*星空文庫

黒猫と僕

久留戸 作

薄着のままでは少し肌寒い季節となった。
特に朝は冷えて体がぶるりと震える。
クロさんは寒くないだろうか。
きちんと暖かなところにいるだろうか。
クロさんというのは近所に住み着いているボス猫の事だ。
左目に傷がある黒い毛の猫。
顔に似合わず鳴き声が可愛くていつも吹き出してしまう僕を見て、呆れたような顔をするクロさん。

「行ってきます」

朝の準備を済ませて学校へ。
その前にクロさんのところに寄ろう。

「おーい、クロさーん」

呼んでも反応がない。
ご飯でも探しに行ってるんだろうか。
一応煮干し、持ってきたんだけどな。
待てば会えるかもしれないと少し待ってみたけれど此処に来る気配は無かった。
しぶしぶその場を後にして立ち去り学校へと向かう。


放課後になった。
クロさんのことが気になって今日は授業に集中出来ずにいた。
何かあったんだろうか。
お腹を空かせて倒れているのでは?
もしかして拾われてもう会えないのでは?
よくない妄想が頭の中を支配して離さない。
延々とそんな考えがループして昼ご飯もままならないまま放課後を迎えた。
一目散にクロさんが居そうな場所を探した。

「はぁはぁ、何処に、いるんだよ…!」

近所の公園。空き地。土手。
何処にも居なかった。
半分諦めモードの時に最後にもう一度確認しておこうと路地裏にいくと彼はそこに居た。
当たり前のようにそこに存在した。

「にゃーん」

また会ったな。
そんな顔で僕を迎えるクロさん。
何処も怪我をしていないようだし、勿論拾われても居ない。
僕の知っているクロさんだった。

「…何処に居たんだよ。探したんだぞ…」
「うにゃん」

ひとりごちて頭を撫でてやるとクロさんは大人しくそれに従う。
見た目は怖いかもしれないけれど人懐っこいボス猫だ。
滅多な事では怒らない。
ただ怒らせるとめちゃくちゃ怖い。
冗談のつもりで餌を取ったら凄い剣幕で攻撃されたことがある。
引っ掻かれこそしなかったものの、あれは確かにここを牛耳るボスの顔だった。
今僕の前にいるクロさんはリラックスしているのかボスらしさが抜けた普通の猫だ。
何処を撫でても怒らないし好きにさせてくれる。

「今日はね、煮干し持ってきたんだよ。食べる?」
「ぐるる」

早く寄越せと言わんばかりの態度に吹き出し「はいはい、少し待ってね」と待てをさせれば行儀よくそこで待つ。
袋をガサガサと漁り煮干しが入っているパックを開けてクロさんの目の前に数本置いてやると、鼻をヒクヒクさせて匂いを確認する。

「どう?美味しい?ちょっと高めのなんだぞ」

猫に値段など言ったところで無意味なのだけれど言い聞かせるように僕は言った。
クロさんは与えられた煮干しを食べ終わると次はまだかと催促をしてくる。
足元にスリついておねだりされるのが僕は弱い。
完全に弱みを握られている。猫如きに、だ。

「ぐっ…!狡いぞクロさん!」
「うなん」
「こんな時ばっかり甘えてくるんだから!もう!後少しだけだぞ!」

クロさんの勝ち。僕の負け。
今のところ連敗中なので何時かクロさんの誘惑に打ち勝ちたいと密かに思ってはいるのだけど、いざ目の前にするとそんな事は頭から抜けてクロさんの思い通りに動いてしまう。
悔しい。クロさんの手の内で転がされている。
美味しそうにあぐあぐ煮干しを食べるクロさんを見て癒される。
アニマルセラピーとかいうやつなのだろうか。
嫌な事があった日にクロさんの自慢の毛並みを撫でると悩みも何もかもが吹っ飛んでリセットされる。
勝手に語り出してクロさんに聞かせる時もある。
そういう時は何も言わず側に居てくれるクロさん。
心配してくれてるのだろうか。

「よし、じゃあそろそろ帰ろうかな」

よいしょと立ち上がりお尻をパンパン叩いて汚れを落とす。
クロさんも立ち上がる。
また何処かに行くのだろうか。

「寒いから暖かい所にいてね。それじゃあ」

手を振り「またね」と路地裏を後にした。
僕らはお互いに知らないところへ帰る。
もしかしたらクロさんには家族がいるのかもしれない。
あのボス猫を惚れさせたメス猫はどんな子なんだろうと気になってきた。
クロさんみたいな猫も子供を溺愛するのだろうか。
それは少し見てみたいかもしれない。
いや、あくまで仮定の話だけれど。
そんな想像をしながら帰路についた。

『黒猫と僕』

書ききれずにメモ書きのまま放置されてた話をリメイクして書き直しました。
寝起き一発書きなので支離滅裂なところがあるかもしれませんがそこは目を瞑ってください。

『黒猫と僕』 久留戸 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-10-06
Copyrighted

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