もう少し哀しさを残してくれないか?

もう少し哀しさを残してくれないか?

   



   



   



   



   



   


暑いねえ

カキ氷食べようね アンナ

もうおまえは食べられるんだ


おまえとの日々が残る寂しさ

おまえとの日々 薄れゆく哀しみ


しあわせだった

淡い夢でも 子供のようでも

朝の水 零れて


小さな弔い

透き通るほど 白い肌のきみ 東京の空


たくさん泣いた

こぼれてしおれて泣いた後

      薄れてゆくもさみしく


前触れもなく

あまりにあっけなさすぎた

おまえだけ覚悟していた


心配だと言い残すなら

もう一度生まれてこい 会いに来てくれ


はあぁ、おまえがいない

はあぁ、おまえがいない

      涙の後の粒 風に止まって


なにを言い残そうとしたんだ

あの日

  わずか三分弱の電話で


涙ぐんで思い返す

なにを言いったかったんだろう  本当は


おれはどこにいる?

八月になれば 九月になれば 十月になれば


ときおり語りかけ

セミの音のうちから こたえている気がする

          「リル」と


なんでときどき涙がうっすらにじむんだろう

       残してくれた幸せもあるのに


「胃はだいじょうぶ?」

お好み焼き食いすぎた

うれしかった 心配性が


夕方

落ちてくるこの不安 なんだろう

愛してくれて逝ったいまも


おまえのいた いつもが

だんだん消える  初夏の青い空の音へと


日暮れ

涙 にじむ うっすら

おれに 残したね

おまえ、しょっちゅう泣いた


手も 

唇の味も 

憶えなかった

生き別れる悲しみすらなく 終わった


もう少し

おまえのいない慟哭の哀しさを残してくれないか?
   



   



   



   



   



   

もう少し哀しさを残してくれないか?

故人は入院して亡くなるまで口から食べることが出来なかった。

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もう少し哀しさを残してくれないか?

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-03

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