Timjinの回想録 Ⅱ   トランスポート編

Timjinの回想録 Ⅱ  トランスポート編

「Timjinの回想録 Ⅱ」
トランスポート物語編     
                        ヒロヤ 雅彦                 ‘15.9.17~
 少し昔の話。前回の「Timjinの回想録Ⅰ」で、(Amazonで購入可)とある先生のお宅で暮らしていたTimjin[ティムジン](ラブラドール・リトリバー雄)だったが、先生がお亡くなりになり、数月後書生さんも居なくなり、Timjinの散歩等のお世話をする人が居なくなってしまった。それで、先生の奥様は書生さんに白羽の矢を立て、書生さんにTimjinを引き取ってもらうことにしたのだった。Timjinは書生さんの故郷山形市で暮らすようになっていた。
Timjinも6歳になり、書生さんのことを愛情を込めて「おマッサン」と心の中で呼ぶようになっていた。「timjimの回想録Ⅰ」で登場した神楽坂の百合丸さんとは、遠距離ではあるが、たまに近況報告の電話で話し友情を保っている。
 ここからは、Timjinの新たなご主人、元書生のおマッサンとTimjin、それにフィリピーナから聞いたX君という人物の物語である。

 犬のTimjinは、長距離輸送のトラックドライバーを職業に持つようになった、元書生さんのご主人と一緒だった。     
ご主人は不規則な生活ではあったが、Timjinとの散歩は毎朝晩欠かさなかった。そんなご主人をTimjinはとても頼もしく思っていた。     
 ここは、東北の山形県山形市。四季を周囲の山々の色で感じられるところである。東に竜山、蔵王、雁戸山、西には少し遠く朝日連峰のピークが幾つか見える。今は、秋である。
 このところ、Timjinは思うのである。「早く
おマッサンが可愛いお嫁さんをもらわないかな~。」、とね。
Timjinは、おマッサンの部屋で飼われているが、一緒の時はおマッサンの独り言のささやきをいつも聞いている。いい人には巡り合うのだが、自分の経済的な問題が壁になって、どうしても結婚までとはいかないでいる。そういう、おマッサンを見て、「おお~、なんとかわいそうなおマッサン。」と、いつもTimjinは思ってしまう。

Timjinのおマッサンはこの4月から、とある運送会社の社員となり、毎日トラックのハンドルを握り、主に関東地方へ荷物を運ぶ仕事を生業としていた。そして、犬好きな運送会社の社長さん異例の計らいで、Timjinはトラックの助手席に陣取ることができていた。これは、Timjinにとって願ってもないことだった。Timjinは大好きなおマッサンといつも一緒に居られることが、何より幸せなのだ。

運行時Timjinは、大型10tトラックの助手席に設けられたフカフカの犬用ベッドに腹這いになり、ご主人のささやきを聞きながら、フロントガラス越しに見える景色を眺めるのが好きであった。この時Timjinは「とても幸せ~」と、心の中で思うのでした。
おマッサンの運行予定はさまざまで、午後3時ごろ出発だったり、荷を積むのが遅れて出発が午後9時過ぎることもあった。
山形・関東間の長距離輸送にはあるパターンがある。山形を午後に出発し、翌日関東の目的地に朝一番で着き荷を下ろし、その後、関東の別のお客さんの所で荷を積み、山形に翌日の朝一番に帰って来る。そして荷を下ろし、また、明日朝一番の荷を積みに行く。この繰り返しである。月に10回から12~3回繰り返すこともある。当然1週間に1日の休みはありますよ。
今は、秋。天気も良いしさわやかである。荷を積んで関東に向いトラックを走らせている時、おマッサンの頭の中では、道中で休憩できる場所を思い浮かべる。満車でなければそこで食事をしたり仮眠したりする。これが、トラックドライバーにとって憩いのひと時になるのである。トラックドライバーは外食する人が多いが、おマッサンは経費節約の為、家から2日分の食糧を持って来る。おマッサンのお母さんが美味しいおかずを数個のタッパウエルに詰めてくれるのである。これには、おマッサンと共にTimjinも大変感謝している。Timinはタッパウエルに入っている美味しい物を分けてもらえるからである。ちなみに、おマッサンのトラックの助手席の足元には車用冷蔵庫がある。
「今日はどこで夕食にしようかね?Timjin。」とおマッサンはTimjinに聞く。
Timjinはおマッサンの顔を見るが、
「どこでも、いいよ~。散歩もよろしくね。」と、言いたげな顔をする。すると、おマッサンは、
「そうか、そうか。」と、勝手に解釈し、
「それじゃ、矢板のコンビニまでブッ飛ばすか。そして、散歩だな。」と、Timjinに向って言うと、夕方の国道13号線をまずは福島を目指すのであった。
 今日の積荷は木製のパレット(フォークリフトの爪が入るようになっていて、色んな品物を載せる物)だ。積み下ろしはフォークリフト担当の人がやってくれるので楽だ。しかし、パレットを積んでからのワイヤーやロープで固定させる作業と、重ねて積んだパレットの高さが3.5mを越えるので、幌シートを掛けたり、外したりする作業がチョット厄介である。
 下ろす時は幌シートを外し、ロープ等を外す。後は、フォークマン(フォークリフトを運転する人)にお任せだ。
今日は時間的に余裕があるので、福島のトラックステーションにより、フィリピーナとチョットだけお話でも、と思っているおマッサンであった。
 
トラックドライバーが休憩する場所はさまざまあるが、おマッサンは福島のトラックステーション、矢板のトラックステーション、それに、大型駐車場のあるコンビニなどがTimjinとの憩いの場所となる。勿論、Timjinとの散歩もそこで楽しむ。
 トラックステーションにはお風呂、レストランなどがあり、とても快適なところである。
 おマッサンは時間に余裕があると、福島のトラックステーションに自分のトラックを置き、タクシーを呼んで福島の街へ少しの時間遊びに行くこともある。その時は、トラックのキャブの中でTimjinはお留守番である。

 2~3週間前、千葉の成東で山形までの荷を積みその帰り道に福島の街へよったときの話になるが・・・・。

以前Tmjinとおマッサンは山形駅前の居酒屋「怒喜怒喜(ドキドキ)」というお店によく通っていた。
そこに、メリーアンとメリージェーンという二人のフィリピーナが居酒屋で働いていた。その「怒喜怒喜」から2人が姿を消して、1年ぐらい経った時に、メリーアンが福島の「L」と言うフィリピンパブで働いていたのだった。その店に偶然おマッサンが扉を開けて入って来たのを見つけたメリーアンが、
「オマッサン、久シブリ!私ヲオボエテル?
私メリーアンダヨ。」と、笑いながら声をかけて来た。おマッサンは少し驚き、声の主を見たが、山形の居酒屋で働いていた頃のメリーアンとはチト違っていた。お顔の化粧も、そして衣装もガラリと変わり、どこから見てもクラブのホステスさんになっていた。
 早速、メリーアンはおマッサンをテーブル席に案内し、おしぼりをサービスしてくれた。メリーアンはベビーフェースというのか、とても幼く見えて、可愛い子だ。おマッサンが、
「ずいぶん変わったんで、びっくりしたよ。山形から何処へ姿をくらませたのかな?」
と、飲み物も注文しないうちにメリーアンに聞いた。メリーアンは、
「おマッサン、何モ注文シナイウチニナニヨ。
マズハ、オ飲ミモノデショ~。」と、たしなめるめるように言った。おマッサンは、
「あっ、そうか。ごめん、ごめん。つい、メリーアンの変わり様に驚いてさ。それじゃー、アイスティーある?」
「ン?アルケド。」
「そう、あとアンchanのお飲み物もね。」
「ハイ、オ待チクダサイネ。」と、アンchanが言って、ボーイさんを呼びオーダーしてくれた。
 おマッサンがこの店に入ったのは初めてである。店はボックス席が10個ぐらいあり、とてもきれいな店である。ゴテゴテとした装飾もなくシンプルな感じで、おマッサンは気に入った。
 間もなくボーイさんがアイスティーとアンchanの飲み物を持って来た。
「オマタセシマシタ。」
「お、ありがとう。じゃ、再会を祝って乾杯するか。」と言って、おマッサンとアンchanはグラスを合わせた。
「でも、俺が偶然入った店にアンchanが居るとは想像もしなかったよ。ほんと。」
「ワタシハ、モトモトコウイウ仕事ヲシテタノヨ。山形ノ居酒屋デノ仕事ハ、ハジメテダッタノヨ。ウフッ。」
「日本語もうまくなっちゃて、大したもんだ。」
「マーネ、コウイウ仕事ヲシテイルト、シャベレルヨウニナルミタイ。」
「そうか~。でも、フィリピーナのしゃべり方はとてもかわいいね。」
「ソ~ォ。オトナッポク話シテルツモリナンダケドナ。トコロデ、ナンデ[アイスティー]ナノ?」
おマッサンはアイスティーを一口飲んで、
「それはね、俺の仕事がトラックのドライバーだからさ。今は山形と関東地方を行ったり来たりして、荷物を運んでいるんだ。あっ、関東地方はわかる?」
するとアンchanは、すかさず、
「ワカラナ~イ。」と、答えた。
「関東地方とはね、日本の真ん中あたりで、東京があるあたりだよ。東京はわかるよね?」
「ウン、ワカリマス。ソレデ、ナニヲハコンデイルノ?」と、アンchanが尋ねた。
「そうだな、お米や野菜や特別な砂とか木製のパレットなんかだね。」
「ふ~ん。」と、アンchanは、まり関心を示さない返事をした。おマッサンは、アンchanの話に戻すように、
「アンchanは山形から何処へ行ったの?」
「ウン、フィリピンニ帰ッテ次ニ日本ヘ行ク
準備ヲシテイタワ。ソシテ、福島ニキタノヨ。」
この頃のフィリピーナはビザの関係か、6ヶ月間日本で働いて、6ヶ月間フィリピンで
次の日本行のためのダンスや歌のレッスンをするという生活を送っていた。アンchanも山形での仕事が終わってから、家のあるマニラに帰っていたのだ。
 フィリピーナもいろいろと家庭の事情があるようだ。学校は出たものの仕事がなかったり、兄妹が多く生活を維持していくために日本に来てお金を稼がなければならないというのだ。そして、フィリピンパブにお客さんとして来る男性と恋に落ちたかどうかはわからないが、結婚をしてビザの延長をし、最終的には永住権を得るのだそうだ。そして、日本で働き、フィリピンの実家へせっせと仕送りをする。
このパターンのフィリピーナをおマッサンは何人か知っている。「アンchanもそうなるのかあな~。」と、思ったりもした。
 おマッサンは、フィリピーナをオヨメサンにとは思ってないとTimjinは考えている。

ここで、おマッサンの仕事のことを少し。
山形からの荷もさまざまで、一袋30kの米だったり、木製のパレット、砂、農産物、そば殻だったりした。
おマッサンが乗っているトラックは平ボディーと言ってアオリがあって、荷台に屋根のないトラックである。荷物を積んだ後は必ずシート張る。「大型トラックの荷台は広いからシート張りは大変だ。」と、ご主人のおマッサンはいつもTimjinにささやくのであった。
おマッサンはトラックに乗る前は、一年間、山形では強いと言われている高校のサッカー部のコーチであった。現監督が学校の仕事が忙しくなり、グランドになかなか顔を出せなくなったこともあり、ご主人に白羽の矢が立ったわけである。ご主人は大学時代までサッカーをやっていた。高校時代は現監督の下で全国大会に4回出場したものである。そして、大学時代は、公式試合に出場したこともあったが、4年時は200人位いるAチーム以外の選手たちの面倒を見る立場にあった。そのことが現監督から買われたのかもしれない。と、おマッサンはTimjinに何度かささやいている。
 その臨時コーチも、元々いた若いコーチがその高校に正式に就職したので、臨時コーチのご主人はその役を退いた。
 おマッサンとしては次に何をしたら良いか迷った挙句、自動車の大型二種免許を持っていたので、今の職業に就ついたのである。
しかし、どんな仕事でも初めは緊張して、思うようにならないものである。そこは、「集中力とリラックスすることをバランスよくして、乗り切ることが望ましい」と、おマッサンは思ったそうだ。そして、2~3ケ月もすると少し慣れ、その頃からTimjinを乗せて運行するようになったのである。おマッサンがトラックに乗り始めてからそれまではTimjinの散歩を、おマッサンのお父さんがしてくれていたのであった。

おマッサンが運送の仕事に就いて一番初めにやったことは一袋30kgの米運びである。仲間のトラックが、これから米を積んで関東地方に行くときに、2~3人助っ人として、さまざまある米倉庫の一つに出向く。そして、大抵はパレットに積まれた米をフォークリフトでトラックの横に着ける。そして、アオリを開けたトラックの横で、米袋を取りやすいようにフォークの高さを調整して待機する。それから、助っ人はパレットから一袋30kgの米をトラックの荷台の前の方から順に、きれいに並べて積んで行く。この作業の繰り返しで、300袋積むのである。夏場でなくても汗が噴き出る作業である。米の袋はヨイショと下っ腹あたりに抱えるようにして持つのがベターであるとされている。
おマッサンは初め周りの仲間のスピードについて行くのがやっとであった。それが、3ケ月も経つと慣れて来たようだった。そして、その積んだ米300袋を行った先に於いて運転手が一人で下ろすのである。これは、最初ご主人は2時間ぐらい掛かったとTimjinに告白している。「大変な重労働だね。」とTimjinは思うのである。
と、まぁこのような仕事の合間を縫って、ほんの少しの時間、福島でお遊びをするのが楽しみな、おマッサンでありました。
 
 偶然入った店「L」。そこには、なんと1年ぐらい前に山形の居酒屋で働いていたメリーアンがホステスさんとして働いていたのだった。
 二人は山形の居酒屋での話で盛り上がった。
そしてアンchanが、お店を舞台に繰りひろげられた物語を話し始めた。
 アンchanが、
「オマッサン、コウイウオ店ニハ、ヨクアル話ダケド、アル物語ヲ聞キマスカ?」と、おマッサンに向って言った。おマッサンは
「そうだね。今日は比較的時間に余裕があるから聞きてみようかな。」と、軽い気持ちで言った。
そして、アイスティーをおかわりして、タバコを銜えた。
 メリーアンの話は、小一時間続いた。その話とは、前によく「L」に通っていた30歳代前半のX君と言う人の話である。
 4年ぐらい前の話らしい。アンchanは「L」に長くいるホステスさんに聞いたという。その当時「L」にジャッキーという名の女の子がいた。ジャッキーは「L」に勤める前に郡山市の店で働いていて、そこでX君と知り合ったそうだ。
 X君は郡山のフィリピンパブに、友達と月に1回ほど遊びに行く程度だった。これが、ジャッキーと店で出会ってから回数が増えたのは言うまでもない。と言ってもX君は、そんなに高給取りではない。しかし、X君はジャッキーの魅力に引き込まれ、ジャッキーの事が頭から離れなくなってしまったのだ。その後、ジャッキーは福島の「L」に店を移ったのだが、X君はジャッキーに会いたくても資金繰りが大変で、なかなか「L」に行けないでいた。
 ジャッキーはスペインの血が混じっていて
肌は白い。顔立ちはタレントの中山エミリさんに似た小柄な子である。X君でなくても、ジャッキーに知り合えば大抵の人は大事にしたくなると思われる。
当時はまだ、携帯電話が一般的ではなく、店に行かなければ女の子と話ができなかったのだ。
 Xは店に電話する。
「はい、クラブLです。」と、店のボーイさんが電話にでる。             
「あの、今日ジャッキーはいますか?」と、Xが尋ねると、ボーイさんが、
「はい、居ますよ。今代わりますね。」と言ってジャッキーを呼びに行く。そして、
「アッ、Xサンオハヨウゴザイマス。今日クルノ?」と、ジャッキーはうれしそうに電話にでるのである。Xは元気のいいジャッキーの声を聞き、恋心を刺激されチョット震えた声で、
「うん、行こうと思ってるんだ。よろしくね。」と、返事するのが精一杯。そして、ジャッキーは、
「ウレシイナ~。待ッツテルヨ、ダーリン。」
と、からかっているのか、マジなのかわからない事を言う。これでまた、Xは有頂天になるのである。
Xとしては、恋しいジャッキーに逢いたい気持ちでいっぱいである。それを、「待ってるよ~。ダーリン。」などと言われれば、舞い上がってしまうのは当然である。しかし、お店の女の子は、お客さんに対して、大抵こういう挨拶をするのである。それを、わかっていながら、自分の気持ちをコントロールできないX君なのであった。
 
X君は豆菓子の工場で働いていた。いろんな豆菓子を包装する機械に、製品になってポリ缶に入った豆を投入する仕事である。
 豆菓子工場は食品を扱っている以上、衛生面がとても厳しい。工場内はいたる所ビニールのカーテンで仕切られているし、自分の職場にたどり着くまで最低2回の手洗いとエアーシャワー、そして、頭から頭巾をかぶり、足首にはアンクルバンドをする。
 とまぁ、お客さんが口にするものだから、念には念を入れて、間違いのないようにしている訳だが、X君も服装を整えエアーシャワーを浴びて、受け持ちの機械の前で当日の準備をする。
 この準備段階から、徐々にジャッキーの面影が頭から消えてゆき、そして、機械が回り始めると仕事に集中するのであった。
 当日の予定生産が終わると、また、ジャッキーが脳裏に浮かび上がってくるX君だが、お金がない時は、どうしようもなく、ただ悶々とするのであった。ジャッキーにとっては単にお客さんの1人であるかも知れない。しかし、X君は将来のことなども含め、ジャッキーと一緒になれればなぁ~と思うのである。こういう気持ちになるのは、何もX君だけではない。
フィリピンパブに限らず、そう言った店に通って、つかの間の妄想をかき立てるのは独身、妻帯者に拘わらず、お客さん総てではないにしろ、そう言った展開になるわけであろう。

 X君はジャッキーに電話し、今日お店に行く旨伝えてある。今日は金曜日、明日は休みだしX君はゆっくり構えた。家に戻りシャワーを浴び、身支度を整えた。まずは、郡山から福島まで電車で行き、馴染の焼き鳥屋さんで一杯飲む。
そうしてる内にジャッキーから焼き鳥屋さんに電話が入る。X君は「L」に入る前に、いつもの焼き鳥屋さんで飲むことをジャッキーは知っているのである。
「モシモシ↗。Xサン、何時ゴロクル~?。」
「ん~。もうすぐ行くよ。9時ごろになるね。」
「ワカッタ。ソレジャー、待ッテルカラネ。」
短い電話での会話でもX君はうれしいのである。
焼き鳥屋でのウォーミングアップをほどほどにして、X君は通いなれた道を「L」に向う。
道すがらX君は、ジャッキーが他のお客さんに付いていることを想像する。この時X君は胸が騒ぐ。男は元来、女性を独り占めしたいものである。それを他の男と楽しそうに話をしているなど言語道断である。
とま~お店を抜きにすればそうなるが、この話はフィリピンパブでの話。女の子は沢山のお客さんに指名をもらい収入をupさせ、故郷に送金するのに必死なのである。初めてのお客さんには愛想をふりまき、馴染になってもらう。そして、電話攻撃。まだ、携帯電話が一般的でなかったので、お店の電話で手帳を見ながら複数のお客さんに掛ける。運よく電話が繋がれば、今日お店に来てほしい旨、ガンバッテ覚えた日本語で話す。
 お互い気の合ったお客さんとは同伴(お店の時間前にお客さんと外で逢い食事などをして、お店に入る事)もバンバンこなす。ジャッキーはXと何回か同伴しているが、まだまだX君を「好き」とか、「嫌い。」とかの段階ではなかった。しかし、X君はその気になっているようである。
 決まったパターンではないが、お店の中では男達が恋に落ちるのである。それでも楽しいフィリピンパブなのであった。


アンchanに「今日は、ここまでにしょうか」と、おマッサンは言い、アンchanに次はいつ「L」に来られるかわからない事を告げ、店を後にした。
タクシーでトラックステーションまで戻り、
Timjinに「ただいま」のご挨拶。Timjinもシッポを振り振り、おマッサンの顔を舐めに寄って来る。こんな時「なんて、可愛い奴だTimjinは」
と、おマッサンは思うのである。
 トラックのキャブの中にある寝台で、少し横になりながらTimjinとスキンシップ。Timjinはおマッサンが「L」で楽しく遊んで来て、その話を囁くのを聞くのが楽しみである。言葉はわからないが、話す表情としぐさで、おマッサンの楽しさが伝わって来るのである。Timjinはまた、「楽しかったんだろうね、おマッサン。これからの運行気を付けてね。」という思いになる。
 そして、「散歩に行くか?Timjin。」と、おマッサンに言われると、Timjinはシッポを振り振り、前足で飛びつこうとする。それをなだめながら、おマッサンは上手にリードの首輪をかけてあげる。Timjinは首輪がかかると、少しおとなしくなり、大型トラックの助手席にお座りして待つ。
 おマッサンが運転席から外に降りて、助手席にまわりドアを開け、Timjinを抱えて下におりる。大型トラックの座席は高いのである。
 そして、福島トラックステーションの駐車場を出て国道13号線を南へ歩き出す。夜の散歩ではあるが、Timjinは元気いっぱい。シッポをうしろになびかせ、歩調に合わせてシッポを左右に振る。
 「Timjin、今日言った店にアンchanが居たよ。
びっくりだな。トラックに戻ったら、アンchanから聞いた話を聞かせるからな。」と、おまっさんが、Timjinに向ってつぶやいていた。
Timjinはアンchanに逢いたいそぶりを見せる。
とおマッサンは感じるのである。
 30分位で散歩は終了。勿論、Timjinはトイレを済ましている。トラックに戻って、Timjinは外に用意してもらった水を、うまそうに「ガブガブ」と飲む。しばらく駐車場の地面に腹這いになり呼吸を整え、次にドライのドッグフードを「ムシャムシャ」食べる。そしてまた、大型トラックの助手席に陣取るのだ。
 おマッサンは、タバコを一服して、
「さて次はどこで休もうかな。」などと考えながら、出発の準備をする。そして、いつも出発の時に聞くCD、’86年のアメリカ映画「トップガン」オープニングソング(Danger Zone)をセット。最初のイントロに合わせてトラックのキーを回し、アクセルをふかす。そして、ヘッドライトを付け、
「Timjin行くぞ!」と、言ってスタートとなる。
福島のトラックステーションを出て、国道13号線を南に向い、福島駅を過ぎて左折し国道4号線と出合う。途中、Timjinに先ほど「L」という店で、アンchanから聞いた話を、かいつまんで話した。Timjinはおマッサンのつぶやきを、真っ暗な外の風景を眺めながら聞いていた。そして、Timjinは眠くなったので寝た。

これが、2~3週前のクラブ「L」でアンに出会った時の出来事である。

今日の目的地の、千葉県市原市までこの間、おマッサンはつらつらとアンchanの話を想いだし、
「X君は、本当に恋におちてしまったんだな。逢いたい時にジャッキーさんに逢えないのは、とても心が苦しくなると思うよ。さて、次に行く時は、その後の話をアンchanから、じっくり聞くことにしよう。」などと思いつつ、しっかり安全確認をしながら、ハンドルを握るのであった。Timjinは傍で眠っている。
「寝顔も、また可愛~い。」と思うおマッサンでありました。 
  
 おマッサンの会社では、山形~関東間は原則として高速道路を使えない。荷主さんが高速代も出すというのなら別だが。
 今回の山形~千葉県市原市は、まずR13で福島、福島からR4で春日部、そこからR16で千葉県の稲毛、稲毛からR126~R357~R297
を通ってパレットを納品する会社にたどり着く。今は、ナビがあるが、当時は地図を見ながらの運行であった。

 途中、日の出ぐらいに駐車場の広いコンビニで休憩して、Timjinのおしっこタイムと、朝飯を食べた。勿論、おマッサンの弁当の朝食分のおかずはTimjinが半分食べた。
 目的地まであとわずかな距離を安全運転で行くおマッサンである。昨日から天気はまあまあなので、視界も良好。まずまずの運行であった。
 そして、市原市にあるとある会社の倉庫に
到着。まず、フォークマン(フォークリフトを運転する人)に指示された場所にトラックを止め、幌シートを外す。それをたたみ運転席の屋根の部分にあるラックに置く。それから、しっかりとワイヤーとロープで固定していたのをはずし、アオリを開ける。ここからはフォークマンさんが安全、確実に木製パレットを運んでくれる。
 木製パレットは、固定したり大きな幌シートを掛けるのが大変だが、積み下ろしはフォークマンさんがやってくれるので楽である。
 そして、荷台が空になったら、伝票のやり取りをして、次に荷を積む目的地へ向かうのである。帰りの荷は、茨城県の潮来で小麦粉を10t積む予定である。
 パレットを下ろしている最中Timjinは、キャブ内でリラックスしている。時折、そこの会社の従業員の方がTimjinをのぞきに来る。Timjinはトラックの窓から顔を出し、愛想を振りまくので、従業員の方たちもよろこんでいる。
 Timjinは、いろんな会社に連れて行ってもらえるので、その都度そこの従業員の人と会えるのが楽しみなのであろう。おマッサンは作業中チラチラTimjinの方を見ながら微笑んでいる。
 そうこうしている内に、パレットは倉庫にしまわれ、トラックの荷台は空になった。おマッサンはTimjinの居るトラックに戻り、Timjinのボディーをなでなで。Timjinもしっぽを思いっきり振って出迎えた。おマッサンは、また運転席に座り、例のCDをかけイントロでトラックのキーを回した。アクセルを吹かし、
「Timjin、行くぞ!」の一言をかけ、次に荷を積む茨城県潮来を目指すのであった。
 トラックは市原から高速に乗り、東関東自動車道に入る。帰りの荷物を引き取りに行く際は、高速道路を使ってもOKなのだそうだ。
 トラックは快適に高速道路を走行する。Timjinは夜と違って、行き過ぎる明るい景色を気持ちよさそうに見ている。
 Timjinのご飯は、朝と夕方である。しかし、おマッサンは昼飯を食わねばならぬ。
「Timjin、オレの昼飯は帰りの荷をつんでからゆっくり食べるからな。その時、散歩しような。」とおマッサンはTimjinに話しかけ、安全確認をしながらハンドルを握るのでありました。
 高速を使えば市原~潮来間は2時間位である。高速の途中、サービスエリアでおマッサンとTimjinはオシッコタイム。少し体をほぐしてからトラックに戻り出発。
 そして、潮来に到着着。とある製粉会社の自動倉庫搬出口にトラックを着けた。おマッサンは伝票を持って受付に行き、それから順番に並んでいる他のトラックの最後尾に自分のトラックを移動した。そして、20分位待っていると順番が来た。自動的に倉庫内から下へ、一袋25Kgのパレットに乗った小麦粉が降りて来る。一パレットに50袋、1段8袋で6段、その上に2袋ある。それが崩れないようにサランラップのデカいヤツ、業務用ラップでグルグル巻きにされている。
 これをフォークマンが丁寧におマッサンのトラックの荷台に積んでくれる。8パレッツト積み終わったところで終わりになる。
 次にトラックを広い場所に移動して停めシートを被せる。このシートは幌シートよりも小さく、いささか扱いやすいものである。それを掛け終わると、めし処へ出発である。
 製粉会社を後にして、おマッサンの大型トラックはR51に出て、大洗町を目指す。R51沿いのコンビニ駐車場で昼飯と言う考えである。
 広い駐車場のあるコンビニを見つけ、そこにピットイン。まずは、Timjinのおしっこタイムと散歩。R51は鹿島灘沿いを通っている。海岸まで出て、砂浜でTimjinと散歩したいが、そこまでの時間はない。Timjinに水を用意してあげ、ドアの横にある梯子にリードをつないで、おマッサンは昼飯。お袋さんが作ってくれたお弁当を車内にある小型冷蔵庫から取り出し、太平洋を見ながら、うまそうに食べるおマッサンでありました。勿論、外にいるTimjinにも
おすそ分け。Timjinは水を飲み終わり、腹這いになって海を眺めている。
今は、秋。天気もよし。爽やかな海風を受け、Timjinは気持ち良さそうである。
「さて、Timjinいくか。」とひと声掛け、おマッサンはTimjinを抱えて、トラックの助手席まで持ち上げる。そして、自分は運転席に座り、例によって「デンジャー・ゾーン」のCDをセットする。イントロでエンジンスタート。
「いくぞ!Timjin。」と言って安全確認をし、トラックをスタートさせる。R51沿いの大洗町を過ぎて水戸市からR118、R118で須賀川まで行きR4に入る。そして福島からR13に出て、R13で山形という予定である。
 途中、郡山でTimjinの散歩と晩飯を食べ、一休み。ここで、福島のフィリピンパブ「L」でのアンchanの話を思い出し、
「次の上りの運行の時にでも、X君の話の続きを聞きに行こうかな。」と、Timjinに向って話しかけるおマッサンでありました。
 郡山で座席の後ろにある狭いベッドで少し仮眠して出発。夜の運行となり、なお一層安全運転が必要になるところである。
 日付が変わる頃、福島のフィリピンパブ「L」のあたりを通過し、
「今日もアンchanガンバってるかな。」と思いながら、R13を栗子峠に向う。栗子峠を過ぎたら山形は近い。
 途中、真夜中にドライブ・インにトラックを止め、Timjinのオシッコタイムとプチ散歩。その後、順調に山形市の南に位置する赤湯のとあるパン工場に到着。荷を下ろせる時間が来るまで、パン工場の駐車場で待機。空が明るくなるころ、フォークリフトで荷を下ろしてもらい、シートをたたんで、やっとおマッマサンの会社に向うのである。
 会社到着が9:30ごろで、トラックをジェットホース洗い、キャブの中もきれいにする。その間、Timjinはトラックの近くに繋がれ、おマッサンの様子をみているのである。時折、会社の人がTimjinと遊んでくれる。なごやかなひと時である。Timjinはこのひと時をうれしく思う。
 洗車も終わり、トラックの始業点検をし、事務所で今回の運行データを書き提出。そして、今日から明後日までの運行予定表をもらうのである。
 おマッサンの今日の荷物は米である。とある米倉庫まで赴き、仲間数人と米を積み込むのだ。

 おマッサンは、荷を積みに行く前に、実家へ電話する。お弁当のお願いである。この時間に電話するのは、2~3食分となると、お袋さんもメニューを色々と考えて買い物に出かけるだろうし、作る時間もある。そして、親父さんがR13沿いの山形物産会館まで弁当を届けてくれる時間などを考慮してである。
 とまぁ~、おマッサンはとても恵まれていると、Timjinはいつも思うのである。実は、おマッサンもこのお弁当の事は、とても両親に感謝していて、顔を合わせるたびに、お弁当の事を話題に上げ、
「おいしかった!」と絶賛しているのをTimjinは何度も目にしている。
 実家でお弁当が作られている頃、Timjinを乗せたおマッサンのトラックは、とある米倉庫に着き、仲間数人と米を積む段取りをしている。
 今日の倉庫は狭い路地から、これまた狭いトラック置き場に停止し、今から米が運び出される入口にトラックを微調整しながら寄せる。その時アオリは上げたままである。そのアオリの上までベルトコンベアーを繋げて、倉庫の奥から、1袋30kgの米を運ぶのである。
倉庫の奥には、何袋もきれいに積まれた米袋があり、それを一袋一袋、人力でベルトコンベアーに乗せて行く。そして、ベルトコンベアーはトラックの近くからアオリの高さまで角度をつけてある。隙間なくベルトコンベアーに乗って流れてくる30kg入りの米袋。それをトラックの荷台で待ち構えている3人が、かわるがわる持ち、荷台の前の方から並べて行くのである。ベルトコンベアーに米袋を乗せる作業も、荷台の作業も汗をかく。冬でもそうである。
 米を300袋積み終わり、事務所でみんなと一服。飲み物などを出してもらい、しばしくつろぐ。この時も助っ人の人たちは、Timjinの頭を撫でにトラックの助手席に集まってくれる。Timjinは助っ人の人たちの顔を覚えているので、うれしくて、より一層元気よくシッポを振るのである。
 この米は、神奈川県の第三京浜・港北IC近くの、とある米を扱う会社の倉庫に納品である。目的地まで少し距離がある方なので、行き掛けに「L」に寄るのはやめて、帰りにと考えるおマッサンでありました。
 山形で米を積み終わって出発したのが13:00ごろ。そこから山形県物産会館まで30分ぐらいの距離である。おマッサンは、そこで2~3時間仮眠して今回の運行に備えるのである。目が覚めるころに親父さんが弁当を届けに来てくれる案配だ。親父さんは、
「弁当持って来たぞ~。気を付けて行ってこいよ~。」と、声を掛けてくれてから、家に帰って行く。「ありがたいことだ。」と、おマッサンはいつも思う。
 17:00頃、おマッサンのトラックは(Danger Zone)の曲とともにスタートする。
明日の納品先は受け持ちの中では遠い方なので、途中休憩を2回と予定している。連続4時間運転して休んでTimjinの散歩、そしてまた4時間連続運転という具合だ。
 トラック・ドライバーは運転中いろんなことを考えるものだと思う。家族の事、友達の事、女性の事、お金の事など、様々なことを自分勝手に考えるのではなかろうか。しかし、どんな時でも、安全確認を欠かさないのが、プロのドライバーであろう。

 翌朝、日の出の頃、東京の環状八号線から第三京浜に入る。そして、港北ICで降り、10分ぐらいで米会社の倉庫に着いた。
 この米倉庫では、雨の心配がない時は、広い駐車場で荷下ろしする。トラックを指定の場所に停めると、そこにフォークマンがパレットを置いてくれる。そのパレットの上に米袋を積んでいく。山形で米を積む時は助っ人が居るが、下ろす時は一人である。おマッサンは少し慣れて来たせいもあり、淡々と作業を続けて、あと一パレットのところで、
「もう少しだ。」と、おマッサンは自分に言い聞かせ、汗を拭き拭き米袋を下ろすのでありました。そして、最後の一パレットも積み終わり、トラックの荷台は空になった。
 おマッサンはタオルで汗を拭き拭き、伝票にハンコを押してもらい、すぐにTimjinの所へ駆け寄って、
「Timjin、終わったよ。少し休ませてくれ。」と、息を少し弾ませて言った。Timjinも、
「お疲れさまあ~」と言った顔をして、おマッサンの手や顔を舐めてくれた。
 しばらく休んで、おマッサンとTimjinは次の目的地に向かうのであった。
「午後一に(みがき棒)を積めば、福島で少しゆっくりできるな。よ~し、結城市まで行ってみるか。」
[みがき棒とは、直径も長さもさまざまであるが、鉄の丸棒である。これを、何に使うかは定かでない。](たまに、6角もあったような。)
港北の米倉庫を後にして、茨城県の結城市へ向かう、おマッサンとTimjinのコンビであった。
 結城市には午後一番に到着し、受付をして積み方の人が準備完了するまで少し待った。
この、みがき棒の会社には社員用の大きなお風呂がある。日中から入れるので、この会社に来るトラックドライバーは、お風呂を使わせてもらう人もいる。おマッサンもその一人だ。Timjinに、
「みがき棒を積んで、シートを張ったら、お風呂に入るからな。」とTimjinの頭をなでた。Timjinは「行ってらっしゃい~」という素振りをする。
 みがき棒は、工場内天井にあるクレーンで運ばれてくる。鉄の丸棒が1トンぐらい束になって、空中をクレーンのワイヤーに繋がれて運ばれてくるのだ。それをトラックの荷台に枕木を数本置いて待ち構える。約10t積んだところで終了。みがき棒はトラックのアオリの高さ位までしか積まないので、シートをそのまま張れば雨水が溜まってしまう。それを防ぐために、まず荷台の縦の中心に一本ロープを渡し、ピーンと張り固定する。そして、みがき棒の邪魔にならないところ、荷台の後ろの方に木の棒でロープを持ち上げる。するとシートを張った時に、キャンプのテントのようになるのだ。これで、雨が降っても大丈夫になる。このやり方でシートを張った平ボディの大型車は「かっこいいなぁ~。」と、思うTimjinでありました。
 これで、出発準備完了。おマッサンはタオルを持ち、そそくさとお風呂へと行くのであった。Timjinはチョットお留守番である。そうしている間にも、みがき棒の会社の人が手を振ったり、近くまで来て窓ガラス越しに声を掛けたりしてくれる。こうして、ご主人を待つTimjinでありました。
 やがて、小ざっぱりしたおマッサンがトラックに戻り、
「Timjin。ここのお風呂は広くて気持ちいいよ。あ~、さっぱりした。」と、上機嫌である。おマッサンはタバコを一服して、自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながら、お風呂の余韻を楽しんでいた。
 そして、例によって(Danger Zone)のCDをセットして、イントロと共にエンジンスタート。そして、安全を確認してから、まずは福島を目指すおマッサンとTimjinでした。
 
 R294からR408、宇都宮でR4号線と合流し、郡山~福島となる。
 「みがき棒を午後一番で積ませてもらったお陰で、福島のトラックステーションで少し仮眠してから“L”に行けそうだな。」と、おマッサンは考えている。
 Timjinはおマッサンの傍らで少しウトウトとしながら、ぼんやりと窓の外を眺めている。Timjinはとても気持ち良さそうな顔をしている。今日は天気もまぁまぁだし、安全第一でと思うおマッサンでありました。 
 秋の夕暮はつるべ落としの如く、すぐに暗くなる。おマッサンは、その前になんとか福島のトラックステーションに入り、ゆっくりしたいと思うが、急ぐ旅でもないと自分に言い聞かせていた。

 たそがれ時、福島のトラックステーションに到着。みがき棒の会社でお風呂に入らせてもらっているので、すぐに仮眠して、暗くなってからTimjinの散歩をした。
 それから、おマッサンは外出用の出で立ちに着替え、タクシーを呼んだ。そして、
「Timjin、久しぶりにアンchanとお話ししてくるからな。悪いけど留守番しててくれよな。よしよし。」と、Timjinの頭を撫でてトラックから降りた。Timinは「行ってらっしゃい~」というそぶりである。早速、「L」に電話し、アンchanを電話口にお願いした。
「アラ、オマッサン、久シブリ。今日来テクレルノ?」
「ああ、これからタクシーで行くつもりなんだけど、忙しい?」
「忙シクナ~イ。今日モトラックデ来タノ?」
「そうだよ。この間のX君の話のつづきを思い出しておいてネ。あの話を聞きに行くから。」
「ハア~イ。ワカリマシタ。マッテマ~ス。」
それから、少しトラックの外で待っていると、
トラックステーションの入り口から1台のタクシーが入って来た。そして、トラックのナンバーを見ているようだ。
「これかな?」と、おマッサンは思い、手を挙げてみた。やはりそうで、そのタクシーに乗って福島駅方面へ出発。

 「L」の前にタクシーで乗り付けたおマッサンは、襟を正して店に入って行く。ドアを開けると店の女の子たちが一斉に、
「イラッシャイマセ~」と、挨拶してくれる。
案内され、おマッサンが席に着くとボーイさんが、
「アンは今、別のテーブルなので少々お待ち下さい。」と、丁寧に言って、アンchanが来るまでの話し相手としてアイリーンという子をおマッサンの隣の席に着かせてくれた。
「ハジメマシテ~。ワタシ、アイリーント言イマス。ヨロシクオ願イシマス。」
「あそ~。よろしくネ。」と、おマッサンは少し余裕をもって答えた。
アイリーンさんは一度、日本の男性と結婚し離婚したそうで、日本語がとてもうまい。
お互いの家族の事や、休みの過ごし方などを話している内にアンchanがやって来た。
「アイリーン、アリガトネ。」と、アンchanがアイリーンさんにお礼を言いチェンジした。
「オ~、オマッサン久シブリ。元気ダッタ?」
「ああ、アンchanは?」
「マァマァカナ。トコロデ、オ飲ミ物ハコレデイイノ?」
「うん、今日もアイスティーを飲みながら、X君の話を聞かせてもらうよ。」
「ソウ、ソレジャ新シイノニ、カエルネ。」と、言ってボーイさんを呼び、アイスティーと自分の飲み物を頼んだ。
今日のアンchanは薄いピンクのラメ入りドレスである。店にはポップス系の音楽が流れ、お客さんはチラホラという感じである。ステージはあるが、誰も上がっていない。ステージの天井の真ん中にあるミラーボールが、クルクル回っているだけである。
飲み物が運ばれて来て、
「ソレジャ、乾杯~。」
「はい、乾杯~。」と、2人はグラスをカチッと合わせた。
「コノアイダノ、話ノ続キダケド、ドコマデ話タカ、ヨク憶エテ、ナインダケド。」
「ん~とね。X君がジャッキーと郡山のお店で知り合いになって、それから、ジャッキーは福島のこのお店にクラガエしたんだったな。
そして、X君はジャッキーが忘れられず、郡山から、この福島の「L」に通うようになったんだっけ。
 X君はジャッキーの事を寝ても覚めても思うようになっているが、ジャッキーはさほどでもなく、単なるお客さんプラスお友達なんだと言う所まで聞いたと思うけどな。」
二人とも顔を見合いながら飲み物を飲み、アンchanは少しずつ思い出しながら、
「アッ、ソーカ~。私タチハ、色ンナオ客サント色ンナ話ヲスルカラネ。ワカナクナルヨ。ゴメンネ。ウン、ソノ話ノ続キハネ、コウナノヨ。」と、言ってアンchanはグイッと自分の飲み物を飲んだ。そして、語られたことは・・・・。
 X君はフィリピンパブのジャッキーに恋してしまい、体はジャッキーを想うと熱くなり、
心はキュンとしてしまって、自分でどうしたら冷静になれるかわからない状態が続いた。
 X君は「L」でジャッキーと話してる時が、一番落ち着いていられたようだった。週に1、2度「L」に通い、ジャッキーと話をする内に今度は、
「この子を自分の人生のパートナーにしたい。」と、考えるようになってしまったのだ。そうしている内に、ジャッキーの6ヶ月の期限が来て、「L」でサヨナラパーティーが催された。この頃のフィリピーナは6ヶ月、日本で働いて、6ヶ月フィリピンで過ごすパターンになっていた。ビザの関係だったのだろうか。
X君は、なけなしのお金で豪華な花束を買い、それをお店のステージ上で挨拶をし終わったジャッキーに、
「この店に、また来てね。」と、言って渡し握手した。
 その手のぬくもりが、X君のジャッキーへの愛おしい心にたまらなく刺激を与えたのだった。
「これで、あと半年逢えないのか~・・・・」
と、自分の行動に自信を持てなくなるX君でありました。しかし、X君はジャッキーの住所を知っている。電話はジャッキーの家が田舎の為ないという。その気とお金さえあれば、フィリピンに逢いに行けるのである。X君は、
「そうだ、逢いに行こう。仕事の折り合いをつけて、3泊4日ぐらいなら大丈夫だろう。」
と、思いサヨナラパーティーの翌日から、X君はマニラ行きの計画に入ったのだった。
 まず、ジャッキーへの手紙にマニラに行くことと、大体の日程を書き郵送した。返事が来るのは2週間後ぐらいだろう。その内にできる準備をしておこうというのが、X君の考えである。
 パスポートは3年前に取得したのがあるので大丈夫。あと、ツアーで行くか、プライベートで行くかであるが、初めての地、何かと心配である。しかし、X君はマニラ中心部から車で2時間離れたジャッキーの家へ行くのが当初のの目的だからプライベート旅行にした。東京の旅行会社に成田~マニラ間の往復チケットだけ依頼し、あとは郡山に住んでいるフィリピーナのネリアさんという女性に、現地のことを頼んだ。このネリアさんは日本に住んで長い。マニラに家族、親せきがいてX君をサポートしてくれるという。ネリアさんとは長い付き合いのX君である。実は、ネリアさんはX君の古い友人の奥さんなのだ。
 という段取りでマニラに向けての準備はできて来たが、肝心のジャッキーからの手紙の返事がまだだ。やはり、2週間ほどして待ちに待った返事が来た。
「Hontoni. Uresii. Atashi wa itsudemo ok. Xsan no ouchi ni yoru tel shimasu.」とのことであった。一応歓迎してもらってX君は胸を撫で下ろした。
 ジャッキーの家には電話はないといっていたから、近所の方のを借りるのか、公衆電話があるのかわからないが、とにかくジャッキーからの電話を待つことにした。
 出発を3日後に控えた日にジャッキーからX君に電話があった。
「Xサン、コンバンハ。ドコニ泊マル?ソコニ行クカラ。
「マニラのBoulevard Mansionだよ。わかる?」
「モチロン。日本人ガ泊ルホテルデショウ。有名ヨ。」
「そうなんだ。そこまで、手紙に書いた日のPM3:00頃、ホテルの部屋に来てくれる?」
「ワカリマシタ。ソレジャー気ヲ付ケテネ。」
と、言うことで電話は切れた。
「そうか、3日後か。仕事も余裕をもって休めるし、旅の準備もまぁまぁでしょう。」と、言うことで、X君はわくわくしながら3日間を過ごした。
 出発当日、早朝に車を走らせ、成田エアポートへ向かった。マニラ便の出発時間はAM9:30(JAL)である。一時間半ぐらい前には、空港に着きたいと車を走らせ、8時少し前に駐車場に着き、旅行会社のカウンターへ急いだ。
なんやら、かんやら手続きを済ませ、出発時間の20分前に、ようやく飛行機の座席に着くことができた。そして、テイクオフ。空路マニラへと飛び立ったのでありました。

 アンchanは、
「マズハ、Xサンガ飛行機ニ乗ッタトコロマデネ。」と、飲み物を口にした。おマッサンは、
「ふ~ん、海を越えて逢いに行くなんて、よっぽどX君はジャッキーに惚れていたんだね。それとも、マニラで遊びたかったのかな?」
「遊ビハスルト思ウケド、ヤッパリ、ジャッキーヲ好キダッタンジャナイ。」
「アンchanには、そんな人いた?」
「ソ~ネ、何人カネ。」と、言い放った。おマッサンがすかさず、
「アンchanもヤルネ~。そして、その人たちとはどうなったの?」
「ソンナコト聞イテドウスルノヨ。モウ忘レタワ。」
「そうか、じゃもう聞かない。でも、X君はジャッキーを迎えるだけの経済的なものは大丈夫だったのかな~?」
「ソコデショウ、問題ハ。イクラ愛ガアッテモネ~。」
「そうだよね。初めはラブラブでいいかも知れないが、少し経つと今の家計の苦しさがずし~っと重く圧し掛かってきて、離婚ということになるかもね。あと、離婚の原因として多いのは男の浮気かな、どうだろう。」
アンchanは頷きながら、
「ソ~ネ。コノ、オ店デ働イテイル、シングルマザーハ、オオイワヨ。原因ハ旦那ノ浮気 トオ金ノ問題ガ多イミタイネ。」
「そーか~。初めはいいんだよネ。しだいにいろんな問題がでてくるんだね。それは、どんな夫婦も同じじゃないかな。」
「マ~、Xサンハ、コレカラダケドネ。ソシテ、オ給料モ高イトコロデ安定シテイルト聞イテイルンダケドネ。」
おマッサンはアイスティーを飲みながら、
「それじゃ、ジャッキーと可能性があるじゃない。」
「ン~。」と、アンchanが唸って。
「トコロガネ、ココカラガ問題ナノヨ。実ハ、ジャッキーニハ、ズット年上ノ、オ客サンガ居テ、ソレガ毎日openカラcloseマデ、オ店ニ居ルノヨ。会社の二代目社長ミタイネ。オ金モアルミタイ。ソノ人ガ、ジャッキーヲ、トテモ気ニイッテイタノネ。毎日ホテルニ行コウッテ誘ワレルミタイヨ。ジャッキーハ、ソノコロハ、(ナニヨ、アンナオヤジ、毎日シツコイ。ホテルハ一人デイケ!)ナンテ言ッテルケドネ、トイウコトダッタノヨ。」
おマッサンは少し真面目な顔をして、
「へ~、そういうお客さんがジャッキーに付いていたんだ。X君もうかうかしてられなかったんだね。」
「デモ、フィリピーナハ、家族ニオ金ヲ送ラナイトネ。ソノ意味デハ、シツコイオヤジモ、
オ金ヲ沢山、持ッテイルカラ、okカモネ。」
「そーか~。でも、そのオヤジすでに結婚していたんじゃないの?」
「ソーナノヨ。ジャッキーニハ、2年待ッテクレト言ッテタミタイ。ソシタラ、今ノ奥サント別レテ、ジャッキート結婚スルトネ。ソノ間、ジャッキーハ、マニラニ帰リ、オヤジカラノ仕送リデ家族ト生活スルトイウ話ダッタミタイ。」
すると、おマッサンは少し興奮気味に、
「なに!そんなとこまで話ができていたの?そしたら、X君は何?マニラに逢いに行ってもダメってこと?それで、X君はどこまでこの話をしっていたの?」と、やや落ち着いて聞いた。アンchanはゆっくりと思い出しながら、
「ソーネ~。ソノ時ハ、ジャッキーニ、シツコイオヤジガ付イテイルコトハ、ジャッキーカラ聞イテイタト思ウワ。デモ、ソノ後ノ話ハ、マニラニ行ッ時ハ知ラナイデショウネ。」
「ん~。男と女、色々あるからね~。それで、X君はマニラでどんな感じで過ごしたのかな。」
「ソーネ。ソノ話ヲシマショウネ。」と、アンcanは言って、自分の飲み物をゴクリと飲んだ。そして、
「ジャッキートシテハ、海ヲ越エテヤッテ来タXサンヲ、ナイガシロニハ、デキナイデショウ~。ダカラ、精一杯オモテナシヲシタト思ウノヨ。マ~話ハ、ソノヘンカラネ。」
 
 無事マニラ行きの便んに乗り込んだX君、約4時間のフライトを楽しみ、マニラ空港に降り立った。
 まず、体にマトワリつくような熱気にみまわれる。暑いが人々は元気だ。他国から帰って来た家族を迎える姿は感動的である。空港出口には、お迎えの人々でゴッタガエしていた。
 その中に、ネリアさんのスタッフが、
「Xさん」と書いたプラカードを掲げているのをX君は見つけた。X君は、
「あ~、助かった。」と思い、そのプラカードに近づいて行った。
「Xです。ネリアさんのスタッフの方ですか?」と、X君は恐る恐る聞いた。そして、日焼けした顔の男性が、
「ソーデス。ワタシハ、デイブデス。少シ日本語話セマス。ヨロシク、オ願イシマス。車ハコチラデス。」と、デイブさんは言って、車まで案内してくれた。別のスタッフが運転席に座っていた。
「よろしくお願いします。」と、言ってX君は車に乗り込んだ。そして、お土産に持ってきた日本のチョコレートの詰め合わせをデイブさんに渡した。
 車の中は涼しい。
「あ~、涼しい、楽ちん、楽ちんですね~。」と、X君は感想を述べ、ネリアさんのスタッフに、これからのことを委ねた気分になった。
 デイブさんが、
「コレカラ、ホテルニ行きます。」と言って、運転手にGoの合図をした。
 まだ、日が高いマニラの街を車はスイスイ
とホテルに向った。途中、ビル街もありマニラ中心は、なかなか近代的であるとX君は思った。
 途中、カフェに立ち寄ってくれて、「ハロハロスペシャル」なる物をご馳走になった。
高さのある大きなグラスに、色とりどりのアイスクリームとフルーツが入っているものである。X君は郡山のフィリピーナに、マニラに着いたら「ハロハロスペシャル」を食べてみたら~。」と、言われたのを思い出した。 
 カフェの中は外と違い冷房が効いている。そこで食べる「ハロハロスペシャル」は格別な味がした。
「さて、これからジャッキーに逢えることだし、まぁ~ゆっくり行こう。」と、X君は思った。
 空港から30分ぐらいの所に「BOULEVARD MANSION」
はあった。案内された部屋は、小奇麗なコンドミニアムである。そこで、デイブさん達とこれからのスケジュールを練った。
部屋は新しくはないが、機能的にキッチン、ベッドルーム、バス、トイレ、クロークなどが配置されている。まぁ快適である。隣のビルの1階には中華料理屋さんがあった。
 X君の計画では、ジャッキーの家に行って本人に逢い、話をしたいのだったが、ジャッキーがこのホテルに訪ねて来るというので、それまで待つことにした。そして、ジャッキーと夕食に出かけることにした。
 レストランは、マニラ市内で川に浮かぶテラスで食事ができる所とした。そして、そのあとジャッキーが家に帰るかが問題である。
これが、第一日目。そして、第二日目はタガイタイの雄大な自然の満喫と、海に出て少しハシャグことにした。明後日は未定として、考えが赴くままとした。
 デイブさんと運転手のダニーさんが、コーヒーを飲みながら話すマニラの魅力。X君は話に出て来た、近くにあるダイヤモンドホテルの朝食と、最上階のラウンジでのひと時を希望した。あとは、ジャッキーがどこに行きたいかである。
 そうこうしている内に、部屋のドアがノックされた。X君は心臓がドキリとした。そして、
「プリーズ。」と、声をかけた。ドアを開け入って来たジャッキーは、いつものショウトヘアーでベビーフェイス。小さな花柄のポロシャツにジーンズと言う出で立ち。そして、もう一人男性が入って来た。
ジャッキーが、
「Xサン、逢いに来てクレテ、アリガトウ。
コノ人ハ、私ノボディーガードダヨ。従弟ノヘルナンドデス。」
Xさんは感激して、
「いや~、ジャッキー本当にホテルに訪ねて来てくれてありがとう。ヘルナンドさんもどうぞ。」
と、X君はソファに座るよう促した。
X君とジャッキーは、
「あれから、どうしてた?」などと、他愛もない事をしゃべり、X君はうれしさを爆発させていた。
 今日の夕食のことをジャッキーに伝えると、
「Ok」とのことで、少し早いが、5人でレストランに移動することとなった。
 車の運転席の隣はデイブさん、後部座席にはジャッキーを挟んでX君と、ヘルナンデス君が陣取り出発した。
 日も暮れかかり、少し涼しくなって来た。レストランはホテルから15分ぐらいで着いた。白の柱で建てられているテストランである。テラスは川にせり出しており、尚、涼しさを感じられる。
 5人は中に通され、人数分のテーブルに着いた。ここは、デイブさんとジャッキーとでフィリピンのおいしい物をセレクトしてくれて、オーダーした。まず、テーブルに並んだのは、カントン(フィリピンのやきそば)、フィリピン風ゴーヤチャンプル、春雨とちゃんぽん麺、シニガンスープ、どれも、おいしそうである。飲み物はやはり、サンミゲルビールだった。みんなで乾杯して、ご馳走をバクバク食べ始めた。途中ジャッキーの料理の説明があったが、自分で食べて味見するのが一番と、我先に大皿から料理を取り合っていた。続いてパンシャット(ビーフンと広東麺を使った伝統料理)、フルーツサラダ、ガーリックライス、にんにくたっぷりのおかゆ、など食べきれないほどテーブルに並んだ。飲みのもはサンミゲルビール。飲みやすい軽い飲み口でした。
 皆、お腹をさすって、「食った、食った。」と、言う感じである。デイブさんとジャッキーが注文してくれたフィリピン料理を堪能した。ジャッキーが、
「Xさん、フィリピン料理はどう?」と、尋ねると、
「ん~、チョット酸っぱい料理もあったね。暑い時は酸っぱい料理がいいみたい。しかし、良く食べたね~。ビールも飲んで酔っ払ったな。ジャッキーは次どこいきたいの?」
ジャッキーもお腹をさすりながら、
「ん~、お腹いっぱいになったから、カラオケかな?」と、皆に同意を求めるように言った。みんなOkである。
 マニラには、日本で言うカラオケスナック的な店もあると言う。そこで、ジャッキーの友達が勤めているカラオケスナックへ行くことになった。車ですぐの所で、30人位は入れるお店だった。ジャッキーは友達にX君達を紹介し、テーブルに着いた。周りを見ると日本人の男性の客が多い。まぁ、皆、X君と同じで、日本でフィリピーナと仲良しになり、遊びに来たのであろう。
そこでも、5人組は陽気にハシャイだ。歌を歌って、おしゃべりして、だんだんお腹がほぐれて、いい按配になってきたようだ。
 今日は夕食の時間が早かったので、まだ夜の8時前である。しかし、ジャッキーが家に帰る予定でいたので、お開きにした。
 X君にとっては、とても楽しい夜で、このままマニラに居たくなったかどうかは、わからないがX君は幸せだったようである。
 
 ジャッキーの家までは、ジプニーを乗り継いで、1時間30分ぐらいかかるらしい。そこで、無理に引き止めはできない。ボディーガードのヘルナンド君がいるということで、安心であるとX君は考えた。明日は、タラ・カラオカンのジャッキーの家へ行くことを確認し合い、その夜は別れた。

 翌日は計画通りタラ・カラオカンにあるジャッキーの家にLet Go!である。朝8時ごろデイブさんがホテルに迎えに来てくれて出発した。分かるのはアドレスだけ。途中、住人に道を尋ねながらの道中である。
 マニラを離れると風景がガラッと変わった。
のんびりした農村地帯となり、緑が多く家も点々としかなくなってきた。マニラのホテルを出て2時間チョイで、ようやくジャッキーの家に到着。出迎えてくれたジャッキーのお母さんにご挨拶をし、お土産に持ってきたカップラーメンン1箱(シーフード)を渡した
。日本のシーフードのカップラーメンはフィリピンの人に人気とのことである。そして、リビングルームで昨日のことなどをはなしながら、ジャッキーにはお兄さんと弟さんが居ることを知っているX君はジャッキーに「今どうしているのかな。」などと聞いていた。2人とも仕事に行っているそうである。
「残念。とても会いたかったな。ジャッキーと顔は似てるの?」との問いにジャッキーは、
「アンマリニテナ~イ。」との答え。一同の笑いを誘った。
 お母さんから冷たい飲み物を頂き、みんなリラックスさせて頂いた。X君はジャッキーの部屋を見せてもらえなかったので残念がっていた。だがX君は、このグループ行動でも2人きりになったら、思いの丈をぶちまけようと、心に秘めたものがあるようだ。その時が来ればよいのだが・・・・。
 さて、ジャッキーはX君にマニラ近郊の風光明媚なところに連れて行ってあげたかった。そこで、デイブさんと相談してタガイタイとバタンガスはどうかとなった。タガイタイは山岳地帯で見晴らしのよい所。バタンガスは海沿いの街で、海岸が美しいとのことだった。X君はジャッキーのいう所であれば、否応なしにOkである。X君とジャッキーとボディーガード、デイブさんに運転手さんの5人で、
まずはマニラに向けてGoである。
 X君はジャッキーのお母さんに丁寧にお礼を日本語で述べ、ジャッキーが通訳してくれた。
また、X君とデイブさんに運転手、ジャッキーとヘルナンド君の5人組でマニラに急いで戻り、昼も近いので焼肉を食べることにした。道中、ジャッキーが行く先々の説明をしてくれたが、X君の頭に入るわけがない。X君はジャッキーと二人っきりなることばかり考えているのだから。困ったもんだ。

無事マニラCityに着き、デイブさんがよく行く焼肉屋さんに5人組みは入った。テーブルに着き、皆それぞれ好みの肉をオーダーした。運転手さん以外は昼からサンミゲルビールをのどを鳴らしながら飲んだ。「いいね~。」とか、「最高~。」などと言いながら焼肉とサンミゲルビールを堪能した。
それぞれ満腹になり、少し食休みをして車に戻り、今度はタガイタイを目指した。
今のところ道中、何事もなく無事である。皆アルコールを飲んでいるが、1人運転手さんだけはシラフである。不平も言わず運転手さんは、モクモクと安全運転である。
そして、タガイタイに着いた。山岳地帯なのでけっこう涼しい。ジャッキーは、
「う~、気持ちいい~。」と、ひと言。他のみんなも、マニラCityとの温度差にリフレッシュできているみたいである。山をバックにみんなで写真を撮ったり、ひとり山を見上げ、この風景を目に焼き付けているかのような人も居る。ここでもグループ行動で、X君はジャッキーと二人っきりになれないでいる。なんとか二人っきりになりたいのであるが・・・・。タガイタイでたくさん記念の写真を撮り、山をも見た5人組は、また車に乗り込み、次の予定地である海沿いの街パタンガスに向った。
 パタンガスは、砂浜が続く海岸線が魅力で、少し白波をたてた波が、果てしなく押し寄せるロマンチックなところであった。X君は、
「ここでなんとか二人っきりになりたい。」と、意気込んでみたが、相変わらず仲良し5人組はグループ行動であった。
 そこへジャッキーが、
「Xサン、貝ヲ拾イニ行コウヨ。」と、X君を誘った。「ラッキー。やっと二人っきりになれるぞ。」と、X君。まずは、落ち着いて行こうかと思うが、歩く時、前に出る手と足が同じである。
 二人で海岸線を歩き、波打ち際で貝を探してみる。なんともいいムードではある。そこでX君は、
「今回はとてもありがとう。昨日と今日、一緒に居てくれて。こんなに長い時間一緒に居たのは初めてだね。俺はとてもハッピーですよ。」
それに答えてジャッキーは、
「コウスルノハ、当タリ前デショウ。ワザワザ、マニラマデ来テクレタンダカラ。ソレニ、Xサントハ、イイ友達ダカラネ。」
「うれしいな~。俺もジャッキーとはいい友達だと思っているんだけど、その、まぁ~なんていうか、これからのこと考えてる?」
二人は波打ち際で時折、貝を見つけてお互いに見せ合ったりしながら、会話が弾んでいた。
「コレカラノコト?ソーネー、イロンナフィリピーナヲ見テキタカラナ~。日本人ト結婚シテ、幸ナ人、ソウデナイ人。フィリピンニ帰ッテファミリート幸セニ暮ラシテイル人。人サマザマダカラネ。私ハ、ドチラノ国デモイイカラ、結婚シテ子供ヲ育テタイワネ。」
X君は遠い水平線を眺めてから、ジャッキーを見て、
「ジャッキー、俺と結婚してくれないか?どうしても、ジャッキーのことが頭から離れないし、ジャッキーと話していると、とても幸せな気持ちになるんだ。今すぐ結婚でなくてもいいから、考えてくれないだろうか?」
ジャッキーは、拾った貝を一つ一つながめながら、
「Xサン、フィリピーナハネ、イロンナ問題ヲカカエテイルノヨ。例エバ、オ金ノコトトカ、ファミリーノコトトカネ。ソウイウ私ト結婚シタラ大変ヨ。ダカラ、ソノ話ハ、マダネ。オ願イシマス。」と言うのが精一杯のジャッキーであった。X君はチョットしょんぼりして、
「そうか、わかった。でも、俺の気持ちは分かってもらいたいな~。それにしても、フィリピンに来て、とても良い思いをさせてもらったことはわすれないよ。明日、日本に帰るけど、今日の夜はどうする?」
ジャッキーは少し考えて、
「ボディーガードのフェルナンドト一緒ニXサンノ部屋ニ泊ルワ。別々ニ寝ルノヨ。」と言い、明日、空港まで見送りしてくれることを約束してくれた。
 ジャッキーのファミリーは、お母さん兄、弟の4人家族。お父さんはジャッキーが子供の頃、病気で亡くなったとのことだった。お母さんが家に居て、兄弟が働いているが、借財があるらしく、暮らしぶりは楽ではなようだ。だから、ジャッキーが日本に来て稼いでいる訳である。ジャッキーはファミリーの為と思い、泣く泣く日本行を決めたようだ。初めは日本語が分からず大変苦労したが、今は、普通の会話なら聞き取れるし、また話すこともだんだん上手くなってきている。ジャッキーの仕事は、お客さんと話をすることであるから。
話は戻るが、砂浜での二人だけの時間を過ごした後、また仲良し5人組にもどった。 デイブさんから、
「二人ハ、トテモ良い雰囲気ダッタヨ。」と冷やかされ、X君は、
「そうでしたか。」と言い、照れ笑いをした。まぁ、X君としてみれば、これまた精一杯の照れ笑いだったのかも知れない。
 それから、皆でマニラに戻ることになり、小さな思い出を胸にそれぞれ車に乗り込んだのである。車の中では、ジャッキーが拾った貝殻を皆に見せたり、パタンガスの海岸の美しさを称えたりして楽しんだ。今後の予定についても、デイブさんが、
「カネテカラ、Xサンニ、ダイヤモンドホテルノ、最上階デディナーヲ食ベナガラ、女性シンガーノ歌ヲ聴キタイトイウ、リクエストヲイタダイテイルノデ、ミンナデドウデスカ?」と、言うと、みんな賛成してくれた。今から、ダイヤモンドホテルに向えば、ちょうどディナータイムになっている頃である。車は順調に飛ばし、ダイヤモンドホテルの正面玄関に横付けした。そして、運転手さんを残し、ホテルのロビーに突入した。運転手さんはホテルの駐車場に車を置き、急いでロビーで待っているみんなと合流する手筈である。
 ダイヤモンドホテル・フィリピンは、マニラ湾を望むロハス大通りに面している。近くには、ショッピングエリアもあるとか。
 薄暗くなり周りの灯がともり始める頃、仲良し5人組みは、ダイヤモンドホテルのエレベーターに乗った。最上階を目指して上昇して行く。デイブさんが、
「ミンナ、靴ハハイテイルダロウネ。ココデハ、サンダルハ厳禁ダカラネ。」
みんなは、
「ハーイ。」と答えた。
 最上階は展望レストランンになっており、多国籍料理が楽しめて、おまけに女性シンガーによる歌も聴けて、とても雰囲気の良いところである。
窓からは、マニラ湾沿いの灯の列や、街のネオンが目に入って楽しませてくれる。
 今夜のディナーは、みんな同じステーキを食べることにした。重さと焼き方はさまざまである。それに、サラダにナッツ類の盛り合わせ、小エビのサラダなどをビールのおつまみにオーダーした。
 やはり今夜は、サンミゲルビールで乾杯でしょう。みんな高々にグラスを上げ、元気に「乾~杯。」である。 
 女性シンガーのハスキーボイスでの歌を聴ききながら、Xさんはまた一段とジャッキーに惚れ込んだようだ。勿論、席は隣同士であります。みんなで、今回の仲良し5人組の思い出話を、時折大笑いしながら話し、このテーブルは大いに盛り上がった。
 Xさんにとっては忘れられない一夜になる事だろう。食事会もそうだが、その後ボディーガードと一緒とはいえ、Xさんの部屋にジャッキーが泊まるのだから。
 みんな程よく酔っ払いまして、今日はお開きになりました。運転手さんもノンアルコールだったが、その場をとても楽しんでいた。
 デイブさんはXさんたちをB・Bマンションまで送り、明日のダイヤモンドホテルでのモーニングサービスに合わせて、また来ることになった。Xさんは笑顔で「おねがいします。」と言うとデイブさんも「Ok!」と言わんばかりに右手の親指を立て、笑顔で帰って行った。
 Xさんとジャッキーとボディーガードのフェルナンド君は、早々とXさんの部屋に入り、ジャッキーは「眠クナッタ。」と言って、椅子を並べて横になった。フェルナンド君は直接床に横になり、気持ち良さそうな寝顔になった。そんな2人の寝姿を見て、「ありがとう。」と小声で言い、自分のベッドに入った。

 翌朝も良い天気でありました。ダイヤモンドホテルのモーニングサービスを食べてから
成田行きの飛行機に間に合う時間で、デイブさんと運転手さんが迎えに来てくれた。
 Xさんは、
「今回は何から何まで面倒を見てもらって、本当にありがとうございました。」と深々と頭を下げ、デイブさんと運転手さんと握手した。
 仲良し5人組はXさんの荷物をそれぞれ持ちトランクに収め、玄関前の車に乗り込んだ。
 空港に行く前にまずは腹ごしらえである。
ダイヤモンドホテルのモーニングサービスは窓から青空とマニラ湾が望める1階のフロアーに、これまた、多国籍料理の朝食である。


 ダイヤモンドホテルでの楽しい朝ごはんを食べた仲良し5人組は、このホテルの雰囲気を充分満喫し、また車に乗り込み、こんどはマニラ国際空港へと向かうのでありました。
 ジャッキーたちは空港の中にははいれないので、空港の建物入口付近で、お別れの挨拶をし、それぞれ何かむなしさを感じながらXさんを見送った。
 Xさんは一人、空港に入ろうとしたが、振り返り思わずジャッキーとハグをして、今回のお別れを惜しんだ。Xさん、相当入れ込んでいるようである。 
 その後、ジャッキーはボディーガードと共に、デイブさんからマニラ中心地まで送ってもらったそうである。ジャッキーはXさんのことを考えながら、また普段の生活に戻るのだろう。Xさんはと言うと、ここフィリピンに来てジャッキーと逢い、いい思い出をたくさん作り、またより一層ジャッキーに惚れ込んだようだ。しかし、ジャッキーには他にジャッキーを好いてくれて、自分のモノにしたいと考えている男がいる。彼は、ある会社の二代目社長で、小金を持っているらしい。その男は、毎日の様にお店「L」に来て、ラストまで居るそうだ。Xさんも店で顔を合わすし、ジャッキーが「今、コウナノヨ。」と、その男の事をXさんに教えてくれるのだ。
 まぁ、そんな事も頭に入れながらの今回の旅ではあったが、Xさんは大いに満足のいくものだったに違いない。マニラから郡山に戻って来ても、あの楽しい旅のことを思い浮かべるXさんなのであった。

 郡山の会社に出社して、まず同僚にお土産として、ドライマンゴーを配った。そしたら、同僚の女性陣から質問責めになった。
「5日間ぐらい休むと言ってたから、どこに行ったと思ったら、フィリピンね。」
「フィリピンと言ったら、お目当てはフィリピーナでしょう。」
「どんな人か話なさい。」と、完全にフィリピーナに会いに行ったと決めつけての質問である。
 Xさんは、
「仕事があるからさ、その話は、おいおいということで、勘弁してね。」と言って切り抜けた。
 Xさんは、帰って来たばかりなので、仕事中でも、ジャッキーとの思い出が頭に浮かんでくるのであった。
 Xさんは帰国してから、ジャッキーと手紙のやり取りをやろうと思いつき、せっせとほぼ毎日の様に手紙を書いた。文章は日本語をローマ字で表したもので、短いが心のこもった手紙をせっせとジャッキーに送った。ジャッキーも、たまにではあるが、返信として手紙をXさん宛てに出してくれた。こんなやり取りが続いたのち、ジャッキーがまた日本にやって来ることになった。お店も「L」に決まったようだ。ジャッキーはお店「L」からリクエストをもらったのかも知れない。ジャッキーとしては、うれしいことだろう。
ジャッキーが日本に来て「L」で働き始めて数日経ち、Xさんは意気揚々と店に乗り込んだ。そして、ジャッキーを指名し一人テーブルで待った。しかし、Xさんのテーブルには他の女の子が、
「ジャッキーハ、他ノオ客サンニツイテイルカラ、シバラクハワタシトネ。」と言ってXさんのテーブルの椅子に座った。
 この手の店では多々あることで、人気の高い女の子程すぐには自分のテーブルには来てくれない。(店によって、システムは違う)そういうこともX君は心得ている。こういう時は席ついてくれた女の子と楽しくやることだと思っている。
 名前を聞き、フィリピンの何処の出身か聞く。あとは、家族のことなどをゆっくりと聞いていく。少しほぐれたら自分の事を話してあげる。
 まぁ、Xくんはフィリピンパブに於いては少しベテランと言ったところだ。しかし、ジャッキーのこととなると、気が気でない。今誰のテーブル居るかと考えるが、なんともしょうがない。暫くして、やっとジャッキーがX君のテーブルにやって来て席に着いた。
 ジャッキーが、
「オ待タセシマシタ。Xサン、マニラデハ、イロイロアリガトウゴザイマシタ。」とご挨拶。
X君は、
「いいえ、こちらこそ引っ張りまわしてゴメンね。でも、とても楽しい旅行だったよ。その後、手紙も送ってくれるし、なんかいつも楽しい気分だよ。ありがとう。」
「ソウデスカ。私モ、タマニダッタケド手紙ヲ書ク事ガ楽シカッタワ。Xサンガ、マニラニ来た時、スゴク楽シカッタシネ。コチラコソドーモアリガトウ。」
と、まぁマニラでの思い出話で盛り上がり、X君は帰らなければならないことも忘れ、話し込んで行く。そして、X君にとっては、とても重要な二人の将来についての話に変わったら、ジャッキーのテンションが下がるのであった。
「オ店ノ中デハ、ソノ話ハアマリシタクナイワ。今度、同伴シタ時ニシマショウ。」と、言われ、X君は盛り上がる気持ちをなんとか静めて、ジャッキーに同意したのだった。
 X君がだいぶ酔ったところで、お店を後にした。明日は仕事である。

 そこまで話すとアンchanは、
「ト、マー、コンナ感ジデ、Xサントジャッキーノ恋物語ハ進ンデ行クノヨ。」と、一区切りつけたようにアンchanは言った。おマッサンも、
「そうか、楽しい思い出ばかりじゃないんだね。Xくんも身が持たないんじゃないかな。」と言い、X君の胸中を察した。
「Xサンハ無事ニ帰ッテ来タンダケド、ジャッキーハ海ノムコウネ。ソコデ、Xサンハ、毎日手紙ヲ出スコトニシタンダッテサ。ソシテ運ヨク、ジャッキーハマタ「L」デ働クコトニナッタノヨ。」
おマッサンもX君の気持ちを自分なりに解釈して、
「恋心は時に凄いパワーがあるけど、片思いのままではね。」
するとアンchanも、
「ソーナノヨ。Xサンノ場合、完全ニ片思イナノヨ。ジャキーノ心ガ、ドウ変化スルカニカカッテイタノヨ。」と、2人の恋の行方を心配するのでした。
 アンchanが、
「今日ハココマデネ。」と言って、おマッサンと自分の飲み物のお替りをオーダーした。おマッサンも、ちょうどいい時間になって来たので、
「俺もそろそろかな。ところで、このごろお客さんの入りは?」
「ソーネー。イマイチダケドネ、マァマァッテトコロカナ。ワタシニモ、オ客サンガ何人カツイテクレテルシ、毎日マワシテルトコロヨ。」
 おマッサンは、急いでお勘定をして、アンchanに、
「また来る。」と言い残し店を出た。Timjinが待っているトラックへ急いでタクシーで戻った。
「ただいま~。」と、トラックのドアを開けると、飛びついて顔を舐めてくるTimjinに、
「オ~、そーか、そうか。待っててくれたのか。メンゴイヤツだな~、Timjinは。」と、声を掛けてあげた。
 Timjinが落ち着いたら、プチ散歩に出かけた。Timjinにはごはんを食べさせてあるし、あとはトラック運行中、おマッサンの「L」での報告を、ゆっくり聞いてもらうだけである。
 今回も福島市から取手市までの運行中、アンchanから聞いた話をTimjinにささやいていた、おマッサンだった。
 おマッサンは、ささやく。
「Timjin。」と呼びかけ、
「今、福島の「L」というお店で、アンchanに聞いたところによると、郡山市に住んでいるXさんと言う30歳台の男性が、ジャッキーと言うフィリピーナにお熱だったんだって。
Xさんは海を越え、フィリピンまでジャッキーに逢いに行ったんだってさ。そして、うわべは楽しく過ごして来たみたいだね。Xさん
にしてみれば、毎日ジャッキーのことを想い、いつも一緒に居たいと思っているんだろうけど、そこまで行くには、まだまだだと思うよ。
先に何処かの50歳台の2代目社長からジャッキーを奪われるんじゃないかとヒヤヒヤだよ。
俺の思うところは、ざっとこういうことだけど、Timjinはどう思う。」と、Timjinに問いかけてみると、以心伝心で通じたかのように、
「オ~、そうか。TimjinもXさんを応援してくれるか。Xさんの恋心はそうとうなものだって?ん~、そうだな。」と、言いながらTimjinの頭を撫で、おマッサンは納得した様に頷いた。
そして、おマッサンのささやきは続くのであった。
 この道中、山形から取手市までざっと350km。
それも高速道路を使わずにこの距離を一夜のうちに走る。同乗しているTimjinはおとなしく
外を見たり、うたた寝をしたり、犬用のフカフカベッドでいつもリラックスモードである。
おマッサンは、Timjinのその姿を、運転しながらチラッ、チラッと見るだけで心強いのだ。
 Timjinとの会話?は続くのであった。おマッサンが、
「Timjinにもアンchanに逢わせたいけど、なかなかね~。アンchanを山形の居酒屋で見たことあるよね。小柄でキャシャな体型だけど芯の強い子だね。」すると、Timjinは「フ~ン」と言った面持ちでおマッサンを見ている。
また、おマッサンが、
「山形の居酒屋時代のアンchanは、メークはほどほどだったけど、今「L」で働いている時はバッチリだよ。メークの仕方で随分と女性の顔は変わるもんだね。」
また、Timjinは「フ~ン」と言った顔でおマッサンを見上げる。おマッサンは続ける。
「アンchanは居酒屋の頃はほとんどノーメイクでGパンにTシャツ、それにエプロン付けた出で立ちで、ハリキッテ仕事してたな~。
小さな体でテーブルからテーブル、そして厨房と動き回っていたっけ。ベビーフェイスの顔がとても愛らしかった。Timjinも覚えているだろう。」Timjinは、また「う~ん」と言った顔で、おマッサンを見上げる。おマッサンは、
「そ~か、そ~か。Timjinも覚えているか。Timjinはアンchanからおやつを貰ったりしたもんな。あの頃はトラックの仕事をする前だから、いろんなバイトをしてた頃だな。新聞配達、大きな居酒屋の掃除もしたな。それにイタリアンレストランのウェーターをしてピィッツァも焼いてたな。他にもあったかな?掛持ちの時もあったよな~。そうだろうTimjin。
今は長距離輸送一本で生計を立てている身だもんな。」と、おマッサンはTimjinに話しかける。
 おマッサンは今の仕事を気に入ってるのかもしれない。集荷と納品の時間を守ればあとのスケジュールはドライバー任せというところが、おマッサンの性に合っているのかもしれない。そして、Timjinはそのトラックに乗せてもらい、おマッサンと一緒に居られることがとてもうれしいのだ。今回のフィリピンパブ「L」での話も、おマッサンのささやきがとても心地よいTimjinなのだ。Timjinは人間の話がわかるような気がしている。おマッサンはTimjinの考えを以心伝心的に、おマッサンなりに解釈するのが好きだ。そして一人喜んでいる。それを見ているTimjinもここち良くなる。このトラックのキャブの中は、おマッサンとTimjinにとって、ほんわりとして居心地の良い場なのだろう。
 そして、安全運転で取手市に近づいて、おマッサンのトラックは朝の陽ざしを浴びて走る。
ブルーの車体がキラキラ輝き、朝のすがすがしさを周囲に振りまいている。

 千葉県取手市近辺の目的の砂を下ろす工場が近づいてくる。この砂は、山形県のとある所にある山砂で、ガラスと混ぜるとオロナミンCドリンクのビンのような、茶色いガラスの色になるのだと聞いた。
 その山砂をおマッサンの平ボディーの荷台に大型ローダーのバケット4~5杯積み、砂シートなる簡単なシートを掛けてスタートする。時間に余裕のある時は福島で「L」に寄り道し、そして夜通しトラックを走らせる。
 秋も深まり、おマッサンはおいしい山形名物いも煮や、お酒が恋しいが今はハンドルを握る身である。
 その砂を下ろす工場の近くのコンビニで朝食を摂り、Timjinの散歩。工場に入場する時間は決まっており、そこで少し待つ。そして、時間になったら入場し、事務所のコンピューターに車番等を自分で入力する。これが終わるといよいよ砂を下ろす。下ろし方はチョット外部の人はお目にかかれないやりかたである。
 その、砂の下ろし方とは。簡単に言うと、トラックを台に乗せ車止めをし、運転席の方を40度位まで持ち上げ、坂になった荷台から砂を滑り下ろすのである。
 この傾いたトラックは、関係者以外の人は見たことがないと思うのだが。
 こうして砂が無くなった荷台に、また次の荷を積みに行く。こうして午前中に関東近辺で山形からの荷を下ろし、午後から関東で別の荷を積んで、次の日の午前中山形で荷を下ろし、午後からまた別の荷を積む。そして、関東方面へトラックを走らせる。この繰り返しが今のおマッサンの仕事である。
 その間、Timjinという相棒が隣に居るので、おマッサンは心強い。
 砂を例の方法で下ろした後、荷台をきれいにし、今日もみがき棒の工場へと急ぐ、おマッサンとTimjinを乗せたトラックだった。
 みがき棒の工場は茨城県結城市にある。取手市からみがき棒の工場まで、またおマッサンとTimjinの二人旅である。途中、広い駐車場のあるコンビニで、Timjinの散歩。この散歩も晴れている日は良いが、雨の日はチョット大変である。おマッサンはカッパを着て、Timjinはおマッサンが持つ傘に隠れての散歩でなる。
それでもTimjinは体が濡れ、トラックのキャブの中でタオルを使ってゴシゴシして乾かす。Timjinは雨の日も元気に散歩する。Timjinのこの元気な姿は、おマッサンの気持ちを上向きにするようだ。

 結城市のみがき棒工場に着き、例の如く荷台に天井クレーンでみがき棒を積んでもらい、シートを張る。その後、みがき棒工場のお風呂に浸かるおマッサンでした。その間Timjinは
トラックの外に繋がれ、みがき棒工場の人たちに愛想を振りまき、頭などを撫でてもらっている。
 おマッサンは町の銭湯ぐらい大きい風呂で
一人のんびりと湯に浸かり、X君のことなどを思った。30分ぐらいで風呂場を後にし、小ざっぱりした姿で、またTimjinをトラックの助手席に持ち上げ、犬用のフカフカベッドの上でリラックスさせてあげた。そして、おマッサンはおもむろに運転席に着き、一服タバコを吸う。そして、冷たい缶コーヒーを飲み、出発の準備である。スタート時にいつも聞く「デンジャー・ゾーン」映画トップガンのオープニング曲を用意する。安全確認後、曲をスタートさせる。曲に合わせて、まずキーをまわしエンジンをかける。少しアイドリングしてまた、安全確認をして「Timjin,、行くぞ!安全第一」と唱え、山形に向けスタートとなる。
 大型トラックとなると車幅が広いし、ボディーが長い。おマッサンも始めの頃は、この大きさに少し戸惑ったが、すぐに慣れ今では無事故、無違反である。
 午後の道のりを快適に飛ばす、おマッサン。
その傍らで窓の外を見たり、うたた寝をしているTimjinでありました。
 福島を通過する頃、おマッサンは、
「アンchan何してるかな?」などと、ふと思う。福島を過ぎる頃は真夜中であった。栗子峠にさしかかる前に休憩タイム。トラックを広い駐車場に止め、まずはTimjinの散歩、そして夜食のおやつを少し食べさせる。Timjinは美味しそうにシッポを振り振りパクつく。おマッサンは、
「オ~、何と可愛いヤツだ。よしよし。」と、おマッサンは幸せな気分になるのである。
 この峠を過ぎれば米沢市に入り、山形市はすぐそこである。
 今日は土曜日。今積んであるみがき棒を今日の早朝下ろして、午後から月曜日の分の荷を積めば、あとは休みの日曜日である。明日の日曜日はTimjinを動物病院に連れて行く日だ。
 トラックは栗子峠を越し、米沢市へ、そして山形のみがき棒を扱う会社に向う。少し眠くなったおマッサンは、広い駐車場のあるコンビニで1時間ぐらい仮眠を取り、朝一番でみがき棒を下ろした。そして、午後から月曜日の朝一の荷を積み、会社にトラックを置き、一目散にTimjinを連れて自宅へ戻って来た。
 

翌日は晴れ。動物病院へは、雨が降っていなければ、Timjinと散歩しながら出掛ける。病院は、おマッサンの自宅から歩いて15分位である。動物病院に着くと受付をし、Timjinは体が大きいので病院の外で待つ。その内に看護師さんが呼びに来てくれる。診察室に入ると70~80cmの高さの診察台があり、そこへTimjinはジャンプして乗るのである。それを見ている待合室の犬・猫連れのお母さんたちが「ウォ~」という小さなどよめきを起こす。
 こうして定期的に体重と体温を測り、部エコー・尿検査などをして、時には狂犬病やフェラリア等の予防注射を受ける。診察が終わると、また、散歩がてら家に戻るのである。そして、土曜の午後に積み置きしていた物を運ぶため、今日(日曜)の夜からTimjinとおマッサンの道中が始まるのだった。

日曜の夜9:00ごろ会社に到着したTimjinとおマッサンは弁当を車内の冷蔵庫に入れ、着替え等を狭い寝台に放り込む。そして、懐中電灯を持ちトラックの始業点検。異常なしで、運行に支障なしという訳だ。それから、自分の車からTimjinをトラックの助手席に持ち上げ、
準備完了である。Timjinはまた、おマッサンと一緒にドライブすることを喜んでいる様子である。シッポをブルンブルン振って、おマッサンを見ている。こんな時、おマッサンはTimjinを「ほんとうにかわいい相棒だな~」と思うのである。

今日の荷物はパレット。この前と同じ市原市の会社が納品先である。福島の「L」に帰りに寄る予定で出発。暗い中、ヘッドライトを頼りに安全運転で走行するおマッサンであった。雨も降らず、予定通り途中2回の休憩を取り、Timjinの散歩もした。到着した会社でパレットを下ろし、次にみがき棒を積みに茨城県結城市に走った。ここで、午後一番で積んでもらい、例によってお風呂を使わせてもらい、Timjinと共に、まずは福島のトラックステーションを目指した。この流れでいくと、
途中Tinjinの散歩に時間をとっても、7時ぐらいには福島のトラックステーションには着くであろう。それから準備して「L」には早い時間に入れる。途中でアンchanに連絡しておこう思った。あんchanも店にいるということで一安心。Timjinの散歩とご飯を食べさせてから、タクシーで「L」に向うおマッでありました。
     ↓↓↓↓
    今は、ここまでです。      つづきを待ってて下さい。
      ’17.9.13  ヒロヤ 雅彦     

Timjinの回想録 Ⅱ   トランスポート編

Timjinの回想録 Ⅱ   トランスポート編

前回の「Timjinの回想録 Ⅰ」の続編。Timjin(ラブラドール・リトリバー)が東京から引っ越し、山形の元書生さんのもとで生活していく様子。元書生さんがフィリピーナから聞いた話もあります。 途中までですが、勘弁してください。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-13

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