを覚えて、怒声を王に浴びせた。

「彼の職業はダークナイト......この水晶に黒いオーラが発生したのは、紛れもなく彼をダークナイトと示すのに十分な理由と根拠があったからなのじゃよ」

 ほとんどに人が「はぁ?」と聞き返す中、伽凛は怒気を含ませた声で叫んだ。

「近藤君はそんな職業だとしても、反旗を翻す人じゃないと確信できます!」

「たとえそうじゃとしても、私はこの国の王であり、国民を守る義務がある。不安分子を置いとくままではいかんのじゃ......」

 その言葉を、優真は鼻で笑った。

「守る義務がある? じゃああんたはいまだに戦場に立っているってことか......?」

「それとこれとは話が別じゃ。私は戦場に立たなくたって、守れることはできる」

「じゃあ俺たちもそれとこれとは話がべつになっちまうな~。実際、俺は駿と魔王討伐してみたかっただけだからな......俺は降りて、駿と一緒に旅するわ」

「ああ、好きにするがよい」

 王は、こやつ一人抜けたってどうにでもなるわい......と、嘲笑を浮かばせた。

「よし───皆、行くぞ」

「「「おー!」」」

「......いやちょっと待たんか!」

 しかし予想外のことに、全員が行く気でいたため、王は盛大に焦って制止の言葉を浴びせた。

 その言葉に、優真は「あぁ?」と、王を振り向き様に睨み付ける。

「どうしてあの若造にそこまで出来るのじゃ!」

「......実際、まだ得たいの知らない異世界の人より、数少ない仲間の方を優先するに決まってるだろ?」

「何を言っておる! ダークナイトの男を私は信じろとでもいうつもりなのか!?」

「それはこっちの台詞だ。今日会って間もないお前達のことを信じろとでも?」

この若造どもめ......図に乗りおってッ......!!

「もうよい! 出ていけ────」

───ガチャン!

「......!?」

 と、王が叫んだ直後に、扉を開けた大きな音が鳴り響く。

「───......お父様?」

 唐突に部屋に冷気が立ちこもってきたと思えるような怒気を籠らせた冷たい女声が聞こえた。

「り、リーエルか......!?」

 その声源をたどると、そこには金髪碧眼の容姿端麗で普通よりすこし豊満な胸を膨らませ、まさに姫と呼べるような美しいオーラを放っている、リーエルという美少女がそこに立っていた。

「......どうして、自分から呼んでおいてあの青年を騎士達に追いかけ回させてるんですか?」

 そのリーエルは、笑顔ながらも冷たい声で質問する。

「彼はダークナイトだったのじゃ......だから騎士達に追わせ───」

「───馬鹿ですか?」

「え?」

「あの方は転移者で、ここの世界の事情など分からないはずですよ? ダークナイトと言われても何か分からない状況で、しかも突然引っ捕らえよ、と言われた彼はさぞかしこの国に反感しているんでしょうね? ......彼の仲間であるこの方達もさぞかし、この国に反感しているんでしょうね?」

「むぐぅ......」

 王はいいごもる。

「お父様がこの国の第一印象を悪くしたのですよ? お父様の勝手な思いと、勝手な行動で、どれだけ人に迷惑がかかっているのかご存知でしょうか? 城内の騎士達が邪魔だとメイドの方々から言いつけがありましたし......騎士達も騎士達で邪魔者扱いを受けている上で探していますし......事実探し人はここにおりますし───入ってきていいですよ?」

「え......?」

その言葉に王は思わず聞き返す。

 一方リーエルは王に浴びせていた言葉を言い終わった瞬間、冷たい顔から扉の向こうに声をかけるときは可憐な笑顔になった。

リーエルの後ろの扉が開く。

「───お邪魔します......お? 本当にここに戻ってこれた......」

 扉を開けたのは駿だった。

「ふふっ......王城はすごいでしょう?」

「はい......繋がってるとは思ってなくて......すごいです」

「あ......あ......」

 王は口をパクパクさせながら駿の方に指をさした。

「ということで、コンドウ・シュンさんです。お父様、何か言うことはないのですか?」

「あ......いや───」

「───お父様?」

 リーエルのその言葉で王は堪忍し、王はその場で駿に向かって腰を九十度に折り、次には一声

「申し訳無かった......!」
 
 それをみていた皆は駿の無事を安心しながら、腰を折り曲げている王に溜め息をつく。

「あ......その......別にいいですよ?」

王が腰を折って謝ってること自体おかしいし、なんかこっちまで恥ずかしくなるし......

 駿はそんなことを思いながら、頬を掻いた。

「ゆ、許してくれ......!」

「だから良いですって」

 駿は王の元に歩み寄り、背中をさすった。

 その光景を見ているリーエルや、他のクラスメイト達は自然と頬が緩んでいた。

「シュンさんは優しいですね。こんな愚王に」

「うっ......」

 グサリ、とその言葉は王の胸へと突き刺さった。

「駿は優しいからな。でも勘違いじいさんには優しく出来るかな?」

「ぐっ......」

 グサリ

「近藤! お前そんな奴に構うなよ! 一緒に旅に出ようぜー?」

「ぐはッ......」

 グサリ

「近藤君......大丈夫だった? 痛いことされた? ごめんね、この人の暴走止められなくて」

「ぐおッ......」

グサリ......どさっ......

「もう止めたげて......!? 王さまのライフはもうゼロよ!?」

 加害者である王を逆に被害者である駿が皆の口撃から守っている、そんな変な光景が出来ていたのだった。

ボッチ、勘違いされる

「───では、本当に剣を探してくれるというのか!?」

「はい。といっても自分は伝説の剣に触れてみたい気持ちが強いので......」

 あの後、王はリーエルの説教を五分くらい正座で受けた後、再度駿達に「あんなことしてはなんだが......この世界のためにも探してはくれぬだろうか?」と懇願したところ、皆良い顔はしなかったが、駿は快諾したため、一人では行かせられないと全員参加となった。

「この際どんな理由でも構わぬっ......ぐすっ......改めて感謝を......」

「あ、あぁ! 泣かないでください......大丈夫ですから! 本当に!」

 すっかり王の慰め役になっていることに、駿はすこし切ない気持ちになった。

はぁ......老人じゃなくて......美少女を慰めたいんだよなぁ

 と、王の背中を擦りながら溜め息をついた。

「「「(はぁ......近藤(君)も大変だよな)」」」

 その光景を見ている皆も溜め息をつき、同情した目で駿をみつめたが伽凛は違った。

「もうっ......(ブツ)」

 誰にも聞こえないような微かな声でそう発すると同時に───

なんで王さまばかり近藤君に背中を擦られてるのっ......! 毎日のように接している私でもまだされたことないのにっ!

 ───と、駿に慰めてもらっている王に嫉妬し、心のなかで文句を言っていた。

「とにかくもう謝罪は良いですから、こちらとしてはこの世界についてと探し物である伝説の剣について詳しく説明してくれませんと、旅も満足に出来ません」

 駿がそういった瞬間、下げていた顔をガバッと上げた。

「わ、分かった!」

 姿勢を正して玉座に戻り

「ほん......」

と、咳払いした王は、説明を始め

「「まずこの世界では───」」

「───って、リーエル!!」

 王はわざと声を重ねてきたリーエルに叫喚をあげるがリーエルは澄ました顔でそれを無視して、説明を続行する。 

「───二つの勢力に分かれています。一つは共存派で主に『魔王軍』を倒そうと同盟を組んでいる国、十カ国がそうです。共存派はその言葉通り、皆で共に栄えていこうという意思を持つ国々の勢力の事を指します。そして支配派。この勢力は主に『魔王軍』がそうです。支配派は、この世界を一つの国としてまとめるという思想で、簡単にいえばこの世界には、王が一人居ればいいということです。今現在、共存派とその支配派が戦争状態で、最前線はウンディーネの住まう北の国、『スイルヴェーン王国』となっています。現在は交戦中とのことで、先程連絡を受けました」

 リーエルからずさんな態度をとられ、その場でまた泣き崩れている王に皆から同情の目と苦笑を受けるが、リーエルはそれでも聞いていると信じて、話を続けた。

「戦況は五分五分のようですが、先程シュンさんが質問された伝説の剣が敵に一つでも渡ると、戦況は軽々と覆されます。今はまだ一本しか居所を掴めてませんが、残り六本もそのうち見つかってしまいます。そして質問の返答としては『伝説の七剣』の七種類の名前しか分かっていませんが、『円卓の光騎士剣・エクスカリバー』、『聖霊の雄剣・グラディウス』、『烈火の炎剣・アグノメイサー』、『永凍の氷剣・レイノシス』、『生命樹の碧剣・ユグリシス』、『煉獄の闇騎士剣・カイザー』、そして最後に『覇王の龍剣・エルキュロス』という、この七つの剣が『伝説の七剣』の七つの種類名です。シュンさん達には、この七つの剣を集めてきてほしいのです」

 説明を聞いていた者達(特に男子たち)は、その凄そうな剣の名前を聞いて心を踊らせていた。

 これからそれらを見つけに行くことに、大いに期待を膨らませる。

なるほど......説明を聞くかぎりでは俺がやっているRPGのジャンルと同じだな......でも旅の目的は魔王を倒すことではなく、『伝説の七剣』を見つけることが目的。まぁどっち道、『魔王軍』もそれを狙っているわけだし、必然的に衝突はするんだろうけど......よし、大体のことは理解できた。

「リーエル王女殿下、長い説明ありがとうございました」

 駿は頭の中で整理を一通りしたあと、説明してくれたリーエルに頭を下げて、お礼を言った。

「いえ! あなた方に私ができるのはこれ程のことしかないので......あと───」

「あと?」

 リーエルは何故か駿の耳元に口を持っていき、こう呟いた

「え......」

「───そんな堅苦しい呼び方はお止めてください......私的には......呼び捨てで呼んでくれても構いませんのよ......?」

 と、妖潤な声が、駿の耳の中に響き渡り、頭を震わせた。

「っあ......!?」

 その声に顔を真っ赤にしてたじろくそんな駿に、リーエルは「くすっ......」と笑いながら、耳からゆっくりと口を離した。

「「「......!?」」」

 その光景を見ていた皆が驚愕した。

「おいまさか近藤ってリーエル王女と......」「峯崎さんという人がありながら......?」「近藤君って確かに顔は童顔で良いけど......たらしだったの?」「近藤......おまえやるじゃねぇか!」

ヤバイ......勘違いされてる......

 駿はヒソヒソ話をしているクラスメイト達を見てさらに挙動不審になる。

「駿......俺はお前の気持ちが分かる心配すんな!」

 と、優真はにやつきながら肘でこつこつと駿を押している。

「いや全然分かってないからね!?」

そそ、そうだ! 気配りができる峯崎さんなら......!

 駿は伽凛の方を助けを求めようと向いたが

「............................................................」

「へ?」

 しかし、そこには静かにおぞましい怒気を冷気のように放つ伽凛が立っていた。

......!?

 駿は何故伽凛が怒ってるのかが理解できず、ただ理由がなくていきなり怒気を放つ伽凛にむしろ畏怖をした。

 どうしてこうなった......いや、これは完全にリーエル姫が発端だけど......仲良くなったつもりはないんだけどな......だって追われてるとき───


────数十分前


「はぁ......! はぁ......! くそ! 何故に俺が追われなくちゃならないんだよ!?」

 と、駿は愚痴を吐きながら騎士たちに追われ、城内を逃げ回っていると

「お、そこ開いてるな..................しめたっ!」

 少しだけ開いている扉を発見し、中に人がいることも考えたが、スタミナ切れを起こしている駿にとってはなりふり構ってはいられなかった。

 扉を最小限に開き、部屋に体を滑り込ませ、また扉を閉める。

「......!」

 なるべく音は出したくないのか、口で呼吸を整えたいが、口に手を当てて、鼻息で呼吸を整える。
時間はかかるが、安全策をとる。

ふぅ......ここで少し休もう

 駿は扉に耳を当てて、廊下の音をなるべく拾うように、全神経を注ぐ。

捕まったら死ぬ......

 その死への恐怖が駿の今もっとも体を動かしている原動力となっている。

誰にも見つかるな......誰にも見つかるな......

 駿はそう願いながら、息を潜めた。

しかし

「───誰?」

誰も居ないと思っていたこの部屋に、自分とは明らかにちがう声が後ろから聞こえた。
 
「え......」

 その声が響いた瞬間、駿はあの騎士たちが装備していた長剣がインプットされる。

 そして、その長剣に自分の血がたらりと垂れる予知をしたあと、駿は思わず縮こまり、同時に心から何かが溢れ出す。

「止めてくださいっ......殺さないでくださいっ......止めてください......」

 駿は自然と涙が溢れ出してくることに気づいたが、この際生きれれば構わないと必死に願った。例え恥かいたとしても、生きれれば構わないと必死に懇願した。

「ぁ......」

 そんな駿を見た誰かが、驚いたような声を発した。

「止めてください、止めてください......殺さないでっ......お願ぃ、します......」

 いつまでたっても自分に声をかけてこないことが逆に怖かった。

 だから駿は怖くて、反応してほしくて、必死に嘆いた。

「殺さな、ぃでっ......ください......殺さな───えっ」

 顔を上げるのが怖く、腕で膝を抱えるような姿勢で、誰かも分からなかったが、その人が最初に見せた反応は

 ぎゅっ

誰かが......俺を抱擁して、頭を優しく撫でてくれてる......?

「────大丈夫、大丈夫......大丈夫です」

 その透き通るような優しい声に、駿は今まで恐怖しかなかった心が、ほぐされていく。

「大丈夫ですから......誰も貴方みたいな素敵な人を殺すわけないです......」

 そしてほぐされていった心が、温かいものとなって、身体中に循環するのが実感できた。

「大丈夫です......大丈夫ですから......顔を上げて、私に顔を見せてください......」

「......」

 駿は言われるがままに、顔を上げて、声主の顔を見つめた。

あ......

 その人は、微笑んだ。

「ね? 簡単だったでしょう......?」

「......ぁ」

「貴方の名前はなんでしょうか......?」

 駿は瞠目しながら無意識に名乗った。

「............近藤、駿......です......」 

 そして、駿はまた無意識で「あなたの......名前は」と、その人の名前を聞いた。

「私はここ『グランベル王国』第一王女の───」

 その人はこう名乗った。



「───リーエル・ヴァン・グランベル......リーエルとお呼びください」



 ────そのあと、確か俺は何故あんなに追い詰められていたのか聞かれて、淡々と答えた後、「いきましょう」って言われてその部屋の暖炉の隠し通路からまたあそこに戻ったんだっけ......

 駿はリーエルの部屋じゃなかったらどうなっていただろうという疑問を考えるのが怖くてすぐ取り消した。

にしても結構な醜態晒したなぁ......しかも一国の第一王女で超可憐な女の子にとか......マジで恥ずかしいいいいいぃっ!!

 駿は顔を赤くなるのを隠すように、両手で顔を覆う。

......これまでを辿ってきても俺と王女殿下の距離がここまで縮まる理由が見当たらかったぞ......ていうかほとんど俺の「殺さないで」っていう命乞いしか無かったぞ......? こんな情けない男の友達なんかになりたくないでしょ......でもさ......だとしてもさ......さっきのあのエロい声は何だったんだよぉおお! 思わず勘違いしそうになったじゃねえか......王女はこれからミステリアスレディーと言おう。なんかかっこいいし

 一旦深呼吸する。

「でもまずは......」

この勘違いの連鎖をどうにか止めなくては......


 そう、皆は混乱している。何故会って間もない筈の一国の王女と、駿が顔をあんなにも近づけていたというのかと。

 現に男子からは嫉妬と、怒り、困惑の思っている人合わせて半数で、「お前やるな」という何故か納得している人が半数。女子からは困惑と怒り、女たらしと思っている人合わせて半数、そして「あの近藤くんがねぇ......」と、にやついて何故か納得している人が半数な状況だ。

 玉座の周りの大臣達や、武官も驚愕した顔で駿に注目している。

 優真も「お前やるな」軍団に入っており、伽凛に至っては周りからみたらもはや意味不明の怒りを放っているのか、畏怖の対象になっている。

 恐らく、皆は勘違いしている。

だから、駿は勘違いを正すために、口を開いた。

「皆───」

「───皆さん......何か勘違いをなされているようですが、私はただシュンさんをからかっただけで、決してシュンさんは私とそういう関係は結んではおりませんよ?」

「「「......え?」」」

 と、数秒間の静寂に包まれる。

相変わらず、自分を責めて泣き崩れている王一人を置いて、全員が呆然とした。

............

......


「「「なん~だ!?」」」

 そして数秒間の静寂は終わり、皆が安堵や、つまんないような口調でざわざわと一斉に駄弁りあった。

「やっぱり近藤じゃ無理だったか~」「まぁ近藤だし」「近藤君って......やっぱり近藤君だよね~?」「うん! 近藤君は近藤君だよ!」「近藤ってかっこいいところあるけど、恋に関しては安心できるよな? ある意味」「それな! ある意味では安心できる」

 そんな似たような話が展開される中、駿はまだ呆然としていた。

「..................一応、なんとかなった......のか?」

「シュンさん」

「あ、王女殿下」

「だから堅苦しいです! その呼び方!」

 そんな駿に頬を膨らませる。

「あ、じゃじゃあ何とお呼びすれば......」

「リーエルと」

「え、えと......リーエルさん」

「リーエルと!」

「り、リーエルさん!」

「ですからリーエルと!」

「リーエルさん!」

「呼び捨てでいいのですぅ!」

「いえ、流石にそこまでは勘弁を......」

「......分かりました......」

 リーエルは不満ながらも、ぎこちなく頷いた。

「ありがとうございます......」

 駿は丁寧に礼を表し、姿勢を戻すのを見計らい、リーエルは切り出す。

「シュンさん」

「はい、リーエルさん」

「さっきの私が発言したことで......そういう関係を結んではいませんと言いましたが、その真意は......今のところ、という風に解釈してくださいね」

えっ......

「えぇ!?」

「では♪」

 と、リーエルは驚く駿を置いてけぼりにし、早々に自分の部屋に帰っていってしまった。

「お......おお!?」

 驚きすぎて奇声を出してしまったが、周りはまだ駿の話題に持ちきりだったために、幸い誰にも聞こえなかった。

今のところ......今のところって..................うそやろ?

 余りのことが連鎖反応のように続く今日に、もう耐えきれなくなった駿は半場放心していた。

「───近藤君」

が、その聞き覚えがありすぎる声に駿は一瞬で放心状態から帰還を果たし、直ぐ様声のする方向へ振り向いた。

「は、はい! なんでしょう! 峯崎さん!」

 駿は伽凛自ら話しかけてきてくれたことに、内心大喜びした。

「あの王女様と......その......どういう関係なのかなーって聞きたいんだけど......」

 伽凛は顔を何故か赤らめて、もじもじしながら聞いてきたので駿はそんな伽凛を「あ......ヤバイ。可愛い......」と、思いながら本心で返答する。

「あ、あの王女様とは全然関係を築いた訳じゃないんだけど......あっちからむしろ話しかけてくるって感じで、俺は特に何もっていったら嘘になるけど、王女様とは友達関係......? なのかな」

「じゃ、じゃあ本当に......ほんとうにっ! 何もないんだね!?」

「う、うん。友達?」

そう聞いた瞬間、伽凛は安心したように大きく息を吐いた。

「峯崎さん?」

「あ、あぁ! いや、その..................またね!」


「え......?」


 また、伽凛はリーエルと同じように、早々に今度は呆然とする駿を置いてけぼりにして、友達の方へ行ってしまった。
 

ボッチ、師匠に出会う

ところ変わってここは魔族たちが住む『魔王軍』の領地の最深部。

 青いはずの空色は赤く、禍々しい空気が空を覆い、その空には鳥とは姿が大きくかけ離れた魔物が、大きな翼を羽ばたかせいる。
 
 『魔王軍』、即ち魔族統制機関の本拠地はそこにあった。

 魔王城は、魔族達がこれまで作ってきた大きな建物よりも、それを優に越すほどの大きさを誇り、十キロ先からでも見えるほどだ。

 『魔王軍』のトップ達と、貴族が集うので、必然的に城下町は財力が潤い、魔族にとってはここに来れば何でも揃うと言われるほど、商業が盛んだ。

 城下町は騒々しいが、魔王城に一度入ると、その騒々しさとは比べ物にならないほど静かだった。

 その理由は『魔王軍』の首領、魔王が住まう城であるため、余計なことして魔王の気を損ねれば、その時点で死刑になるからだった。

 魔王が住まう魔王城と、皆が住まう城下町はまるで対称的だ。

そんな『魔王軍』の領地の最深部の魔王城の、さらに最深部に位置する王の間で、トップ達が討論していた。



「───さて......まずは我々が攻めている『スイルヴェーン王国』との戦況を聞こうか」

魔王は玉座に悠々と座りながら肘掛けに腕を立てて、面白そうな顔で武官たちに問いた。

「は......我が『魔王軍』は現在、『スイルヴェーン王国』の主要都市のひとつである、イーリンに攻め、敵は籠城する形を取っていますが、周辺の村からさらってきた女、子供を正門の前でむざむざと殺し、見せつけることで民に対策をしてくれない政府にたいして不満を爆発させ、敵同士による内乱を狙っております......」

 ほう......? と、魔王はさらに続けるように促す。

「それと、戦力増強のために、『伝説の七剣』七種類の内、一本が『グランベル王国』周辺の遺跡にあるという情報が手に入りましたので早速、手練れを一人送りました」

「そうか......下がっていいぞ」

「は......」

 魔王は不適な笑顔を浮かべた後、こう呟いた。

「我を大いに楽しませてくれよ? 共存派の者共よ............」


? ? ? ? ? ?


コホン......

と、王は咳払いをした後、こう言った。

「これから、お主達の師となる者達を紹介しよう......」

 あの、勘違い騒ぎが終わった後、王はすっかり泣き止んでおり、その瞬間に何か思い出したような口振りで近くの騎士に声をかけた。

 するとその騎士は急いでこの王の間を出ていったのだが、数分後、騎士は静かに扉を開閉して王の間に姿を現し、王の耳元でなにか伝えた後が今現在に至っている。

 因みにその走っていった騎士を俺たちは不思議に思いながらも、何かあったんだなと察して、とりあえずそこで勘違い騒ぎは終結し、皆は落ち着いた様子でその騎士の帰りを待っていた。

「本当ですか!?」

 王のその言葉に、皆は興奮した様子で入ってくるだろう扉に視線を向けた。

「本当じゃ......では、入ってくるがよい」

 そう合図した瞬間、扉が開かれた。
 
「「「おお......」」」 

 扉から入ってくる者達に、皆は感嘆する。

───はち切れんばかりの筋肉という鎧の上に、さらに白銀の鎧を身に纏っている大剣使いの騎士。

───青く長い髪の毛をゆらゆらと揺らしながら、美しい容姿にローブを纏い、雰囲気からも伝わる、スタッフを持つ女性は、いわゆる魔女だ。

───猫耳と尻尾が特徴的だが、短剣や様々なものをベルトや装飾品にも装備している女性は、一目で冒険者という言葉が浮かんでくる。

───白く長いローブを身に纏っている老人は、背を綺麗に伸ばし、スタッフを持つ指には様々な指輪をしている。一目でみれば、神官という言葉が思い付く。

───黒一色の服を身に纏い、フードを深々と被る男は、暗殺者という言葉が合っている。

───美しさと凛々しさを漂わせる長い赤髮の女騎士は、垂らしていた髪の毛をひとつに結びながら部屋に入ってきた。

 みんなの前に一列に並んだその者達の真剣な空気が伝わってくる。

そんな雰囲気だけでも凄い人たちに、全員が羨望の目を送る。

「では、歴戦の戦士たちよ。右から自己紹介を頼むぞ」

 すると、最初に部屋に入ってきた大剣使いから順に自己紹介を始めた。

「............私はここ『グランベル王国』騎士団の団長勤めている、アースレル・フェルトだ。主に教えることになっているのは近接戦闘系職業だ。宜しく頼む」

おおー......あのおっさんめちゃ強そうだ......おっと次は美魔女か

「次は私ですね。私はこの国の魔術学院に勤めています。リース・サリネといいます。主にスタッフを使った攻撃魔法を教えます」

リースさんか......魔術学院って言ってたけど、教師かなんかかな?

「次は私か~......私はここのAクラスの冒険者をやってる、フィスって言うの。宜しくね~? 私はなんだろ......あ、スキルの使い方だったっけ?」

猫耳! あれほんとに動いてるよ! ああ......触ってみてぇ......けど、なんかアホっぽいな、あのフィスって言う猫耳娘

「ワシはこの王国の神官をやっているものじゃ。主に支援系職業を教える」

この人は多分賢者辺りに就くんだろうな。実力もありそうだし、この人が教えれば峯崎さんだったらすぐに伸びるだろうな......

「............ナスリだ......宜しく......暗殺......教える」 

この人はなんか予想通りなんだが......本当に暗殺者なんだな

「私ね......私は『グランベル王国』近衛魔法剣士隊の隊長を任されている、アリシア・レイスよ。私は魔法を織り混ぜた近接戦闘を教えるわ。宜しくお願いね」

うお、改めて見ると超綺麗だな......峯崎さんと同等じゃないのか......? 可憐さといい、凛としてさといいどちらもいい勝負だな......

 何故か一人一人を分析をする駿をいざ知らず、王は自己紹介が終わったのを見計らって、話を進めた。

「ふむ......自己紹介は終わったな。次にお主らには職業ごとに分かれてもらうが......何か質問はあるかの?」

「「「......」」」

 誰か挙げてないか、言われた皆は一人一人見渡したが、誰も手をあげていなかった。

王もそれを見て頷き

「よし、では───」

職業ごとに並ぶのじゃ、と王が言った後、皆は職業ごとに並んだ。

 皆はまだ自分の職業を教えてはいなかったのか、同じ職業になった人と「お前も同じだったのか!」といった風に、楽しそうに話をしていた。

しかし、駿はというと

「うん......知ってた」

 当然、ダークナイトという職業は駿しかなってないため、最低でも四、五人ならんで居るのだが、唯一の一人だけの職業になっている。

慣れてるんだけどな......寂しい......

 駿は肩を下げながら、ため息をついた。

「───並んだな......では次にその職業ごとに就く師を決めるのじゃ」

 次に、職業ごとに先生を決めるようだった。

だが、駿はふて腐れていため

......まぁどうせあれだろ? あのムキムキ騎士団長なんだろ? マンツーマンで男と汗を流すんだろ?

 と、半場諦めて、ため息をつきながら渋々決めにいったのだが



───数十分後

「改めて、アリシアよ。宜しくね? あなたの名前は?」

おしゃあぁぁぁ! 

「近藤 駿です」

皆......成し遂げたぜ

「シュンね......分かったわ」

「はい! 師匠、これから宜しくお願いします!」

 男子達はこの組み合わせに納得いかないのか、駿を睨みつけていたが、女子達は上の空だった。

 しかし、女子達の中にいる伽凛はアリシアのことを心配そうに見つめながら、こう呟く。

「近藤君......」

 そんな駿と、男子達と、伽凛の様々な思いがすれ違うこの師を決める時間の中で、駿はアリシアとマンツーマンで学ぶことになった。

ボッチ、星空に願う

───俺の師匠がアリシアさんになったのは、こんな経緯があった。


 「───では、決めるとしよう」

 と、最初に自分が教える職業を決めようと口を開いたのは、 騎士団長アースレルだった。

「私は戦士、騎士、槍術師、バトルマスター、パラディン、武道家を担当するとする......何か異論があるなら受け付けるが」

 アースレルの問いに、異論を唱えるものはいなかった。むしろ、賛同したいくらいだった。
次に、魔女であるリースが職業を決めた。

「私は魔術師、召喚士を教えます」

 リースがそう言うと、アースレルと同じように誰も異論は唱えなかった。

「ワシは......必然的に僧侶、賢者になるの.....」

 神官がそう答え、その隣に居るナスリが注目を浴びる。

「暗殺者......それだけだ......」

 ナスリは依然として会話を上手く出来ないようで、頑張っても片言になっているが、その言葉だけで、十分伝わった。

 そして、次はアリシアの番だ。

「私の......魔法剣士は授かる職業じゃなくて努力によって開花した戦士や騎士からなれる職業だから教えられる人は普通だったらこの場に居ないわ......」

 アリシアの言葉に、皆が首を傾げた。

え......? だったら何でアリシアさんはここにいるの? 

 駿は皆と同様に首を傾げた。

「フフ......皆そんな顔しないでも、私だってあなた達と同じ状況だから......私は国王様に急ぎ用で呼ばれたからここにいるの......───国王様、急ぎ用とはどういった御用でしょうか?」

 アリシアは皆にはソフトに接していたが、王と対談するときは別人のように凛とした声だった。

「うむ......急な呼び掛けに応じてくれたことを感謝する。何故、お主を呼んだかというとじゃな......その三十人の中に、実は一人だけ特異な職業を手に入れた者がおってな」

「......!」

俺か...... 

駿はその言葉の中に、自分を指していることが理解できた。 

「......もしかして、魔法剣士を授かったとでもいうのですか?」

 王の言葉に、アリシアは少し驚いてから、目を細めた。

「いや、魔法剣士ではない。その者は、魔族しかなれないそして、魔族の中の一番の剣術を持つものだけに与えられると言われる、ダークナイトを授かってしまったのじゃ」

 その言葉に、アリシアだけでなく、「そんな凄い職業だったのか......」と、駿達も驚愕した。

 アリシアは瞠目しながら、何か弊害があるかのように、こう呟いた。

「ダークナイト......ですか」

「そうじゃ......だから戦いかたが似ているお主に、その者に師事してもらおうとしたのだが......不可能か?」

「いえ......不可能ではありませんが、その......」

 アリシアは躊躇した顔で、言いごもる。

そんなアリシアに王は思い出したかのような口調でその考察を否定した。

「あぁ、その者が魔族である可能性は低いじゃろう」

「......? どうしてでしょうか?」

 アリシアはそんな王の言葉に困惑した表情で首を傾げた。

「そもそもこの者達は、戦いのない、平和な国からやって来た者達だ。実際、彼らにこの世界に何故呼んだかの理由を述べたら、本当に初めて聞いたような顔を全員がしてたわい。しかも、そもそも彼らが住まう世界では、魔族の存在をお伽噺や、迷信にされておるのが大きな理由のひとつじゃ。そんな存在が認められない彼らの世界に、魔族等元々居なかった可能性が非常に高いのじゃ......」

「では、心配はせずとも良いのでしょうか?」

「そうじゃな......彼らの世界にとっては、ここに来ること自体が異常事態じゃからな......職業も何らかの形でそうなってしまったのじゃろうな」

 なるほど、とアリシアは怪訝な顔を浮かべながらも納得したような顔で数回頷いた。
 王はそんなアリシアを見計らって再度、質問した。

「ではアリシア・レイス───」

「は......」

 アリシアは凛とした声と、丁寧な仕草で、そのまま片膝を地面に着けて跪き、片腕を胸の方に添えながら、王に対して頭を下げた。
 その姿は主(あるじ)に忠誠を示し、一切の失礼がないように接する、アリシアという凛とした騎士に皆はそう見えた。いや、そう見える他がなかった。理由はただひとつ、本当にこの国に忠誠を誓っているのだからなのだ。


「ダークナイトを持つ者の、師事をお願いしたい......出来るか?」

 王の言葉に、アリシアは下げていた頭をゆっくりと上げて、王と目を絡ませながら───

「......仰せのままに。この身に替えても、その者が強くなるまで、私は教え続け、また守り続けると誓います」
 

 ───と、真剣な表情で誓ったのだった。



まぁこんな経緯もあってか、俺にアリシアさんが師事したって訳だ......王さまによると、さっき口にしてたのだが、戦いかたがダークナイトと魔法剣士はほぼ一緒なんだそうだ。そのため、王は多分、あのときそばにいた騎士に急ぎ用でアリシアにここに来るようにと伝えたんだろうな......

 駿はあのときの騎士が何故走ってこの部屋から出ていったのか、納得できたようだ。

まだ詳しい話は聞いてないから、後でアリシアさん、もとい師匠に聞いてみよう......今は聞くべきとしてもさっさとこの王の謁見を終わらせるべきだな......

「───では、この者らがこれからお世話になる......新たな師達よ。特に多くの教え子がいるアースレル騎士団長。一人ではその量は大変かと思うが、お主の力量ならば問題ないだろう。しっかりと頼むぞ。勿論、その他の師達もじゃ」

「「「は!」」」

 と、王の言葉に、師達は跪いた。

「他の者達も、師達を支えてやってくれい!」

「「「は!」」」

 王の言葉に、また周りにいた騎士達や武官、大臣も跪いた。

「おぉ......」

 駿はその圧倒的な王への忠誠心が垣間見える光景に、他の皆も同じく感嘆する。

やっぱり......泣き虫でも、王は王だもんな......凄い忠誠だ

 娘に叱られ、散々泣いた後、こんなものを見せられた駿達は、なぜか劣等感を感じてしまった。


「───ではこれにてこの場を終わりたいと思うのじゃが......なにかあるかの?」

..................

............

......



 その言葉の後、経った二秒間の静寂が訪れ、またその静寂を破り、この場を終わらせたのは王だった。

「これにて終わる。転移者以外は解散するのじゃ」

 王のその一声で、生徒達以外の皆は早々に部屋から居なくなり、直にあれほどの量がいた王の間には、大きな空間ができた。

「もう他の者達には伝えておるが、まだお主らには伝えてないからのう......ここで伝えようと思う。今はもうすっかり十八時を指しているのじゃが、あと一時間後にはこの王宮総出で歓迎会をやることになっておる。勿論、休みたいものも居るだろうから、無理にとはいわない。じゃが、参加するならこの王宮の庭園で行うので、そのままそこに来ると良い。参加するために必要なものは何もないのじゃから、気軽に来てもいいぞ......伝えることはこれだけじゃ。では───」

 パン!パン!

 と、王が誰かを呼ぶように手を叩き、その音に応じるように扉から十人のメイド服に身を包んだ女性たちがぞろぞろと入ってきた。
 
 メイドたちは一列に乱れなく並んで一礼をしたあと跪き、一番右に並ぶメイドの一人が、口を開いた。

「国王様......どのようなお申し付けでございますか?」

 王は、うむ......、と頷いた後、用件を提示する。

「当分はこの者達をここに泊まらせる。空室は掃除できとるか?」

「はい。毎日どんなことが起こっても良いように一部屋も抜かりなく掃除と整備を行っております」

「ふむ。毎日苦労かけるな」

「いえ......当然のことをしてるまでのことでございます......では、ご用件というのは部屋へのご案内でしょうか?」

「そうじゃな......頼むぞ」

「仰せのままに......では皆様、こちらに」

「「「はい」」」

 そうメイド達に案内され、この世界に来て二時間という長い王の間での謁見は幕を閉じ、駿達は案内された部屋に着いたとき、やっと一息を着けることができた。

 皆も疲れたようだが、駿に至ってはこの城内を走り回っていたために、人一倍疲れていた。

 駿はその疲れた体を、キングサイズに負けずとも劣らないような大きくふかふかなベットに身を委ね、溜め息に似ている疲れからくる息をゆっくりと吐く。

「......」

全く、知らない天井だ......でも本当に来ちゃったんだな~異世界っていう奴に

 駿は今更確認するようにそんなことを思いながら背伸びをした。

 窓の外に、駿が毎日教室内からみていたアパートや、ビルなどが当然なく、あるのはきれいな街並みと、夜風に揺れる木々だった。

 夜の街並みは活気がよく、明かりが沢山点いていて、駿は今ごろ下の酒場とか大盛況なんだろうな......と街を見下ろしながらふと思う。

「......俺は生きていけるのかな」

 駿はポケットのなかに仕舞ってあった自分のステータスが記されている紙を見ながら溜め息をつく。

「能力値に何も秀でてるものはなく、特徴はなし......それなのに職業はダークナイトで、しかも固有スキルはバットスキルの状態異常倍加......もう強くなる以前に終わってんな。俺」

 駿はそんな自分の能力の不安定さに苦笑しながら、また現実世界の風景と、城からみるこの風景を見比べる。

「............うん。断然こっちの方が空気は綺麗だし、緑もあって断然綺麗だ」

まぁ......あんな世界から抜け出せただけでも良しとするか!

 雲によって隠れていた月と、夜空に無限に広がる星空が見えた。

 その月光は、街を徐々に照らしていき、やがて駿の顔にも照らした。

 「......これからが、楽しみだ」

 駿はこの広大な世界のほんの一部の所しか見ていないが、それでも元の世界よりは、断然こっちの世界への可能性は大いに感じられた。

 星空に流れ星が流れたとき、駿はこう願った。




 ───この世界に、居続けられますように

 今はちっぽけな願いだが、後々その願いを大きくすれば良い。

 そして大きな願いが自分にできた時、その時こそがこの世界に長く居続けられるかそうでないかを決める、決断の時なのだから。

ボッチ、歓迎会に行く 前半

 「はぇ~......凄いな」

 駿は部屋で少し休んだ後、歓迎会をやる庭園に来ていて、目の前に広がるその庭園の光景に、思わず感嘆していた。

 五十メートル程にもなる白い布が掛けられた六個の長机の一つ一つの席に、何とも豪華な料理が綺麗に並んでいたのだ。

 やはり、王宮総出は伊達じゃないことがよくわかった。
 
聞いた話によると、今日の夜は国中から貴族や士官の家族がくるらしいからな......この長すぎる机の数は今は六個となっているが、足りなければあるだけ出すと言ってるのだから、王様の経済力には呆れたもんだ......

 しかし、実際はこの国の税金は他国よりも少ない方だと聞いた駿は、「大変なんですね......」と、国民に同情した。

 まるで他人事のようだが、実際他人だし、そもそも元々この世界にいなかったから、赤の他人どころか居たことすら分からないために、どうしても他人事にする他なかった。

「にしても広いし......人工で作った庭園にしては綺麗すぎだな。でも、こんな鑑賞用や会場のところでお金をかけてしまうはどうかと......───いや、この先言って聞かれてたら多分後ろからブスって刺されてア"ァーしちゃうからここら辺でやめとこう......」

 会場となるこの庭園の辺りは松明が綺麗に並べて置いてくれたので、駿の目の前に広がる庭園の景色を全く損なうことなく、むしろ幻想的に思わせられる。

 駿はそんな庭園に見とれていたが、また国民の税金のことを思い出した瞬間、その庭園の作成費用と、維持費が気になった。

ざっと考えて...........一千万は優に越してるはず......維持費は三百万ぐらい?

 駿はそう考えた後、「こいつはひでぇ」と、苦笑しながら心のなかで、国民に敬礼を送った。

「そういえば......皆は来てるかな?」

 駿は徐々に会場に集まりつつある、貴族らしい人達の人混みを見ながら、ふと思った。

まぁ王様は無理しなくてもいい、とか言ってたしな。皆は突然のことで疲れてるとも思うし......俺も疲れてるけど、ほら! 今のうちに知らない料理の選別とか、異世界の人とのコミュニケーションを取るとか大事だから! 決して、俺は一人が寂しいからきたわけじゃない。決してだ......うん。決してだからね? 本当のことだよ? あぁん? いやだから..................それ以上聞くんじゃねえええっ! 

 駿はまぁ......そういう目標を建前にしている。

ジッ......!

 っ!?..................しゅ、駿はじ、自分なりの目標を建てて、自主的な行動をしてるのだ。(チラッ!?

そういうことだ......ほれ、報酬の百円(ポーイ

 ..................いや届きませんよ? 届いたらそれはそれでダメですからね!?

あ~ほらさぼらないよ~? 仕事仕事~。しっかりとしてくださいよっ~ 全くも~......これだからナレーターは......

 はぁ......分かりましたから......ほら、あなただって向こうから誰か向かってきてますよ?

あ、ほんとだ。あれは............アリシア師匠だ!

 駿は、特徴のある赤髮を人混みの中でサラサラとこちらに向かって揺れているのを確認したとき、すぐにアリシアだと特定できた。

 人混みの中、駿は人混みをかき分けて向かってくるアリシアを迎いに行く。人混みは以外とぶつかったり、アリシアの場合は大丈夫そうだが、スリも有り得そうなので、一応......と思った結果である。

 当然、駿もここは注意するところなのだが、今はまだこの世界に来て三時間と短いので一文無しだったために、心配することがない。

「師匠! こっちです!」

「あ、シュン? どこ!」

 駿は幸い背は178センチあったので、アリシアを見失うことは無かったのだが、背が推定155センチ(駿の分析)のアリシアは目の前に人の背中ばかりなので駿を見つけることは困難だった。

 アリシアはそんな声を叫びながら、ピョンピョンとその場でジャンプして、駿を探しているようだった。

おお......師匠可愛ええのう......

 しかし駿はわざとらしく、少し他人の背中にかくれるように顔を低くしながら、アリシアの必死に探している姿をニヤニヤしながら見守っている。

「どこ行ったのよ......」

 駿はしめしめ、と呟くアリシアの向いている方向とは逆の方向へ密かに人混みに隠れながら回り込んだ。

「シュンー! どこー!」

師匠......背中、ガラ空きですぜ? これは師事当日で師匠の後ろを取れるんじゃね~?────よし......後ろに回り込んだ

 と、駿は依然としてニヤけながら、アリシアの後ろ二メートルの位置についたその時


────スキル【隠蔽】を習得しました

えっ!?......いきなり声が......! しかも耳元でなく直接頭の中で響いたような!?

 駿の頭の中に、聞き覚えのない声が響いた。

だ、だれだ......

 駿は思わず自分の頭を叩いた。

え、ええ!? 怖っ......!!

 その時、駿は本当に誰かいるのかと鳥肌が立つほど怖がっていたが、ええい! 今は師匠の後ろをとらなけばならないという使命があるのだ! 怖がるんじゃねぇ! いくぜ......!と、直ぐに心を強引に変えて、依然として背中を見せている無防備なアリシアに向かって飛び出す。



行けるッ......!

 駿はあと一メートルと差し掛かったとき────



「───惜しいわ」

 と、アリシアはいきなりそう呟いた。

「へ......?」

 駿はその言葉に一瞬呆けた声を出した瞬間

 アリシアの背中に手が届きそうになったその直後に、アリシアはその場でクルリと回転し、飛び出した勢いのままの駿を避けて、首根っこを掴み、次には一声──-

「───はい捕まえた」

 と、あっけらかんとした声でそう言った。

「お......? あっ............」

 駿は一瞬のことで直ぐには理解できなかったが、徐々に理解できた。

「よ、よっす! 師匠! いやぁ......師匠に声を掛けようと思ったら、偶然! 師匠が背中を見せていたので、たまたま! 肩を叩いた方がいいかなって思ったんですよね~......」

 その駿の言葉に、依然として首根っこを掴んでいるアリシアはまじまじと見つめながら相槌をうった。

「ふーん?」

「な、何でしょうか......」 


 その言葉の後、駿とアリシアは見つめあった。

「......」

「......!」

 アリシアはまじまじとした表情を変えないまま、駿の顔を見つめ、駿は少し目を反らし気味ながらもところどころだが、アリシアのその整った顔立ちを見つめる。

「っ......!?」

「......?」

 しかし駿を見ていたアリシアの顔が、徐々に赤くなっていき、やがてさっきの逆のような感じなった。変わったところと言えば、駿の表情がアリシアのようなまじまじとした表情ではなく、困惑した表情で首を傾げているところだ。

「あの......どうしたんです......?」

いや何で俺の顔みて頬が赤くなっていくのか割りとガチで聞きたいんだが......

「い、いや......! 何でもないわっ、何でもないのよ......? うん!」

 更に紅潮した顔になりながらでブンブンブン、と手を思いきり振るアリシア。

いや、絶対あるだろっ! 何? 背が高いわりに俺の顔が子供っぽいことか!? それ結構気にしてるんだぞ! 俺だってな? 背が高いやつが子供っぽい顔の奴がいたら「え......」ってなることぐらいわかってるんだぞ! それを師匠は顔を赤くするぐらいその事が自分のように恥ずかしがってんのか!? いや......でも......顔が赤い師匠、今更だがめっさ可愛いかったから、俺は許す!

「そうですか......」

「そそそ、それより......! あなたを探してたの」

「俺をですか? 何か用事でも?」

 アリシアは、ふぅ......、と一旦落ち着いてから、詳細を話した。
 
「いや......まぁ用事でもなんでもなくて、ただ貴方の以外の仲間全員があっちの方に集まってるから、一人で居る貴方を探してたってだけだわ」

 と、アリシアは少し無愛想に答えた。

「え......そうなんですか。では、折角探しに来てもらったので断るのは悪いですし、案内宜しくお願いします。師匠」

「ふ、ふんっ......ほらこっちよ」
 
「はい」

 駿はプイと俯きながらも、アリシアが案内してくれることに、素直になればいいのにな、と苦笑しながらも、嬉しく思った。


「なに笑ってるのよ......?」

「いやいや~何でもないですよ~?」

「やっぱり何かあるでしょっ!」

「え~?」

 と、そんな似たような会話を、二人で並んで歩きながらする、駿とアリシアだった。


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 駿がこっちに向かってる間、クラスは一番端の席で豪華な夕飯を食べていた。

「うお......うめえ!」
「やばっ......とろけそう」
「バリ美味いやん」
「この肉......牛肉よりもジューシーだな!」
「美味しい~♪ つい食べ過ぎちゃうね~?」
「このサラダ食べやすいね」
「酒のみてぇ気分だぜ」
「旨っ!」 

など、目の前に並ぶ料理を絶賛する声が上がる中、伽凛は一人寂しそうに食べていた。

「......」

......近藤君どこに居るのかな

「伽凛、一緒に食べよっ?」

「......? あ、優菜。どうぞ」

 伽凛は隣の空席の椅子を引いてあげた。

 空席に座ったのは、伽凛の親友の朝倉(あさくら) 優菜(ゆうな)だった。

「わぁ......美味しそうだね!」

「......そうだね」

 隣から優菜が楽しそうに聞いてくる中、伽凛はどうしても気が乗らず、少し暗い返事をした。

「ん? 伽凛......どうかしたの?」

「い、いや。何でもないよっ? ただ少し食欲がないというか......」

「ふーん......大丈夫なの?」

「う、うん! 大丈夫!」

「そうなのか......」

 優菜は納得した表情をした後、少し不敵に笑った。

「そういえば近藤君見当たらないね?」

「っ......!? そ、そうだね! どこ行ったのかな......」

「......気になる?」 

「......ききき、気になるって言われれば気になるかな? どうしてみんなが居るのに近藤君だけが居ないのかなって......」

 ふ~ん?、とその言葉に対して怪しむように相槌を打つ優菜。

「で、どうするの? 伽凛は」

「え?」

「伽凛は近藤君の事......好きなんでしょ?」

「───え、ええぇっ!?」

 伽凛は思わず出した声が皆の耳に届く。

「「「......?」」」

 皆は怪訝な表情で伽凛に注目する。

「あっ......ご、ごめんね皆! こっちの話だから! 気にしないでいいから!」

 そんな伽凛の言葉で、皆は向けていた顔をまた友達や料理の方に向けた。

ふ、ふぅ...... 
 
 伽凛は皆の方に向けていた顔を勢いよく優菜に向けて、ぽこぽこと両手で拳を作って優菜の肩を叩きまくった。

「もうっ! 優菜!」

「あはは~ごめんごめん! 伽凛があからさますぎてついからかいたくなって!」

 テヘペロ、と優菜は伽凛に照れた顔を見せた。

「何照れてるの! というかいつからその事を知ってたの!」

「えっとね~中学二年生からかな~?」

 その言葉にウソっ!?、と伽凛は驚愕した。

私が近藤君に興味を持ち始めたときじゃないの! 何で優菜が......

「だってずっとではないけど伽凛っていつもチラチラ近藤君事見てたでしょ? そこから高校に入ってからは目で追うようになってたし......伽凛のそういう遠慮しないところ、私は好きだよ?」

 と、優菜は悪びれた顔でグッドサインを送ってくる。

「う、ううううるさい! 優菜はもっと遠慮してほしいよ! もぅ~......」

 伽凛の顔はもう成熟したリンゴのように赤くなっていた。
 そんな伽凛を優菜は、まぁまぁ、と慰めたが、誰のせいだと思ってるのっ!、と逆に怒られた。

「で......伽凛はどうしたいの?」

「......」

「近藤君と付き合いたいんでしょ?」

「......たい」

 伽凛は依然として赤くなりながら呟く。

「......告白したい」

「そのためにはどうするの?」

「ちゃんと......好きな気持ちが......伝わるように......」

「できる?」

 優菜は少し茶色がかった髪をすくいながら、優しく微笑んだ。

「────できる......やってみるよ」

「別に今すぐじゃなくても良いから、ゆっくりと近藤君を落とそうね? 私はいつでも相談に乗るから」

「うん......ありがとう優菜」

 互いに笑いあって、互いの関係を確かめる。

 伽凛は優菜とそんなことができた気がした。

「────お、駿じゃん! 今までどこに行ってたこんちくしょう!」

「伽凛、来たみたいだね」

「......うん」

 と、優真の声が響き渡る。

「あぁ......ちょっとぶらついてた。あっちの景色綺麗だったけど、後で行ってみるか?」

「お、じゃあ後で行こうな。とりあえず、お前は食っとけ。腹へってんだろ?」

「おう、めっさ空いとる」

「じゃあ......あそこだな、峯崎の前の席が空いてるぞ」

「うん、ありがとな」

 伽凛は会話の内容をばっちり聞こえてたため、少し背筋を伸ばして駿を待った。

そして───



「おそかったね近藤君!」

「こんばんわ峯崎さん。ちょっとぶらついてた。......どう、料理は美味しい?」

「美味しかったよ。近藤君も早く食べなよ」

「うん────え、美味いっ!」

 そう口を抑えて必死そうに食べる駿を見つめながら伽凛ははにかんだ笑顔でこう返す。

「ふふっ......でしょ?」

 


 その後、食事に夢中な男子に相対するもう一人の女子は食事ではなく、終始見つめていたのだという。
 
 ────歓迎会はまだまだ続く

 

ボッチ、歓迎会に行く 後半

 王宮の庭園で転移者の盛大な歓迎会が開かれている中、その王城を囲うように存在する城下町でも、その歓迎会と同じくらいに盛り上がっていた。

 何故かというと、あの勇者の同等もしくはそれ以上の潜在的な強さを持っている者が異世界から来ると大々的に王宮から発表されて2日たった今、その歓迎会が開かれているということはと、城下町中が「来たのかっ!」と、直ぐに確信したためである。

 酒場やギルドには、冒険者が、「本当なのか!?」という事実確認と、それに対する嫉妬や、世代交代か......、と予感して、やけ酒を飲むために押し寄せ、そこではまた違う盛り上がりようを見せ、冒険者の他にも、頼もしい味方ができたために、今日は祝うぞ......!、と町中の家々で祝杯を上げていた。

 本来ならば、夜にばか騒ぎしている近所に怒号が響くはずだが、今回ばかりはほとんどの家がしてるため、近所に注意を上げる人の方が少ない現状だった。

 唐突に始まった祭りのように、皆が嬉々している。

 



────王国はほとんどの者が笑顔になっていた。そう、ほとんどの者は



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 庭園のとある人気がない端っこの所に、夜風が吹き抜ける。

 ひとりでに月光に晒され、少し切ない雰囲気を漂わせている赤い髪の美しい少女は、壁に背中を預け、綺麗な碧眼を瞑りながら、赤い前髪を揺らす心地よい風を感じている。

「......」

 アリシアは少し遠くから聞こえる談笑の声を聞き流しながら、閉じていた瞳を開けた。

 月光を放つ満月を見上げながら、アリシアは呟く。

「師匠......か」

 アリシアは思い返していた。
 
今日、シュンとあって間もないはずなのに......なんだか長年付き合っている友達のように思えて来ちゃうわ

 アリシアは駿と初めて会ったとき、妙な親近感を感じた。

 その理由は分からないままで、どう接していけば良いのか不安になる。

 そして、駿に師匠と呼ばれる度に、喜んでいる事にまた騎士としてため息をついた。

私はまだシュンに何も教えてないのに師匠と呼ばれるのは嬉しいけど......なんか報われないわ。勿論、明日から訓練をさせる気だけど、最初はまず剣術の方と足運びの方からかな......

 アリシアはそう明日について黙考しながら、様々な訓練を思い付く。
 が、一つだけ気がかりなことがあった。

私......何だか最近、騎士団長にまで「厳しすぎだ」って言われちゃったから、出来るだけ抑えないと......ただでさえシュンは素人の素人だから気づかない内に倒れてしまうわ......


 そう、アリシアは自分の気づかない内に、厳しくなっていく自分に、自覚がなかったようだが、騎士団のトップであるアースレル呼び出され、直々に言われたのだ、アリシアは事の重大性をそこで初めて理解できた苦い経験がある。

頑張らないと......! 王に誓った身として......!

 アリシアはぐっと、両手で決意する。

騎士団長の次に強い私が教えるからには、王国最強になってもらうわ......シュン!

 と、体を預けていた壁から体を離して、また歓迎会が行われているところに戻るのだった。



 ───王国最強になってもらう駿は丁度豪華な夕食を食べ終え、余韻に浸っていた。

「────ふぅ......満腹満腹~」

「ふふっ......近藤君すごい勢いだったもんね?」

「いやぁ......ここの世界の味つけが俺にとっては未知だらけだからつい興味を持ってしまって......その上美味いし......止まらないんだよね......誰か俺を止めて~」

「いや、もう食べ終わってるし......」
 
 駿と伽凛が笑い話をしている中で、優菜はツッコミをいれる。

 クラスメイトのほとんどの人がいなくなり、男子達は少しここら辺を探索しに行ったり、女子達は少し机から離れた木々の真下のところで、友達同士で談笑しに行っているため、夕食をとっていた机には数人と駿と伽凛、優菜しか席に残っていなかった。

 駿は食べることに夢中になっていたためかいつの間にかガランとしている光景に少し驚く。

 一方、優菜達は駿がここに来てから、またいつもの食欲を取り戻した伽凛を、純情だねぇ~?、と耳元で優菜が囁き、伽凛をからかっていた。

 伽凛は駿が目の前にいることから、抵抗ができないため、顔を真っ赤にしながらそこは耐えた。

「......?」

 そんな勝手に顔を赤らめている伽凛を見ていた駿は、当然首を傾げた。

「こ、近藤君......何でもないからね? 優菜がちょっとアレな事を囁いただけだから───っ!」

 しかし、我慢できなかったのか机の下で、伽凛の蹴りが優菜の脛(すね)に直撃する。

「いっ......! あは、あはは。いや、近藤君気にしなくて良いから......」

 優菜は自分が悪いのを承知でからかっているため、痛みを堪えながらも、何もないように振る舞う。

「そ、そうか」

いや絶対あるだろっ! 机の下で、もしかすると乱闘起こってるんじゃね? だって明らかに机がガタガタしてるしっ!

 駿は内心おもしろく思いながらも、関わりたくないな、とも思い、今回は少し納得した振りをして、その場をしのいだ。

「そ、そういえばさ。朝倉さんと峯崎さんっていつぐらいから友達になったの?」

 駿は場の空気を変えようと、慌てて質問する。

 未だに痛みを堪えていた優菜は、はっとして直ぐに、う~んそれはね......、と考えてから、返答した。

「中学一年からかな......?」

「へぇ~......結構長いんだ?」

「うん。嫌われて浮いてた私を優菜が話しかけてくれたことがきっかけだったよね?」

えっ.....嫌われ......えぇ!? 

 駿は伽凛が嫌われていると発言したことに首を傾げた。

「いやぁ......伽凛の浮いてたのって、多分伽凛が思ってるそれとは違う理由なんじゃないかな......」

「......え、そうなの?」

((いや、そうだよ!?))

 二人同時に心の中でツッコミを入れた。

嫌われて浮いてたんじゃなく、可憐で文武両道の完璧美少女の峯崎さんに話しかけづらかっただけだからなんじゃ......? てか峯崎さんでさえ嫌われてたら、俺とかもう会った瞬間に、死ねば?、って言われるほど嫌われるからね?

「ま、まぁ......なんだ。朝倉さんがやさしいことはよくわかったよ」

「そ、そんなことないよ」

 優菜は謙遜したが、その隣にいた伽凛も駿に同調する。

「いや、優菜は優しいよ! 気配りも自分よりか全然上手いし!」

 駿は優菜の優しさについての伽凛の証言に、峯崎さんも十分上手いと思うんだけど......、と苦笑しながら続ける。

「峯崎さん自体もそう言ってるんだし......俺からも優しいって言われたんだから、多数決で朝倉さんの負けだ......認めようぜ」

「いやなんで優しいっていう話から勝ち負けの話になってるの......?」

「そうだよ、優菜の負けだよ」

 伽凛も同調してくる。

 優菜は、からかわれたときのお返しだな......、と苦笑する。

「だからさなんでそう───」

「───朝倉さん」

「え?」

「優しいね!」

 駿は優菜が伽凛にしたようなグッドサインを出しながら、不敵な笑顔を見せながらそんなことを言った。

「......はぁ..............................」

 駿の笑顔とその一言で、優菜はもう面倒くさくなり盛大な溜め息をついた後、「もうそれでいいよ......」と、プイっと俯いてしまった。

 駿はそんな優菜の姿が少し面白がり、伽凛は、ふっふーん! どうだ!、と勝ち誇っている顔をしている。

 優菜は二人を見て、笑っている駿は別に良いのだが、伽凛の勝ち誇っている顔を浮かべているのが、そんなことで勝ち誇ってるの?、と可笑しく思い、怒ってるはずが少し吹き出してしまった。

「にしても人多いな......」

 駿は笑い終わった後、周りを見渡しながら率直に思った感想を口にする。

「この国の貴族の人達のほとんどが来てるから当然だよ......」

 そんな駿の不満に、伽凛が返答する。

「あ......そういえばそうだった」

 と、伽凛の言葉に駿は呆けた顔をしたが、また優菜が続ける。

「何だか大袈裟すぎる気もするんだけどな~?」

 その言葉に駿が、うんうん、と頷いた。

「同感だな......実際まだ使えない人を讃えたってどうにもならないのに......」

 使えない人、即ち駿達の事を指している。

「「「......」」」

 三人は駿の言葉に沈黙する。

 言った本人でさえ、少し落ち込んでしまった。

......二人巻き添えに自滅した俺って最低だな......! まぁそれも俺の魅力とも言えるんだけどねっ!(ゲス顔

 「「「あはは......」」」

「───皆、聞いてくれ!」



 三人が苦笑していると突然、大音量となって放たれた威厳のある声に、聞き覚えがあった駿は、思わず声が発せられた方に振り向いた。

 さっきまで庭園を包んでいた多くの談笑が止まり、少しの静寂が訪れる。

「......あれって王様か?」

 駿が目を細めた先には、庭園の高台で杯(さかずき)を上げている王が立っていた。

 庭園中の全目線が、その高台に注がれる。

「───今日は急な呼び掛けに応じてくれたこと、深く感謝する......」

  その言葉の後、王は静かに腰を折り、大観衆を前で礼をした後、また威厳のある声を響かせた。

「───現在、世界中が突然現れた『魔王軍』によって、かつての平和を失いつつある......いや、失っていると言っても過言ではないじゃろう......そして、その『魔王軍』は、この世界のどこかにある『伝説の七剣』を探し、圧倒的な力を手に入れようとしている」

「「「「......」」」」

 王が言ったその言葉は、皆に世界の現状の深刻さを伝えるには十分なものだった。

「───今は拮抗している......頭数では十か国の同盟を組んでいる以上、こちらが圧倒的じゃから、戦況が長引くほど我々が優位になるのじゃが......最低でも『伝説の七剣』の中の三本でも手に入れられると、勝利に『魔王軍』がぐっと近づいてしまうじゃろう......『魔王軍』は短期決戦をするつもりじゃ。そして決戦のとき、『伝説の七剣』の所持数が有利不利に大きく関わるじゃろう」

 王は不安に思わせる声質でさらに深刻さを煽ったが───

「───しかし、『伝説の七剣』はまだ一本しか居場所が分かっておらぬ。恐らく、その剣の名は『聖霊の雄剣・グラディウス』。かつての大災害の数々から救った、救世主・アレキスが扱い続け、妖精霊を優に越える存在の聖霊が宿った伝説の剣じゃ」

「「「「......おお!?」」」」  「「「......!」」」

 貴族達や兵士達、武官達、クラスの皆が驚嘆し、転移者達に戦いを教える事となった師達も目を細める中、駿は考え事をしていた。

グラディウス......ゲームでちらほら聞く程度の剣の名前だったな......中盤で手に入れられる上位武器だったはずだけど、まさか伝説の剣になってるとは思わなかったな......そういえば、リーエルさんも『伝説の七剣』の説明のときに言ってたわ。まぁこれでここ異世界はゲームの中っていう説の懸念が無くなったからそこが収穫かな......

 駿はステータスの紙を見たとき、実はゲームの世界なんじゃないかと、そう思っていたのだ。

 理由は戦闘から能力をABCで評価するのはまだわかるが、戦闘もしてない駿達から、正確な能力値を数値で割り出すなど普通では不可能だからだ。

 しかし駿はRPGをほぼ全般やっているほど熱中してた経験から、グラディウスという剣が伝説の剣になっているのを見た覚えも聞いた覚えもないため、懸念は捨てられたわけだが、それでこの異世界がどうにかなるという訳でもないため、これからはどう生きるかだけ考えることにした。 
 
 王はざわつく庭園に向かって制止するように手を上げて、一気に黙らせたあと、続けた。

「そこで......私は『魔王軍』より先に、その剣を探し、手にいれる者達を決めたのじゃ。それは───」

 王は一拍置いて、こう叫んだ。

「勇者と同等の力を持った、三十人の若き転移者達じゃ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」 

「「「「......!?」」」」

 王が言う言葉はクラスの誰もが予想できていたが、この周りの盛り上がりようは予想できなかった。

「二日前に大々的に発表し、『魔王軍』に一泡ふかせる者達が現れ、ついにこのときが来たのじゃ!」
 
「「「わああああああああああああああああッ!!」」」

「「「......!?!?」」」

 さらに歓声を上げた周囲は、完全においてけぼりを食らっている。

「私は誓おう。必ずこの二ヶ月間でこの者らを真の勇者にして見せよう......そして奪還して見せよう、かつての平穏を!」

「「「「わあああああああああああああああああああああああああッ!!!」」」」

「「「へ......?」」」

 もうその空気に終始ついていけなかった駿達は、一様にこう思った。

(((ライブ会場かよ......)))

 その盛り上がりようは凄まじく、今の状況を説明するならば、高台に立つ王がアイドルだとして、歌う前に「武道館に来たぞぉ!」とか、「盛り上がってますかぁ!!」とか叫んだ瞬間に、観客席側に爆音の大歓声をいちいち拾うようにマイクを向けているジャニーズとは程遠い見た目のジャニーズ(笑)のような感じだった。

 王や国民達は、国が一つに団結した最高の一時だろうが、駿達にとっては、団結もできずに、ただただ驚いていただけで、王が最後に台無しではないがこれじゃない感があるような問いかけを行(おこな)ったことについては、皆は頑張った王にそんなことを言うのは可哀想という結論に至り、今後はこの事については話さないように取り決めた。

 理由は確かに王への配慮もあるのだが、主にこの事についてはなすと思い出し笑いで死んじゃうかららしい。

「───話は終わろう。今は祝うべき時間じゃ......では、転移者達を歓迎して......乾杯っ!」

 王がそう叫ぶと、駿達以外の庭園にいる国民全員が王に向かって杯を突きだし、それを一気に飲み干した。

「「「乾杯!」」」

 国民達もまたそれぞれ自分の杯を王と交わす。

これは......

 駿は驚きを隠せなかった。

 国民全員が一丸となり、『魔王軍』に戦いを挑んでいるんだと、瞠目する駿の視界に写るそんな杯を一斉に飲み干している国民達の姿から汲み取ったのだ。

「「「......」」」

 勿論、駿以外のクラスメイトだって、同じように汲み取っているのだろう。

これが異世界......これが戦争......

 

--------------------


───このあと、歓迎会は終わりを迎え、ぞろぞろと酒に酔った貴族達や国民達は退場していった。

 しかしあまりの人の多さに休暇中の騎士達を総動員にさせ、永遠にも続く案内の仕事は、増員した事で、事なき事を得た。
 
 また歓迎会の中では、駿達が見てない間にちょっとした酒に酔った酔っぱらい同士の乱闘騒ぎが三回も起きたようだった。

 だが、そこにアースレルや士官がすぐに対応し、大きな騒ぎになる前に抑え込んだ。

 他にも駿が警戒した通り、スリの被害があったり、また酔っぱらいによるセクハラや痴漢などの犯罪行為が多発していたそうだった。

 そんな駿達の認識外で色々な事が起こったこの歓迎会で、駿は気付いたことがあった。

「スキル......確か【隠蔽】とか言ってたな......」

「ん? どうしたの近藤君」

 駿が突然言ったことに、伽凛は首を傾げた。

「あ、そのちょっと気になることがあって......」

「そうなんだ......それで? 気になることって?」

 駿はそう聞かれて、「うーん......」といいごもる。

これ峯崎さんに言ったって分かんないかもな......気になることはスキルの習得方法のことだからな~......ゲームに全く関わりが無さそうだし、それも真面目な峯崎さんの魅力なんだけど......

 駿は一通り考えた後、伽凛の質問に胸が痛いが答えないことにした。

「いや、別に大したことは無いから......」

「そっか......」

「「......」」

 二人の間に気まずい空気が流れる。
 
 しかし、先に伽凛がその空気を変えた。
 
「......あの、近藤君」

 と、伽凛は駿の顔を恥ずかしそうに、頬を赤らめ、身長の関係で自然と上目遣いで見つめた。

「......み、峯崎さん?」

 そんな伽凛に、少し胸が跳ねた駿。

「......」

 伽凛はじっと駿の顔を見つめ続け、やがて口を開いた。

「さっきさ......浅野(あさの)君と話してた時、綺麗な景色があるって言ってたよね......?」

「......? あぁ、確かに提案したけ───」

「───じゃあ近藤君......一緒に見に行かない?」

 言葉を遮られた駿は驚いていたが、それよりも遮った伽凛の言葉に驚愕した。

 駿のなかに様々な気持ちが交差するなか、行くしかないだろっ!、と気持ちがまとまり、駿は返事をした。

「う、うん。峯崎さんが言うなら......」

「ありがとう! 近藤君!」

 もうすっかり人が少なくなり、ガランとした庭園の真ん中で二人の男女が互いに向き合って、会話している。

 その光景は、まるでデートをしているカップルのように思えてしまうだろう。

 だからこそ、その光景を少し遠くから見ているリーエルは不敵な笑顔を見せてこう呟いたのだった。

「シュンさんは......渡しませんよ」

 その笑顔は、駿の誤解を生んだ時、リーエルの行動を見ていた伽凛の顔、そのままだった。

 二人の美少女の戦いが一日にして接戦が繰り広げられる中で、駿はというと

上目遣いの峯崎さん......何とも可愛かった! 巧みにその【U・WA・ME・ZU・KA・I】という最強のスキルを使いこなす峯崎さんはもはや......天才の領域だっ!

 と、呑気に技名(そのまま)を伽凛のスキルに認定していた。

俺も【KA・BE・DON】というスキルはやろうと思えば出来るのだが......いや......止めとこう。儚い夢だぜ全く......

 と、駿は落胆しながら、月明かりが道行く道を照らす道中で伽凛を連れて、自分が見つけた綺麗な景色が見えるところに到着させた。

「ここだよ......綺麗だと自分の価値観がそういっているんだが、峯崎さんはどう思う?」

「わぁ......」

 思わず感嘆してしまう。

 駿が見つけたという綺麗な景色とは、遥かに伽凛の想像を越える、神秘的なものだった。

 伽凛が瞠目するその先に広がるのは───





───水色に光輝く、神秘的な湖だった。

ボッチ、湖で約束する。

「───綺麗......」

 思わず、伽凛は感嘆した。

 水が穏やかに流れ、その湖からは微かな流れる音が聞こえる。

 湖は一切汚れてなく、水底の岩肌や優雅に泳ぐ魚の姿がはっきりと見えるくらいに、一線を越えた透明度だった。

「......俺も見つけたとき本当にそう思ったよ」

 伽凛が今見ているだろう目の前の光景に目を縫い付けながら、駿はまた続けた。

「実はここをどうやって見つけたか、自分でもよくわかってないんだ......」

「え? ひょっとして偶然なの近藤君」

「偶然......にも近いし、誘導された気がするんだ。見つけたときは───」

 伽凛が首を傾げる姿を一瞥した駿は、発見したときの状況を回想しながら、説明した。




───本当に驚いたんだけど、歓迎会に向かう途中にどこかから綺麗な歌声が聞こえたんだ。

その綺麗な声と同等の声は俺たちの世界を探しても多分見つからないほどに、本当に透き通っていて......どこまでも透き通っていて、高く、そして歌声からの感情が豊かだった。

俺はその声が聞こえる方向に思わず木々を掻き分けて足を進めた。

そして木々を抜けると湖の真ん中の水面で誰かが立っていたんだ。

当然、立てるほどの深さじゃなかった。しかし、本当に足の裏を水面に着けて立っていた。

よく見ると、その人は女の子だった。髪の毛が腰ぐらいの高さまで長くて、色は分からなかったけど、それでも女の子ということは分かった。

俺がきたのを気付いたのか、その子はこっちに一回振り向いたあと、歌うのを止め、霧となって消えたんだ。

でもこれだけは分かった。


女の子が歌ってたということ。

そして───


「───この湖がその子に何らかの関係があるということ」

「......その子って何者なの? 話を聞く限り、誘導されたと思うんだけど」
 
 伽凛は駿が説明した後に、神妙な顔で何回か頷いたあと、質問した。

「いや、誰かは分からないんだよな......実際、俺はあの美声に釣られてここを見つけたんだし、だから偶然か、誘導されたかどちらか決めることが出来ないんだよな」

「なるほど......確定できる素材と情報が少ないからね。でもこの話、王様に伝えた方がいいんじゃない?」

「確かに。よくよく考えれば不法侵入っぽいしね......もし刺客だったらっていう場合もここは異世界だから十分あるかも」

 駿はそういったあと、少し悪いにやつきを伽凛に送った。

刺客登場だったら、それもそれで面白くなりそうだ......クックック......

「近藤君......なにか期待してない?」

「いや......ナンデモナイヨ」

「それだったらいいけど......?」

 伽凛はそう言いながらジト目を駿に送り続ける。

「わわわ、わかったよ......す、少し期待してましたよ......」

「もうっ、ダメだよ? 近藤君は危ないことに巻き込まれやすい体質に見えるから......そういうのされると余計に心配しちゃうから......」

「どんな体質だよ......まぁそうだね。あんまりこういうことはフラグに......いや、なんでもない」

「近藤君、戦いが終わったら......次もまた来ようね?」

「うん、峯崎さんはわざとじゃないことは分かってるけど俺には死亡フラグにしか聞こえないなーどうしてだろうなー」

「ふらぐ......?」

「いや......なんでもないです」

「......?」

 伽凛はさっきから変な駿に困惑していると、その駿から呟いた。

「峯崎さん。俺は多分、戦いが終わってもあの世界には帰らないと思う」

「うん......」

やっぱり残るんだ......

「峯崎さんは残るか分からないけど......どんなに離れたときも、俺は峯崎さん達と一緒に居ると思っておいてくれる? そしてこれからも優真と一緒に皆を引っ張ってくれる?」

「......!?」

近藤君......そんな事言えるんだ......

 伽凛は駿の言葉を聞いたあと、これまでの駿の柄とは合わないその言葉に、伽凛は驚き、同時に胸が少し跳ねる感覚が襲った。

 さっきまでのいつもの優しい面持ちとは違い、真剣な面持ちで自分の目をじっと見つめられ思わず、頬や耳、胸等とにかく全身が火照り、恥ずかしい感情が体を縫い付けた。

 伽凛にしては、この感情や体に起こっている現象は今まで味わった事がない。

 しかし、そんな状況を、自分を駿が見てくれているこの状況を嬉しくも思った。

 そして、伽凛にしても、この訳の分からない感情は嫌いではないと思った。

 そんな矛盾し続ける心に、なんだそれっ......、と思わず苦笑いしたあと、伽凛は返答する。

「......うん! 約束する! 私、頑張るよ! でも───」

「......?」

 伽凛は駿に意気込んだあと、少し火照った顔を隠すように俯き、呟いた。

「───離ればなれは......やだよ?」

「......!」

 伽凛の言葉に、駿もまた同じように胸を跳ねさせた。

......そうだな。俺も優真と......峯崎さんと......皆と離れるのはやだな......

「......うん、俺も約束する! 離ればなれにはならない。そしてもし離ればなれになったとしても、また必ず合流して見せる」

「うん......」

 伽凛は満面な笑みを浮かべ、駿は微笑み返す。

 水色に輝く湖の前で、二人は笑いあった。

「そうだ、指切りしようよ近藤君」

「えっ......」

それって......峯崎さんの指と俺の指を絡ませることができるというのかっ!?

「指切りってあれだよね? 指と指を......」

「ふふっ......それしかないでしょ?」

キタコレ......やばっ......緊張してまうわ~!

「......お......おお」

「お?」

 伽凛は少し奇声を発した駿に首を傾げる。

「じゃ、じゃあ......」

「うん───せーのっ」

あぁ......なんと柔らかき至宝......

 指と指を絡ませたとき、駿の気持ちは最高潮に達した。

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます、指切った」」

「これで、約束できたね?」

「うん......そうだね」

 駿は熱すぎる顔を隠しながら言った。

 伽凛は指と指を絡ませたとき、実はこちらも最高潮に達したことを悟られないように平然と振る舞っていたが、冷や汗がどんどんと出ている。

「......そろそろ帰ろっか」

「......う、うん」

 まるで二人は始めて出会ったときのような初々しい様子で、月明かりに照らされた夜道を、一緒に帰路に着くのだった。

───そしてそんな二人の背中を、見計らったように湖の上に現れた少女が金に光る瞳でじっと見つめていたことは、誰も知りえなかった。


--------------------


 王宮へ戻ったあと、駿は伽凛と軽い会話を済ませて、部屋に戻っていた。

「ふぅ......」

やっと一息つけた気がする......そういえば今日ここの世界に来たんだっけな。てか今日一日で何かありすぎだろ......

 駿はベットに身を預けながら、長い吐息を吐いた。

とにかく......これからは戦闘技術を手に入れないと、この世界じゃ何も出来ない。多分、明日から訓練は始まるから頑張らないと......

「......頑張るんだけど......やっぱり、楽しむことも重要だよな」

どんな旅になるんだろうな......

 期待度は上がるばかりだ

「ふわぁ............さてと、眠くなってきたし、いい、夢......見ろよ? お、れ......」

 駿はそう言って、目を閉じると、そのまま気持ちがいい感覚が体を支配し、そのまま微睡みに落ちていった。

ボッチ、師匠と二人きりで訓練を始める

 皆朝は好きか? 俺? 俺は好きでもないし嫌いでもないな。でも皆からよく聞くけど、朝が苦手っていう人いるじゃん。だから俺の予想では皆嫌いだと思ってるんだけど......え? なんでいきなり朝の話してんのかって? まぁ......そうだな......俺は今、布団のなかにうずくまってるんだが、布団の外が何かうるさいから耳も塞いでるんだけど、このうるさいものが早く居なくなってほしいとつくづく思うんだ。だけど、これは完全に居なくならないことを俺は知っている。だってうるさいものの正体が分かってるから分かるんだ......このお節介な奴は絶対に居なくならないって───

「全部聞こえてるぞ、駿」

「ヘアッ......!?」

 ベットの横から、優真が駿の図星をついた。

「ほら、起きろ。いやもう起きてるから布団から出ろ」

「い、イヤだ! 俺はこれから朝、女の子の声で起きるのが鉄則と決めたんだ!」

異世界に来た以上......これは譲れないぜ......

「そんな鉄則捨てちまえっ!」

「イーヤーだー!」

「お前は子供かっ!」

「子供で~す! まだ二十歳になってないんで~す!」

「はいはい屁理屈言わない。ほらさっさと布団から出ましょうね~?」

「屁理屈じゃないで~す! 本当のことなんで~す! 優真ってひょっとして......バキャ?」

「ムカ......」

 優真は布団からなかなか出ない駿を引っ張り出そうと頑張るが、必死な抵抗をするため、なかなか引っ張り出せなかった。

 しかし優真は悔しむ様子がなく、逆に余裕な笑顔を浮かべ、隣(.)にいた人物に言葉を投げ掛けた。

「あ~もうどうする......? 優菜さん?」

えっ......

 優真のその言葉を聞いた瞬間、駿は明らかに動きを静止する。

「───ふふっ......近藤君って、結構子供っぽいんだね」

「えぇ!?」

 その聞き覚えのある声に駿はガバッと布団から勢いよく顔を出して、声の源に視線を向けた。

 そこには、いつも通りの活発とした雰囲気を漂わせるポニーテールで、くりっとした目をした優菜が片手で口を抑えながら笑っていた。

「な、なんで朝倉さんがここにいるんだ......!?」

 その言葉に優菜は苦笑した。

「あれ? もしかしてお邪魔しちゃった?」

「いや別に歓迎なんだけどさ、なんで朝っぱらから俺の部屋に?」

 優菜は微笑みながら、優真を指差し、こう言った。

「いや、さっき部屋の前でばったりと会って、優真くんが今から近藤君起こしにいくから一緒に行かない?、って誘われたから、面白そうだなって思って......」

「あぁ、なるほどって優真............まさかこれを予想して!?」

「実はそうなんだよ」

「ごめん......冗談で言ったつもりなんだけどその満更でもないような顔で肯定されるとこちらとしては引いてしまうんだが......」

「分かった分かった。それよりも早く朝ごはん食べに行くぞ」

 駿の言葉を受け流しつつ優真はそう言って、部屋を後にした。

「はぁ......朝倉さん。さっきのは忘れてくれるか......」

「いやいや無理難題でしょそれ」

「だよな」

 駿はもう一回溜め息をついたあと、ベットから起き上がり、着替えを始めようと「朝倉さん、着替えるから」と、優菜に部屋から出ていくように言って、優菜が扉を閉めたと同時に着替えをさっさと済ませた。

「よし......じゃあいくか」

 駿は背伸びをしながら、部屋をあとにするのだった。

? ? ? ? ? ?

「あれが転移者か......」

「は......」

 午前10時頃、外で集まりつつある三十人の転移者達のことを、塔の一角の窓から眺める人物がいた。

 窓の前に堂々と立っている人物はそれらを眺めて、鼻で笑った。

「強者達と聞いていたがそれほどでもないではないか......あれほどのもの、騎士十人で事足りる」

 そんな言葉を放つ王子に、斜め後ろがわで跪いていて控えている騎士団長・アースレルは顔を僅かにあげて、静かに申し上げた。

「セエル王子......確かに現時点ではそうかもしれませんが───」

「───口答えするのか?」

 と、アースレルの言葉を遮ると同時に、セエルは睨みつけた。

「......いえ、誠に申し訳ありません」

「ふん、最初からそうしとけば良いものを......まぁいい。下がれ」

「は......」

 アースレルはそういうと静かに立ち去った。

 セエルはそれを見届けると、また窓を見つめ今度は不敵な笑顔を浮かべる。

「異世界人が......誇り高き我がグランベル王国の神聖なる城に穢れた足で踏み入れおって......私自ら叩き潰してくれる」

伝説の剣は......私が全て従えると決めたのだ

 セエルは腰掛けてある長く鋭い業物の長剣の輝く刀身を見ながら、「邪魔する者は全て処罰だ......」と呟き、部屋を後にした。

? ? ? ? ? ?


 一方で、転移者たちはこれまた豪華な朝食を食べ終わり、続々と集合場所である訓練所に集まっていた。

 全員が、これから戦いの訓練をするという事で男子はすごく浮き足だっており、女子はまだ眠い人も多いのか、男子達をみて、なんでそんなにはしゃげるのか......、と溜め息をついている。

 駿もまた、溜め息をつかれる側の人間だった。

「よっしゃ! きた! ここで才能を開花させるんるんっ♪ そして伝説の剣、ゲーム風で言うと即ちレジェンダリーウェポンを見つける旅にでるのだ!」

「お、おう......まぁ気持ちはわかるが落ち着け?」

「黙れ小僧! 貴様にこの世界を救えるかっ!」

「いや救える力がなかったらそもそも呼ばれてないんですけど......」

 こんな風に、駿は今までになく気分が高揚している。

 優真はそんな駿に合わせるのが面倒くさくなってきた。

「駿......そういえばスキルの件なんだけ───」

「────........................(ガクッ)」

「お、おいどうした」

「............」

 気になった固有スキルの話をしようとした優真だったが、その前に話す相手である駿が何故か今までの姿とは比べられない程に、落胆した。

「駿......?」

「......」

 何故駿がここまで落胆しているのか、優真は回想していると思い当たる節が見つかった。

スキル......落胆......もしかして

「あっ......」

 優真がそう察したような口調で言うと、駿はガバッと顔をあげて

「ソレイジョウ......ナニモユウナヨ?」

 虚ろな目をしながら、不気味な笑顔を浮かべた。

 優真はそんな駿に苦笑し、同情する。

「まぁ......ドンマイ」

 優真はポンと肩を叩いたら

「......よし表出ろよ?」

 と、駿に怒られてしまった。

 そんなことをやっていると───

「───全員集合しろ」

 と、アースレル筆頭に師達が訓練所に姿を現した。

 集合がかかり、自然と学校の癖で皆は背の順になって並んだ。

 僅か三十秒で綺麗に列になって並ぶ三十人を見て、「ほう......」とアースレルが感心するように喉を鳴らした。

「───では、これからの予定を説明する」

 と、アースレルが説明をした。

まず最初にすることは、それぞれの師が担当する職業ごとに分かれて、基礎を訓練を四時間ぐらいした後、一度昼食をとり、その後は二時間はこの世界について勉学。そして自由時間、入浴、夕食、就寝といった流れだった。

「尚、この予定を今日から1ヶ月毎日続ける。そしてその1ヶ月終わったら、残り1ヶ月は様々な技を取得してもらう。本格的な戦闘を通してさらにその技術を磨き、その先で自分なりの技をどんどんと作っていってほしいと考えている」
 そのアースレルの言葉に、全員が深く頷く。

「よし、では開始する」

 その号令と共に、師達は自分が担当する職業を叫んで、その職業になった人は走ってその師達に合流する。

「......始まった」

なんだか緊張する......

 その頃、駿は右手で作った拳を、一人見つめていた。

これは......RPGの世界じゃ味わえない怖さ......でも悪いものでもないな

 そんな駿の名前を後ろから呼び掛けられた。

「───シュン、行くわよ?」

 その声がする方に振り返ると、風に揺れる赤い髪を片手で抑えながら微笑んでいるアリシアの姿があった。

さてと......

「はい! 師匠!」



───いっちょ強くなりますか!


 駿とアリシアは二人、訓練所を後にした。



--------------------


 意気込んだ駿は、アリシアと二人で王都から少し離れたところにある、大きな山に来ていた。

 その山は森に囲まれ、至るところに草木が生えている。しかも生えている木は直径五十センチぐらいを優に越すほどの大木ばかりで、行く手を阻む木を避け続けるため直進できるところなんて何処にもなかった。

 そんな草木しかない山に来た駿とアリシアは、ここで訓練をしていた。

「じゃあまず、模擬戦しましょう」

「え......?」

「模擬戦のなかで、あなたの動きをみて、どれを優先的に直せばいいのか判断するのよ」

「そ、そうですか......」

「貴方はこれを使いなさい」

 アリシアが渡してきたのは騎士が扱う一般的な長剣だった。

「はい......」

「じゃあ構えて」

「あ、あの......お手柔らかに」

「分かってるわよ......ほら、遠慮しなくていいからあなたから来ていいわよ」

「はい! ......い、いきます! ───っ!」

 駿は地面を蹴り、僅かの時間で距離を殺し、アリシアに思いきり剣を振り下ろした。

「いい足持ってるわね」

 そう言いながら、駿が振り下ろした剣を横で受けて、そのままの衝撃を吸収するかのような柔らかい剣捌きで斜めに剣を滑らせ、受け流した。

「うおっ!?」

 受け流したことにより、前に重心がかかっていたためか、そのまま前に倒れかける。

 アリシアは絶好の機会を逃すことなく、前に倒れそうになっている駿の足を払って完全に転ばせた後、首に剣を突きつけた。

「はい、シュンの負け」

「ま、参りました......って当たり前ですよ!」

「ふふっ......」

 アリシアは笑いながら剣を納めると、尻餅を着いている駿に手を差しのべた。

「ふっ......」

 駿もまた笑いながら差し伸べられた手を掴み、アリシアに引かれながら立った。

「で、見つかりましたか?」

「そうね......足以外全部だめだわ」

「ですよねー......」

「そのための訓練でしょ?」

 その言葉に駿は苦笑しながら

「......ですよね!」

 と、いった後───



「────っ......」

「ほら、振る速度が落ちてるわよ! 速く!」

 両手で握りしめているのは長剣だった。

 背筋を伸ばし、腕を振り上げ、振り下げるのを繰り返している。

「太刀筋が斜めになってるわ! それじゃあ切れるものも切れないわよ!」

「くっ......はい!」

 模擬戦以来ずっと素振りをしていた。

......腕痛い......腰痛い......手痛い......指も......


 迫り来る限界を伝える痛みを耐えて、ただひたすらに振り続ける。

「さぁ頑張って......あともうちょっとよ」

「くっ! っ!......はぁ!」

 ───そして

「はい、今日はここまでよ」

「ぐああぁ............」

 駿は思わずその場で倒れた。

「もう......手に力が入らない......」

もうどこもかしこも痛い......素振りキツいわ......

「お疲れ様......シュン」

 優しい声色を駿に投げ掛ける。

 駿は瞠目し、思わずアリシアを見つめた

「......」

 見つめられたアリシアは少し頬を赤らめて、俯かせ、「そんなに見ないでよ......」と、口ごもった声でいった。

「あ、あぁごめんなさい......師匠」

「う、うん......」

「「......」」

 僅かに静寂訪れる。

 アリシアは頬を赤らめ、そんなアリシアを見ている駿もまた恥ずかしくなり頬を赤らめた。

 互いに俯いていたが、駿はゆっくりとアリシアの方を見ながら口を開けた。

「か、帰りましょうか......」

「そうね......じゃあ行きましょうか」

 そう言って、二人はまた王都に帰るために、来た道をまた戻っていく。

「「......」」

 二人はまだ俯かせながらも、来たときより互いの肩の距離が狭まっていることを、まだ二人は知らない。

 ───こうして、駿とアリシアの訓練が始まった。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-18

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ボッチ、クラス召喚される
  2. ボッチ、勇気を出す
  3. ボッチ、ハズレスキルの恩恵を授かる。
  4. ボッチ、勘違いされる
  5. ボッチ、師匠に出会う
  6. ボッチ、星空に願う
  7. ボッチ、歓迎会に行く 前半
  8. ボッチ、歓迎会に行く 後半
  9. ボッチ、湖で約束する。
  10. ボッチ、師匠と二人きりで訓練を始める