*星空文庫

真面目と不真面目

久留戸 作

雨の匂いがする。
これは雨が降るな…なんて本を読みながら得意げに推理をした。
隣にいる後輩を横目でチラリと覗き見ると真剣に本の整理をしていた。
本当にこいつは真面目だなあと思いつつ、任された仕事なのだから当たり前だとも思う。

「君は真面目なんだね」
「先輩が不真面目なんです」
「そうかな」
「そうですよ」

ピシャっと言われてしまった。
僕達は図書委員。
主に本の整理整頓が仕事である。
古くなった本を選別して、新しい本を入れられるように定期的に整理整頓や掃除をする。
本は寄付されたものもあるので、年季を感じる本も中にはあるので丁重に扱わなければならない。
本を借りに来る人間は高校にもなると中々いない。
友達と騒いだりバイトに明け暮れたり。
もちろん常連さんも居たりする。
本を借りる人もいれば、本を読んで帰る人もいて、勉強をする人もいる。
僕は後輩に仕事を任せて整理を疎かにして気になる本を読んでいた。
今日は貸し出していた本を棚に戻すだけの簡単な作業だ。
任せても問題ないだろう。
そして不真面目と言われた事に関しては若干の反論をせねばなるまい。

「読みたい本があったらその場で読んでおかないと損じゃないか」
「別に今じゃなくてもいいじゃないですか。今は本を読む時間ではなく、本の整理整頓する時間ですよ。まったく、先輩はこれだから」
「「不真面目なんです」」
「何だ、分かってるじゃないですか」
「これだけ言われてくればね」

ふふんと得意げに言えば後輩は呆れた視線を寄越しながらも作業を進める。
テキパキと慣れた手つきで棚に本を戻してゆく。
そして僕にこう問うた。

「先輩は普段は真面目なのにどうしてここでは真面目に仕事できないんですか?なにか理由でも?」
「君がいるから」
「はぁ」

意味が分からない、という顔をされた。
本当の事なのに。

「自分の他に真面目な人がいると安心して任せられるだろう?」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ」
「ふうん」

実際そうなのだ。
クラスでは自分の事は自分でしなければいけない。
これは当たり前のことだ。
他人に任せられる事と、任せられない事がある。
けれど、委員会はそうではない。
2人同じ仕事を頼まれていたらどちらか片方がそれをこなせば済む。
だから僕は後輩に任せて自由にさせてもらっている。
簡単な話だ。

「君が真面目だから任せられるんだよ」
「何ですか、それ」

ふふっと笑う後輩。
いつもそうやって笑っていたら後輩として少し可愛げが出てくるのに。
いつもの後輩は表情豊かとは真逆の人種で無表情で愛想も無い。
たまに見せてくれる笑顔は破壊力がある。
見てる側がほっと和む顔で笑うのだ。

「これからも頼むよ。頼りになる後輩さん」
「はいはい。仕事をしない先輩がいると後輩は大変です」
「とか言って、嫌じゃないんだろう?」
「まあ、先輩とこういうやり取りをするのは嫌いじゃないですよ」

珍しく素直だ。
何かいいことでもあったのだろうか。

「へえ」
「意外ですか?」
「君はいつも小言しか言わないからね」
「言われるようなことをするからですよ」
「ぐう…何も言い返せません」
「素直でよろしい」

得意げな顔をしたのは今度は後輩の方だった。

「本の整理も嫌いじゃないですしそこまで苦ではないんですけど」

でも、と続ける。

「先輩が真面目に仕事してくれたら早く終わるのになあ、とは思います」
「ははは。僕は不真面目だからなあ」
「知ってます」
「知られてましたか」

会話をしながらも手を止めることなく作業を続ける後輩。変わらず僕は本を片手で持ち読みながらの作業なのでペースが遅い。
これではまた終わらないまま放課後を迎えてしまう。
憂鬱だが少し真面目に作業しなければいけないかもしれない。

「あれ、今日はもう読まないんですか?」
「たまには真面目に仕事しないとね」
「やだ明日雨降るのかな」
「失礼な後輩だな」

終わりを告げるチャイムが響いた。

「終わりですね」
「終わりだね」

各々キリのいいところで作業する手を止めて片付けを始める。
本を読むのも、整理整頓も、また明日だ。

「それじゃあ先輩。先に帰るので鍵お願いします」
「任されました」
「任せましたよ」

軽くじゃれあってまた明日ね、と手を振る。
真面目な後輩と不真面目な先輩はまた明日もきっと同じような会話をするのだろう。

それでいい、それがいい。

きっとそれが僕達なりの正しい距離の置き方で、コミュニケーションなのだ。

『真面目と不真面目』

寝起きに書いた作品。
ふと創作の神様が降りてきて書かなければ!と書きました。
本当はシリーズにするつもりだったんですけど、この二人はこれ以上の物語が無いなと感じたんで単発にしました。
また神様が舞い降りたらもしかしたらシリーズ化するかもしれないです。

『真面目と不真面目』 久留戸 作

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-10-03
Copyrighted

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。