彼女について

彼女について

彼女についてですか?
ええ、構いませんけど、見合いで一度会ったきりなので大したことは…

見合いをしたのは、僕が30の時ですね。叔母の伝で話が来たんです。その頃は仕事が忙しくて、はじめは僕もあまり乗り気じゃなかったんですけどね。
ええ、恥ずかしながら。写真見て、気が変わったんですよ。
どんな感じか?そりゃ、綺麗でしたよ。目がぱっちりしてて、色白で。ほっそりした感じでね。一目惚れでした。
だけど、最近じゃこういうのはいくらでも加工してキレイにできちゃうでしょう?
だから、もちろん期待はしてたけど、疑いも半分で会いに行きましたよ。
場所?レストランです。まあ、そこそこ値は張りましたけど、落ち着いた感じの良いところでしたよ。取った席が良かったのかな。なかなか眺めが良くてね。
彼女の方が先に着いてたみたいで、ええ、一目で分かりました。写真の姿がそのまま、いや、実際に見たほうがもっと華奢で綺麗だったかな。
席に着いても、僕のほうがどきどきしちゃってね、ろくに面白い話もできなかった。だけど彼女はにこにこ笑って、頷いてくれてね。つまらない話もちゃんと聞いてくれてました。本当、いい人だと思ったんだけど。この人だったらお付き合いしてもいいかな、なんて思ったくらいでね。

だから料理が運ばれてきて、僕、驚きましたよ。
彼女、ナイフとフォークもろくに使えなかったんです。置く位置とか、向きとか、なんか適当でね。運びもぎこちないというか…
おまけに「ちょっとトイレに…」とか言って、食事の途中で2回もお手洗いに行っちゃうし。
品の良い人だと思ってたから、なんていうか、幻滅しちゃいましてね。
最後のほうは、お互い無言でした。気まずかったですよ、そりゃ。途中まで彼女も話を振ってくれてたんですけど、その時も口に物が入ったまま喋ったりして… そんなだから、僕も適当に返事するだけで、あとは何も。
とにかく早く食事を終わらせたくて必死でした。だって、そこそこのレストランですしね。周りの客なんて皆、きちんとテーブルマナーとか身に着けてるわけでしょう。その中で僕らだけ、というか彼女が頓珍漢なことしてるから、なんだか無性に恥ずかしくてね。
だけど、一番驚いたのは…

やっと食べ終わって、適当に挨拶して帰ろうと思ってたら、彼女、神妙な顔してこっち見てるんです。
何かと思ったら、耳打ちするみたいに顔を近づけてきて、
「ご両親には、食事のマナーも知らないような女だったと、お伝えください。」
って。びっくりするくらい低い声でね。
訳が分からないでしょう?突然そんなこと言われて、僕はもう、呆然としてましたけど、その間に彼女の方はさっさと帰る支度してましたね。
何だかよく分からないまま、お金払って、最後に挨拶して帰りましたよ。
叔母と両親には申し訳なかったけど、彼女とは気が合わなかったと言っておきました。
彼女とは、それきりです。

僕?今ですか?まだ独身です。

彼女について

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-09

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