窓のない部屋

窓のない部屋

街の隅で笑うことを選んで。


朝の電車に揺られて

でも

私が目指すのは

窓のない部屋




駅の雑踏

一瞬だけ

「みんなと同じ世界」に混ざって

足早に遠ざかる

逃げるみたいに

背を向けて



わたしも 知らない

あなたも 知らない

名前

それでも笑って

こんにちは

今日はどうもありがとう



滲まないマスカラ

だって 泣いていないもの

色を入れた目 鏡の向こうに映る

私じゃないみたいな

ただの女の顔

とても ただの 女の顔



夕陽を見ながら電車に乗って

誰も居ない部屋に帰る

できるだけ

みんなと同じ顔をして

駅を一つ通過するごとに

今日ついた嘘が剥がれて

本当の名前に戻っていく



いいんでしょう

これで いいんでしょう?


自問自答の解は

強がって出した
棘だらけの花丸


いいんでしょう


これで


いいんでしょう

窓のない部屋

名前を捨てて
名前を得て
また戻るわたしから私に。

窓のない部屋

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted